毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
山あいの森の中、風の音だけが響く。
あれから十分。誰も口を開かない。
リアスとムラマサは僅かずつ、すり足で移動する。
最初は正面奥のムラマサをリアスが迎え撃つ位置関係だったのが、今やムラマサは左斜め奥、リアスも一行から見て右斜め前に移動していた。
二人の距離も詰まっている。
当初9mほどだった彼我の距離は今や6mほど。一呼吸で打ち合える距離が半呼吸ほどになった。
リアスは中段青眼にまっすぐ。基本にして万能の構え。
ムラマサは八双、あるいは示現流の
(妖刀に操られていたお兄様も八双・・・あれはニシカワの剣ではなく、妖刀の身につけたもの・・・?)
二年前の事を思い出しつつ、相手の隙をうかがう。
すり足でにじり寄ってみるが、相手は動じない。
(しょうがないことですわね。相手は真の達人。こちらは、素質があると言っては貰いましたが付け焼き刃。辛うじて勝負の場に立ったに過ぎません)
深呼吸。ふう、と息をつく。
肩の力が抜けた。
「おっ」
「・・・・・・?」
この場でそれを理解したのはサーベージとムラマサのみ。
サーベージは面白そうに眼を細め、ムラマサは僅かに戸惑ったように眉?を寄せる。
「少々勘違いしておりましたわ」
下草をかき分けてスタンスを広くとり、腰を落として刀を脇に構える。
「ご教授を頂いたとは言え、技量は明白にこちらが下・・・であれば! 攻めずしてどうします!」
鋼鉄のブーツが大地を蹴る。リアスが飛ぶように翔けた。
「キェェェェェェェイッ!」
火花が散る。金属音が鳴った。
切り下ろすムラマサの剣と、切り払うリアスの剣の激突。
元の膂力で上回る上に、重力の助けを借りた妖刀がリアスの刀を弾く。
たたらを踏み、体勢を崩してなおリアスが笑う。
「なんの!」
左に振った刀を切り返して左側から胴を狙う。
だがムラマサの方が速い。切り返した剣で軽くリアスの剣を弾き、更に返す刀でリアスを左肩から袈裟に斬る。
(間に合わねえ!)
モリィは《目の加護》で、見るだけであれば何とか二人の剣戟に追いつける。
そのモリィをして、その一太刀はかわせないと確信する。
火花が散った。
「え・・・」
モリィが唖然とする。サーベージは動じない。ムラマサも。
剣は弾かれていた。
弾かれた剣を、ムラマサと同じくらい速く切り返し、横から叩き付けてギリギリ防いだ。
白の甲冑の肩鎧の飾りが僅かに斬られてはじけ飛ぶ。
目を見張るモリィを置き去りにするかのように、激しい剣戟が始まった。
ムラマサの一の太刀。先ほどとは逆にリアスの右肩を狙った逆袈裟。
刀を叩き付けてそらす。
二の太刀。そらされた刀をやはり切り返してリアスの胴体左側、逆胴を狙う。
同じく切り返した刀で弾く。
三の太刀。右斜め下からの切り上げ。
刀を真上から妖刀に打ち付ける。
重力の助けがパワーの差を相殺し、二本の刀は火花を上げてがっちりと噛み合う。
斬られた肩鎧の飾りがようやく地に落ちた。
「・・・」
「・・・・・・・・」
サーベージは悠然と、他の三人は瞳に畏怖を浮かべてそれを見ている。
白の甲冑の肩鎧の飾りが斬られてからここまで、ほぼ一秒。
その一秒の間に三度の攻防が交わされた。
かつて自身が阿修羅の如きと評したムラマサの剣速。
その剣速に、リアスは完全について行っていた。
剣が噛み合っていたのは一瞬のことだった。
二振りの刀は火花を散らしてすぐに離れ、常人の目では追うこともできない鋼の舞踏を再開する。
閃く銀光と妖刀の発する妖気。飛び散る火花。鋼と鋼のこすれあう鈴のような音。
驚愕からまだ冷めやらぬ顔で、ヒョウエがサーベージを見上げた。
「・・・何をしたんです、師匠? たった三日で・・・」
「大した事はしちゃいねえよ。あの小娘はな、元からあれくらいの速さで動けたんだ」
