毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
03-07 通り魔
「そは影からいづるなり、影の如く黒く、影の如く厚みがなく、影の如くとらえどころなきなり」
――とある歌劇の一節――
ヒョウエも含めて職人モードに入った三人を残し、一行は鍛冶場を出た。
何となくぶらぶらと、ヒョウエの屋敷への道を歩く。
「暇になっちまったなあ。いっそダンジョンでも行くか?」
「このパーティのリーダーはヒョウエ様ではございませんの? ヒョウエ様抜きでダンジョンに入れるんですか?」
「登録には別にリーダーとかねえし、大丈夫だよ。ヒョウエ抜きでも三人いれば・・・」
「だとしてもお嬢様も白甲冑といつものカタナがございませんから少々危険ですね」
あ、とモリィが声を漏らした。
無意識のうちにリアスの防御力を頼みにしていたらしい。
「そういやそうか。んじゃ何か食いに行くか? ちょっと北に行ったあたりに揚げドーナツの屋台があるんだ。バラのジャムが入っててさ、一緒に売ってる柑橘系の香草茶と良く合うんだぜ」
「へーえ・・・」
目を輝かせるカスミ。リアスが微笑んで眼を細めた。
「それじゃカスミが物欲しげな顔をしていますし、ご一緒しましょうか」
「お、お嬢様!」
顔を赤くしてカスミが抗議するが、楽しげなリアスは取り合わない。
モリィがニヤニヤしながらカスミの頭を乱暴に撫でた。
「ま、いいんじゃねえの? ガキなんだからたまにはワガママ言えよ、おまえも」
「うー・・・」
不本意そうなカスミ。
だが揚げドーナツの誘惑には勝てなかったのか、反論はしない。
モリィとリアスが笑みをかわし――次の瞬間悲鳴が聞こえた。
「「「!」」」
モリィが走り出す。一瞬遅れてカスミとリアスも。
雷光銃、忍者刀、ショートソードと、走りながら素早く獲物を抜く三人。
一瞬前までの和やかな雰囲気はもうどこにも残っていない。
現場に到着すると血だまりを作って若い女性が倒れていた。
こちらも負傷した男性が何とか手当をしようとしている。
「!」
モリィの目が一瞬建家々の屋根を跳ねる人影を捉えたが、すぐに町並の影に消えた。
「ちっ」
舌打ちして男と女性に駆け寄る。
既に素人らしい男性に代わってカスミが女性の応急手当を始めており、リアスも男性の手当を始めていた。
カスミの手つきは玄人はだしで、リアスも素人のそれではない。
自分の出る幕は無さそうだと判断し、モリィは雷光銃を納めて腕を組んだ。
「いや、済まないお嬢さんたち。私はどうにも不器用でね」
「お気遣いなく。こう見えてもそれなりに心得がありますので」
男が礼を言う。長い金髪や絹の衣裳も血で汚れているが、ロックスターのような伊達男振りは損なわれていなかった。
かたわらにネックの折れたギターと折れたナイフが転がっている。
「それで、いったい何が?」
「私にも良くはわからないんだが、この女性が襲われていてね。助けに入ったんだがこのざまさ」
「相手はナニモンだ?」
モリィが口を挟む。
「よくわからん。紫色の甲冑を着て刃物を持った人間・・・かな?
