毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
斬り飛ばされた妖刀の切っ先が回転しながら宙に舞い、下草にさくりと刺さる。
どさりどさりと、両断された怪人の体が地面に落ちた。
「リアス様!」
喜色を満面に浮かべ、疲労で足をもつれさせながらもカスミが駆け寄り、リアスに抱きつく。
荒い息をつきながらも、リアスが優しい表情でそれを抱きしめた。
そこでようやく成り行きを理解したか、ヒョウエが大きく息をついた。
「装甲の緊急排除機能ですか。危ない橋を渡りましたねえ」
足元に転がる白い装甲板を見ながら、呆れとも感嘆ともつかない息を吐く。
白の甲冑はインナーに身体能力上昇、装甲部分に防御力上昇の機能が付与されている。
装甲部分を排除すれば身体能力の強化はそのままで軽量化できるわけだが、それは当然あの妖刀の攻撃に素肌をさらすことになる。
並の覚悟で為せる技ではなかった。
にっこりとリアスが笑う。
「お師匠様がおっしゃったでしょう。『踏み込み行けば後は極楽』と。それを実行しただけですわ」
「だとしてもですよ。到底僕には真似できないですね」
「腕は相手の方が上でしたもの。無茶をしなければ勝てない・・・あっ・・・」
「?」
ほほえんでいたリアスが突然赤面してうつむき、ヒョウエが首をかしげる。
あっ、とモリィが声を上げた。
装甲を排除したリアスは、今当然インナー一枚。
この世界の感覚では余りに過激すぎる代物だが、現代日本の感覚では露出の多い水着、という位の感覚だ。
なので、ヒョウエには一瞬何のことだかわからない。
「見るな馬鹿っ!」
「ぎゃあっ!?」
目隠ししようとしたモリィの指が、勢い余って見事にヒョウエの目につき刺さる。
先に目つぶし(光)を喰らったサーベージと、たった今綺麗に目つぶし(物理)を決められたヒョウエが師弟仲良く悶え転がった。
「今の明らかに悪意がありましたよねー。なんですか、僕がリアスのインナー姿見るのがそんなに怒るようなことですか」
「いや、だから悪かったって・・・ちょっと待て、女の下着姿をじろじろ見るのは悪いに決まってんだろ!」
「あたっ!」
しばし後、すねるヒョウエとそれをなだめたり拳骨を落としたりするモリィの姿があった。
その横には装甲を元に戻して頬を染めてくねくねするリアスと、溜息をつくカスミがいる。
「ああどうしましょう、このままではお嫁に行けなくなりそうですわ。でもヒョウエ様がお望みになるなら二人きりの時に・・・」
「リアス様? 今の発言は未婚の淑女が口にするには随分と限度を越えておりますが」
「じょ、冗談ですわ! こんな事で眼を青くしないで!」
リアスは顔を赤くしたり青くしたり忙しい。カスミが更に大きな溜息をついた。
ようやく目が元に戻ったのか、地面を転がっていたサーベージがよっこいしょと立ち上がった。
「ったく、ひでえことしやがるなあ。助けてやったのによ」
「無論サーベージ様には感謝しておりますがそれはそれ、これはこれでございます」
にべもない返答を聞き、肩をすくめる。
それからあたりを見回し、その視線が地面に突き刺さった妖刀の切っ先部分で止まった。
「・・・」
「・・・」
しばしサーベージの動きが止まる。
じゃれ合っていた四人も静かになった。
僅かに瞑目した後、突き刺さった妖刀と怪人の
「お前ら、逃げろっ!」
サーベージが全力で後ろに飛んだ。
「! 飛びますよっ!」
「え?」
「あ?」
「っ!」
ヒョウエの念動の術が自分を含めた四人を丸ごと空中に引っ張り上げる。
同時に、怪人の「死体」が爆発的に盛り上がった。
森の緑の中に突然現れたショッキングピンクの小高い丘。
しかもそれが見る見るうちに高くなっていく。
その成長に反比例するように、周囲の緑が枯れていく。
茶色が広がる森、その中に盛上がるどぎついピンク色の毛玉の塔。
それをヒョウエたちは杖にまたがって空中から呆然と眺めていた。
最初引っ張り上げられなかったサーベージもちゃっかり乗り込んでいる。
遠くからざわめきが聞こえた。避難している村人たちのものだろう。
「ありゃあ・・・なあ、あれ一体何だよヒョウエ!?」
「すいません、僕にもわかりません」
悲鳴のようなモリィの問いに、ヒョウエも語る言葉を持たない。
「ただ・・・」
「ただ、なんですの?」
すがるようなリアスの声。振り返らずにぽつぽつとヒョウエが語る。
「恐らく・・・あれはやはり
「つまり、ぶっ倒すなら今しかねえってわけだな」
どこか面白がっているような声。
