毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~   作:ケ・セラ・セラ

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03-27 ジャリーの意地

「それでここからどういたします? コアは安定化させましたが、それを取り出すには・・・」

「難しいですね。術式も溶かされてしまいますし――流石に神の想念だけあって概念的なレベルにまで力が及んでいます――はさておき、やはり何とか近づいて・・・」

「そこは私がなんとかしよう」

「ジャリーさん?」

 

 手を上げたのは伊達男の吟遊詩人だった。

 

「私がものをすり抜けられるのは言っただろう? 私と彼の間にはある程度力を相殺するような関係が働いているようだが、それでも彼の体内に手を突っ込んで、体に傷をつけずにコアを抜き出すことはできると思う」

「危険ですよ?」

「承知の上だよ。だが、彼の溶解攻撃に耐えられそうな強い魔力の持ち主と言えばこの場では私か君。どちらがやるべきかというならこれはもう私だろう」

「・・・」

 

 無言でこの胡散臭い吟遊詩人――元貴族の若様のデイビット――を見る。

 

「そんな顔をするなよ少年。私だってね、彼にこれくらいはしてやりたいのさ」

「・・・わかりました」

 

 僅かに悩んでから、ヒョウエは頷いた。

 

 

 

 サナの操る黒い巨人――ヒョウエ命名、"不正を討つもの(インジャスティス・バスター)"とモリィの雷光銃が魔力光を連射して怪人を牽制する。

 刀を構えたリアスとカスミがその前で武器を構え、残るヒョウエたちは待機。

 怪人はこちらの様子を窺いながら回避に専念している――ように見える。

 

 だがその体内で魔力が高まっているのがヒョウエには見えた。恐らくはジャリーにも。

 隣のジャリーをちらりと見上げる。頷いた。

 それで十分だった。後は自分の仕事に集中する。

 

 壁に街路に跳ね回っていた怪人が、ピタリと動きを止めた。

 サナとモリィがここぞとばかりに魔力光を放つが、それが命中する寸前に。

 

「来ますよ!」

「「「「!」」」」

 

 怪人から莫大な、よどんだ魔力が爆発的に放出される。

 それに触れたものは生き物でも物質でも、あるいは術式や魂すらもが溶かされ、怪人の一部となる。

 回避しながら体内に蓄力した魔力を一気に放出、周辺の全てを溶解させるための一撃。

 だが、それこそがヒョウエたちが待っていたチャンス。

 

暗黒の星よ(Rahu)!」

 

 怪人が魔力を放つより一瞬早くヒョウエの金属球が飛び、直径数メートルの黒い闇の塊となる。

 

『グギィッ!?』

 

 怪人の喉からほとばしる驚愕の叫び。

 放たれた膨大な魔力の大半が、効果を発揮することなく暗黒の球体に吸い込まれる。

 

 "羅侯星(ラーフ)"。

 ヒンドゥー神話において太陽と月を喰らい、日食を起こす暗黒星。

 かつて真なる魔法の時代の遺失兵器"巨人(ギガント)"の山を貫く魔力光すら防いだそれは、周囲の魔力を無制限に吸い込んで無力化する反魔力武装。

 

 怪人の能力であれ魔力を介する以上、基本は魔術と変わりない。

 闇の塊が周囲の魔力を食らいつくし、怪人の周囲には魔力の空白とそれなりに周囲を浸食した溶液の池が残る。

 

「ナパティ! ハッシャ!」

 

 素早く闇の塊を元の金属球に戻してヒョウエが指示を出す。

 

「うむっ! 俺がナパティだ!」

「知っとるわ!」

 

 ナパティの目からほとばしる二筋の炎の視線(フレイムビジョン)

 そしてハッシャの唇から吹き出す、風速150mにも達する大烈風(スーパーブラスト)

 先ほどとは逆の順番、それも二人の全力で放たれたそれは溶液を蒸発させ、蒸気を跡形もなく吹き飛ばす。

 

『ガッ・・・ゴオオオオ・・・ッ!』

 

 もちろん、史上最大級の竜巻にも匹敵するこの吐息を受けて、いかに怪人とて人間サイズの生命体が平気でいられるわけがない。

 右手の爪を深々と街路だった場所に突き刺し、必死に地面にへばりつくのが関の山だ。

 

『ギィッ!?』

 

 そして再び驚愕の叫びが怪人の喉から洩れる。

 へばりついた地面、そこから突き出した手が自分の胸に深々と突き刺さっていた。

 

 

 

『ギ、ギギギ・・・』

「驚いたかな? そうでなければ演出を手伝って貰った甲斐がないというものだ」

 

