毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
「ヒョウエ様!」
分身のカスミの顔色が変わった。
五体が一斉に、ムラマサの背中から刃を振るう。
「ッ!?」
それに対応しようとして、ムラマサは突き込んだ刀が抜けないのに気付いた。
腹に突き込まれた刀を、ヒョウエが渾身の力で握りしめている。
怪人の魔力感覚には、両手と腹に極大の魔力が集中しているのが見えていたはずだ。
『シギャァッ!!!』
緑のカスミが動けないムラマサの背中を袈裟懸けに斬った。
残りの四人が両手両足にそれぞれ斬撃を送る。今までより激しく血が吹き出し、左上腕は半ばまで切り裂いた。
『GAWOOOOOOOOOOOOOOOO!』
「うおっ?!」
かんしゃくを起こした子供のように怪人が剣を振り回した。
小柄とは言え50kgはあるヒョウエの体が紙くずのように振り回される。
怪人からすれば靴底にガムがへばりついたような感覚なのかもしれない。
「これは・・・無理っ!」
両手に集中させていた念動の力を思い切りよく解除し、ヒョウエが宙に舞った。
念動の術を再発動させて空中で止まり、そのままカスミ達の背後にすとんと落ちてくる。
カスミたちのうち、藍色のそれが振り向いて叫ぶ。
「ヒョウエ様、お怪我は!」
「大丈夫、はらわたには届いてません」
かなり必死な声色のカスミに脂汗を浮かべてヒョウエがウインクした。
腕輪が砕け散ったあの瞬間、とっさにヒョウエは全身に念動障壁を張った。
それで突き込まれたダメージを最低限に抑え、素早く両手で掴むとともに魔力を両手と傷口に集中してそれ以上押し込まれないように固定する。
"
非常に実戦向きな――火力術師や研究職に留まらない、冒険者術師の素質があると言えた。
(・・・とはいえ実際にはちょっと届いてたかも)
腹に手を当てて傷口を癒す。
へその下あたりを一センチか二センチ貫かれただけだ。冒険者や兵士としては軽傷もいいところ。治療呪文があればなおさらだ。
(毒とか塗ってなくて助かりましたね・・・あっ!)
その瞬間、ヒョウエの脳裏に閃くものがあった。
踏み込もうとした瞬間に体の動きを制限され、ムラマサがつんのめる。
そこにカスミ達が襲いかかり、再び血しぶきが上がった。
「・・・!?」
ムラマサが困惑していた。
この青い敵と相対する時はしばしばあったことだが、体が押さえつけられているように動きが鈍くなる。
だがそれでもあの白い敵を押し込む程度の力は出せたし、この小さな敵を加えても互角に戦うことはできた。
しかし今度は違う。
押さえ込まれてはいないが、動けない。
動くたびに体がバランスを崩し、まともに剣も振れない。
弱いくせに! 遅いくせに! 俺のエサに過ぎないくせに!
