毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~   作:ケ・セラ・セラ

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03-11 引力

「・・・・・・・・・・」

 

 ハーディが走り去り、しばし呆然としていたヒョウエがハッと再起動する。

 

「アーサー、すいませんけど舞台と人形見ててください!」

「え? は、はい!」

 

 屋台の親父に荷物を頼み、杖にまたがって宙に舞い上がる。

 

「・・・いない?」

 

 夕方近いスラムの街路は買い物客や早めに仕事の終わった労働者などでごった返していて、こげ茶色の髪の少年の姿は見えない。

 とは言えそんなに長く呆然としていたわけでもなく、あの勢いで走っていったならどこか目の端にでも止まるはずだ。

 

(どこかの路地にでも入りましたか? ・・・"失せもの探し(センス・ロケーション)"でも覚えておけば良かったですね)

 

 前回擬態する怪人に奇襲された経験から、ここしばらくは"透明感知"や"隠身看破"のような呪文を集中的に勉強していたのだが、うまく行かないものである。

 似たようなものだと思うかも知れないが、微妙に系統(スキルツリー)が違うのだ。

 

「あーもう、こうなれば・・・」

 

 半ばやけで、役に立ちそうな感知系の呪文を片っ端から唱える。

 

「"生命感知(センス・ライフ)"」

「"オーラ感知(センス・オーラ)"」

「"感情感知(センス・エモーション)"・・・・・・・うっ」

 

 少しくらっと来てヒョウエが目を押さえた。

 今ヒョウエの目には生物の放つ生命力、霊的なオーラ、加えて感情の色がいっぺんに映っている。

 慣れていないとややつらい。

 だがそれを何とか抑えて、上空を飛行しながら通りと路地を見渡す。

 

「ハーディの様子は明らかにおかしかったし、何か異常でもあれば・・・」

 

 そのまま数分、周囲を飛び回ったヒョウエの目に異様な「色」が飛び込んできた。

 明らかに人のものではない霊気。

 通りを覗き込む路地から発せられてるそれは――

 

 

 

 ふわり、とヒョウエは路地に降り立った。

 またがっていた杖を地面に突く。

 一応「戦闘態勢ではない」というサイン。

 

 気配を感じたのか、その人物が振り向いた。

 貴族のような衣裳に、辺りを払うロックスターのような華やかな雰囲気。

 ふわりと膨らんだ金髪にやせぎすのハンサム。

 吟遊詩人、ジャリー。

 

 ヒョウエを認めたその目が笑みの形に細められる。

 肩をすくめて出て来たのは、いつも通りの軽口。

 

「おや、これはこれは領主殿。――その顔付きからすると、ばれてしまったかな?

 いやはや、参った参った。"大魔術師(ウィザード)"の二つ名も伊達ではないようだね」

「ばれたというのは何ですか? あなたが楽士じゃないことか、それとも外見を10才くらい若作りしている事ですか?」

「ちょっ・・・いくらなんでもそれはひどいんじゃないかね!?

 私は正真正銘楽士だし、まだ若い! 君と10才くらいしか違わないはずだぞ?!」

 

 余裕のある態度を崩さなかったジャリーが、割と本気でムキになる。

 それを十秒くらい頭のてっぺんから靴の先まで視線を動かして。

 

「ハッ」

 

 ヒョウエが鼻で笑った。

 ジャリーの目が据わる。

 

「少年、それは宣戦布告と取っていいかな?」

「これは失礼。つい反射的に」

「いいかね少年。今は確かに水もしたたる美少年だろうが、歳を食ったら必ず容色は衰えるんだ! 君だって20年30年したらデブハゲの見苦しいおじさんになるんだぞ!」

 

 熱弁を振るうジャリー。

 無邪気な笑顔でそれを聞き流すヒョウエ。

 

「なるほど、確かにそうですね。

 まあジャリーさんは10年したらデブハゲのおじさんになるわけですけど」

「私はいいんだよ! 気を遣ってるから!」

「気を遣ってても限界はあるでしょう。大体今だって40近いのを化粧で誤魔化したりしてるんじゃないですか?」

「しつこいな君は! 私はナチュラルメイクだよ!」

「ハッ」

「笑ったな? また笑ったな!?」

 

 大人げなくヒョウエを睨み付けるジャリーと、意地悪そうな笑みを浮かべるヒョウエ。

 二人はしばしにらみ合っていたが、やがてどちらからともなく表情を元に戻した。

 

 ヒョウエはわずかに厳しさを帯びた無表情。

 ジャリーはいつものとらえどころのない笑み。

 

「・・・」

「・・・」

 

 更にしばし、二人が見つめ合う。

 先に沈黙を破ったのはジャリーだった。

 

「それで? 私に用があったんじゃなかったのかね」

「ええ。ハーディの様子がおかしかったので、追いかけて来たらあなたがいまして」

「ハーディくんならあちらの路地にいるよ。心配なら早く行ってあげたまえ」

「そうですか。で、あなたは何故ここにいるので?」

「・・・」

 

 答えは無言。変わらぬ笑み。

 

「質問を変えましょうか、ジャリーさん」

「何かね、ヒョウエくん」

 

 ヒョウエの目が細まった。

 

あなたは怪人なんですか(・・・・・・・・・・・)?」

「・・・」

 

 それは質問ではなく、ほぼ確認だった。

 ジャリーの笑みが大きくなる。

 地面に立てていた杖を、ヒョウエが斜めに構えた。

 それと同時、壁際に立っていたジャリーが体を傾けて壁にもたれかかる。

 

「!?」

「それじゃ、また」

 

 それだけを言い残して、ジャリーがもたれかかった壁にするりと潜り込んだ。

 壁が僅かに波打ち、水面のようにジャリーの体を飲み込む。

 ヒョウエが駆け寄った時には、もう壁はただの漆喰の壁だった。

 

「~~~」

 

 とん、と杖の石突きを地面に軽く突く。

 念動波が地面や周囲の構造物を伝わっていく。

 念響探知(サイコキネティックロケーション)

 

 だが、ジャリーらしき手応えはない。

 地面や壁に触れているなら、たとえ地面に潜っていてもわからないはずはないのだが。

 

「くそっ」

 

 軽く悪態をついてきびすを返す。

 通りに出て、先ほどジャリーが指した方角にむけて足早に歩く。

 本当にハーディがいるのであれば、今はそちらの方が重要だった。

 

 

 

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