毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~   作:ケ・セラ・セラ

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03-20 悲しみのアキレス

 明かりもつけず、三人は階段を高速で降下していく。走っていては追いつけないと、ヒョウエの念動で飛行しながらの追跡。

 周囲に張った念動障壁が時折岩壁に当たってガリガリと音を立てた。

 

 前方に時折明かりが見え、ギャングのボスがいるのがわかった。

 カスミは忍者の修行である程度夜目が利くが、横の二人はそのカスミ以上に不自由していない様子で、僅かに首をかしげた。

 それに気付いたのか、ヒョウエが小声で説明を始める。

 

「僕は念動波というか、念響探知(サイコキネティックロケーション)の応用で大体周囲の物体が感知できます。

 サナ姉は《転移の加護》を持ってますけど、これは効果範囲内の空間を把握できるという、似たような効果があるんですよ」

「《転移の加護》なのにですか?」

「転移するには転移先の状況を把握していなければなりません。

 転移した先が石壁の中で、そのまま壁に塗り込められたら怖いでしょう?」

「・・・なるほど」

 

 想像してしまい、一筋汗を垂らすカスミ。

 クスリと笑って、ヒョウエは更に速度を上げた。

 

 

 

 階段を下りきるとそこは地下迷宮だった。

 正確に言えば古代の都の遺跡。

 現在では下水道として流用され、ところどころに汚水が流れており、建築物には溶解痕がある。

 

 そこを五分も飛ぶと、ようやくボスの背中が見えた。

 巨大な門の中に駆け込んだそれを追って、三人も門に飛び込んだ。

 

 

 

「これは・・・!?」

 

 サナが思わず叫ぶ。声に出しはしないものの、カスミも同じような状態だ。

 ボスの持つ明かりの魔道具に照らされたそこは広大な空間で、床も壁も金属とも石ともつかない奇妙で滑らかな素材でできていた。

 床も平面ではなく、壁際でカーブを描いて上昇して壁と繋がり、天井もその様になっている。中央に巨大な柱が立ち、その中央に柱の上下と繋がらない黒い球体が浮かんでいた。

 

(巨大なカボチャをくりぬいて中から見たらこんな感じでしょうか)

 

 一瞬抱いたそんな感想を、周囲に灯った明かりが中断させた。

 広い空間の奥から野太い笑い声が聞こえてくる。

 

「がはははは、一歩遅かったなあ!」

 

 床から震動が伝わってくる。

 柱の影から「それ」が姿を現した。

 身長5メートルの、黒光りする異形の巨人。

 各部には用途もわからない器具が取り付けられている。

 頭部の透明な窓からは"アキレス"のボスの顔がのぞいている。

 その瞳が、赤い光を反射して恐ろしげに光っていた。

 

「搭乗型具現化術式! それも真なる魔法の時代のアーティファクト!」

 

 喜色満面でヒョウエが叫ぶ。サナとカスミがげんなりした顔になった。

 一方でそんなことに気付かないボスは、満面の笑みで三人を見下ろす。

 

「ぐはははは、どうだ、泣いて謝るなら今のうちだぜえ。見ろよこれを!」

 

 ボスが具現化術式の右手を上げると、腕の一部が展開した。

 次の瞬間、まばゆい光の束がそこから撃ち出される。

 数秒間照射されたそれは三人の横を通り過ぎ、壁を溶解させて消えた。

 

「・・・!」

 

 超古代の建築素材を撃ち抜く威力に戦慄するサナとカスミ。

 

「ふむ」

 

 一方でヒョウエは興味深そうに眼を細めていた。

 

「さあどうする! 服を脱いで裸踊りするなら許してやってもいいぜ、メスども! ぐわははははははははあ!」

 

 勝利を確信してボスが高笑いする。その視線はやはりヒョウエに釘付けだった。

 ぎらぎらした視線を感じつつ、ヒョウエがぴっと指を立てる。

 

「二つほどよろしいですか?」

「あん?」

 

 馬鹿笑いをしていたボスがいぶかしげな顔になる。

 

「ひとつ。まずそれでは僕たちには勝てません」

「んだとぉ!」

 

 勝利を確信していたボスの額に青筋が浮かぶ。

 

「ふたつ。僕は男です」

「えっ」

 

 ボスの愕然とした表情。

 サナとカスミが思わず吹き出した。

 ヒョウエが肩をすくめる。

 

「う、うそだ!」

「本当ですってば。しょっちゅう間違えられるのは確かですけど、胸はありませんし、つく物もついてますよ?」

 

 ぱんぱん、とローブの胸を叩く。

 

「まあそう言う御趣味ならそれはそれで個人の自由ですから尊重しますが、できればお相手は別のところで見つけて頂きたく」

「う、うるせえ! お前みたいのが男な訳ねえだろうが! ひんむいて確かめてやらあ!」

 

