毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
「ヒョウエ様。このたびはスラムのもの一同、感謝にたえませぬ」
狭く粗末な家の中、みすぼらしいなりの老人や中年達が一斉に膝を折る。
いつの間にかヒョウエは椅子に座っており、カスミはその傍らに、斜め後ろにサナが控えていた。
(先ほどは外側からヒョウエ様を見て、その前と今回はヒョウエ様がヒョウエ様で・・・ころころ変わるのはどうしてでしょう?)
(わかりません。どういう理屈で決まってるんでしょうねえ)
内心首をかしげながらもヒョウエが一同――スラムの長老たちに頷く。
「スラムの撤去はひとまず棚上げになっただけです。治安・衛生・問題を解決しなければ結局は実行されるでしょう。あなたたちの協力が必要です。
ええと、長老さん、お名前は」
「ペリエ、と申します」
最長老であろう、白ひげをたくわえた老人が頭を下げる。
身なりはみすぼらしいが、物腰には高度な教育を受けたもの特有のそれがあった。
「ではペリエ。そのために必要なことはなんだと思いますか」
「貧しい者達への炊き出し、街路の清掃、住民の戸籍の作成、自警団の編成・・・色々とございますが、まずはスラムを我が物顔で荒らし回るごろつきどもの撲滅を」
「"アキレス"ですね」
ヒョウエが記憶を辿って答えると、ペリエが驚いた顔になった。
「ご存じでしたか。頭目は《剛力の加護》持ちの乱暴者で、滅多なことでは手が出せません。まずはあれをどうにかしないことには何とも・・・」
首を振るペリエにヒョウエは頷いて席を立った。
「では行きましょう、サナ、カスミ。僕たちの初仕事です」
「はっ」
「は、はい」
サナはよどみなく、カスミも僅かに遅れてそれに従う。
長老たちが驚いて身を起こした。
「い、今からですか?」
「大丈夫、知ってますから」
微笑んでヒョウエは身を翻した。
部屋から出た途端、情景が切り替わる。
荒廃した、かつては豪華だっただろう屋敷の大食堂とおぼしき場所。
いかにもな荒くれ、ごろつきたちが数十人ヒョウエたちを囲んでいる。
(あれ、ここは・・・ヒョウエ様のお屋敷!?)
目をみはるカスミに軽く頷いて、ヒョウエは正面に視線を戻した。
そこにいるのはぼさぼさ髪を長く伸ばした半裸の巨漢。手にはジョッキ。
顔には青い隈取りのような刺青を入れ、2mを越す巨体は
「そうそう、そう言えばこんな感じでしたね。アキレスというよりヘラクレスかオリオンですが、どっちにしろ名前負けしてますか」
「女ばかりでやって来たと言うから会ってやったが・・・悪くねえなあ。おい、お前ら。この小娘は俺のだ。他の二人はお前らの好きにしろ!」
舌なめずりするボス。周囲の手下どもから野卑な歓声が上がる。
ぎらつく視線の大半は後ろのサナに集中していたが、ボスの視線はヒョウエに吸い付いて離れなかった。一部カスミに熱い視線を向けているのもいるが。
ヒョウエが溜息をつくと、サナがくすくすと笑った。
「何がおかしい? お前達状況がわかってねえんじゃねえのか?」
「状況がわかってないのはあなたたちの方だと思いますよ」
「あ?」
凄むボスを無視し、ヒョウエは説明を始めた。
「スラムを全て取り壊し、住人を城外に追放しようとする動きがあります。それを防ぐためにはスラムから犯罪をなくし、衛生環境を改善するのが最低限の条件になるんですよ。
つまり、あなたがたが今まで通り暴れていたら、あなたたちも一緒に追放です」
「は? 知るかよ。んなもんよそに移ればいいだけじゃねえか」
「あなた方が盗賊ギルドからお目こぼしされてるのはここがスラムで、うま味のない場所だからですよ。よそで同じようにやったら、すぐ暗殺者がやってくるでしょうね」
「・・・」
ボスが黙った。
「それとも取り壊しにくる王国軍と戦ってみますか? 彼らは強いですよ。警邏とは比べものにならない。何せ怪物やタチの悪い冒険者を相手にしてる人たちですからね。
ちょっと《加護》が強いだけのチンピラなど相手にもならないでしょう」
「んだとぉ!」
ジョッキを床に叩き付け、ボスが立ち上がって傍らの巨大な
周囲のごろつきたちも武器を抜いた。
「犯罪をやめて、まじめに働く気はないようですね」
「やれ!」
ボスが吼えた瞬間、食堂の窓ガラスが一斉に割れた。
「なっ!?」
「ぎゃっ!」
「ぐわっ!」
金属球に頭部を強打され、ボスを含めて十人近い男が意識を失って昏倒する。
ほとんど同時にサナとカスミが動いた。
「かっ・・・」
「ひいっ!?」
高く上がったサナの足が三日月のような曲線を描く。
ごろつきどもの注意がそれた一瞬、サナのかかとが後ろにいた二人の顎を刈り、脳震盪を起こさせた。
崩れ落ちる二人には目もくれず、左の男のみぞおちに左拳の一撃。
拳がめり込み、体をくの字に折ったところに突き上げるようなアッパーカット。
完全に意識を刈り取られ、三人目も倒れた。
(・・・鋭い! それにまるで後ろが見えているかのような・・・!)
驚きながらカスミも手は止めない。左手から放たれた棒手裏剣が三人のごろつきの腕や肩に刺さり、動きを止めた。体を低くして踏み込み、すねを斬って無力化する。
もちろんヒョウエの金属球も止まってはいない。
十数秒後、50人近くいたごろつきたちは全滅していた。
「おい、お前達の仲間は他に何人いる?」
足を斬られて歩けないごろつきの喉首をサナが掴み、片手で持ち上げる。
「こ、このほかに15人くらい・・・娼館とかにしけ込んでるのがいるから、この屋敷には後五人くらいです・・・!」
「よし」
ヒョウエが床に手をついて
「どけっ!」
「っ!」
咄嗟に念動障壁で身を守るが、それでもかすっただけで吹き飛ばされた。
サナが素早くカバーに入ってくれなかったらまともに食らっていたかもしれない。
その姿が一瞬で扉の向こうに消えた。
「ヒョウエ様!」
「こっちは大丈夫! サナは!」
「問題ありません!」
頷きあって後を追う。無論、カスミもそれに続いた。
ボスは恐ろしく足が速かった。廊下には既に影も形も無い。
長老は《剛力の加護》と言っていたが身体能力全般を強化するタイプかもしれない。
「地下室への階段です!」
聴覚の鋭いカスミの指示に従って地下への階段を下る。
地下室に飛び込んで、三人が一瞬目を疑った。
誰もいない。
石造りの広い地下室には色々な木箱や荷物こそあれ、人影はなかった。
「! そこの右の隅! 石畳の下に空間があります!」
今度こそ
「ぬっ・・・!」
駆け寄ったサナが持ち上げようとするが、鍛え上げた彼女ですらびくともしない。
ヒョウエが指さすと分厚い石の板がふわりと持ち上がり、その下に階段が現れた。
床に落とした石板がズゥン、と重い震動で床を震わせる。
こんなに早く隠し通路を見つけられたのも、数百キロはあろうかという石板を軽々と持ち上げられたのも、ボスにとっては誤算だったに違いない。
互いに顔を見合わせ、三人は暗い階段に飛び込んだ。