毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
五分ほど歩いて、ヒョウエの屋敷に到着する。
鼻歌を歌いながらお嬢様風の少女――リーザが門前の掃き掃除をしていた。
一行を認めてその顔がぱっと明るくなる。
「あ、ヒョウエくんお帰りなさい! モリィさんもいらっしゃい。他のお二人は初めてでしたっけ?」
「ただいま、リーザ。背の高い、甲冑を着ている方がダーシャ伯爵リアス。当代の『白のサムライ』。ちっちゃい方が侍女のカスミ。リアス、カスミ、友達のリーザです。
こう見えて《耳の加護》があるので日常生活に不都合は無いんですよ」
ぺこり、とリーザが頭を下げた。その間も目は閉じられたままだ。
「はじめまして、リーザです。『白のサムライ』の方ですか! すごいですね! カスミちゃんもよろしくね!」
「ご丁寧に。リアス・エヌオ・ニシカワです。お見知りおきを」
「カスミです。こちらこそよろしくお願いいたしますね」
リアスとカスミも礼儀正しく挨拶を返す。
その目が獲物を捕らえる鷹の目のような鋭さを帯びた。
(リーザさん・・・モリィさんとはまた別のタイプの強敵になりそうですわね)
(お嬢様ぁ・・・)
カスミが頭痛をこらえるような顔になった。
「今日はどうしたの? お仕事が早く終わった?」
「いえ、リアスの『白の甲冑』が傷ついてしまいまして。ほら、おととい話した」
「あー、妖刀を持った
「え? ご存じですの?」
リアスがちょっと汗を浮かべた。
多分怪人と戦った時の装甲排除のことでも思い出しているのだろう。
「はい、ヒョウエくんが話してくれました! ヒョウエくん、夕食の時にいつもその日の冒険のこと、話してくれますから! リアスさんが槍トカゲを蹴散らした話とか、ヒドラの首をすっぱり切り落とした話とか」
「そ、そうですか・・・」
装甲排除とかなめくじとか、まずい話は伝わってなさそうだと知って密かに胸をなで下ろす。
「私、この目ですから本は読めないんですよね。だから、昔からヒョウエくんの話してくれる物語が凄く楽しみなんです」
「へーぇ」
にやにや笑いを浮かべたモリィが、ヒョウエを肘でこづいた。
(ようよう、お前が語りを身につけたのってひょっとしてさあ・・・)
(さて何の事やら)
素知らぬ顔のヒョウエである。
「それはさておき、修理に出すのに鎧をいっぺん脱がなきゃいけないので、着替える場所が必要なんですよ。リーザ、適当な部屋に案内して上げてくれます?」
「うん、わかった。でも着替えはあるの?」
「あ、そうですね。まあなければリーザの・・・」
ヒョウエの言葉が途切れた。
ハッシャが絶賛しそうなスレンダーな体つきのリーザ。
モリィほど豊満ではないが出る所は出て、くびれるところはくびれたリアス。
「・・・ヒョウエくん、今何考えたの?」
「いえ何でもありません、リーザ様」
鋭い幼なじみに冷や汗を流すヒョウエである。
女執事のサナが用があるというので、女性陣と別れてヒョウエは厨房に向かった。
リアスたちはリーザの案内で館の奥に向かっていく。
「それほど広くはないですけど、私の部屋でいいですよね?」
「ええ、結構ですわ。どのみち着替えるだけですもの」
ちらり、とモリィがリーザを見下ろした。
「なんです?」
リーザが振り向いた。
こいつ目は見えないはずなのに勘が鋭いな、と思いつつモリィが言葉を探す。
「ああそのなんだ、お前と
幼なじみみたいな事は聞いた気がするけど」
「えーと・・・みなさん、ヒョウエくんのことは?」
「二人とも『全部』知ってるよ。あいつから聞いてないか?」
「ああ、そうでしたか。はっきりとは聞いてなかったので」
リアスとカスミが頷くのを確認すると、リーザは昔を懐かしむように語り始めた。
「私はヒョウエくんの乳母の娘なんです。
歳も同じですから遊び相手としてつけられて、ヒョウエくんは余り活動的な子供じゃなかったから、私でもどうにかなると思われたみたいです」
「やっぱり高貴の生まれでいらしたんですのね」
納得して、リアスが首をかしげた。
