毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
薄暗い店の中、無愛想なバーテンの横を通って奥に向かう。
無言で金属のコップを磨くその手がふと止まった。
「・・・戻ってくるとは思わなかったな」
「あたしだって戻ってきたかぁなかったよ」
手をヒラヒラさせてモリィがいなす。
バーテンは無言に戻り、モリィもそのまま奥に向かう。
二人を交互に見やりながら、リアスとカスミも何とか無言を維持してそれに続いた。
少し奥へ進むと、男が二人ドアの両脇に立っていた。
どちらも屈強というほどではないが、その辺のチンピラとは雰囲気が違う。
場所に似合わない少女たちの一団を見て、その眉が怪訝そうにひそめられた。
「"違い目"のおっさんはいるかい」
口を開いたモリィに対して、男の眉がますます怪訝そうにひそめられる。
「ああ、いるが――見ない顔だな?」
「いや、待て・・・お前モリィか?」
「えっ!?」
二人目の男の言葉に、最初の男の目が丸くなった。
「化けたもんだなあ。あの山猫のようなクソガキがよぉ」
「あー、うるせえうるせえ。わかったんならさっさと通せよ」
まだ何か言いたそうにはしていたが、男は口をつぐんで扉をノックした。
部屋の中は、こざっぱりした執務室だった。
左右の棚には本や書類入れが整然と並び、中央には高価そうな執務机。
どこぞの商会の一室と言われても違和感はない。
そしてそこに座っているのは、それこそ商家の番頭と言った雰囲気の男だった。
こざっぱりした服装に愛想笑いを浮かべた細身の男だが、歳がよくわからない。三十は超えているだろうが、四十に見えなくもないし、五十を越えていそうな雰囲気もある。
整えた髪はくすんだ金色。"
「やあ、久しぶりだねモリィ。"
何か言おうとしたモリィがぶふっ、と吹き出した。
「す、"
そのまま腰を折って大爆笑するモリィ。
リアスとカスミも何か言いたげではあるが、かろうじて我慢したらしい。
「実際そんなものじゃないか? それに『王様』と呼ぶ事にどういう意味があるか、君なら知っているんじゃないかい?」
「・・・」
モリィが笑いを止めて"違い目"を睨む。"違い目"の愛想笑いは変わらない。
「それで、そろそろそちらの伯爵閣下とお付きのメイドさんも紹介して欲しいところだけどね」
「・・・!」
目を鋭くするリアスとカスミ。モリィが肩をすくめる。
「まあ知ってるよな。おっさん、こっちがリアス・エヌオ・ニシカワ。そっちがカスミ。
リアス、カスミ、こいつが"違い目"。多分メットーじゃ一番の情報屋だ」
「お初にお目にかかります、お二方」
「こちらこそ」
立ち上がり、一礼する"違い目"。リアスとカスミも礼を返す。
モリィ達に長椅子を勧めて自分ももう一度席に着いた。
「それで? カタギになってもう戻ってこないと思っていたけど、一体全体どういう風の吹き回しだい」
「単刀直入に言うぜ。"インヴィジブル・マローダー"の情報が欲しい」
一瞬、僅かに"違い目"の目が見開かれた。
「・・・それは予想してなかったね。まあ、本気であれの情報を集めようと思ったら確かにここ以外はないか」
「で、どうなんだよ。それとも青い鎧にボコられて、盗賊ギルドもそろそろ看板か?」
「痛いところを突くね。確かに彼が現れて以来、いくつかの部署は開店休業状態だが」
「潰されたって素直に言えよ」
"違い目"が肩をすくめる。
盗賊ギルドは犯罪組織だ。当然、"青い鎧"は商売敵である。
彼が現れて数年、強盗や殺人と言った類の犯罪者はほぼ一掃されていた。
逆に人を傷つけなければ基本お目こぼししてくれるので、窃盗・スリ・詐欺や裏金融などの分野では未だに盗賊ギルドは隠然たる勢力を誇っている。
「とは言えその分他の部署で回さなきゃならないからね。ここはそれこそ大回転さ。
人材育成で冒険者ギルドと一部業務提携しようという話も持ち上がってるよ」
「盗賊ギルドと冒険者ギルドがですか?! ・・・あ、申し訳ありません」
思わず口を挟んでしまったリアスが頭を下げる。
「いや、今のはしゃーねーよ。あたしだって驚いた。
けどあれだろ、冒険者に罠外しや隠密の技能を教えるとかそう言う話だろ?」
「ああ。今は個人的な技能教授に頼っているようだし、ダンジョンや遺跡を探索する限り
どこかで組織的な人材育成をする必要があるとあちらも思っていたみたいだ」
ああなるほど、と今度は口に出さずにリアスとカスミが頷く。
「まあ本題に戻ろうか。実を言うと我々もあれに関してはほとんどつかめていない。
なにぶん目撃情報自体がなくてね」
「そいつはつまり、犯人の姿が・・・」
ぱちん、と"違い目"が指を鳴らした。
「さすが、気付いていたか。そう、見えないのさ。
うちの配下の物乞いの目の前で事件が起きたことが二回ほどあるんだが、片方は被害者の体からいきなり血が吹き出して、そのまま青い鎧が来るまで何も起きなかった。
もう片方は一瞬だけ姿が見えたらしいんだが、紫色の影としかわからなかった。
"
ちらり、とカスミを見やる"違い目"。
「腕の立つ光術師なら透明化の術も見抜けるそうだけど、そんな人材は滅多にいるものじゃないからね。我々としても打つ手がないのが現状だ」
「はっ、なんだよ役に立たねえな。足の運び損だぜ」
失望した、と露骨にゼスチャーで示すモリィ。
"違い目"が再び愛想笑いを浮かべた。
「・・・何だよ?」
「いや、確かに"インヴィジブル・マローダー"そのものの情報は無いんだ。
けど関係しそうな、重要な情報はある」
「勿体ぶるなよ。さっさと言え」
苛立たしげにモリィが急かす。
「せっかちなのは良くないよ? 『あわてる乞食はもらいが少ない』ってのは冒険者族のことわざだろ?」
「知らねえよ。たまたまひい爺さんがそうだっただけだ。で? どんな情報なんだ?
