毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~   作:ケ・セラ・セラ

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02-33 見巧者

 白甲冑をまとったリアスは、一見するとこの三日間で何かが変わったようには見えない。

 だが怪人を前にしていながらその顔には静謐さだけが浮かんでおり、気負いも力みも見あたらなかった。

 

「嬢ちゃん、教えたとおりにやれ。お前さんならできる。『キリムスブ・・・』ええとなんだっけ」

「『キリムスブ ヤイバノシタコソ ジゴクナレ フミコミユケバ アトハゴクラク』ですか?」

 

 「斬り結ぶ 刃の下こそ 地獄なれ 踏み込み行けば 後は極楽」。

 柳生石舟斎の作とも、宮本武蔵の作とも伝わる剣歌だ。

 

「おうそれだそれ。すまねえな」

「いえいえ、ご年配の方はどうしても記憶があやふやになりますから」

「馬鹿言えそんな歳じゃねえよ――ともかくそう言う事だ。相手が強いからと言ってビビるな」

「はい、お師匠様」

「気を付けて下さい、リアス」

「はい」

 

 リアスが言葉少なに頷いた。

 彼の背中の傷を見たせいか、その表情が僅かにこわばっている。

 

「ご安心下さい、ヒョウエ様。それよりも背中のお手当を」

「ありがとうございます。そうしますよ」

 

 顔の前に立てていた杖を下ろし、孫の手で背中をかくように杖の先端を傷口に当てる。

 杖の先端が魔力の光を発し、深い傷口がスッと消えていった。

 リアスがカスミに視線を移した。そこで初めてカスミの様子に気付いたらしい。顔色が変わる。

 

「カスミ・・・大丈夫?」

「幻像を斬られました。加えて疲労はしておりますが、ヒョウエ様と違って肉体的な負傷はしておりません。大丈夫です」

 

 にっこりと、けなげに笑うカスミ。

 

「そう」

 

 表情を厳しくしてリアスが頷き、そのまま歩き始める。

 後ろは振り返らなかった。

 

 ヒョウエたちを追い越して数歩歩いたところで、リアスが足を止めて抜刀した。

 盾は持たない。両手で刀を握り、構えは青眼。

 

 ムラマサとの距離はおおよそ9m。

 白甲冑を着たリアスと怪人にとっては互いに一足一刀の間合い。

 一歩踏み込んでそのまま斬り込める、完全戦闘距離。

 

 リアスは動かない。

 ムラマサも動かない。

 治療を終えたヒョウエも、いつのまにかその肩を支えていたモリィも。

 

「・・・」

「おっと」

 

 疲労が限界に達したのか、ふらついたカスミをサーベージが支える。

 今この場でただ一人、彼のみが悠然としていた。

 

 時折、挑発するようにリアスが肩を揺らす。

 するとムラマサも、牽制するように肩を揺らす。

 

 ムラマサが剣を揺らすと、リアスは剣の切っ先を僅かに下げる。

 どちらかが足を数センチ右側に動かせば、もう片方もそうする。

 

 ヒョウエたちには理解出来ない世界、理解出来ないレベルの高度な攻防が繰り広げられていた。

 

(ムラマサが、リアスを互角の相手と認めたと言うことか? それとも・・・?)

 

 最初出会った時からムラマサは恐るべき強敵だった。

 ヒョウエが辛うじて影を捉えられる程の剣速、板金鎧(プレートアーマー)を着た戦士を両断する膂力。ほとんど瞬間移動にしか見えない踏み込み。

 

 だがそれだけだった。

 強く、速く、鋭い。

 無論恐れるべきではあるが、それだけだったのだ。

 

 それがやがて、それだけではなくなった。

 念動の手かせにたかだか十分や二十分ほどで適応した。

 単純に斬るだけの動きではなく、同時にカスミ二人を斬る絶技を見せた。

 そしてヒョウエたちを撃ち落とした見えない何か、あれはひょっとして《剣の加護》を極めた者が会得するという飛ぶ斬撃ではなかったか――?

 

「師匠」

「ん、なんだ」

 

 隣に立つサーベージを見上げる。

 

「あの怪人が――もしくはあの妖刀が、どんどん色々な事を学習している・・・いえ、思い出している(・・・・・・・)というのは有り得るでしょうか?」

「・・・」

 

 サーベージが片眉を持ち上げて、まじまじとヒョウエを見た。

 

「学習しているのはあるかもしれねえなあ。だが、『思い出す』ってのはどういうこった? どうしてそう思う?」

「出くわした最初からあれは達人の動きをものにしていました。身のこなしも剣の振りも、明らかにただ素早いだけの獣の動きじゃない。洗練された剣士のものです。

 それだけならまあそう言う流派ということもありえますが、それではその後のあれこれの説明がつかない」

「・・・続けな」

 

 頷いて、ヒョウエが言葉を重ねる。

 