今度は振り向いて、ヒョウエはその声の主をじろりと睨んだ。
「こう言う時にこそ腕に覚えのある方が頑張るべきでは?」
「馬鹿言え。あれが剣術でどうにかなる相手かよ」
「どうだか」
リアスが来る直前の「飛ぶ斬撃」を思い出しつつ白い目でにらむヒョウエ。
がはは、と笑いながらどこからか取りだした革の水袋からワインをあおるサーベージ。
ヒョウエに限らず他の三人の目も白い。が、それで動揺するほどこの男の面の皮は薄くはなかった。
「むしろ俺ぁなあ。こう言う時こそ『ヒーロー』の出番じゃないかと思うんだよ。ほれ、王都にいただろう。赤い盾だか緑の兜だかってやつ」
「・・・おい、じいさん」
モリィの表情が一変する。まさか、とやはり、が半々くらいの様子で老爺を凝視。
だが《目の加護》でもその真意をはかることはできない。
「『青い鎧』ですよ、師匠」
「そうそう、その青い鎧。あいつがびゅーんって飛んできてくれりゃあ、あれくらいなんとかなるんじゃねえかってな?」
感情を消した顔でサーベージの顔をうかがうヒョウエ。
楽しそうにその視線を受け止めるサーベージ。
果たして折れたのはヒョウエの方だった。
「はあ・・・わかりました。いいですよ、もう。リアスとカスミなら大丈夫でしょうし」
「いやあ、そうか、悪いなあ? いやあ、俺も最近は腰も痛いし目も霞んでよぉ。もうお迎えも近いかなあ」
「もしそんなめでたい日が来たら、師匠の魂が地獄の一番奥で一番熱い火に焼かれるように祈ってますよ」
師弟の心温まるやり取り。困惑の度合いを深めるリアスが、おずおずと口を開いた。
「あの・・・ヒョウエ様。サーベージ様と先ほどから何の話を?」
「えーと、ですね」
「いいからさっさとやれよ。そのほうが口で説明するより手っ取り早いだろ」
それに対するヒョウエの答えは深い溜息だった。
ピンクの塔――いや、今やその下半分は二股に分かれ、脇からは一本ずつ太い枝が生え――パーティが最初に会った時より大雑把な形ではあるが、間違いなく同じショッキングピンクの人型がそこにあった。
大きさは150mを超えるだろうか。二十日ほど前に遭遇した
それを見据えつつ、ヒョウエたちは村を挟んで反対側に降りた。
森ではなく、あぜ道の続く畑の中。
こちらにはまだ怪人の生命力吸収の影響も及んでいない。
「それでは焚きつけられたから行きますが・・・万が一があったらモリィ達の事をお願いしますよ。いいですね?」
「おいおい、じじいに無茶言うなよ。おれは・・・」
「い・い・で・す・ね?」
据わった目でヒョウエ。降参降参とばかりにサーベージが両手をヒラヒラさせた。
「おー、怖い怖い。わかった、わかりましたよ。そのときゃあ、俺が何とかするさ」
「ふん」
ヒョウエが鼻を鳴らした。
正面に向き直り、地面から足をちぎるショッキングピンクの大怪人を睨み付ける。
『ゴアアアアアアアアアッ!』
巨人が吼える。
ずん、と。
一歩を踏み出した巨大怪人によって大地が揺れた。
その足取りは一直線に村を踏みつぶし、畑を踏みつぶし、村人たちを狙うもの。
ヒョウエが軽く周囲を見渡した。
ささやかな、だが開拓者たちにとっては全てである村。
山の中、貴重な平地を苦労して切り開いた村人たちの血と汗の結晶である畑。
そして後方2kmほどには避難しようとしている村人たち。
いずれもが150mの大巨人にとっては数十歩の距離。
彼らの存在を背中に強く感じつつ、王都に念を飛ばす。
「あの、ヒョウエ様。本当に一体?」
「ああ、いいから見とけよ。それでわかる。まああえて言うなら――野暮用さ」
「はあ・・・えっ!?」
「ヒョウエ様!?」
額に杖を当て、何かを念じていたヒョウエの姿が前触れもなくふっと消えた。
それと同時にもう片方の足も大地からちぎり取った巨大怪人が二歩目を踏み出す。そのまま村の家を踏みつぶそうとして――次の瞬間、吹き飛ばされた。
150m、推定十万トンの巨体が宙を飛ぶ。
1kmを越す距離を水平に吹き飛び、山肌にぶつかって山津波を起こす。
そして空中に悠然と浮かぶ、それをなしたであろう青い影。
「おっしゃ、来やがった!」
モリィが会心の表情でぱちん、と指を鳴らす。
対照的にリアスとカスミの主従は呆然と空を見上げる。
「・・・嘘。本当に・・・」
「まさか・・・」
ファンファーレが鳴った。
少なくとも彼らは確かにそれを聞いた。
奏でるものなどいなくとも。
そこがたとえ荒野のただ中であっても。
ヒーローは、ファンファーレと共に現れるのだ。
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