毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~   作:ケ・セラ・セラ

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03-28 かくてファンファーレは鳴り響く

「抗議するぞ! お前達の私たちに対する認識にはかなりの問題がある!」

「十割十分十厘自業自得でしょう!」

 

 笑い声や怒鳴り声がひびく。

 周囲には弛緩した雰囲気が漂っていた。

 恐るべき能力を持った怪人を全員の協力で倒し、被害者であったハーディも何とか無事に救出したのだ。気が緩むのも当然と言えた。

 

(このままでぇぇぇ・・・このままで終わるものかぁぁぁぁぁぁぁ・・・!)

 

「「「「!?」」」」

「がっ!?」

 

 心の声が響く。

 同時にジャリーが苦痛の叫びを上げて膝を折った。その懐からハーディの体内にあったヴィラン・コアが光を放って空中に飛び出す。

 

「このっ!」

 

 咄嗟にヒョウエが放つ念動の術。

 光るコアが宙に停止する。

 

 通常ダンジョン・コアやヴィラン・コアに意志はない。

 それは指向性を持った魔力の塊であり、意志の力を加えてやれば一定の現象を発生させるが、そうでなければただの石ころだ。

 

(ダンジョン・コアやヴィラン・コアに取り込まれたときの"幻視(ヴィジョン)"だって、取り込まれた人間の心象を鏡のように映しているだけ。

 であるなら・・・)

 

 頭脳をフル回転させているヒョウエがそこまで考えたとき、再び「声」が響く。

 

(体を・・・体をよこせぇぇぇぇぇぇ・・・・!)

 

「!」

 

 その瞬間、風景が一瞬にして入れ替わった。

 

 

 

「・・・え?」

 

 スーはその瞬間目を疑った。

 夕食の買い物の帰り道。石工の夫がもうすぐ帰ってきて、三人の子供たちと一緒に「腹減った」の大合唱を始める頃合いだ。

 肉体労働者の夫と育ち盛りの子供の胃袋を支えるべく、主婦は今日も孤独な戦いに臨む――はずだった。

 

「なに・・・あれ・・・」

 

 周囲の買い物客たちもざわつき始めた。

 周囲は今までいたのと変わらない、王都の通りの一つだ。

 だが空が変わっている。

 先ほどまでの青く、しかし地平線に少し赤みを見せる空ではなく、おどろおどろしい、雲とも瘴気ともつかないものが渦巻く空。

 

「・・・」

 

 ぺたり、と力なく地面に座り込む。

 見えるものが信じられなかった。

 王都の城壁の外、都を一目で見下ろす、高さ数キロメートルの人影。

 人の顔のついた枯れ木のような、泥人形のような、ひげ面の人間のような何か。

 体の下部からは木の根にも似た無数の触手。

 

 ヒョウエやジャリーが見れば一目で何かわかったろう。

 バイオリンの悪魔。

 それがいびつな巨人となって、王都とそこに住む人々を見下ろしていた。

 

 

 

「おいおっさん、これどうなってるんだよ!? 引きはがして終わりじゃないのか!?」

「恐らくは奴に精神的に取り込まれたんだろう。王都の人々と共にね。

 あの悪魔は、ハーディ少年のもう一つの人格だ。本来ならコアを抜いたときに少年の心の中に残るはずだったが、私たちの思っていたよりコアとの繋がりが強かったんだ。

 少年の心の中ではなく、コアの方に残った人格がコアを操っているんだ。後おっさんはやめてくれと言ったろう!」

 

 そしてモリィ達もまた、「王都」の街路にいた。

 バイオリンの悪魔が作り出した偽りの王都に。

 サナはいつの間にか術式を降りて身一つになっている。ハーディは人間の姿に戻っていた。

 

『よこせ・・・お前達の体をよこせぇぇぇぇぇぇ・・・・!』

 

 バイオリンの悪魔が巨大な手を王都の人々に伸ばした。

 王都中の街路から一斉に悲鳴が上がる。

 

