毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
消えてから十数分後、食堂に再びヒョウエが姿を現した。
既に青い鎧の変身は解いている。
「おつかれ、ヒョウエくん!」
「お疲れさまです、ヒョウエ様」
おお、と驚く三人娘をよそにねぎらいの言葉をかけるリーザとサナ。
この辺はもう慣れたものだ。
「なるほど、こんな感じなのか・・・まあお疲れ。今回はおんぶはいらないのか?」
「いりませんよ。火事を消しただけですし」
ヒョウエが肩をすくめる。
が、それに反応する少女が一人。
「え、おんぶ? ヒョウエくん、わたしそれ聞いてない!」
「力を使い切って脱力状態になったところをおぶって貰っただけですよ。それじゃそろそろ行きましょうか」
「あ、ああ」
面倒くさいことになりそうだと思ったのか、ヒョウエが逃げた。
モリィ達もちょっと気にしつつ後に続く。
「ちょっと、ヒョウエくん、詳しい話!」
「行ってらっしゃいませ、皆様方」
騒ぐリーザと腰を折って礼をするサナに見送られ、ヒョウエたちは屋敷を出た。
鍛冶場に戻ると、ナパティとハッシャが色々な準備をしているところだった。
「おう、来たな、若旦那に嬢ちゃんたち」
「よろしくお願いしますわ。カスミ」
「はい。どうぞ、これをお預けします・・・っと」
「うむ、任せておけ」
ヒョウエたちが手分けしてカスミから鎧のパーツを受け取り、作業台の上に並べる。
「そう言えばリアス。妖刀と打ち合って腰のものも刃こぼれしていたりはしませんか? ついでに研ぎを頼んでは」
「ええ、これから付き合いのある研ぎ師に出そうかと思っておりましたが・・・そうですね、お願いできます?」
「うむ、任せるがよい!」
自信満々に頷くナパティ。
「それではお預けしますね」
剣帯から外したカタナを、作法に則ってハッシャに差し出す。
ナパティとハッシャが同時に微妙な表情になり、ヒョウエがプッと吹き出した。
「あははははは! やっぱりそう思いますよねえ!」
「笑うのはひどいぞ、ヒョウエ!」
「そうだよ、若旦那・・・」
「いや、すいません」
憤然と回転してヒョウエを指さすナパティ。溜息をついて頭をボリボリかくハッシャ。ヒョウエは謝ったが顔は笑っている。
「え? どういうことですの?」
「リアス、ナパティが細工師でハッシャが鍛冶師だと思ったでしょう」
「それはまあ、エルフとドワーフですから」
「逆です。ナパティが鍛冶師でハッシャが細工師なんですよ」
「「えー!?」」
リアスとモリィの声がハモった。カスミも声には出さないものの、目を見開いている。
「何を驚く。エルフとて鍋釜や刃物は使うのだぞ。鍛冶屋がいなければ暮らしていけないではないか」
「ドワーフだって金物だけじゃ生きていけねえよ。それともベッドやハンカチまで鉄でできてると思ってたか?」
「いや、そりゃそうだけどよ・・・」
この世界でもエルフと言えば森の民というイメージが強いし植物を愛する傾向が強いのは事実だが、必ずしも木の上に住んでいたりするわけではない(そう言うのもいるが)。
《百神》が人の子に精霊の力を与えてしもべとした種族を俗に妖精と言い、エルフはその一つだ。
今では人間社会と交わることはほとんどなく、世界中の隠れ里に潜み住んでいる。
正確に言えばエルフが住むのは自然の力、つまり大地を走る魔力の流れ=地脈が強い所だ。人里の近くだとそれは往々にして森林になる。
なので孤島に暮らす海のエルフもいれば、山中で石の館に住むエルフもいる。
伝説によれば大砂海の奥にも蜃気楼の城に住むエルフがいると言う。
土地土地に応じて生活様式が異なるのは当然だった。
一方で同じ妖精ながら世界中どこでも似た暮らしをしているのがドワーフだ。
岩穴を掘り抜いて住居にし、あるいは石の館を建てる。
限定的ながら人間とも交流があり、ドワーフの武具は同じ重さの金より高く取引される。
「そらまあドワーフなら一度は鎚を持つから俺だって鍛冶仕事はできなくもないがな。
俺に頼むくらいなら人間のちゃんとした鍛冶屋の方がよほどいい仕事をするだろうよ」
肩をすくめるハッシャに、三人娘は唸るしかできない。
「まあ私の場合は《加護》がそちら向けだったのもあるが。《火の加護》の一種でな、おかげで炉いらずで鍛冶仕事ができる」
「そりゃすげえな。炭代いらねえじゃねえか」
ヒュウッ、とモリィが口笛を吹く。
ナパティが寂しげに微笑んだ。