 怪人が思わず身を起こした拍子に、その胸に埋まった手が地面から引き抜かれる。

 溶解したクレーターの底面から出て来たのは金髪の吟遊詩人、ジャリーの顔。

 この男はヒョウエたちの攻撃にあわせて地面に潜り、地面にへばりつくであろう怪人の胸のコアをピンポイントで狙ったのだ。

 

「それでは頂いていくよ――これは、君には必要ないものだ」

『ガッ・・・』

 

 鍵を回すように、ジャリーが腕をひねる。

 怪人が振りかぶったカギ爪が途中で痙攣して止まった。

 抵抗もなく、するりと胸から抜ける腕。

 手の中には、十センチほどのいびつで透明な水晶玉のようなもの。

 

「・・・」

「おっと」

 

 力を失って倒れる怪人をジャリーが抱き留めた。風はやんでいる。

 そのまま完全に地上に出て、怪人の体を地面に横たえる。

 ヒョウエたちが駆け寄ってきた。

 

「ジャリーさん! ハーディは!?」

「見ての通りさ」

 

 怪人の首に手を当てて呼吸と脈を確かめると、笑顔でジャリーが振り向いた。

 異形のトカゲ人間だった怪人は、少しずつ人間の姿を取り戻しつつあった。

 伸びた鼻面が戻り、全身の紫色は薄れ、皮膚も人に似たものになりつつある。

 ただその速度はかなりゆっくりで、まだ元のハーディの面影はうかがえない。

 

「どうなんだろう少年。私は正直詳しくないんだが、これは元に戻るものなのか?」

「難しい所ですね。ケースバイケースとしか。特にハーディの場合は生まれた時から神の想念の泡が体内に宿ってたわけですし。

 医神(クーグリ)の神殿、いや競技神(ソール)魔法神(アートシム)のほうがいいか? 場合によっては心の神(ウィージャ)も・・・」

「やれやれ、ダコック金貨が何千枚必要になるやら」

 

 天を仰ぐジャリー。

 二人の会話にモリィが頭にハテナマークを浮かべた。

 

魔法神(アートシム)心の神(ウィージャ)はわかっけどよ、なんで競技神(ソール)だ? あいつら全員マッチョの脳筋じゃねえか」

 

 魔法神(アートシム)は名前の通り魔法の働きそのものを司る神、競技神(ソール)は兵士や冒険者、競技者などの体を鍛える者達に崇められる神だ。

 健康や健全な肉体を司る神でもあるが、癒しを期待するなら医神(クーグリ)の神殿に頼るのが普通だ。

 

競技神(ソール)は元々肉体の生理――どんな作りをしているとか、どんな風に働くとか、そう言う事を研究する真なる魔術師(トゥルー・ウィザード)だったんですよ。

 その延長線上で例えば筋力や素早さを強めたり弱めたりする術を開発したわけですが、高位の神官なら肉体そのものの形を変える術も使えるんです。

 例えば骨が曲がってくっついたとか、生まれつき足が曲がっているとか、慢性的な腰痛や猫背とかには医神(クーグリ)よりも競技神(ソール)の方が頼りになるんですよ」

 

 へえ、と感嘆の声を上げるモリィ達。

 

「ここまで変わっちまっててもか?」

「問題ありません。高位の術者なら顔から体からまるで別物に作り替えられますからね。うろこの跡くらいは大丈夫でしょう」

「盗賊ギルドに悪用されそうな術だなあ・・・」

 

 実際その通りである。

 なので競技神(ソール)の神殿も、同じ系統の術を操る術師も、この術の存在自体あまり公言しない。

 ナパティがくるくると五回ほど綺麗な回転をみせた後、ぴたりと止まって歌舞伎の大見得のようなポーズを決めた。

 

「ともあれ一件落着だな! いやめでたしめでたし!」

「これで嬢ちゃんたちもちったぁ俺達を見直しただろう、ガハハハハ!」

 

 両手を腰に当てて高笑いするハッシャ。

 三人娘の方をちらり、と見る視線がわざとらしい。

 

「ああ、見直したぜ。《加護》は便利なの持ってるよな」

「見直しましたとも、能力の面では」

「存念を口に出しますと大変なご無礼になろうかと存じますので控えさせて頂きます」

「なんだよお前らひどいじゃないか!」

 

 揃ってハッシャに冷たい視線と言葉を浴びせる三人。ハッシャは涙目である。

 なお、前々から面識のあるサナは本当に礼儀正しく無言を貫いていた。

 




 羅侯星は正確には羅「目侯」星です。機種依存文字なのでここは当て字と言うことで。

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