毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
王城から南門まで、王都の中央を貫く中央大通りを越えて、王都の東南部。
比較的中流に近い層が住む地区にその酒場はあった。
「マロニー」と下手くそな文字で看板が出ている。
中に入ると赤ら顔の、頭のてっぺんが綺麗に禿げた親父が二人を見た。
「らっしゃい・・・うちのエールは子供にはきついぞ。それとも飯か?」
「いえ、ちょっと聞きたいことがありまして」
ヒョウエが親指でコインを弾く。
ちりん、と音を立てて銀貨がカウンターに転がった。
親父が銀貨を取って本物なのを確かめる。
「・・・何を聞きたい?」
「20年くらい前に、ここに楽士がいたと聞きました。やせぎすでこげ茶色の髪で、悪魔の顔のついた奇妙な楽器を弾いていたと」
「ああ・・・いたな。息子と娘二人と、四人で上の部屋借りて住んでたよ。
8年くらい前に怪我して弾けなくなって、引き払ってそれっきりだ」
「ふむ・・・部屋を見せて頂けます?」
更に銀貨を二枚。
「金を払ってくれるなら構わんよ。元々貸すための部屋だ。好きなだけ見ていってくれ」
肩をすくめて店主がコインをしまい込み、鍵束を取りだした。
身振りでついてくるように指示して、二階への階段に向かう。
頷き合って、ヒョウエとカスミは後についていった。
「ここだよ」
店主が鍵束で部屋の扉を開ける。
一歩下がった店主の横を通り、ドアを開ける。
その瞬間白い光があふれ出し、世界を塗りつぶした。
部屋の中は、ありがちな宿屋、あるいは下宿の一室だった。
ベッドが一つ、テーブルが一つ、椅子がいくつか。
今のハーディ達の部屋と大して差はない。
そこに、一組の家族がいた。
30絡みの痩せた男が一人。ハーディによく似た8歳くらいの少年、ソアラとレアに似た幼女たち。
まかないであろうスープとパンだけの食事だが、楽しそうに笑っている。
食事を終えて片付けようとしたとき、ソアラとレアが父親の演奏をせがみ始めた。
「ねえねえお父さん、あくまのおじさんー」
「あくまのおじさん・・・私も聞きたい・・・」
「悪魔のバイオリンだよ、ソアラ、レア」
ハーディが苦笑して訂正するが、ソアラは自説を曲げない。
「だっておじさんじゃない! あくまのおじさん!」
父親が笑いながら悪魔のバイオリンを手に取る。
「まあいいけどな、おじさんで。何が聞きたい?」
「たのしいやつ!」
「えーと、めがみさま・・・」
「『
演奏が始まる。
軽快なメロディと、チリンチリンという涼しげな音。そこに挟まるトントン、という太鼓の音。
子供達三人が手拍子を打ち、それに合わせる。
渋みのあるいい声で父親が歌い出す。
子供達も、つたないながらそれに合わせて歌う。
父も、息子も、娘たちも。
全員が楽しそうに笑っている、幸せな家族の情景。
「・・・」
「・・・」
だがヒョウエとカスミはその先を知っている。
この僅か二年ほど後の彼らがどうなっているか。
更にその後に何が起きるのか。
幸福の情景を見つめながら、二人の表情は沈痛だった。
光が走り、過去の
「え、これは?」
「・・・おや」
光が収まった後、酒場の部屋は消えていた。酒場の主人も。
周囲の情景は一変しており、宮殿か貴族の館の廊下のようであった。
「ここは・・・?」
油断無く周囲を見渡すカスミに、少し憂鬱そうな顔でヒョウエが答える。
「ジュリス離宮・・・僕の実家ですよ」
「・・・!」
珍しく、カスミが目を丸くした。
「失礼しました。しかし何故? ここはハーディ様の心の中だと思っていましたが」
「いえ、想定していてしかるべきでしたが、コアが見せるのは取り込んだ人全員の心の情景なんです。つまり、僕やカスミのそれが映し出されても何ら不思議はありません」
「そうですか・・・」
固い顔でカスミ。
それには気付かないふりをして、ヒョウエが言葉を続ける。
「とにかくここも歩き回ってみましょう。見かけが違うだけで、ここもコアの中であることには違いありません。とにかく動いていれば中心に近づくはずです」
「はい」
カスミが頷くのを確認してヒョウエは歩き出した。
しばらく無言で歩く。
離宮とは言え王都の一街区に匹敵する面積を持つこの建物は、敷地だけでも500m四方の広さがある。時折すれ違う使用人たちが、ヒョウエに恭しく頭を下げていた。
「・・・どちらへ向かっているのですか?」
「僕の部屋です。とりあえず」
ヒョウエの部屋に向かう間、白い光が二度走った。
書庫に引きこもる本の虫。
王族に義務づけられた様々な技術の習得。
サナやリーザとの日常。
子供ながら王族故の人付き合いの煩わしさ。
そんな情景が流れていく。
「・・・」
それらの情景がなかったかのように、ヒョウエは足取りをゆるめずに先に進む。
そしてダンジョンの奥底でモリィも見た、友達を見殺しにした少年の慟哭。
「・・・・・・・・・・・・・・!」
「気にしないで進んで下さい。大丈夫です」
凄惨な情景に思わず立ち止まるカスミを促して、ヒョウエは進む。
カスミが慌てて後を追った。
「ここです」
ノックもせずに扉を開く。自分の部屋なので当然だが。
「お帰りなさい、ヒョウエく・・・様。そちらの子は見た事がないですけど・・・お客様のお付きの人?」
10才くらいのリーザが頭を下げてヒョウエたちを迎えた後、首をかしげた。
ヒョウエが16才に成長している事には違和感を抱かないらしい。
「リーザ。私たちだけなのですから、いつもの調子で構いませんよ」
涼やかな声が部屋に響いた。
「はい、奥様」
リーザが照れたように笑い、対照的にヒョウエが身を硬くする。
部屋の奥に一人の貴婦人が座っている。百人が百人絶世の美女と言ってはばからないだろう、そんな女性だ。傍らにはリーザと同じ髪色の女官。後ろには今より少し若いサナ。
「どうしました、ヒョウエ? あなたの部屋なのです、遠慮せずに入って来なさい」
ヒョウエの母、ローラ・ラバン・ワルツ・ドネがにっこりと微笑んだ。