「そんな馬鹿な。人間がそんなに速く・・・いや、そうでもない、のか?」
ヒョウエの脳裏に浮かんだのは、いわゆる「周囲の時間の流れがスローに見える」現象。
事故に会うなど、生命の危機に陥った時に感覚が加速される現象だ。
そして、ごく一部の達人・名人と呼ばれる人種はこうした現象をある程度意識して起こすことができる。
「ボールが止まって見えた」と言い放ったいにしえのホームランバッターなどがそれだ。
ボールが止まって見える世界の中で、鍛えているとは言え通常の人間である彼らはそれをバットで叩いてホームランにすることができる。
鍛えていない人間ですら受け身を取って致命傷を避けることができる。
「見え」さえすればある程度対応できるだけのスペックを、人間の体は有しているのだ。
ましてやリアスがまとっているのは白の甲冑、伝説の強化魔導装甲だ。
一秒間に三連撃と言うおよそあり得ない速度の攻撃に対しても、見えてさえいれば対応は不可能ではないだろう。
(サイバーパンクでお馴染みの
前世で結構見ていたその手の小説や映画を思い出しながら独りごちる。
そうした推論を告げると、老人はにやりと笑った。
「まあ大体お前の考えたとおりだよ。人間、才能と修行次第でその域に達することができる。あの嬢ちゃん、才能が並外れているのもそうだが、一度『抜けた』っぽいからな。
偶然でも何でも一度達した境地なら、それを思い出させてやれば良かったわけさ」
「あー・・・」
ヒョウエの脳裏に思い浮かんだのは、二年前、ローレンスを斬った一太刀。
あれ以降リアス本人も再現できていないあの動き。
感情の高ぶりが魔導甲冑の力を限界まで引き出したのだと思っていたが、リアス本人の限界突破でもあったのだろう。
それが、今日の力に繋がった。
「ですが、それでも押されてませんか、師匠?」
「ああ。さすがに付け焼き刃じゃちぃーっと厳しかったかな・・・」
眉をしかめてサーベージ。
確かにリアスはムラマサの剣を全て受けきっている。
だが、ろくに攻められていない。
こちらから攻撃に転じるだけの速度が足りない。
そしていかに白甲冑をまとっているとは言え、怪人と人間では元々の体力が違う。
決め手がないまま続く長期戦は、リアスにとって圧倒的に不利。
神速の剣戟が始まってより五分。
リアスの鎧を妖刀が何度もかすめ、火花とともに甲冑の表面を削る。
一瞬たりとも止まらない鋼の舞踏に、リアスの疲労は早くも色濃くなりつつあった。
(このっ、ままではっ・・・!)
疲労と焦りが集中力を乱す。
リアスの鎧に大きく火花が散った。
剣戟が続く中、下草に落ちた金属板。
白甲冑の、左側の肩鎧。
それが半ばからすっぱりと切り落とされていた。
一歩下がって間合いをとる。
「やるしか、ありませんか」
「おい馬鹿! やけを起こすな!」
リアスの気配の変化を鋭く察したか、ここまでしかめ面をしながらも泰然としていたサーベージが叫んだ。
「勝機はあります。ただ、サーベージ様は目をおつむりください!」
「本物の馬鹿かてめえは! 三日だけとは言え弟子が命賭けてるのに目をつぶってられる・・・」
その瞬間、色々な事が同時に起きた。
閃光が走り、サーベージが悶絶して転がる。
そして全く同時に、真っ向正面からの唐竹割の一刀が白甲冑の兜を真っ二つに斬り割った。
「リアスッ!?」
「っ!?」
ヒョウエの喉から悲鳴がほとばしる。
そう、ヒョウエだけから。
何が起きるか知っていたカスミは静かに。《目の加護》ゆえにそれを見定めることができたモリィは驚愕の叫びを上げた。
その一瞬前、白甲冑が弾けていた。
中から飛び出したのはインナーのみを身につけたリアス。
二年前のあの一太刀に勝るとも劣らぬ速度でリアスが斬り抜ける。
中身のない兜を妖刀が垂直に斬り割った次の瞬間、水平の一刀が妖刀の中程を断ち切り、怪人の体をも両断していた。
作者のモチベーションは読者の皆様の評価と感想です。
評価と感想よろしくお願いします。