「まあ、とはいえ制御の難しい《加護》でもあってな。そのせいで一族を追放されたりもしたのだが」
「あー」
モリィが気まずそうに目をそらした。
その一方でリアスは疑わしそうな目でナパティを見ている。
「ちなみに具体的に言うと?」
「うむ、女湯を覗いていたら興奮して発火してバレた」
「自業自得じゃねーか!」
モリィが全力でツッコミを入れた。
「こちらで着替えなくて本当に、ほんっとうに良かったですわ。
で、ハッシャさんも同じ様なくだらない理由で人間の社会に出てこられたんですの?」
「俺をそこの馬鹿と一緒にするな! 俺が一族を飛び出したのは自分を磨くためだ!」
「あら、それは失礼しました。それで具体的には?」
リアスの目は冷たいままだが、それに気付かずハッシャが熱っぽく言葉を続ける。
「細工の修行をしていても、ずっと何かが欠けてる気がしてた。石工や木工織物、色んな技術を修行してみても何が足りないのかわからねえ。だから俺は一族を飛び出した。
人間たちの間でなら何かわかるかも知れないと思ってな・・・」
そこで言葉を切る。しばしの沈黙。
真剣なものを感じ取り、カスミが口を開く。
「それで、何が足らなかったのですか?」
「スレンダーな女体だ!」
「はい?」
一瞬本気で意味がわからず、カスミが素で返した。
「だからスレンダーな女体だよ! 職人としての俺に足りなかったのはそれだったんだ!」
「あ、あの、職人としてのあれこれと女性の体つきが何の関係が・・・」
「あるんだ!」
ぐわっ、と身を乗り出すハッシャ。押されてカスミが一歩下がる。
「人間の女にはグラマーも普通もスレンダーもいる! エルフだってそうだ! しかるにドワーフはどうだ! グラマーかデブかの二択だ! 不公平じゃねえか!
旅に出てエルフの細マッチョ姉ちゃんの限りなく平坦なおっぱいを見た時にわかったんだよ! ああ、俺が求めていたのはこれだったんだってな!
もちろんでかいおっぱいもケツも好きだ! だが俺の心のハンマーが真に雄々しくそそり立つのは・・・」
言葉が途中で途切れる。
ごりっ、と眉間に銃口が押しつけられていた。
「おいおっさん。今すぐその口を閉じないと、目ン玉の間にもう一つ口が開くぜ」
「アッハイ」
もちろんハッシャは黙った。
「おほん」
静まりかえった室内に、ナパティの咳払いが響く。
白い目のまま、モリィが雷光銃を腰のホルスターに戻した。
「まあともかく佩刀をお預かりしよう、ニシカワ卿」
「は、はい」
リアスが改めて差し出した刀を、ナパティが作法に則って受け取った。
持ち主が頷いたのを確認しておもむろにすっぱ抜く。
「うーむ・・・流石ニシカワ=マサムネ。いい・・・実にいい」
そのままじっと刀身を凝視する。いつの間にかハッシャも同様に刀身を凝視していた。
一分前まで女湯だのおっぱいだの騒いでいた連中とは思えない。
「そう言えばヒョウエ様、前々から思っていたのですがマサムネというのは刀工の名前ですの? それともあの剣そのものの名前?」
「刀工の名前ですよ。日本――僕たちの来た国では最高の名工の一人です。名工のことを俗に何とか正宗と言うくらい高名な人ですよ」
「そうでしたのね。そのへんは失伝しておりまして」
嬉しそうに笑うリアス。
「まあ千五百年も前の事ですからね、しょうがないですか」
くだんの刀が名刀なのは間違いないが、本当に正宗かどうかはわからない。
(初代「白のサムライ」は幕末の人ですから存外四谷正宗とかかもしれませんしねえ)
刀の目利きを身につけておけば良かったなと思うヒョウエであった。
「それじゃ始めますか。一日くらいで終わると思いますのでみなさんはその間自由時間・・・そう言えばリアス、予備の武器はあります?」
「ワキザシ程度なら」
「代剣くらいは用意してある。その体格なら・・・このあたりか」
ナパティが壁に掛けられた武器の中から一振りの剣を取って渡す。
刃渡り70cmほどの直剣だが、柄が長く両手でも扱える様になっている。
リアスが抜いた剣を軽く振る。ナパティが「ほう」と称賛の声を上げた。
「少し軽めですがバランスが良いですわね。職人としては信頼できそうです」
「まるで人間としては信用できないような言い方をするではないか」
「そう言ってるんですのよ?」
トールキン先生ごめんなさい(ぉ
四谷正宗というのは幕末の名刀工である源清麿(みなもとの すがまろ/きよまろ)のことです。
隆慶一郎の「鬼麿斬人剣」とか時代小説でもたまに出てくる人ですね。