毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~   作:ケ・セラ・セラ

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03-04 姉のような女性(ひと)

 少女たちが騒いでいるころ、ヒョウエは厨房で魔道具をいじっていた。壁からはかなりの熱が発せられており、ヒョウエもそばに控えるサナも汗がにじんでいる。

 

「どうでしょう、ヒョウエ様。直りますか?」

「応急処置なら全く問題ありません。ただ、あちこち魔力の経絡線がへたれてますので、ついでに修復しておいた方がいいですねこれは」

「お手をわずらわせて申し訳ありません」

「構いませんよ。それを言ったらサナ姉にはいつもお世話になってるわけですし」

 

 ヒョウエがいじっているのは据え付け型のかまどの魔道具。

 壁の発する熱を吸収蓄積して、燃料を消費せずに調理ができるすぐれものだ。

 今は壁の発する熱を伝達する魔力経絡線が切れて、熱を吸収できなくなっている。

 

 熱を発する壁も、やはり魔道具だ。

 「悪魔の板」またの名を「マクスウェル・プレート」とご大層な名前が付けられたそれは、縦横1mほどの材質不明の板だ。

 この板は片方の面から常に熱を吸収し、片方の面から常に熱を放出する。

 しかも魔力の供給無しにだ。

 

 とあるオリジナル冒険者族が作り出したものだが、いまだに製法も材質も解明されていない。伝説によれば彼は生涯をかけて神の理に挑んだが正気を失い、ついには百枚ほどのこの板を残して姿を消したのだそうだ。

 当初は何の役に立つのかわからず放置されていたが、別のオリジナル冒険者族が「これ冷蔵庫に使えない?」と言い出して、すぐに王侯貴族や豪商の間で奪い合いになった。

 

 何しろ熱を生み出す手段はいくらでもあるが、温度を下げる手段は極めて少ない。

 魔力や術師を使わず、恒久的に氷室が維持できるとなれば、どこも欲しがった。

 しかもちょっとした魔道具を接続すれば、熱もかまどの火として有効活用できる。

 一石二鳥の永久機関であった。

 

 この屋敷にあるものはヒョウエたちが移り住んだ時に地下室から発見したものだ。恐らくは物珍しさで手に入れたまま放置されていたのだろう。

 それを幸いと厨房と貯蔵室の間の壁にはめ込み、兄弟子から中古のかまど魔道具を譲り受けて整えたのが今の厨房だった。

 出力が高く、かなりの広さのある貯蔵室を摂氏零度前後に保つことができている。

 

「よいしょ・・・と」

 

 奥の方の経絡線を修理するため、仰向けになって魔道具の中に潜り込む。

 小さい体は面倒も多いが、こう言う時には便利だ。

 

「あ、サナ姉。経絡線の予備取って。金ばさみも」

「はい、どうぞ」

 

 ゴソゴソと何やら作業をする気配。魔力も感じられる。

 恐らくは念動で道具や経絡線を宙に浮かべて作業をしているのだろう。

 自前の両手に加えて念動を同時に九つ発動できるヒョウエは手が十本以上あるようなものだ。こう言う作業のさいには便利どころの話ではない。

 しばらくそれを見ていたサナだったが、おもむろに口を開いた。

 

「ところでヒョウエ様、一つよろしいでしょうか?」

「ん、なに、サナ姉?」

「リーザ様含めて、あの四人のどなたとご結婚なさるおつもりで?」

 

 ゴン、と凄い音がしてかまどが揺れた。

 悶絶しているのか、突き出した足が一瞬硬直した後プルプル震える。

 

「~~~~~~~~っ!」

 

 しばらくしてヒョウエが勢いよく体を引き出した。顔が赤い。額がもっと赤い。

 

「いきなり何を言ってるんです、サナ姉!」

 

 立ち上がり、食ってかかるヒョウエをサナが楽しげな顔で見つめる。

 

「何と申されましても、家臣といたしましてはそう言う事も考えねばならないわけでして。本来ならば許嫁が決まるどころか、婚儀を上げているご年齢ですよ?」

「家を出たんだから関係ありませんよ!」

「何をおっしゃいますか。男子たるもの妻を娶って家庭を築き、血を残すものです。

 身分の上下は関係ありません」

「・・・」

 

 姉のような女性を疑わしげに見上げるも、その表情は変わらない。

 

「そんなのはそのうち自然に決まりますよ。今無理に決めることはない」

「そう言う考え方もありますが、ヒョウエ様を放っておくとずっと本を読むか魔道具をいじるかで、女性に縁のないまま生涯を終えられそうなので」

「ぐっ」

 

 自分でもありそうだと思ってしまったので反論できないヒョウエである。

 

