毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~   作:ケ・セラ・セラ

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三の巻「ファントム・オブ・メットー」
プロローグ「悪魔のバイオリン」


 

 

 

「月夜に悪魔と踊ったことはあるかい?」

 

 

                          ―― ジョーカー ――

 

 

 

 

 数ヶ月前、まだ毎日戦隊エブリンガーが結成される前の話。

 兄弟子の工房からの帰り道に、ヒョウエがふと足を止めた。

 

「・・・!」

「・・・・・・・・! ・・・・・・・!」

 

 遠くて内容は聞こえないが、明らかに暴力的なものを含んだ叫び。

 反射的に駆け出した。

 

「オラッ!」

「稼いでんだろ! ちっとこっちにもよこせよ!」

「こ、これは妹の・・・あうっ!」

 

 小柄な少年をガラの悪い少年たちが三人、取り囲んで殴打している。地面にうずくまった少年は大きな弦楽器らしきものを自分の体でかばいつつ、されるがままだ。

 

「!」

 

 ものも言わず、ヒョウエが飛んだ。

 体の周囲に念動障壁を張り、そのまま加害者の一人に後ろから体当たりする。

 

「ぎゃっ!?」

 

 まぬけな悲鳴を上げてチンピラ少年が吹き飛ばされる。

 そのまま前にいたもう一人の少年も巻き込んで地面に倒れた。

 

「・・・」

 

 二人を「ひき逃げ」して着地したヒョウエが振り返って最後の一人をにらんだ。

 

「この野郎!」

 

 何が起きたか理解していないのか、チンピラ少年が殴りかかろうと腕を振り上げて――その腕が後ろから掴まれた。

 

「お?」

 

 ヒョウエが目をまたたかせた。

 腕を掴まれた次の瞬間、腕と体が折りたたまれるようにチンピラ少年が地面に突っ伏す。

 前世であれば、警察の逮捕術の模範演武に出て来そうな綺麗な動き。

 

「あだだだだだ!」

「おー」

 

 後ろ手に腕を極められたチンピラ少年が悲鳴を上げ、思わずヒョウエが拍手する。

 お手本のような技を極めた金髪の青年が、パチンとウィンクして見せた。

 

 

 

「大丈夫・・・でもないか。ちょっと動かないで下さいね」

 

 チンピラ少年たちが逃げていった後、ヒョウエが倒れ込んだ少年のそばにかがみ込んだ。

 体中に青あざができており、痛々しい。

 その傷にヒョウエが人差し指を当てると、指先を当てた部分のあざがすうっと消えていった。

 

「うわあ・・・」

 

 少年が感嘆の声を上げる。青年がそれを興味深げに覗き込んでいた。

 

「ほぉー。治癒の呪文も使えるのか。その年で大したものだ・・・しかしこう、もうちょっとパッと治らないのかね?」

「吟遊詩人の歌に出てくるような、全身を一瞬で治す治癒魔法なんてそうそうお目にかかれませんよ。治癒呪文と言ったところで僕は最低限のものしか習得してませんし」

 

 指先一つ分の傷をちまちま治しつつ、ヒョウエが肩をすくめて青年を見上げた。

 一言で言うとロックスターのような派手な男である。年齢は二十代後半か。

 やせぎすのハンサムで身長は175cmほど。ボリュームのある、くすんだ金髪を伸ばしている。

 ヒョウエのような少年のそれではない、大人の男の色気が発散されていた。

 

「ふふ、まあそうかもしれないな。お話の中に出てくる魔法など大体はそんなものだ」

 

 喉を震わせて笑う青年。

 鮮やかな青い上着、胸元にフリル、ぴっちりした黒ズボン、えりの高い黒びろうどのマント。

 一見すると貴族のようだが、ギターを背負っているあたり吟遊詩人の類かもしれない。

 

 そう、ギターである。リュートではない。

 600年ほど前に突如として現れたこの楽器によって、フィドルやバンドゥーラ、三味線などそれまで地方ごとに様々なバリエーションを持っていた弦楽器は「統一」された。

 滅びることこそ無かったもののその汎用性と演奏のしやすさによって、今やいわゆる「文明諸国」においてギターこそが弦楽器の不動の王者だ。

 例によって冒険者族の仕業であるが新しい文化を広めたと見るか、文化の多様性を破壊したと見るかは難しい所だ。

 閑話休題(それはさておき)

 

 

 

「どうです。まだ痛いところはありますか?」

「あ、はい、大丈夫みたいです」

 

 少年が立ち上がってぺこりと頭を下げる。

 14才くらい、こげ茶色の髪に薄茶色の瞳。ヒョウエほどではないが中性的な顔。体格も似たようなものか。

 やや気弱そうな顔立ちで、頬が少し赤い。

 

「僕、ハーディって言います。そこの"鳩と鷹"広場で演奏をして稼いでます。お二人ともありがとうございました! 助かりました!」

「どうしたしまして。僕はヒョウエ、冒険者の術師です」

「私はジャリー。見ての通りの楽士だよ」

「「『見ての通りの?』」」

 

 ヒョウエとハーディの声がハモった。

 ジャリーがちょっと憮然とした表情になる。

 

「・・・何も声を揃えなくてもいいじゃないかね、少年たち(ボーイズ)

「少年『たち』?」

 

 ぎぎぎぎ、と音がしそうなぎこちない動きでハーディがヒョウエを見た。

 にやにやするジャリーに視線を移し、もう一度ヒョウエに。

 

「ええええええええええええええ~~~~~~~~~~~~!?」

 

 路地裏に悲痛な悲鳴が響き渡り、今度はヒョウエが憮然とする。

 ジャリーが腹を抱えてげらげら笑った。

 

 

 

