毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~   作:ケ・セラ・セラ

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03-10 地獄に堕ちた者のサーガ

 数日後。ヒョウエは例の人形劇のトランクを持ってスラムを歩いていた。

 しばらく同じ事ばかりやっているので気分転換に、と気を遣われたのだ。

 実際限界出力でないとはいえ、「青い鎧」状態を一日中維持する負担もそう軽くはない。休養は必要だった。

 

(一人で行動するのも久しぶりですね)

 

 サナやリーザに加えてここ一月ほどはモリィをはじめとする毎日戦隊エブリンガーの仲間がいつも一緒だったことに気付く。

 

(寂しいような気楽なような・・・まあたまにはいいですか、こういうのも。

 しかしこの名前を使うと何故みんな微妙な顔になるんでしょうねえ)

 

 首をかしげながら芸人の集まるいつもの広場に足を向ける。

 「定位置」に近づくとどこかで聞いたような声が聞こえてきた。

 

(おや)

 

「だからここ空いてるじゃないですか。どうして演奏しちゃダメなんですか?」

「あー、おめえさん新顔だな? ここは『領主様』の場所なんだよ。他の奴が使っちゃいけねえことになってるのさ」

「領主様って・・・噂の"スラムの王様(スラムキング)"ですか!?」

 

 こげ茶色の髪の少年、ハーディが驚いた顔になる。その手には例の「悪魔のバイオリン」。

 ひげ面の中年・・・近くで屋台をやっているおっさんがここぞとばかりに両手を広げて深刻そうな顔を作る。

 

「おうともよ。雲を突くような大男で腕は丸太よりも太い。基本的には優しいお方だが、自分の邪魔をする人間は容赦せずにぶっ潰す恐ろしいお方でもあるんだぜ!」

「えええ・・・」

 

 明らかにからかっており、周囲の人間も笑いをこらえているのだが、からかわれている方はそれに気付いていない。

 

「じゃ、じゃあ僕は・・・」

「かなりヤバいな。ご自分の席を取られたと知られたらどんなに怒り狂うことか。おめえさんなんざ、親指と人差し指だけで頭をプチッと・・・」

「?」

 

 恐ろしげな表情を作って少年を脅かしていた中年男の言葉が途切れた。

 固まった表情の、その視線の先にはニコニコ笑う魔術師姿の少年。

 笑みを含んだ哀れみの視線が中年男に集中する。

 

「どうしました、アーサー? 続けて下さいよ、ねえ。親指と人差し指だけで頭をどうするんです?」

「あ、いや、そのですな・・・」

 

 冷や汗を流すアーサー。ハーディが振り向いて目を丸くする。

 

「え、ヒョウエくん?」

「や、どうも、お久しぶり」

「えっと・・・どういうこと?」

 

 ハーディはそこでようやく周囲の微妙な雰囲気に気付いたらしい。

 ヒョウエが肩をすくめた。

 

「かつがれたんですよ。アーサーも、知らない人をからかうのはほどほどに」

「へ、へい・・・ひょっとしてそちらのお人は・・・」

「まあ友人ですね」

「し、失礼いたしましたーっ!」

 

 脱兎の如く逃げ出すアーサー。周囲から笑いが起きる。

 

「・・・」

 

 しばらく固まっていたハーディが再起動する。

 ぎぎぎぎ、といつぞやのような動きでハーディがヒョウエを見た。

 

「あの・・・ひょっとして"スラムの王様(スラムキング)"って・・・」

「まあ、僕のことらしいですね。正直似合わないにも程があるとは思うんですが」

「ええええええええええええええ~~~~~~~~~~~~!?」

 

 広場に驚きの声がひびく。

 周囲の通行人がそれを見て笑っていた。

 

 

 

「うーん、まさかヒョウエくんがスラムの王様だったなんて・・・」

 

 驚きの余韻冷めやらぬハーディが嘆息した。

 石畳のへりに座りながら二人で串焼きをかじっている。

 先ほどのアーサーがお詫び代わりに差し出してきたものだ。

 ヒョウエが苦笑する。

 

