毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
03-25 地下都市の追跡
「俺はここで水をまくことしかできない。だが君にならできる。君にしかできないことがあるはずだ」
――加持リョウジ――
周囲の風景が王都のものになる。
生きた通行人がいて日暮れ前の空がある、本物の王都だ。
正確に言えば二人の意識が戻ってきたのだが、実感としてはそのようなものだった。
「・・・」
ハーディを縛る念動の術を確認する。
しっかりした手応えが返ってきたことに安堵しつつ、魔力感知でハーディの体内のコアの場所を確認。
「これからどうするのですか、ヒョウエ様」
「コアを物理的にえぐり出せば怪人化は解除できる・・・はずですが、僕の治療呪文だけだとハーディの命が危ないかもしれませんね」
「では
「ええ。術者の人に来て頂いて・・・」
「離れろ、少年!」
「!?」
焦りをにじませたその声と同時に術式からの手応えに異常を感じる。
ハーディに触れていた手を離して飛びすさる。
「つっ!?」
指先に激痛。
ハーディに触れていた部分が僅かに溶けていた。
"
いつも余裕のある笑みを崩さないこの男には珍しい、焦った表情。
「早く離れろ! 彼の能力は『溶かす』力だ! 無差別に発動したら・・・!」
ヒョウエには、半ばその言葉は聞こえていなかった。
魔力視覚に映る自らの術式。
それが目の前でどろりと『溶けた』。
「・・・・・・・・・っ!」
『ガァァァァ!』
戦慄しながら術式を瞬時に解除し、ベルトの金属球に意識を集中する。
金属球が九つ飛び出すのと、ハーディの周囲の街路が溶けるのが同時。
「南無三っ!」
街路の溶解が爆発的に広がる一瞬前、九つの金属球をハーディの周囲の地面に、直径6mほどの円を描くように叩き付ける。
溶けてもろくなった街路が金属球の衝撃と合わさって、円形に陥没した。
その下には下水道として使われている古代都市の遺跡。
街路と共に怪人の姿が消えた。
『オオオオオォォォォ!?』
驚愕の咆哮が遠ざかる。
運の良いことに――怪人にとっては運の悪いことに、この一帯の遺跡は比較的深かった。
あの運動能力をもってしてもまず登って来れない程度には穴は深い。
「おい、こりゃどういうこった!?」
「これは・・・」
リアスがモリィを担いで走ってきた。
モリィの目で飛ぶヒョウエを追いかけてここまでやってきたらしい。
「ナイスタイミングです二人とも! 下に降りますよ!」
「下に降りるって・・・うおっ!?」
カスミを含む三人を念動で引き寄せ、杖にまたがって穴の中に飛び込む。ジャリーが慌てたようにそれに飛びついた。
杖の端っこに捕まってぶら下がるジャリーを、階段にこびりついたガムを見るような目で見下ろすヒョウエ。
「申し訳ないですけど定員オーバーですね。リアス、蹴り落としてください」
「え、ええ・・・?」
「ちょっと待て! 乗せてくれよ少年! 私はものをすり抜ける事はできるが飛ぶことはできないんだ! この高さから落ちたら流石に痛い!」
戸惑うリアス。
割と必死な顔で訴えるジャリー。
地表から3mほど下あたりでホバリングしながらヒョウエがいかにも気の毒そうに首を振った。ただし口の端に笑みが浮かんでいる。
「痛いで済むなら問題ないですね。なにぶん魔力が足りないので申し訳ありませんが・・・」
「話す! 色々事情は全部話すから頼むよ!」
にっこり、とヒョウエが笑った。
「商談成立ですね」
「覚えてろよ、少年!」
恨みがましい必死な顔という器用な表情でジャリーが叫ぶ。
ヒョウエはもう一度にっこり。
「じゃあ取りあえず掴まっててください。やる事があるので」
上空を見ると、穴の周囲にこわごわと人が集まりはじめていた。
「~~~」
ヒョウエが短く呪文を呟くと、穴がすうっと縮まっていった。上空からの光がどんどん細くなり、やがてふっと消える。
「周囲から質量を拝借して穴を埋めました。その分薄くなってますので後で補強しませんとね」
「便利な奴だな君は・・・」
「
ヒョウエが胸を張った。
闇の中でかすかな話し声が反響する。
一行はヒョウエの杖にまたがったまま、古代遺跡の街路にまで下りてきていた。
「もっとも、これでは『街路』とは到底呼べませんね」
「これはなあ・・・」
触れたらどのような悪影響があるかわからないので街路?には降りず、杖にまたがったまま浮いている。
「それじゃモリィ、追跡をお願いします。ジャリーさんはその間に話を」
「あいよ」
「わかった」
そのまま一行はハーディの追跡を始めた。
灯りをつけないのは相手に見つかる確率を少しでも減らすためだ。
ヒョウエは念動ソナー、モリィは《目の加護》、リアスは白の甲冑の暗視機能、カスミは修行で身につけた夜目と、この面子なら灯り無しでも基本的に問題ない。
ジャリーはわからないが、何も言わないので何か闇を見通す手段はあるのだろう。
「さて、ではまず少年とカスミさんは知っていると思うが、私と彼は恐らく同時に怪人になった」
「ええ。コアの中の記憶で見ました。"
「ほお、記憶の中でも有効なのか、そう言う呪文は。
まあつまり私と彼のヴィラン・コアはどうも何らかの関係性――それも相反する能力を備えているようだ。
彼の能力は他者を溶かし、自分と一つになる能力。溶け込む力かもしれない。
私の能力は他者から離れて誰からも触れられなくなる能力だ。そしてこの二つが力を発動しているとき近づくと反発というか、互いに苦痛を伴うらしい」
ふむふむ、と頷きながら、ふとヒョウエは首をかしげた。
「うん? では壁をすり抜けたのはなんです? 呪文ですか?」
「いや、あれも怪人としての能力だ。
何と言うかな、普通に使うと他からのあらゆる干渉を弾くような、そう言う能力になるのだが、精神を集中させると『さわれるけどさわれない』状態になるんだ。
壁と自分が互いにそこにあるのはわかるが、ぶつからず、触れずにすり抜けていくような・・・説明が難しいな」
うーん、と唸るジャリー。
ヒョウエが興味を引かれた表情になった。
「分子構造を希釈して、互いの分子が互いの隙間を通り抜けるような感じでしょうか?
あるいはトンネル効果か。量子論の世界ですね。念響探知がきかないわけだ」
「すまない、私にもわかるように説明してくれないかね」
「言うだけ無駄だぜおっさん。こいつはいつもそんなもんだ」
モリィがポンポンとヒョウエの頭を叩く。
「何か最近モリィからの扱いが悪い気がします」
「自業自得だろ・・・お、そこを右だ」
どこか楽しげにヒョウエの頭をガシガシかき回すモリィ。
無論その間にも追跡の手ならぬ追跡の目はゆるめない。
「ご教授どうも、お嬢さん。だが私はおじさんと呼ばれる年齢ではないぞ、断じて!」
「おっさんはいつでもそう言うんだよ」
「まあ十代から見れば30才はおじさんなので諦めてください」
「私はまだ28だと言っているだろうが!」
思わずと言った感じでジャリーが反論する。一方で無言を貫くリアスとカスミ。
「・・・」
「・・・」
「そちらの二人も何か言ってくれ! 礼儀正しく何も言われないのが一番傷つく!」
「大声を出さないように。今追跡中なんですよ? 状況わかってます?」
「君が言うかねそれを!?」