「どうする少年・・・少年!? くそっ! こんな時にどこへ行った!」

 

 周囲を見回してヒョウエの姿がないことに気付くジャリー。

 そのジャリーを、女性たちの笑みを含んだ視線が取り囲んだ。

 

「・・・何かね? それともこんな時に何か安心できる要素があるとでも?」

「当然だろう?」

 

 モリィがニヤリと笑って空を指さした。

 

「王都にはヒーローがいるんだぜ」

「!」

 

 ジャリーが空を見上げる。モリィ達も。そして精神を取り込まれた王都の人々も。

 

 ファンファーレが鳴った。

 少なくとも彼らは確かにそれを聞いた。

 

 奏でるものなどいなくとも。

 そこがたとえ荒野のただ中であっても。

 ヒーローは、ファンファーレと共に現れるのだ。

 

 

 

 巨大な悪魔から王都を守るように、空中に仁王立ちする「青い鎧」。

 深い青の騎士甲冑、風になびく深紅のケープ。

 

「青い鎧! 青い鎧!」

「我らがヒーロー!」

 

 呆然、不安、恐怖。

 そこに現れたヒーローの姿に、王都の人々が一転して熱狂的に声を上げる。

 巨大な悪魔も伸ばそうとした手を引っ込めて、おののくように青い鎧を注視していた。

 

『・・・』

「・・・」

「「(ブルー)! (ブルー)! (ブルー)!」」

 

 青い鎧と悪魔の視線がぶつかり合う。

 僅かな時間の間の沈黙。

 王都の民衆たちの声援だけが精神世界に響く。

 

『クク・・・』

「・・・?」

『グハハハ! グワハハハハハ!』

 

 のけぞって高笑いする悪魔。

 「青い鎧」は無言。

 

『青い鎧が現れたとてそれがなんだ! ここは精神の世界、精神の力だけがものを言う! この世界で俺に勝てるものなど・・・』

「「「「!?」」」」

 

 青い鎧の姿が霞んで消えた。

 青い閃光が走り、次の瞬間高さ数キロメートルの巨大な悪魔が吹き飛ばされる。

 山が吹き飛ぶが如き光景。

 

 それを成したのは人間大の青い鉄籠手に包まれた拳。

 地響きを立てて大地を転がる巨大悪魔。

 

『馬、馬鹿な・・・馬鹿な・・・この巨体を!?』

「馬鹿はお前だ」

 

 深みのあるバリトンが響く。それは王都の民衆全てにはっきりと届いた。

 

「お前の力は所詮『神の想念の泡』によるもの。突き詰めれば魔力だ。

 同等の魔力があれば後は精神力の勝負。

 それにお前が言った通りここは精神の世界だ。体がいくら大きかろうが関係ない――このようにな」

 

 その言葉と共に、見る見るうちに「青い鎧」が巨大化する。

 地響きと土ぼこりを立てて大地に降り立つ鋼の巨神。

 その体躯は今や悪魔と遜色ない。山と山の対峙。

 

『なっ・・・!』

 

 愕然とする悪魔。 

 

『そんな事があってたまるか! 怪人の力は神の力のカケラだぞ!

 この世で一番強い力なんだぞ!? それを・・・ぶごぉっ!?』

 

 触手をうごめかせて立ち上がったとした怪人が、再び打ち倒された。

 

『がっ! ぐっ! ぶぉっ!』

 

 巨大な悪魔を、鋼の巨人が打ちすえる。

 呪鍛鋼(スペルスティール)の拳がめり込むたび、枯れ木のような表皮が陥没し、ひび割れが走る。

 

「これで! 終わりだっ!」

 

 鋼の拳が悪魔の顔面を打ち抜く。

 

『ギャアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!』

 

 絶叫と共に悪魔の全身にひび割れが走り、次の瞬間粉々に砕け散った。

 

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