「単なる地主ですよ。まとめているのは長老衆ですしね」

「でもこのスラム全部でしょ? 凄いお金持ちなんだね」

 

 ハーディがうらやましそうに眼を細めた。

 

「大体借金ですよ。冒険者稼業でいくら稼いでも追いつきやしない」

「うーん、でもやっぱりすごいよ。それだけ稼げるんだから」

 

 羨望と称賛が混じった視線にヒョウエがむずがゆそうに身をよじる。

 照れ隠しに食べ終えた串をぴんと弾くと、街角のゴミ箱に見事に飛び込んだ。

 

「おー」

 

 ハーディがパチパチと手を叩く。

 立ち上がったヒョウエが気取って一礼した。

 

「それはともかく、今日はこの辺で演奏するんですか?」

「うん、そのつもりで顔役の人にも挨拶してきたけど場所が無くて・・・」

「それならまた一緒にやりませんか? 今日は僕の人形劇の伴奏と言うことで」

「え?」

 

 

 

「うわあ・・・」

 

 ヒョウエのトランクから様々な人形が飛び出す。

 次いでトランクがバラバラに分解して、人形劇の舞台が組み上がっていく。

 初めて見た大半の人間がそうであるように、ハーディも目を丸くしている。

 既に最前列に陣取ってる子供達も目を輝かせてそれに見入っていた。

 

「今日は"悪魔の如き(デヴィリッシュ)"ユウの妖精の娘との出会いの下りだけどわかります?」

「あ、それならわかるよ」

 

 "悪魔の如き(デヴィリッシュ)"ユウ。2000年ほど前のオリジナル冒険者族で、《投擲の加護》で名高い。体長6mの巨大虎十二匹を投石で打ち倒した話が特に有名だ。

 英雄となった彼は妖精の娘と恋に落ちるが、彼に恨みを持つ歪んだ妖精(ツイステッド・エルフ)の手によって石像にされ、魂は地獄に落ちてしまう。

 百年後呪いは解け、冒険の旅の末に再び出会った二人は今度こそ結ばれる・・・というのが大まかな筋書きだ。

 

「それぞれのシーンで盛上がる曲、静かな曲、悲しい曲、おどけた曲とかをそれぞれつけて貰いたいんですよ」

「わかった、やってみるよ、ありがとう!」

「いえいえ」

 

 

 

 伴奏付きの人形劇は意外なほどに盛上がった。

 観客が喜んでいたのはいつも通りだが、盛り上がり方がはっきり違う。

 

(うーん、やっぱり音楽の有無は大きいですねえ)

 

 数時間の上演を終え、観客の拍手。

 銀貨を数枚ハーディに渡す。

 

「はい、今回の演奏料です。後僕がいない時はこの場所使っていいですから」

「えっ!? でもおひねりがないのにお金は・・・」

「僕はおひねり貰わないことにしているので。でもハーディはそれだと困るでしょう?」

「・・・ありがとう」

 

 手にした銀貨を握りしめ、ハーディはそれだけを口にした。

 

「あ。そう言えばハーディ」

「な、なに?!」

 

 いきなり話しかけられてハーディが慌てる。

 

「ジャリーさんいるでしょう。あの派手なギター弾きの。最近見ませんでした?」

「ジャリー・・・ジャリーさん?」

 

 びくん、とハーディが震えた。

 手にした"悪魔のバイオリン"の杖頭の悪魔の目がぎょろりと動き、口を開く。

 

『ハーディ』

「あ、ああ・・・」

『ハーディ。ハーディ・・・』

「と、父さん・・・」

「ハーディ?」

 

 ヒョウエがいぶかしげに名前を呼ぶ。

 バイオリンの悪魔は、ただの人形の顔だ。

 

「ご、ごめんヒョウエくん。僕急いでるから・・・」

「ハーディ?」

 

 いぶかしがるヒョウエの顔を見ることもなく、ハーディは一目散に走り去る。

 その姿はあっという間に雑踏に消えた。

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