毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~   作:ケ・セラ・セラ

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03-26 ファーストファイブ

(この方向は・・・)

 

 ジャリーが不本意そうに口を閉じて数分、ヒョウエはきな臭いものを覚えていた。

 精神を集中して幼なじみの少女を呼び出す。

 

(もしもしリーザ?)

(どうなったのヒョウエくん!? 大丈夫?)

(こっちは大丈夫です。ただちょっと気にかかることがあるので・・・)

 

 手短に説明するとリーザの頷く感触が返ってきた。

 

(わかった、今すぐサナ姉に伝えてくる。・・・ヒョウエくん?)

(なんです?)

(その・・・気を付けてね?)

(ありがとう、大丈夫ですよ)

 

 心配そうな表情を浮かべているのだろう。

 その顔まではっきりと見える気がしてヒョウエが笑みを浮かべた。

 

 

 

 紫色の怪人、ハーディは遺跡の街路を獣の様に四つん這いで走っていた。

 稀に十字路で一瞬停止し、匂いを嗅ぐように周囲を見渡し、次の瞬間また走り出す。

 その様はまるで獲物の匂いを辿る猟犬。

 走る速度が上がる。

 獲物はすぐ近くだった。

 

 

 

 さらに一分ほど飛んだ後、モリィが眉をひそめた。

 

「なあおい、この方角、お前の家の方じゃないか?」

「流石に方向感覚は鋭いですね。ええ、多分」

 

 ヒョウエがちょっと驚く。

 生来のものか、あるいは野外活動者として鍛えた勘なのかも知れない。

 

「ヒョウエ様、お屋敷の方に向かっているとなると狙いはお屋敷ではなく・・・」

「ええ。"孤独の要塞"でしょうね」

「孤独の要塞? なんですのそれは」

「良くわかんねえけど、どうせコイツの命名だろ。センスがねえよ」

「失礼な!」

 

 割と本気でヒョウエが怒った。

 マニアの好きなものをバカにしてはいけない。

 

 とは言え今は怒っていられる状況ではない。

 手短に屋敷の地下の古代遺跡のことを話す。

 

「そんなものが!?」

「おい、やべえんじゃねえのか?」

「一応手は打っておきました。が、とにかく急ぎましょう」

 

 飛行する杖が最後の角を曲がる。ここからは"孤独の要塞"まで一直線。

 

「いたぞ!」

 

 遺跡の大通りを全速で走る紫の影。

 全速力を出してもこのままでは間に合わない。

 

「ジャリーさん、そう言う事ですので飛び降りてください。大丈夫、多分死にません」

「まだ言うかね少年!?」

「おい冗談言ってる場合じゃねえぞ! このままだと・・・」

 

 焦ったモリィの言葉を、まばゆい光芒がさえぎった。

 

『グウォォォォォ!?』

 

 全身を焼けただれさせ、吹き飛ばされた怪人が街路に転がる。

 

「あれは・・・!」

「マジかよ」

 

 中の光が漏れ出す"孤独の要塞"の入り口。

 そこに黒い影が仁王立ちしていた。

 身長5メートルの、黒光りする異形の巨人。

 たった今魔力光を放った右腕をがしゃん、と折りたたむ。

 

「サナ姉! 間に合った!」

「えっ!?」

 

 黒い巨人の頭部、覗き窓の中で黒髪の執事が不敵に微笑んだ。

 

 

 

 黒い巨人と合流すべく、距離をとって裏路地を回り込む。

 視界から怪人とサナの双方が消えた。

 

(リーザ、サナ姉と繋いでください)

(了解!)

 

 飛ばした思念に、打てば響くように返ってくる答え。付き合いの長いヒョウエとサナが相手なら、リーザはほとんど負担もタイムラグも無しに三人の意識を繋ぐことができる。

 

(サナ姉、そのまま魔力光で牽制してください。接近するとアーティファクトでも溶かされる可能性があります)

(! わかりました。あのご指示はそう言う事でしたか)

(まあ無駄になれば良かったんですけどね)

 

 路地を高速で飛び抜ける。

 街路の隙間から光が洩れ、再びサナが魔力光を放ったのがわかった。

 更にもう一度光がひらめき、それが消えるとほぼ同時にサナと合流して杖から降りた。

 

「お疲れさま、サナ姉。・・・当てていますよね?」

「どうでしょう。威力は最大ですが動きが素早く、当たってもすぐに光から逃げてしまいます。光を当て続けなければいけないという点ではいささか使いづらい武器ですね」

「普通は一回当てた時点で蒸発すると思いますけどね・・・」

 

 魔力光によってえぐられた街路や建物と、表面が多少焦げているだけの怪人を見くらべ、ヒョウエが溜息をついた。その表情が次の瞬間劇的に変わる。

 

「気を付けて! 溶解が来ますよ!」

「!」

 

 緊張が走る。

 それと同時に怪人の目が緑色の光を放つ。

 魔力視覚を持つものには更に身体全体から不気味な魔力が放出されたのがわかった。

 建物や街路、怪人の周囲10mほどの構造物が一瞬にして溶解し、半透明の液体となる。

 

『グゴォォォォ!』

 

 怪人が吼えると同時にその液体が意志を持つかのように津波となって襲いかかって来た。

 溶解液の津波に飲み込まれた街路が表面の形を失い、また溶解液の一部となる。

 

「くそったれがっ!」

「!」

 

 モリィの雷光銃とサナの搭乗型具現化術式の右腕が光を放つが、収束された光の束は津波を突き抜けこそするものの、勢いを止めるには至らない。

 

「ハッシャっ!」

「おうよ!」

「えっ!?」

 

 ヒョウエが叫び、リアスが驚いて振り向く。

 その声と共に、"孤独の要塞"の門の影からスレンダー趣味のドワーフが現れた。

 大きく息を吸ったその胸が、ハトのように膨らむ。

 轟、と空気が唸った。

 

『ガアアアッ?!』

 

 人間の口から出たとは思えない、圧倒的な風圧の暴力。

 それが溶解液を押し戻し、怪人が自ら産み出したそれを頭からかぶる。

 

「ナパティ!」

「心得た!」

 

 ハッシャの反対側から現れたのは、やはり褐色長身のエルフ。

 両目を限界まで見開くと、そこから閃光のような二筋の火炎がほとばしった。

 

『ギャアアアアアアアアアアッッ!』

 

 溶解液ごと炎に包まれ、怪人が今度こそ悲鳴を上げる。

 咄嗟に飛び退きはするが、溶解液はそうはいかない。

 あっという間に大半が蒸発し、湯気になる。

 

「"浄化(ピュリフィケーション)"!」

 

 蒸発した溶解液にヒョウエの呪文が浴びせられる。

 魔力を帯びた蒸気が瞬時に無害な空気に変性された。

 

「オーケイ、溶解液自体は強い魔力を持ってますけど、蒸発拡散すれば何とかなるみたいですね」

「おおお・・・」

 

 モリィが目を丸くして唸る。リアスとカスミも大体同じような表情だ。

 

「相手が『溶かす』能力でしたからね。《火の加護》で焼き払えるナパティと《息の加護》で突風を起こせるハッシャ、それにサナ姉に搭乗型術式で待機して貰ってたんです」

「お前らすげえな。正直ただの変態かと思ってたわ」

「「失礼な!」」

 

 ナパティとハッシャが、この時ばかりは声を揃えて怒った。




X-MENの最初の五人(ファーストファイブ。サイクロプス、エンジェル、マーブルガール(フェニックス)、ビースト、アイスマン)の能力は、スーパーマンの能力を五人に分けたという説があるそうです。

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