毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
「うーん。違いましたか」
「こちらの方々が・・・?」
「ええ、ハーディの妹さんたちです」
二人は集合住宅のハーディの部屋にいた。
テーブルではソアラとレアがにこにこ笑っている。
「ソアラ、レア。お兄さんがどこに行ったか知りませんか?」
「お兄は仕事だよ!」
「夕方になったら・・・帰って来ると思います」
にこにこ。
「だめそうですね」
溜息をつく。カスミも頷いた。
その瞬間、再び光が走った。
情景が流れていく。
今いる部屋で、三人揃って食事をする兄妹。
食事は粗末なものだが、楽しげな顔で笑っている。
兄の演奏を眼を細めて聞いている妹たち。
手拍子で演奏に合わせている。
妹たちのおままごとに付き合う兄、怒るソアラとたじたじになるハーディ、それをなだめようとするレア。
再び光が走った。
気がつくとハーディの部屋の外にいた。
「・・・もう一度入りましょうか?」
「その必要は無いでしょう。余り踏み込んでいいところでも無さそうです」
「で、ございますね」
溜息をついてからカスミがヒョウエを見上げた。
「この後はどうしましょう? 歩き回るには王都は少々広すぎますが」
「んー・・・」
考え込むヒョウエ。その脳裏に、十数分前にハーディと交わした会話の内容がよぎる。
「"鳩と鷹"広場に行きましょう。いつもそこで演奏していたようですし、そうでなくても誰か知っている人がいるかもしれません」
「"鳩と鷹"広場ですか。ええと・・・」
「西の大通りと"鷲男"通りの交差するところですね。ここからだと北に2
すらすらと答えを出すヒョウエに少し尊敬の眼を向けて、カスミは頷いた。
"鳩と鷹"広場。
ここもやはり市が立ち、大勢の人が行き交っている。
ところどころに芸人の姿。
光が走る。
ハーディの記憶であろう情景が再現される。
悪魔のバイオリンを演奏して、そこそこの拍手を貰うところ。
その日の稼ぎが少なくて、とぼとぼと家路を帰るところ。
親切な屋台の老婆に「妹さんに」と売れ残った菓子を貰って喜ぶところ。
タチの悪いのに絡まれ、暴力を振るわれたところ。
そうした日常の情景がいくつか流れた後、ヒョウエたちは元の広場に立っていた。
「・・・取りあえず周辺を探しましょうか」
「・・・はい」
十分ほどかけてざっと広場を回るが、気弱そうな少年の姿はなかった。
「やはりいませんね」
「ですか」
「そうなると地道に聞き込みしかありませんか。他に心当たりがあるわけでもなし」
面倒くさいな、と唸る。
心得はあるが不特定多数との接触はおっくうなヒョウエであった。
「そう言う事でしたらお任せ下さい。それなりに心得はございます」
「そうですか? じゃあお願いします」
少しほっとして頷く。まあ忍者って元々スパイですしそのへんも・・・などと考えていたところでいきなりカスミががばっと地面に伏せて泣き出した。
「うわああああああああああん!」
「え?」
「おい、どうした」
「なんだなんだ」
周囲に人が集まってきた。
カスミががばっと上半身を起こす。
その目からは本物の涙がぽろぽろとこぼれ落ちている。
「わたしがお仕えしている貴族のお嬢様が鞭でぶつのです! 私を裸にして、背中を!
今日もハーディさんという楽士の方を夕方までに連れてくるようにと命令されて、連れてこられなかったら鞭でぶった後、裸で一晩中外にいろと・・・!
親切な術師様に助けて頂きましたが、お家の方にもいらっしゃらず、こちらにいなかったら私、鞭でぶたれてしまいます!」
12才の少女の真に迫った演技に、周囲はすっかりだまされて同情の色を濃くしている。
「なんて奴だ」
「ひどい主人もいたもんだなあ」
「貴族ってなそんなもんさ。おい、誰か知らねえか?」
「僕くらいの年格好で、こげ茶色の髪の少年です。人の顔のついた楽器を持ってます」
ヒョウエが説明すると、周囲が再びざわめき始めた。
「ああ、そいつなら見た事があるぜ」
「今日は誰か見たか?」
「昨日は来てたけどなあ」
「あー・・・」
「なんです?」
かなり年かさの、老人と言っていい年齢の屋台の店主がひげをしごく。
「ちょっと待ってくれ、ええと・・・そうだ、あのけったいな楽器! 悪魔のバイオリンと言っとったな?」
「! ええ、そうです! ご存じなんですか?」
喜色を浮かべるヒョウエを手で制し、老人がこめかみをもむ。
「そのハーディとか言う小僧ではないが、20年ほど前、そう言う楽器を演奏する楽士に会ったことがあるんじゃ・・・どこだったかな・・・」
しばし沈黙が周囲を覆う。
目を閉じて必死に何かを思い出そうとしている老人。
ややあって、指をパチンと鳴らす。
「そうじゃ、"マロニー"じゃ!」
「裁判所通りの酒場ですか?」
「そうそう。そこでやせぎすの男が演奏しておった。髪は濃い茶色でな、無愛想な感じじゃったが腕は良かったの」
老人と周囲の人々に礼を言って二人はその場を離れた。
一街区ほど歩いたところで、ちらりとカスミに目をやる。
涙はとっくに乾いており、顔には泣いていた痕跡すらなかった。
ヒョウエの視線に気付いたカスミがクスリと笑う。
「何でしょうか、ヒョウエ様?」
「いえ、見事なものだなと」
降参だ、と言った風に肩をすくめる。
くすくすと、またしてもカスミが笑った。
「これでも忍びでございますので。そう言う事も一通り仕込まれております」
「おお、こわいこわい。・・・にしても、意地悪なお嬢様ですか? カスミを裸にひんむいて鞭を打つ?」
面白げなヒョウエの声音。
カスミが片目をつむり、指を一本口の前に立てる。
口元は笑ったままだ。
「リアスお嬢様には秘密でお願いしますね?」
「二人だけの秘密が増えてしまいましたね」
ヒョウエも楽しそうに笑う。
そして二人は声を合わせて笑い出した。