「まあリーザ様はそれでもご満足でしょうが、わたくしとしては手遅れになる前にどうにかしたいところです。今すぐご婚約とは申しませんが、意識はして頂きたく」

「・・・結婚というならサナ姉の方が僕よりずっと年上でしょう。

 家臣であるなら子孫を残して主家に使える血筋を絶やさないのもつとめでは?」

「それは順序が逆ですね。主家が続かないのであれば家臣の家が続いても仕方ありません。

 まずは主家の存続が肝要かと」

「うぬぬぬぬ」

 

 ヒョウエもそれなりには弁が立つ方だが、この姉代わりの女家令には一度も口で勝てたことがない。

 ふと、サナが表情をまじめなものに変える。

 

「それに、わたくしはお母君にあなたの事を頼まれております。ヒョウエ様の御婚儀を見るまで身を固めるなど考えられません」

「・・・」

 

 ヒョウエの母親は元から体が弱く、ヒョウエが十歳の時に病で亡くなった。

 そして縁あってヒョウエの母に拾われ、ヒョウエづきの従者になったのがサナだった。

 年齢はヒョウエより丁度十歳上。

 名前の通り冒険者族の血を引いていて、代々武芸の家だったらしい。

 母親同士が友人だったようだが、サナも詳しいことは知らない。

 

 ただ、サナは語らないが幼い頃に相当な苦労をしてきたのは確かなようだった。

 サナの両親はその中で娘に精一杯の教育を施し、技を伝えて亡くなった。

 

「私をまがりなりにも人がましく生きられるようにして下さったのはお母君です。

 報恩復仇、恩には必ず報い、仇は必ず討ち果たす。それが我が家の家訓ですから」

「やれやれ、リアスよりサナの方がよほどサムライっぽいですね」

 

 ヒョウエが肩をすくめて溜息をつく。

 サナが苦笑いを浮かべた。

 

「ありがとうございます――オリジナル冒険者族であるヒョウエ様からすればそうなのかもしれませんね。

 ですが今のお言葉、リアス様の前ではお口にしませんように」

「それくらいはわかってますよ、さすがに」

 

 もう一度溜息をついて、ヒョウエが改めてリアスを見上げた。

 

「何か?」

「いえ。恩というなら既に返して貰ってると思っただけです。命より重い恩義もないでしょう」

「それは考え方次第ですね」

 

 サナが微笑んだ。

 

 

 

 サナの下腹部には5センチほどの刺し傷がある。

 サナ十五歳、ヒョウエ五歳の時受けたものだ。

 

 王弟一家が郊外の別荘地に出かけた時、深夜暗殺者に襲われた。

 王弟夫婦を狙った暗殺者は護衛に討たれたが、ヒョウエを狙った暗殺者は護衛を倒して標的に肉薄した。当時はまだ術を使いこなせていなかったし、戦いの心得もなかった。

 

 その時隣室に控えていたサナが《転移の加護》で突然出現してヒョウエをかばった。

 ヒョウエがかけた念動の術が運良く成功し、そのままサナがとどめを刺したが、サナの乱入がなければ万が一があったかも知れない。

 ヒョウエの母がサナに絶対の信頼を置くようになったのはこの時からだった。

 

「母君にはまるで実の娘のようにかわいがって頂きました。その分、新たなご恩が積み重なっております」

「はいはい、そうですか。どうせなら僕がサナ姉を貰って上げましょうか?

 そうしたら母上も喜ぶだろうし、サナ姉も母上に義理が立つだろうし、サナ姉も嫁き遅れなくて済むし、一石三鳥ですよね」

「ほぉ」

 

 その声の響きにヒョウエがはっと気付いた時には、サナの右手がヒョウエのあごをくいっと持ち上げていた。

 

「さ、サナ姉?」

 

 息がかかるほどの距離に顔が近づく。

 男装の麗人であるサナと少女のような容姿のヒョウエだけに、一種倒錯した光景が現出する。

 

「ヒョウエ様がそれほどわたくしのことを想って下さっているとは存じませんでした。

 ふつつか者ではございますが、このサナ、心と体の全てを捧げて一生お側にはべらせて頂きます」

 

 そのまま顔を近づけていく。

 互いの唇が触れそうな距離にまで。

 

「あわわわわわ!」

 

 そこでヒョウエがあわてて数歩下がった。

 顔が真っ赤だ。

 くすくすとサナが笑った。

 

「軽はずみなことは言わないことです。小さい頃から守り役のゲインズ様に口を酸っぱくして言われたでしょう。『軽々しく言葉を扱うな』と。

 たとえ王族の地位を捨てたとしても、言葉が重いのは変わりませんよ」

「はいはい、わかりましたよ。サナ姉はいつでも正しいです」

 

 まだ顔を赤らめながら、ヒョウエがふてくされたように目をそらす。

 

「そうそう、それと・・・」

「まだ何かあるんですか」

「今の言葉、サナは少し嬉しかったですよ」

 

 耳元で囁かれて、今度こそヒョウエは真っ赤な顔で硬直した。

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