毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
ヒョウエたちが厨房から出てくると、食堂には既に少女たちが待っていた。
「ああ、白の甲冑もいいですがそう言うのも似合いますね」
「ありがとうございます、ヒョウエ様」
僅かに頬を染めてリアスが微笑んだ。
飾り気のない革の上着とズボンで、質実剛健な武人的雰囲気がある。
平たく言えばいわゆる「女騎士」的なそれだ。もっとも腰の剣帯に下げているのが相変わらずカタナなので本人的には「女サムライ」なのだろうが。
「白の甲冑は僕が持ちましょう・・・と言いたいところですがカスミのそれ、やっぱり"隠しポケット"ですか」
「はい。でないと流石にお嬢様と私と二人分の荷物を運べませんので」
カスミの背負い袋を見ながらヒョウエが頷いた。
色々な呼び方があるが外見より沢山のものを入れることができ、さらに中身の重量も無視できるという便利な魔道具だ。
ヒョウエも同様の機能を持つかばんを愛用している。
安い物ではないが騎士や小金持ちの冒険者、商人などが良く購入しているため、比較的多く出回っている。
もっとも荷物を大量に持ち運ぶよりは密輸や隠し武器など、荷物を隠して運ぶ用途に使われる方が多い(と言われている)ためにこんな名前で呼ばれているのだが。
「んじゃ行こうぜ」
「行ってらっしゃい、ヒョウエくん・・・待って!」
「リーザ?」
ヒョウエが真剣な顔で振り向いた。
額のヘッドバンドに手を当ててうつむくリーザ。
その意味するところを彼は知っている。
「ヒョウエくん、火事! 『ブルー・キッド』通りと『ビッグ・ニモ』通りの交差するあたり!」
ヒョウエが頷いた。
その場を見渡し、全員が頷くのを確認する。
「ナパティさんたちのところへ行くのはちょっと遅れそうですね――どうやら僕の出番です」
ヒョウエ、リーザ、サナが精神を集中する。
ヒョウエの姿が食堂からふっと消えた。
「サニーッ! サニーッ! 放して、娘が中に!」
「もう間に合わん! ここはもう駄目だ、早く逃げるんだ!」
燃えさかる二階建ての家。女性の声が響く。
もがく女性をスラムの
周囲には既に火が回り、火の粉が絶え間なく降ってきていた。
三軒隣の家を自警団の男たちが壊し、延焼を食い止めようとしている。
春先の風の強い時期であり、しかもスラムの建物はほとんどが木造だ。
このままではスラムの大半、それどころか王都の他の地区にまで飛び火しかねなかった。
「ああっ!?」
「・・・・・・・・・!」
バキバキと音を立てて家が崩れ始めた。
女性が悲鳴を上げる。
自警団の男が悲痛な表情で顔を背けた。
ほかの場所からも同じような悲鳴が聞こえる。
悲劇に見舞われたのは一人だけではない。
人間にできるのはその悲劇を可能な限り少なくすることだけ。
「ちくしょう・・・」
誰かがうめく。家が炎に飲まれる。
その瞬間、青い風が吹き抜けた。
「!?」
「なんだ?!」
「来た! 来やがったっ!」
戸惑いの声と、歓喜の声。
ファンファーレが鳴った。
少なくとも彼らは確かにそれを聞いた。
奏でるものなどいなくとも。
そこがたとえ荒野のただ中であっても。
ヒーローは、ファンファーレと共に現れるのだ。
音を立てて家が完全に崩れた。
その上空、火災のもたらす上昇気流に深紅のケープをなびかせる影。
青い鎧。
その腕の中には、五歳くらいの少女と泣き続ける赤ん坊。
「あ・・・ああ!」
両手を組み、母親が泣き崩れた。
降りてきた青い鎧が少女を下ろし、少女と母親が抱き合う。少女の体に、負っていたであろうやけどの痕はもうない。
自警団の男に赤ん坊を委ねると、青い鎧は再び空に舞った。
上空から見ると火災の広がり具合が良くわかる。まだ十数軒くらいだが風が強い。
王都と言えども庶民の家は大半木製だ。石や煉瓦の家は裕福な人間でなければ住めない。
このままでは本当にメットーの大半を焼き尽くしてしまう可能性もある。
両手を合掌の形に合わせる。
それを天に向けて突きだし、呪文を発動。
「"
大瀑布を逆さまにしたような膨大な量の水が、合わせた手から直上にほとばしった。
十数秒の間を置いて、それは土砂降りの雨となって周囲一帯に注ぐ。
一分足らずで土砂降りはやみ、その時には火事は全て鎮火していた。
避難や消火に当たっていた人々が呆然として空を見上げる。
そして次の瞬間その表情が歓喜に変わった。
「青い鎧!」
「我らがヒーロー!」
「ばんざい、青い鎧!」
拳を突き上げ、あるいは力一杯手を振り、人々がヒーローを讃える。
「"
青い鎧の視界に、生命の放つオーラの色が映った。
若く強い生命の色。老いて衰えた薄い色。病を抱えているのであろう、黒いまだらに染まった色。負傷によって一部痛々しく変色した色。
ふわり、と地上に降りて変色した色のオーラの持ち主に次々と触れていく。
軽いやけどは瞬時に消え、崩れた家屋の破片で負った打撲傷も消える。
皮膚がほとんど炭化した重傷者も青い鎧の手が触れると共に痛みが消え、筋肉と真皮が再生し、炭化した皮膚組織の下からピンク色の新しい皮膚が現れる。
「おおおおおお!」
「すげえ、古傷まで治ってる・・・」
「俺一生この手を洗いません!」
「いやそこは洗えよ」
更に歓声が沸く。
周囲を見渡してこれ以上の負傷者がいないのを確認すると、青い鎧は焼け跡に足を向けた。
人混みが割れ、青い鎧が焼けた家の前に立った。
(ひどいもんだな・・・)
火が回った家は十数軒。
半分ほどは全焼し、残りの半分ほどは何とか形をとどめているレベルだ。
ひざまずいて右手を地面に当てた。人差し指でとん、と地面を叩く。
微細な念動力の波が、指を中心に広がっていった。
「ん?」
「お?」
周囲の群衆の中で何人かが首をかしげた。
足元に走る念動力の波を感したのだろう。
コウモリが音波で周辺を探知するように、念動波を伝播させて周囲の物体を調べるヒョウエオリジナルの技術だ。
(・・・ん、まあこれならどうにかなるか)
頭の中で周囲の地形と地質、火事の前の町並みを考えてゴーサインを出し、次の呪文を発動する。
「"
「"
「"
焼け落ちた家の元の形にそって、地面から泥のような土の壁が盛上がる。
それは十数秒ほどで家の形を取ったかと思うと色を変え、立派な石造りの家になった。
「「「「「うおおおおおおおおおおおおおお!?!?!?」」」」」
群衆が叫ぶ。もはや絶叫だ。
数分後には焼けた全ての家が石造りの新築になっていた。
「青い鎧! 青い鎧! 青い鎧! 青い鎧!」
奇跡のような光景を目にして熱狂する群衆。
青い鎧がふわりと宙に浮かぶ。空には雨上がりの虹。
群衆に軽く手を振り、青い鎧は虹の彼方に飛び去った。
ヒョウエくんは物質を変性・変形させることはできても、無から物質を生み出す事はできません。
足りない分の質量は家に地下室を作って補っています。