毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
白い光が走る。
今度は街路、貴族が多く住む一角のようだった。
行き過ぎる人々も裕福そうな格好をしているものが多い。
例によって周囲をさっと見渡した後、カスミがヒョウエを見上げた。
「これは興味本位で聞くのですが、あの後どうなったんでしょうか、ヒョウエ様?」
「まあ特に面白いことはなかったですよ。ふん縛って警邏に突き出して、同様に犯罪組織を一掃した後に自警団を組織して、食料の炊き出しを大規模に行って、トイレを整備して街路を掃除させて・・・まあ色々です」
肩をすくめるヒョウエ。
カスミが呆れた顔で溜息をついた。
「ほとんど――いえ、領主様の仕事そのものじゃないですか。
それはみなさんもヒョウエ様を領主様呼ばわりしますよ」
「僕はほとんど何もしてませんよ。やってくれたのは大体ペリエさんたちで。
まあ炊き出しについては提供は僕と言うことになるかと思いますが」
「食材提供しているならそれはヒョウエ様の功績では・・・そう言えばあの地下の遺跡は?」
珍しいことに、ヒョウエがちょっと自慢げに笑った。
「あれは今でも秘密基地として運用してますよ。"孤独の要塞"と言ったところですか」
「要塞はわかりますが、孤独なんですか?」
「まあ、ちょっとしたお遊びです、気にしないで下さい」
「はあ」
カスミが曖昧な答えを返す。
「搭乗型術式以外に色々と便利なものもありましたし、結構助かってますよ。
そのうち案内して上げます」
「はい、楽しみにしています」
笑い合う。気を引き締め直し、改めて周囲を見渡した。
「貴族街のあたりですね。ええと・・・」
「ニシカワのお屋敷にそう遠くないあたりです。もう少し南へ行くと貴族の方々向けの商店が並ぶ一角ですね」
「ああ、そうでしたね。それでは・・・どっちでもいいですがニシカワのお屋敷の方に向かいましょうか?」
カスミが硬い表情になった。
しばらく無言になった後にもう一度ヒョウエを見上げる。
「ヒョウエ様、その・・・コアの中では私の過去や秘密も見えてしまうのでしょうか?」
ヒョウエがカスミを見下ろした。
その顔には、いつになく真剣な表情――そして僅かに恐怖のようなものが見える。
ためいき。
「可能性はあります。ここは精神の世界ですからね。当人にとって重要な記憶、深刻な記憶であるほど見えてしまうようです。ただ、実際に見えるかどうかは運次第としか」
「ですか」
「ここで何を見ても口外はしませんよ。カスミをぶつ意地悪なご主人様の事もこみで」
ヒョウエがウインクして人差し指を口元に当てる。
カスミがやや無理をして笑顔を作った。
「そうですね。そう言う事でお願いします」
「はい、承りました」
にっこりとヒョウエが微笑んだ。
ニシカワ伯爵家の屋敷にはすんなり入れた。
カスミが会釈したのみで、門番はヒョウエに注意を向けようともしない。
「先ほどの宮殿やヒョウエ様のお屋敷でもそうでしたけど、随分と都合の良い・・・」
「まあ夢ですからね。細かい矛盾は無視するんでしょう」
「そういうものでしょうかねえ」
首をかしげつつ、カスミの足がふと止まった。
正面にはヒョウエも覚えがある伯爵家の屋敷。
右には木立の奥に、屋敷と同じくどことなく和風の館が建っている。
「どうしました?」
「いえ、正直どちらに向かうべきかと・・・」
「まあどっちでもいいんじゃないですか? いや、それとも向かう先次第で見えるものが違ったりするのかな」
考え込むヒョウエ。
それに何かカスミが言おうとして、白い光が走った。
カスミの記憶は、一族の道場での鍛錬から始まる。
物心つく前に既に鍛錬は始まっていた。
走る、跳ぶ、泳ぐ、馬に乗るなどの基本的な体の動かし方。
素手で戦う為の体術。
苦無、棒手裏剣、忍者刀、その他含み針や捕縛術など武器の扱い。
変装、情報収集、尋問、忍び足や鍵開け、一般常識やサバイバルの知識。
そして一族に伝わる光の術。
それらを毎日徹底的に叩き込まれた。
辛いとは感じなかったと思う。
周囲の一族の子供もそうだったから、そう言うものだと思っていた。
農民の子供が土を耕し、鍛冶屋の子供が鍛冶を習うようなものだと。
ただ、子供の頃から自分が一族の中でも特別扱いされているのは薄々感じていた。
母のおかげか、それとも他の子弟に比べて明白に優れていたからそのせいかと、ぼんやりと思うばかりで特に気にはしなかったが。
「リアスお嬢様をお守りするのですよ、カスミ。それがあなたのつとめなのです」
それが母の口癖だった。
母は長い黒髪の美しい女性で、長の娘だった。
物心ついて以来父はなく、聞いても「いずれ話すわ」と言うばかりで、であるならそういうものだろうとこれも素直に受け入れていた。
6才くらいの頃だったと思う。ある日、ニシカワの屋敷のほうが騒がしくなった。
離れになっている一族の館に出入りする大人たちも深刻な表情をしている。
「カスミ。ついてきなさい」
鍛錬の後、母に呼ばれた。
大広間に一族の主立ったものが集まっており、その中心に座らされた。
長が上座に座り、一同が頭を下げる。
「多くのものは知っていると思う。今朝方、御当主様が亡くなられた」
長の言葉に驚きの声は漏れなかった。
一族の重鎮の一人が口を開く。
「レップウサイ様。何者かに殺められた、という可能性はないのですな?」
「ない。わしも御遺骸をあらためたが、あれは病だ」
あくまでも確認だったのだろう、男も頭を下げてそれ以上は言わない。
長がカスミに視線を投げる。
周囲の大人たちも一斉にカスミに視線を集中させ、僅かに身をこわばらせた。
「硬くならずともよい。
もう少し先にするつもりであったが、こうなっては伝えておいた方が良かろう」
「はい」
思ったよりしっかりした声が出た。
カスミの祖父でもある男は満足げに眼を細めて頷く。
「では心して聞くがよい。~~~~~~~~~~~」
長の言葉は衝撃的なものではあったが、何故かすっと頭の中に入ってきた。
驚きはしたが、心は意外なほどに揺れない。
長がもう一度、満足そうにうなずく。
「それで、私はどうするのでしょうか。このまま鍛錬を?」
「いや、鍛錬は続けてもらうがお前には新たなつとめを与える。次期御当主たるリアス様につき、お守りせよ。表向きはリアス様づきの侍女と言うことになる」
「かしこまりました」
深々と頭を下げる。
三日後、カスミは真新しいメイド服に身を包み、伯爵家の廊下を歩いていた。
幼い顔立ちと体つきでチョコチョコ歩くその姿は愛らしく、忙しそうに動き回る家人たちも僅かに頬をゆるめている。
案内役の男がとある扉を叩き、一礼してから中に入る。
同様に一礼してから中に入ると、お人形のような少女がいた。
年の頃は十歳くらい、喪服らしきドレスを身につけていても、豪奢な金髪と生まれ持った気品が強烈な華やかさを放っている。
「ペドロ、その子が?」
「はい。カスミ、ご挨拶を」
「リアスお嬢様、カスミでございます。以後お側にお仕えいたします」
「そう、よろしくね」
父を失ったばかりであろうに、少女はにっこりと笑う。
その笑みが心にすっと染み入ってくるのを感じながらカスミは思った。
この方が私の生涯の主であり――私の腹違いの姉なのかと。