今日一番の怒りを込めてムラマサが吼えた。
(いやまったく、今まで何故気付かなかったんだか)
目の前のピンクの怪人に集中しつつ、ヒョウエが小さく苦笑した。
やった事は簡単。
念動による金縛りを身体全体にかけるのではなく体の一点、具体的には剣を持つ右の手首にしただけ。
そこ以外はフリーになるが、その一点に掛かる力は全身にかけた時の比ではない。
それでも腕を動かせなくなるほどではないが、常人が鉄球付きの手かせをつけられたくらいの妨害にはなる。
そして負荷が体の一箇所に集中するため、体のバランスが崩れる。これが効いた。
剣術に限らず、全身を使う技術は体の各部をいかにタイミング良く、連動させて動かすかが肝だ。
足の裏、足首、膝、股、腰、肩、肘、手首。いかなる動作であっても体の全ての関節が重要だし、体の全ての部分は重心を保つバランサーになる。
ヒョウエが仕掛けた念動の手かせは、この連動と重心をはっきりと崩した。
全身に等しく荷重がかかっていればバランスは取れていただろうが、一箇所だけにそれを集中したことによって、体の各部が連携できなくなる。
力の流れをせき止めるボトルネック。
しかも体幹ではない、体の末端ゆえに重心もぶれる。
ぶれるから、効率的な動作が更に難しくなる。
怪人も何とかそれに対応しようとしているが、短時間でできることではない。
『グォッ!』
「!」
カスミが目を見開いた。
怒りの余り、ムラマサが自らの腕を切り落としたのだ。
即座に傷口が盛上がって再生する。
フリーになったムラマサが残った左手でカスミに斬りつけようとした途端、踏み込もうとした怪人はつんのめって転倒した。
その左足首には念動の枷。
「馬鹿ですね。術なんだから、集中してれば一瞬で場所なんか変えられますよ」
ヒョウエが敵の愚かさを笑う。
とは言え、"
ヒョウエだから言えるセリフ。
『ガアァァァァァアアァァァァアァ!』
ムラマサがもはや何度目かわからない怒りの咆哮を上げた。
直接的な足止めをカスミに任せ、ヒョウエはひたすら念動の枷に集中する。
普通なら一分ともたない膨大な魔力消費を、ヒョウエの水晶の心臓はほとんど恒久的に支え続けることができる。問題はカスミだった。
ヒョウエの見たところ元々が光の幻像、しかも単色であり、分身の数が抑えられていることもあって魔力消費はそこまで大きくはない。
しかしそれを複数操り続ける集中力と、肉体的な疲労は相当なもののはずだった。
現に斬られる前に分身を消すのが間に合わず、黄色のカスミは先ほどから復活できないでいる。
二人目のカスミが消えるまでの時間は、一人目が消えるまでの時間より短いだろう。
そこから先は恐らく雪崩れるように消えていくはずだ。
ヒョウエのなけなしの男のプライドが軋みはするが、正直今はカスミだよりだ。
もちろんヒョウエの術があってこそ可能な足止めだが、カスミの気力と体力がどれほどもってくれるかが稼げる時間に直結する。
息詰まる時間が過ぎる。
並の剣士なら百回は死んでいるような斬撃の連続。
『シャアッ!』
「くっ!?」
そしてついに二人目、緑色のカスミが消えた。残っているのは藍・青・紫。
それらの姿が一瞬ぶれて揺らいだ。
妖刀の恐ろしいところは術式を斬られるだけで魔力経絡にダメージを受けること。
恐らくここから先は分身の動きも鈍くなったり単調になったりにならざるを得まい。
「先日のあの切り札は使わないで下さいね、意味がありませんから。後一人消えたら逃げますよ」
「・・・わかりました」
頷いたカスミがムラマサを三方向から包囲して忍者刀を構える。
囲まれたムラマサにはやや余裕の気配。
むしろ包囲するカスミとヒョウエの方に焦りがある。
それでも意を決してカスミたちが同時に飛びかかった瞬間。
藍色のカスミの胴体をぶち抜いて雷光がムラマサの左目を貫いた。
『GYEAAAA!』
短く絶叫するムラマサ。
ほとんど同時に紫と青のカスミがそれぞれその体を切り裂いている。
雷光でもろともに貫かれた藍色のカスミはそのまま消滅したが、僅かな間を置いて復活する。その目がジロリ、とヒョウエの後方を見た。
「随分と乱暴なことをなさいますね?」
「悪りぃ悪りぃ。けど、それならぶち抜かれても平気なんだろ? いーじゃねーかよ」
悪びれずに笑うのはモリィだった。
走ってきたのか息が荒い。
「モリィ、村の人は?」
「おう、ちょっと手間どったが全員避難始めてる。リアスの方はすげえ雰囲気で声かけられなかったけど、うまいこと行ってんじゃねえかな、あれは」
視線はムラマサから外さないままヒョウエが頷いた。
「では援護をお願いします」
「おう。で、お前はぶち抜いていいんだよな、カスミ?」
「・・・まあ、こちらで気を付けますので何とか。ですが今度からは一声かけてからにしてください」
「オーケーオーケー、安心しろ、あたしゃ同じ失敗はしない女だぜ」
軽く請け合うモリィに、ヒョウエとカスミの内心は一致した。
こいつ絶対にまたやる、と。
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