毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
白い光が走る。
二人は伯爵家の屋敷の廊下に立っていた。
「――――!」
たった今見たものに衝撃を受ける。
かろうじて口には出さないものの、流石にヒョウエも驚愕していた。
そんなヒョウエをちらりと見上げてカスミがぽつぽつと語り始める。
「リアスお嬢様のお母君はお嬢様を産んで亡くなられました。
その後お側にはべったのが私の母親で、ということらしいです。ですがその・・・」
「何か?」
口ごもったカスミの頬が僅かに赤いのに気付く。
「そのですね、リアス様のお母君と婚姻なさる前、十代のそれも若い頃に、先代様と母は一時惹かれ合ってたそうで・・・あ、リアス様のお母君を愛していなかった訳ではないと思いますよ?! 母もそう言っておりましたし!
ですがその、奥方様が亡くなられた後に寂しくなられた先代様に乞われて、そのですね・・・」
「焼けぼっくいに火が付いたと」
苦笑するヒョウエ。赤面したカスミがこくりと頷いた。
歩きながら二人は話している。
「元はと言えばお嬢様と私のように、子供だった頃の先代様に母が侍女見習いとしてついていたのだそうです。母が一族の長の血筋だったのもあると思いますが――」
「子供の頃からの付き合いで、自然と仲良くなって、家の都合で別れて、独り身になって障壁が消えて・・・見事なまでに恋愛もののメロドラマの設定ですね」
「まあそれは・・・そうですね」
照れたように笑うカスミ。
「ですがそれを言うならヒョウエ様にもリーザ様がいらっしゃるではありませんか。
実際のところどうなんでしょう?」
「えぇ・・・? そう来ますか・・・?」
目をきらきらさせるカスミに、一転して渋い顔になるヒョウエ。
とは言えカスミの事情を聴いてしまった上で口をつぐむというのも不公平な気がする。
「まあその・・・現状ではやっぱり友達ですね。ただ、結婚しろと言われたらそれはそれでという感はありますかねえ」
「何ですかそれは」
残念を通り越して露骨に呆れた表情になるカスミ。
いやむしろ、残念な人を見る目か。
「何ですかと言われても実際そんな感じですしねえ」
「そんな感じって、こう・・・何かもっとないんですか? 大事な人だとか他の男には渡せない、とか!」
(押しが強い!)
ずいずいっ、と寄せてくる。
普段控えめなカスミの、意外な姉との共通点を見るヒョウエである。
割と本気で困る。
「そう言われても実際そんなものですし。大体そんな事言ったらリアスはどうするんです」
「それはそれ、これはこれです!」
(誰か助けてください)
割と本気で天を仰いだ瞬間、白い光が走った。
新しい主は何と言うか、「かわいい」人だった。
まじめで優秀、他人に優しく自分に厳しく、使用人にも分け隔てしない。
人格的にも能力的にも非の打ち所がない。
ない、はずなのだが・・・どこか抜けているのだ。
まあもちろん十歳そこそこの子供だし、箱入りのお嬢様でもあるので至らない所があるのは当然だ。
(けど、召使いの結婚祝いに新品の砥石はないと思う)
古い斧で薪割りに苦労していた所を見たから、らしいのだが、流石にあの時は周囲が総出で止めた。
贈られるところだった当人は豪快なたちで、「それはそれで嬉しかったかもな、わはははは!」などと笑ってはいたが。
「結婚祝いに砥石というチョイスもそうですが、いっそ新しい斧を贈れば良かったのでは」
「あ」
真っ赤になってしばらく固まっていた主はちょっとかわいかった。
またしばらく後のある日。
どこかの貴族が家族を連れて館を弔問に訪れ、リアスが年の近い長男のお相手をすることになった。
概ね大過なくホスト役をこなしていた(一緒に遊んでいたともいう)のだが、そろそろ帰るかという頃になって彼がリアスに結婚を申し込んだ。
子供同士の微笑ましい一幕と言えばそれまでで、普通ならここから交際が始まったりしても良さそうなものだが、リアスは
「ニシカワ家は武門の家! わたくしより弱い方には嫁げません!」
と言い出して木剣での試合を望んだ。
相手も武門の家で、それなりに腕に自信があったのが災いした。
「はじめ」の声が響いた瞬間、リアスの木剣に頭を割られて卒倒してしまったのだ。
微笑ましげに試合を見守っていた両家の人々や家臣が真っ青になり、大騒ぎになった。
互いに武門の家であるのと相手側から言い出した事でもあるので深刻な問題にはならなかったが、リアスは当然のように叱られた。
「何が悪かったのでしょう・・・怪我をさせてしまったのは申し訳ないことをしましたが、間違ったことはひとつもしてないと思うのですが」
(これは本気で言ってますね)
部屋に引き取ってから首をひねるリアス。
反省はしていた。だが理解はしていなかった。
(ああ、要するに脳筋なんだこの人)
腑に落ちて、大きく頷くカスミ。
リアスがまた首をかしげた。
「何です、カスミ?」
カスミの目が光った。
「よろしいですか、お嬢様?」
「な、なんでしょう」
思わず召し使い相手に敬語を使ってしまうリアス。
かわいい妹のようだと思っていた娘がちょっと怖い。
「武門の家でございますし、決闘するのも相手を負かすのもするなとは申しません。
ただ、向こうの面目というものもお考え下さいまし。ましてや怪我をさせるなど!」
「そ、それは真剣な立ち会いであればしょうのないことで・・・」
「お嬢様は一介の兵士ではございません。伯爵家の当主となられる方です。
武芸や礼儀だけでなく、政治もたしなまねばならないお立場なのですよ。
コーストさまもおっしゃっておられたでしょう」
眉間に皺を寄せた、リアスの守り役の老人の姿を思い出すカスミ。
彼も十年間ずっとこんな苦労をしていたのだと思うと頭が下がる。
「じ、じいやは今は関係ない・・・カスミ、何か眼が青くて怖いのだけれど・・・」
「話に集中して下さい、リアスお嬢様」
「アッハイ」
白い光が走り、二人は再び伯爵家の廊下にいた。
何とも言えない表情でカスミを見下ろすヒョウエ。
カスミが恥ずかしげに身を縮こまらせた。
「まあその何と言うか・・・大変でしたね」
「そのですね、リアス様も一杯いいところはあるんです。
お優しいですし、まじめですし、自分より人のことを優先されますし。
困った人を見過ごせないたちですし、わたくしども召使いの名前も全員覚えておられますし、いつだったかご自分の昔の服を色々と私に着せて下さいましたし・・・」
(それはカスミを着せ替え人形にして愛でていただけなのでは)
眉を寄せるヒョウエには気付かず、カスミのフォロー?はヒートアップしていく。
「買ってきたお菓子を分けて下さいますし、私どもが粗相をしてもたしなめるだけで決して声を荒げたりはしませんし・・・」
「はいはい、カスミがリアスのことを大好きなのはわかりましたから、その辺にしておいて下さいませんかね。正直砂糖を吐きそうです」
肩をすくめると、カスミがハッと気付いてうつむいた。顔が赤い。
ヒョウエが微笑ましそうにその頭をなでてやった。