毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~   作:ケ・セラ・セラ

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03-18 スラムの王子様

 廊下を歩いて行くともう何度目か、白い光が走る。

 今度は広い豪華な部屋だった。

 先ほどのヒョウエの部屋も当然豪華な装飾が施されていたが、ここは更に一段上だ。

 部屋の中で対峙しているのは12才くらいのヒョウエと、30ほどのくすんだ金髪の男。筋の通った眉と鼻梁を持つ、いかにも若き王族と言った顔立ちだ。

 男――ヒョウエの父、ジョエリー・シーシャス・ジュリス・ドネが困惑した顔で叫ぶ。

 

「何を馬鹿な事を言っているのだ!? スラムが犯罪の温床なのは知っているだろう!

 十数年前の飢饉以来、難民が集まってきている! 衛生状態も悪い! このままにはしておけないのだ! わからんお前でもあるまい、ヒョウエ!」

「その間、スラムに住んでいる人はどうするんです! 城外に追い出すんですか!」

「・・・城外に集落を作ってそこに住まわせる」

「その間、兵士をずっと動員し続けるんですか?」

「それは」

 

 ジョエリーが言葉に窮した。

 前に述べたとおり、この世界ではたとえ首都の近くでも城外で魔物に出会う確率はゼロではない。ましてや体の弱い老人や女子供も多いのだ。

 城壁や軍隊の庇護なしには、いずれ嗅ぎつけられて襲われるのは間違いなかった。

 

「だから僕が買い取って、現状を改善します。時間はかかるでしょうけど、少なくとも今より悪化はさせません」

「炊き出しくらいでいいだろう。お前の領民というわけではないのだぞ」

「それでは根本的な解決にならないから申し上げているのです。だからこそ、陛下もスラムを一掃しようとされたのでしょう?」

「だからと言ってお前の心臓を質にとれというのか!」

「僕個人の財産というと今のところそれくらいしかありませんので」

 

 とん、と握った右手の親指で心臓の上を突く。

 "隠された水晶の心臓(クリプトス・クリスタル・ハート)"。無限の魔力と高度な術制御能力を与える桁違いの《加護》にして生きたアーティファクト。

 実在したならば国家間のバランスを大きく崩すような、神話や伝説の中の存在。

 それがヒョウエの胸の中にある。

 金銭に換えるというならば、スラムどころか王都丸ごとでもまだ足りないだろう。

 

「陛下に申し上げて下さい。スラムから犯罪と貧困を撲滅します。少なくとも王都の他の区域と同じくらいに。ゆえに取り壊しと住民の追い出しについてご一考頂きたく、と」

「・・・」

 

 厳しい顔で息子を見下ろしていたジョエリーの口元がにやり、と笑みを作った。

 

「?」

「まあそこまで言うのだ、陛下に奏上はしてみよう――だがな、ヒョウエ。

 この件をお前に任せる条件として兄者がお前の心臓ではなく、カーラとの婚約を持ち出して来たらどうする?」

「う"っ!?」

 

 うろたえる息子に、してやったりの表情になるジョエリー。

 カーラはヒョウエの従妹で現王の四番目の娘だ。

 「兄しゃま、兄しゃま」となついてくる幼女の顔を思い浮かべてヒョウエが渋い顔になる。

 

「カーラはまだ四つじゃないですか! 大体妹みたいなものですよ、彼女は」

「王族の婚約としては別におかしなことじゃあない。俺だって一歳の時には婚約者が決まってたぞ? まあ物心つく前に死んだんで、存在自体随分後まで知らなかったがな。

 ローラが嫌がらなかったらお前だってとっくに婚約はしてたはずだ」

「それはまあ・・・そうかもしれませんけどねえ」

 

 ふだん子供らしからぬ息子が年相応の戸惑った顔をしてるのに、父親として微笑ましさを感じる。そこで何かを思いついたのか、ジョエリーが好奇の表情になった。

 

「そう言えばお前は前世の記憶があるわけだよな?」

「何ですか藪から棒に。それはオリジナル冒険者族ですからありますけど」

「いやな、お前は生まれ変わる前には大人だったわけだろう?」

「ええまあ」

「それだとやっぱり大人の女性じゃなければ恋愛対象にならなかったりするのか? カーラとの婚約を避けるのはそのせいか? だったらカレンなんかどうだ」

 

