毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~   作:ケ・セラ・セラ

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03-12 ソアラとレア

 

『ハーディ。ハーディ・・・』

 

 闇の中に浮かぶ悪魔の顔。

 

(とうさん・・・)

 

『ハーディ。ハーディ・・・はぁぁぁぁでぃぃぃぃぃいぃいぃぃぃ』

 

 怨念すら感じる悪魔の声。ハーディが苦しそうに体を抱いて膝を折る。

 

「う、うう・・・!」

「ハーディ、しっかり!」

「あ・・・え。ヒョウエくん?」

 

 気付けば路地で、魔法使い姿の少年に両肩を揺さぶられていた。

 何度かまばたきをした後、意識をはっきりさせるように頭を振る。

 

「大丈夫ですか?」

「うん、だと思う・・・」

 

 まだどこかぼんやりした様子にヒョウエが顔をしかめた。

 

「送っていきますよ。家はどこですか?」

「いや、いいよ、悪いし・・・」

「お気になさらず。今日はお休みですし。ほら、歩けますか?」

「あ、うん・・・」

 

 ハーディの右手を左手で引き、ヒョウエが歩き出した。

 ハーディはどこかおぼつかない足取り。左手には「悪魔のバイオリン」。

 

 

 

 ハーディの家はスラムの北側、数ブロックほど歩いた場所にあった。

 スラムではないというだけで、やはり豊かな層が住む地区ではない。

 木造の集合住宅の三階、部屋の扉を開けると、テーブルと椅子、寝わらのベッドくらいしかない粗末な部屋だった。窓にもガラスなどと言った豪勢なものははまっていない。

 あやとりで遊んでいた12才くらいの女の子二人が顔を上げた。

 

「お帰りなさい、お(にい)! ・・・え、誰その人!?」

「・・・お兄ちゃんのお嫁さん?」

「「いや、それはないから」」

 

 真顔のヒョウエとハーディの声がハモった。

 一瞬で正気に戻ったあたり、数ヶ月前の「初恋」の痛みはまだ尾を引いていたらしい。

 

「ど、どうぞ・・・」

「ありがとうございます」

 

 赤茶けた髪の妹が水の入ったコップをテーブルに置く。

 にっこりと礼を言われて赤面。

 テーブルの反対側、兄の袖を掴んでいる青い髪のほうも僅かに頬を染めている。

 

「先に紹介しておこうか。こっちの青いのがレア、そっちの赤いのがソアラ。

 レア、ソアラ、彼がヒョウエくん。ほら、人形を買う時に手伝ってくれた魔法使いのお兄さんだよ」

「あー・・・!」

「よろしく、レア。よろしく、ソアラ」

 

 ヒョウエがにっこりと微笑むと、また赤面。

 

「ほら、二人ともお礼は?」

「あ、ありがとう!」

「ありがとうございました・・・」

 

 赤面しつつも元気よく礼を言うソアラ。

 兄の袖を更に強く掴みつつ、消え入るような声音で礼を言うのがレア。

 対照的な姉妹であった。

 二人の顔を見やりつつハーディが笑みを浮かべる。

 

「親が二人とも早く死んじゃってね。今は三人暮らしなんだ。

 父さんが残してくれたこれのおかげで何とかやってるんだよ」

 

 ちらりと「悪魔のバイオリン」に目をやる。

 

「お父さんも楽士だったんですか」

「みたい。余り話してくれなかったけど」

「今はハーディがレアとソアラのお父さん代わりというわけですね」

 

 何の気無い言葉に、ソアラとレアが顔を見合わせた。

 

「お兄ちゃん、お父さん・・・?」

「あはっ、ないない! 頼りないもの!」

「あはは・・・」

 

 身も蓋も無いソアラの言葉に、ハーディが困ったような顔で笑みを浮かべる。

 くすりとヒョウエが笑った。

 

「そう言えば今日はどうして道化(ハーレクイン)広場に? 普段は別のところでやってるんでしょう?」

 

 まずは無難な話題を振る。先ほどのことと言い、ジャリーが見守っていたことと言い、何かあると勘が告げていた。

 

「うん、普段は西の大通りの"鳩と鷹"広場で演奏してるんだけど、ほら最近通り魔、なんて言ったっけ・・・」

「インヴィジブル・マローダーだよ、お兄」

「そうそう、それのせいかお客さんがめっきり少なくなってさ。

 道化広場はまだ賑わってるって聞いてそっちでやってみようかなって」

「あー」

 

 インヴィジブル・マローダーが出現して以来、ヒョウエはスラムの自治会に働きかけて自警団のパトロールを頻繁にさせるようになった。

 他の地区でも王都の警邏がパトロールを強化しているが、スラムではそれに加えて自警団の姿をちょくちょく見る。それが安心感に繋がっているのかもしれなかった。

 

「ヒョウエくんはいつもあの場所で?」

「いつもと言うほどはやってませんね、冒険者稼業の方が忙しいので。借金返さなくちゃいけませんし、貧乏暇無しですよ。

 ――最近は半月に一回か下手すると月一回ですし、そう言う事ならハーディもそうですけど他の人にあの場所を使って貰ったほうがいいのかなあ」

 

 腕を組んで考え込むヒョウエ。

 今度はハーディが笑う。

 

「もうちょっとわがままになってもいいと思うよ、ヒョウエくんは。

 スラムの王様なんでしょ? 自分用の場所なんてかわいいものじゃない」

「え、ヒョウエお兄ちゃん王様なの?」

「すごーい!」

 

 苦笑してぱたぱたと手を振る。

 

「ただの地主ですってば。どこでそんなあだ名がつくんだか」

「じぬし?ってなに?」

「大家さんってことだよ、ソアラ」

「えっ、じゃあたくさんお家賃もらえるんだ!」

 

 目をきらきら輝かせるソアラに、ヒョウエは今度こそ吹き出した。

 

「家賃は取ってませんよ。スラムに住んでる人たちは、ソアラよりもっともっとお金がない人たちですからね」

「えー」

「お、お金のない人たちからお家賃取っちゃだめだよソアラ・・・」

 

 露骨に失望した顔になる姉妹をなだめるレア。

 

「だって私たちは大家さんに毎月お家賃払ってるのに!」

 

 耐えきれずにヒョウエとハーディが笑い出した。

 

 

 

 ひとしきり笑いを収めた後、二人と妹たちはたわいもない話をした。

 ソアラはおはじきがうまいだの、レアは人参が苦手だの・・・

 

 だが、その裏でヒョウエの不安は跳ね上がっていった。

 理由は判らないが、和やかな雰囲気の中でいやな予感だけがどんどんと膨らむ。

 

 夕日が窓から差し込む。

 まぶしさに眼を細めた一瞬、ヒョウエは気付いてしまった。

 

 不安を感じさせていたのは、異常を覚えていたのはヒョウエの術師としての魔力感知能力だと言うことに。

 その不安の元が、今目の前で笑っている友人から発せられていることに。

 

(・・・・・・・・・・・・・・・・・!)

 

 表情に出さず、内心で苦悩しつつもヒョウエは無言で呪文を発動した。

 

("オーラ感知(センス・オーラ)")

 

 ヒョウエの視界に物体や生物の放つ霊気が捉えられるようになる。

 

(っ・・・!)

 

 わかってはいた。

 多分無意識で察していたのだと思う。

 だがそれでも答えを突きつけられてヒョウエはショックを受ける。

 

 ハーディは、"怪人(ヴィラン)"だった。

 

 

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