ここまで引っ張っておいて大した事がなかったら、額にもう一つ目を増やすぞ」
「ははは、こわいこわい。とは言え君たちも知っている話なんだけどね」
「あん?」
いぶかしがる三人を楽しげに見つつ、"違い目"はもったいぶって告げた。
「吟遊詩人ジャリー。彼がね、頻繁に目撃されているんだ。通り魔事件が起きたのと同じ時刻、同じ場所でね」
「・・・・・・・・・・!」
三人が無言で帰路につく。
中央の大通りを越えて10分ほど歩いたあたりで、カスミが言葉を選びつつ口を開く。
「少なくとも、あの方が何か事件と関係しているのは確実でしょうか」
「そう・・・考えざるをえませんわね。ヒョウエ様のご友人を疑うのは気が引けますが」
「・・・」
「モリィ様?」
カスミの呼びかけにモリィがハッと気付いた。
「ああ、悪い――今まで気付かなかったけどさ、あいつ犯人と戦ってたろ」
「ですね」
「それが何か?」
「他の事件では被害者を傷つけただけでさっと姿くらましてんのに、なんであいつだけ犯人と戦えたんだ?」
「――!」
リアスとカスミの足が止まった。モリィも。
三人が互いの顔を見交わす。
「やはり、ジャリーさんに話を聞く必要がありそうですわね」
「ヒョウエの奴からも、どういういきさつで知り合ったのか、その辺聞いておきてえな」
「とはいえ、現在警邏中ですからしばらくはお帰りになりませんね。ギルドでジャリー様の足取りがつかめれば良かったのですが」
「"違い目"のおっさんがつかめてない時点であたしらが捜すのは無謀だろうな」
うーん、とリアスが口元に拳を当てる。
「もう一度ギルドに行って、彼を捜して貰うのはどうでしょう?」
「手かもしれねえがあんまりやりたくはねえな。あっちもプロだから何も聞いちゃこないが、『どうしてあたし達が"インヴィジブル・マローダー"の情報を欲しがるのか』ってことを今頃考えてるはずだぜ。
二度三度と行けばそれだけこちらの手の内をさらすことになるし、そうしたらあのこともバレかねねえ」
「で、ございますね」
この中では一番の情報のエキスパートであるカスミがうなずく。
「こちらから動けばそれだけ情報は洩れます。それに、賞金がかかっているわけでもないのに情報を聞き回るというのは冒険者として明らかに不自然かと」
「ですわね・・・」
「ただ、この場合は私どものリーダーがヒョウエ様と言うことが隠れ蓑になるかも知れませんが」
リアスとモリィが同時に首をかしげた。
「どういうこった?」
「ヒョウエ様はスラムのまとめ役でいらっしゃいます。腕の立つ冒険者でもある。通り魔の被害を減らすために積極的に捕まえようとしてもさほど不自然ではないでしょう」
「あ、なるほど」
そのまま三人は屋敷に戻った。
リーザを介して警邏中のヒョウエにざっと結果を伝え、夕食時に改めて作戦会議。
「ジャリーさんがですか・・・」
「犯人に関わりがあるかどうかはわかんねえけど、"違い目"のおっさんが言うんだから間違いないと思うぜ」
「まあうさんくさい人だとは思ってましたけどねえ」
サナ特製のレーズンパンを咀嚼しつつヒョウエが考え込む。
「ヒョウエくん、口にものを入れたまましゃべらない」
「はーい」
パンを飲み込んでから返事するヒョウエ。
とは言えジャリーを捜す手段が見つからない以上、話はまた振り出しに戻ってしまう。
結局、今の態勢を続けてモリィ達とリーザが情報集めという事で話は終わった。