 ヒョウエが露骨に呆れ顔になった。

 カレンは第二王女でこちらは16才。こちらも子供の頃からヒョウエをかわいがってくれた従姉である。

 

「何を言うかと思えば・・・年の差以前にカーラは赤ん坊に毛が生えた程度の子供じゃないですか」

「世間一般から見ればお前も子供だがな。で、どうなんだ? カレンならいいのか?」

 

 んー、とヒョウエが少し考え込んだ。

 

「人によるのかも知れませんけど、僕は特にそう言うのはないですね。精神は肉体に引っ張られますから、まだこの体が色気づいてないってことでしょう。

 まあ元からあんまり惚れた腫れたには興味のない人間でしたけど」

「うーむ。まあ確かにお前は本が恋人みたいな人間だからな・・・ローラはそのうち好きな女の子も出来るだろうなどと言っていたが、父としては大変に心配だぞ」

 

 凄く嫌そうな顔になるヒョウエ。

 とはいえ、結婚して子孫を残すことの重さが現代日本とは比較にならないほど重要な世界であるのも理解してはいる。王族や貴族であればなおさらだ。

 というわけで肩をすくめて適当に茶を濁す。

 

「まあ相手はぼちぼち見つけますよ」

「俺が生きている間に孫の顔は見せろよ」

「・・・」

 

 実家に帰るたびに結婚や孫のことを言われるOLってこんな感じなのかなあと思うヒョウエである。

 と、ジョエリーの表情が再びにやついたものになった。

 

「まあスラムの件奏上はしてみるがな。婚約を条件にされてもうろたえるんじゃないぞ」

「本当に伯父上がそうするとお思いで?」

「ない話じゃあない。カレンもカーラもお前のことを気に入ってるし、兄者はあれで子煩悩だ――ま、人生には思いがけない苦難という奴がつきものなのさ」

 

 悪い顔で笑うジョエリー。

 

「おっしゃるとおりで」

 

 ヒョウエが肩を落として盛大に溜息をついた。

 

 

 

 光が走った。

 周囲は今度はスラム――カスミの知っている小綺麗なところではなく、本物の不潔で粗末な貧民街――になっている。

 目だけを動かして素早く周囲を見渡し、危険がないのを確認する。

 そのあとヒョウエをちらりと見上げた。

 

「なんです?」

「いえ、あの後結局どうなったのかと思いまして。王女様と婚約されたんですか?」

 

 ヒョウエがカスミの顔をまじまじと見た。

 

「・・・今その質問必要ですか?」

「あーいえ、その。参考のためにお聞きしたく」

 

 少し頬を赤らめてもじもじするカスミ。

 彼女が子供であり、冷静沈着な忍びであると思っていたヒョウエには結構意外な反応だった。

 

「カスミもそう言う話に興味があるんですか」

ロマンス(コイバナ)が好きじゃない女の子なんかいません!」

 

 頬を紅潮させたカスミが力強く断言する。

 反応に困る、といった表情のヒョウエ。

 

「カスミも女の子なんですねえ・・・まあ別に隠す事でもないですけどしてませんよ。そうでなかったら宮殿飛び出したりはしませんし」

「なるほど」

 

 少し残念そうな、少しほっとしたような顔のカスミ。

 その表情に疑問を抱きはしたものの、追求しない方が良さそうだと本能がささやく。

 無言のままカスミを促して、ヒョウエはまた歩き始めた。

 

 

 

 二人は人の行き交うスラムを進んで行く。

 人々の顔はあるいはすさみ、あるいは疲れ切っていた。

 街路にはゴミや汚物が散らかり、並ぶ家も小汚い。

 

「ここは・・・」

「四年か五年ほど前のスラムですね。僕がここを買い取ったときはこんなものでした」

 

(この人は、この四年間でどれだけのことをしてきたんでしょうか)

 

 再びヒョウエを見上げる。

 そのまなざしには畏敬の念が籠もっていた。

 

「なにか?」

「いえ、なんでも」

 

 カスミが微笑む。

 

「?」

 

 ヒョウエは首をかしげたが、さほど気にはしていないようだった。

 

「まあ、どうやって今のスラムになったかと言うことを知りたいなら、多分これから見られると思いますよ」

「そう・・・」

 

 そうですか、とカスミが答えようとしたとき、白い光が走った。

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