「ときめいたのに! 本気でときめいたのに! 返してよ! 僕の初恋を返してよ!」

「あなた意外と図太いですね・・・」

 

 気弱そうな外見とは裏腹なハーディに呆れるヒョウエ。

 まあ外見はどう見ても少女にしか見えないのでこれはしょうがない。

 相変わらずげらげら笑っていたジャリーが、目じりの涙をフリル付きのハンカチでぬぐいつつようやく笑いを収めた。

 

「まあそう悲しむな少年。これで君も一歩大人の階段を上ったんだ。幸せではなくなったかもしれないがね」

「子供のままでいいから幸せでいたかったです・・・」

 

 ガチでへこんでいるハーディを見て、更に憮然とするヒョウエである。

 女の子に間違えられるのも告白されるのも初めてというわけではないが・・・。

 

「しかし珍しい楽器だね」

「あ、はい。『悪魔のバイオリン』って言うんだそうです」

 

 奇妙な、というよりけったいな、という表現が似合いそうなそれは確かに名前の通りの楽器であった。

 全体的にはハーディの身長くらいの杖のようであるが、下半分にはバイオリンのような胴があり、弦も張られている。

 弦の下、バイオリンの胴下部には四角い箱があり、ここを叩いても音が出るようだった。

 

 だが何と言ってもインパクトがあるのは杖のてっぺんだ。

 三角帽をかぶったむさいひげ面の中年男の頭が杖頭についており、帽子の縁には金属の短い棒がずらりとぶら下がっている。それを鳴らすとちりんちりんと風鈴かトライアングルのような音がした。

 

 ちょっとハーディが弾いてみると、バイオリンの音色とチリンチリンという鈴の音、弓で箱を叩く太鼓の音と、杖を地面に打ち付けて鳴らすどんどんという重低音の四つが連続する、面白い音が出た。

 

「ほほう、中々ではないかね」

「しかし悪魔ねえ。悪魔と言うより変なおじさんって感じですけど」

「まあその、死んだ父さんの故郷ではこれを悪魔払いに使ってたそうですけど・・・あっ!」

 

 ハーディが突然声を上げて荷物を漁り始めた。紙包みを取りだして開き、ほっとした表情になる。

 紙包みの中には、女の子向けの木製の人形がひとつ。

 

「よかった・・・」

「人形?」

「察するところ妹さんへのお土産かね」

「はい。双子なんです。だから出来れば二つ買いたかったんですけど、僕の稼ぎじゃ一個がせいぜいで・・・」

「ふむ」

 

 ジャリーが空を仰いだ。日は大分傾きつつあるが、それでも日没までにはかなり時間がある。

 

「そう言う事なら少年たち(ボーイズ)、麗しの淑女達のためにちょっと気張ってみないかね」

「「?」」

 

 ヒョウエとハーディが顔を見合わせた。

 

 

 

「君に魔法をかけて上げよう どんな魔法がいいだろう

 雨を降らせようか 火を灯そうか 花を咲かせて上げようか

 踊りの魔法に高跳びの魔法 迷ってばかりで決められない

 でも君はもう僕に魔法をかけた 絶対解けない恋の魔法――」

 

 深みのあるテノールが"鳩と鷹"広場に響く。ギターを弾きながら歌うのはジャリー。

 演奏も歌も、文句のつけようのない名人級のそれだ。

 

 その左右には銀の横笛を吹くヒョウエと"悪魔のバイオリン"を奏でるハーディ。

 ジャリーとヒョウエはもちろん、ハーディもそれなりに整った顔立ちなので、三人が並んで立つと否応なしに人目を引く。

 二時間ほどの演奏を終えて拍手と共にその場を去る頃には、木製のギターケースにかなりのおひねりが入っていた。

 

「ほら、分け前だ。これだけあれば人形をもう一つ買えるだろう?」

「あ・・・ありがとうございます!」

 

 客を呼んでいたのは明らかにジャリーの演奏と歌だ。

 にもかかわらず、おひねりの1/3ほどを差し出されたハーディは一瞬声を詰まらせ、大きく頭を下げた。

 

「さっさと行きたまえ。もうすぐ夕方だ、グズグズしていては店が閉まってしまうぞ」

「は、はい! ありがとうございました、ジャリーさん! ヒョウエくんも!」

 

 もう一度頭を下げてハーディは走り出す。

 その姿が人混みに消えるまで、二人は無言でそれを見送っていた。

 

「さて、それじゃ僕もこの辺で」

 

 言いつつギターケースに伸ばした腕をジャリーの手が掴んだ。

 見つめ合う二人。

 

「・・・何か?」

「言わなかったかな? ハーディ君に渡したのは彼と君の分け前だ」

「言ってませんよ」

「察したまえ」

「あいにく"読心(リードマインド)"の呪文は習得していないので」

「随分と豪華な衣裳を着ているじゃないか。金には困っていないだろう?」

「その言葉、そっくりお返ししますよ」

「年長者に敬意はないのかね」

「愉快な人だとは思っています」

 

 再び二人が見つめ合う。やがて、同時にプッと吹き出した。

 

「いや、悪い悪い! ちょっとからかってみたくなってね!」

「お気になさらず。性格が悪そうなのは最初からわかってましたから」

「お互い様だろう?」

 

 そこでまた二人が笑った。

 

「それではまた」

「ああ、いつか会えるといいな。ハーディ君も含めて」

 

 再会を約して二人は別れた。それがどのようなものになるか、彼らはまだ知らない。




 「悪魔のバイオリン(Diabelskie skrzypce)」は実在の楽器です。
 ポルトガル北部の楽器で、形状は概ね本編の通り。悪魔払いに使っていたというのもその通りです。
 ただ本当はバイオリンやチェロのように弾くものではなく、棒で弦を叩いて音を出していたとか。

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