ただ、人間にしては体も手足も細すぎるし動きも速すぎた。
モンスターか、あるいはいわゆる"
「また怪人かよ・・・」
「勘弁してほしいです・・・」
モリィ達が一斉に顔をしかめた。
「また? おやまあ、世間という奴は意外と狭いね! レディの治療が終わった後で良ければ話を聞かせてくれるかな。いい
「あなたの治療もですよ、サー?」
冗談めかしてリアスが言う。
「はっはっは、私はそんな上等な人間ではないよ。貴族だとしたらせいぜい
「まあ」
くすりとリアスが笑う。
女性の方を手当てしていたカスミが深刻な表情で顔を上げた。
「お嬢様、手当はいたしましたが血が止まりません。急いでヒョウエ様のところへお連れしませんと」
「わかりましたわ。あなたはヒョウエ様のところへ。私たちはお二人を何とか運んでいきます」
「かしこまりました」
頷くなり、カスミが走り出した。その足は下手な大人より速い。
「ヒョウエ・・・?」
男が首をかしげる。
「モリィさん、こちらは私が肩を貸して歩きますから、そちらの方をおんぶできます?」
「わかった、なんとかなんだろ」
「いやいや、力仕事をレディに任せるのは申し訳ない。それに麗しの乙女を運ぶのは男の役目ではないかね、お嬢さん方」
「怪我人は黙ってらっしゃいな・・・あ、ちょっと!」
傷だらけにもかかわらず、男が女性を軽々と抱え上げる。
「それじゃ行こうか?」
キザなウインクを一つ。女性を横抱きにしたまま、すたすたと歩きはじめる。
リアスとモリィが顔を見合わせて、その後について歩き始めた。
二、三分ほどでヒョウエとカスミが文字通り飛んできた。
「リアス、モリィ、怪我人の容態は・・・え、ジャリーさん?」
「久しいな少年。変わった名前だとは思ったが・・・いやそれより今はこちらのご婦人だ」
「とっと、ですね」
頷いて、ジャリーが地面に寝かせた女性の傷口に手を当てる。
指先から癒しの魔力がほとばしった。
ジャリーの表情にあからさまに安堵の色が混じる。
「やれやれ、君がいてくれて助かったよ・・・しかし半年経っても指一本か? 進歩がないぞ少年。『男子は三日で新しい呪文を習得する』ということわざもあるだろう」
「おや、それだけ減らず口を叩けるなら治療の呪文は必要ないようですね。
それとも減らず口を治す"
互いに軽口を飛ばすヒョウエとジャリー。二人とも顔は笑っている。
モリィとリアスは呆れ顔だ。
「おお、おお、なんと残酷な事を言うのだろうこの少年は。
言葉こそは詩人の魂、ほとばしる霊感の泉、魔力を介さぬ詩人の魔法。
それを奪おうなどと
「
「ひどい、ひどいなあ! 怪我人に対する言葉かねそれが!」
ちなみに
つまるところこの神が司るのはいわゆる
なるほどジャリーの様な人間を積極的に守護する神ではあるまい。
ともあれそうやって二人が言葉を浪費していると、女性が目を覚ました。
「う、ん・・・」
「気がつきましたか? もうしばらくじっとしてて下さい。怪我を治していますからね」
「え・・・ヒョウエ様?!」
目を見張ったところを見ると、彼女もスラムの住人らしい。
「ええ、もう大丈夫ですよ。通り魔は行ってしまいました。・・・っと、こんなものかな。
どうです、痛いところはありますか?」
「え、ええと・・・はい、大丈夫みたいです」
こくりと頷く女性。
最後にヒョウエが手をすうっと滑らせると、女性の体の血のりが綺麗に消えた。
「ですか。後から痛みに気付くこともありますから、我慢できないようなら医療所に」
「は、はい」
「さて。ジャリーさんの方は・・・つばでもつけときゃ治るかな?」
半目で笑うヒョウエ。ジャリーもおどけて返す。
「おいおいひどいじゃないかね、少年。レディをかばって受けた名誉の負傷だよ?」
「傷が男の勲章というなら残しておくべきでは?」
「たった今考えを変えた。そんな古色蒼然とした価値観は一掃するべきだとね」
「信念を簡単に変えてしまう人は普通風見鶏と言うんですよ、知ってましたか?」
「信念にすがる奴よりはマシさ。
「・・・間違っちゃいませんがもうちょっと言い方を考えて欲しいところですねえ」
「昔の人間のありがたいお言葉なんてその程度のものさ」
「かもしれませんね。はい終わり」
ものの一分ほどでヒョウエはジャリーの治療を切り上げた。
「やけに早いな、少年。手を抜いてるんじゃなかろうね?」
「そんなことはありませんよ。治療する価値がないだけです」
「何てことだ、君がそんな奴だったなんて。心の奥に抱いていた綺麗な思い出を汚された気分だよ。ああ、切なき青春の思い出よ」
「あなたの青春は僕と出会う10年は前に終わってたんじゃないでしょうかね?」
それに、とヒョウエは思う。
(そもそもほとんど怪我をしていないじゃないですか、あなた)
確かにジャリーは全身に切り傷を負っていた。
血はにじんでいるし、服も切り裂かれているが、しかし深手は一つとしてない。
戦闘に支障のない部分だけを敢えて切らせたようにすら見える。
既にその体には傷一つ残ってはいない。
リアスの応急処置だけでも、2、3日あれば完治していただろう。
「何かね、少年?」
「・・・」
最初に出会った時と同じ笑みをたたえる男を、ヒョウエはしばし無言で見上げた。
「あ、ところでギターとナイフと服も修理してくれないかな?
商売道具がこれでは明日から飯の食い上げだよ」
「あなたなんで僕が修理の魔法使えること知ってるんです?」
バラジャム入り揚げドーナツの元ネタはポーランドのポンチキというお菓子です。
なんでもポーランドではポンチキを食べる日があるくらい一般的なんだとか。
柑橘フレーバーの紅茶と一緒に頂きましたが、非常に美味でした。