「あら、乳母子なんですの? 普通それだとヒョウエ様の事は様付けにしそうなものですが」
「本当ならそう呼ぶべきなんですけどね。ヒョウエくんが『リーザから様付けは嫌だから呼び捨てにして下さい』というので、妥協案としてくん付けになったんです」
「それで大丈夫だったんですか?」
「もちろん、他に人のいない時だけですよ」
目を丸くするカスミにくすくすと、当時を思い出してかリーザが笑った。
「物心ついた頃にはヒョウエくんは既に本の虫で、本の山に埋もれたヒョウエくんを呼んで来るのは大体私の役目でした」
「容易に想像がつくな・・・」
本の腐海になっているヒョウエの部屋の惨状を思い起こしてモリィが唸った。
「それで・・・モリィさんは知ってると思いますけど、私の《加護》は非常に広い範囲の声を聞き取ることができます。それこそメットー全てをカバーできるくらいの」
「・・・!」
「それは」
リアスとカスミが目を見張った。
その様な強力な《加護》、物語の中でもそうそうあるものではない。
カスミはその「使い道」についてもうっすら気付いたようだった。
「7つくらいのころに私の《加護》が暴走し始めたんです。聞きたくないこと、聞いちゃいけないことがどんどん聞こえて来て、ベッドの中で泣いてて。
そうしたらヒョウエくんが手を握ってくれて、僕がどうにかしてあげるって。
それから一ヶ月で魔道具作る術師さんに弟子入りして、私の《加護》をコントロールする魔道具を作ってくれて。あの時は嬉しくて本当に泣きました」
額の銀のヘッドバンドに手をやりながら頬を染める。
「「「・・・・・・・・」」」
三人が思わず沈黙した。その沈黙をどう取ったか、リーザがあたふたと両手を振りながら付け加える。
「あのですね、その時に作ってくれたのは一番目で、これは三番目なんですよ。暴走を止めながらもっと加護が使いやすいようにって何度か改造したり新しいのを作ってくれたり・・・」
リーザは何とか話を繋げようとするが、そんな事を聞かされてもモリィたちとしてはますます何も言えなくなるばかりである。
「あー、そのだ。それでなんでおまえさん今ここにいるんだ? あいつが実家飛び出したのもそうだけどよ」
「詳しいことは知らないんですけど、このスラムを買い取る時に色々あったみたいで、勘当されちゃったんですよ。多分ヒョウエくんが何か意地を張ったんだと思います。
昔から一度決めたらてこでも動きませんでしたから」
もう一度くすくすと笑う。
「それではその時についていったわけですわね」
「いえ、その時は置いてかれちゃって・・・《加護》を使って捜そうとしたんですが、その時は今ほど使い慣れていなかったので倒れちゃったんですよ。
そうしたらいつの間にかヒョウエくんが枕元にいて、一緒に来ますかって言ってくれたので思わず抱きついちゃいました」
「「「・・・・・・・・」」」
沈黙再びであった。もうのろけと変わりない。と言うかそのものだ。
「それで母さんのお許しも貰って宮殿を出て。それからはずっとここです」
その時の条件として一月に一度実家に手紙を出すことを約束したのは言わなかった。
おそらく母もヒョウエの父親も、監視とは言わないまでも何かしら紐をつけておきたかったのだろうなと今にして思う。
「・・・え?」
「宮殿?」
「リアスさん? カスミさん?」
そして気付けばリアスとカスミが、先ほどとは別の意味で固まっていた。
リーザがかわいらしく首をかしげる。
「その、リーザ様、
「そう言えば聞いたことがありましたわ・・・王弟殿下には私と同じくらいのご子息がいて、少女のような美貌の持ち主で術師としての並外れた才能があって、しかも出奔したとか・・・あああああ、何で今まで気付かなかったんですの!?」
「道理でお披露目の時に顔をお隠しになっていたと・・・!」
「え? え? え?」
頭を抱えて叫ぶリアス。珍しく驚きをあらわにするカスミ。
二人の反応にリーザが戸惑う。
「ちょっと、モリィさん! お二人とも全部知ってるって言いましたよね!?」
「えーっと・・・」
冷や汗を浮かべてモリィが宙に視線をさまよわせる。
「悪い。そっちは言ってなかった」
「えええええええええ!?」