 もはや涙目で叫ぶボスに、ヒョウエが再度肩をすくめた。

 

「サナ、カスミ、下がっていて下さい。僕の相手です」

 

 頷いて二人が素早く門の所まで駆け戻る。

 

「うおあああああああああ!」

 

 ボスが怒りと悲しみと虚無感と、色々なものが混ざりすぎてもはや形容できない叫びを上げる。

 同時に具現化術式が床を蹴った。

 おそらくは時速数百キロ、10メートルの距離を一秒足らずで詰める踏み込み。

 《目の加護》を持つモリィか、リアスなみの近接戦闘者でなければ対応できない速度。

 ヒョウエにこの速度に対応できる反応速度はない。

 

「?!?」

 

 だが床を蹴って0.5秒。

 ヒョウエから6m程のところで具現化術式が盛大にすっ転んだ。

 がしゃがしゃがしゃん、と凄い音がする。

 床を滑ってくるそれを、ふわりと浮かんでヒョウエが横っ飛びにかわした。

 

「な、なっ・・・?」

 

 広間の端まで滑っていって、具現化術式は止まった。

 何が起こったのかわからず、混乱しながらもボスが術式を立ち上がらせる。額からは血。

 ヒョウエは立ち位置が変わった以外は先ほどと変わらない自然体。

 

「・・・」

 

 少し用心深くなったのか、ボスはヒョウエの様子を窺って動かない。

 30秒ほど躊躇した後、ボスはまたしても具現化術式を突撃させた。

 

「ぐぶっ!?」

 

 結果は先ほどと同じ。

 何もないところでつまずいて転び、ボスも再び顔面を強打する。

 立ち上がったボスの、前歯が一本欠けていた。

 

「なんだ! なんだてめえ! 何しやがったんだよ!」

「さあ、なんでしょうね?」

 

 笑ってはいるが、種は下らないほど簡単だ。

 念動障壁で、術式の足元に"引っかけ罠(スネア)"を置いただけ。

 12才当時のヒョウエが使える魔術経絡は4つ。現在の半分以下の出力しか出せず、古代のアーティファクトを押さえ込めるかどうかはかなり微妙だった。

 それ故のトラップである。

 

「くそっ! 人が手加減してりゃいい気になりやがって!」

「別に手加減して下さいと頼んだ覚えはありませんが」

「うるせえ! 好みだからなんとか生かしてやろうと思ったが、男はいらねえ!」

「そう言う趣味だからって僕は差別しませんよ? 僕の趣味ではないですが」

「ブッ殺すっっっっ!」

 

 完全に頭に血が昇ったボスが、右腕の雷光射出機構を展開させた。

 間髪を入れず魔力の光が発射される。

 

「死ね死ね死ね死ねぇ!」

「「ヒョウエ様!」」

 

 ヒョウエの姿が光芒に飲まれ、さすがにサナとカスミが叫ぶ。

 だが二人があることに気付くのと、ボスが顔色を変えるのが同時。

 

「!?」

「これは・・・」

「二人とも、僕は無事ですよ。安心して下さい」

 

 魔力の光が切り裂かれていた。

 川の流れが二つに分かれるように、ヒョウエの手前で魔力光が二つに分かれている。

 

「念動障壁を三角形に張って、魔力の流れをそらしてるんです。さすがに真なる魔法文明の時代の遺物、正面から受け止めると辛いですがそらすだけなら何とか」

「くそっくそっくそっ! 消えやがれぇぇぇ!」

 

 のんきに解説するヒョウエ。更に頭に血を昇らせたボスが魔力光の出力を上げる。その目に赤い光が更にいくつも浮かぶ。

 数十秒間ほどか、連続で照射した後、魔力光がふっと消えた。

 

「え」

「あれ?」

 

 力を失った具現化術式がぐらりと傾き、激しい音と共に倒れた。

 

「おい! どうした! 何があった! 動け! 動けよ!」

「動きませんよ。真魔法文明時代の遺物とは言え、魔道具には違いありません。魔力無しで魔道具が起動するわけないじゃないですか」

 

 三度、肩をすくめるヒョウエ。

 その足元の床はYの字型にえぐられ、後方の壁も大きく溶解していた。

 

「いったい何が起きたんです?」

「なに、最初の動作で魔力不足だったのがわかりましたからね。多分最初に見つけた時に調子に乗って魔力光を撃ちまくったんでしょう。術式が警告を出していましたけど、彼には理解出来なかったんですね」

「・・・ああ」

 

 ところどころ溶解痕のあった地下の町並みと、ボスの目に浮かんでいた赤い光を思い出してカスミが頷いた。

 

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