「手枷足枷に対応してみせたのはまだしも、体を一回転させて前後の敵を同時に斬る動き、あれは確か新陰流の奥義の一つだったはず。

 それまでそれらしき技を全く出さなかったのに先ほど開眼したというなら、あいつは剣聖並みの実力者ってことになります。

 僕を斬った飛ぶ斬撃や、今リアスさんと交わしている高度な牽制の応酬に至っては何をかいわんやでしょう。

 そこまで速く学習し技を編み出せると考えるよりも、思い出したと考えた方が自然だろう、そう思っただけです」

「・・・・・・・・!」

 

 今度こそサーベージが目を大きく見開いた。

 そのまま数秒固まった後、ほうと大きく息をつく。

 

「お前がそこまで見巧者(みごうしゃ)だとはなあ。負けたよ、確かにその通りだ」

「見る方も大したものじゃありませんよ。先人の知識の賜物です」

 

 ヒョウエが謙遜する。単なる事実でもあるが。

 サーベージが苦笑した後、少しまじめな顔になった。

 

「一つだけ教えてくれ。その技はお前が言った通り新陰流の奥義の一つだ。

 流派で違いはあるだろうが、少なくとも目録(上級者)でなきゃ見る事もできねえはずだ。

 こう言っちゃなんだが、お前の腕じゃ到底見られないと思うんだが・・・どこで見た?」

 

 うん?とヒョウエが首をかしげた。

 

(あれ? ひょっとしたら思ったより年が離れてる? 物言いからしたら明らかにオリジナル冒険者族だし・・・?)

 

 日本とこの世界ではどうやら時間の流れが違うらしい、というのがオリジナル転生者の間では定説である。

 転移・転生のタイミングに二十年ほど差がある場合でも、記憶を辿ってみると向こうでは二年の差しかない、ということがちょくちょくあり、どうやら向こうとこちらでは時間の流れに十倍ほどの差があるらしかった。

 つまり、仮にヒョウエとサーベージに百歳の差があっても、向こうを離れた時の時間差は十年程度のはずなのである。

 

(十年前ならその手の動画サイトもとっくに一般化してたと思うんだけど・・・

 いや、向こうでネットにうといお年寄りだったならあり得るか)

 

「えーと、ですね。僕らの時代では剣術に限らず芸事全般、大抵の技は誰でも見られるようになってるんですよ」

「はぁっ!?」

 

 愕然としてサーベージが叫ぶ。

 すぐそばで行われている真剣勝負も忘れたかのようだった。

 

「じょ、冗談だろ・・・。そんな事して流派が成り立つのか・・・? 茶や華は! 踊りや謡(うたい)はどうすんだよ!?」

 

 やっぱりこの人相当昔かたぎだなあと思いつつ、考え考え説明を続ける。

 

「そのへんも探せば大体どこかの流派はやってますね。お茶なら表千家も裏千家も武者小路もやってましたよ」

「マジか・・・」

 

(何と言うジェネレーションギャップ)

 

 呆然と立ち尽くすサーベージ。

 この人本当に何十年(日本基準)前から転移転生してきたんだろうと思いつつ、ヒョウエは軽く肩をすくめた。

 なお「マジか」と言う言葉は江戸時代からあるらしい(本当)。

 

「それで? 実際そう言う事はありえるんですか?」

 

 再度の質問に、何とか気を取り直してサーベージが答えた。

 

「あ、ああ、その通りだ。あいつは・・・あの剣に宿ってるのはどうやら俺の昔馴染みでな。長いこと追ってたんだ」

「! でしたか・・・でもそれなら何故リアスに?」

 

 サーベージが溜息をつく。

 

「そりゃお前、俺も見ての通りトシだからな。あちらはあちらで因縁もある。

 それにあの嬢ちゃんにゃ光るものがあったからな。先達として何か残してやってもバチは当たるまい」

「じゃあ飲み放題は関係ないんですね?」

「馬鹿を言え。折角貰ったんだ、死ぬまで好きなだけ飲ませてもらうさ」

 

 老人がニヤリと笑い、ヒョウエがでしょうねと肩をすくめた。

 

「妖刀についてはわかりましたがあの体の方については何か?」

「そっちは俺もよくわからんが・・・多分"怪人(ヴィラン)"だろうな。妖刀を怪人が拾ってえらいことになってるってわけだ」

「考え得る限り最悪の状況ですね。勝てますか?」

「知るか。あらかじめ勝ち負けがわかるなら、立ち会う必要なんざねえよ」

「ごもっとも」

 

 そのまま二人は無言に戻り、リアスとムラマサの立ち会いに意識を向けた。




 新陰流云々はフィクションです。念のため。
 元ネタは白土三平先生の忍者武芸帖という古い漫画。
 主人公が剣聖・上泉伊勢守の一族を助けたときに伝授して貰った技です。

 作者のモチベーションは読者の皆様の評価と感想です。
 評価と感想よろしくお願いします。
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