毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
「抗議するぞ! お前達の私たちに対する認識にはかなりの問題がある!」
「十割十分十厘自業自得でしょう!」
笑い声や怒鳴り声がひびく。
周囲には弛緩した雰囲気が漂っていた。
恐るべき能力を持った怪人を全員の協力で倒し、被害者であったハーディも何とか無事に救出したのだ。気が緩むのも当然と言えた。
(このままでぇぇぇ・・・このままで終わるものかぁぁぁぁぁぁぁ・・・!)
「「「「!?」」」」
「がっ!?」
心の声が響く。
同時にジャリーが苦痛の叫びを上げて膝を折った。その懐からハーディの体内にあったヴィラン・コアが光を放って空中に飛び出す。
「このっ!」
咄嗟にヒョウエが放つ念動の術。
光るコアが宙に停止する。
通常ダンジョン・コアやヴィラン・コアに意志はない。
それは指向性を持った魔力の塊であり、意志の力を加えてやれば一定の現象を発生させるが、そうでなければただの石ころだ。
(ダンジョン・コアやヴィラン・コアに取り込まれたときの"
であるなら・・・)
頭脳をフル回転させているヒョウエがそこまで考えたとき、再び「声」が響く。
(体を・・・体をよこせぇぇぇぇぇぇ・・・・!)
「!」
その瞬間、風景が一瞬にして入れ替わった。
「・・・え?」
スーはその瞬間目を疑った。
夕食の買い物の帰り道。石工の夫がもうすぐ帰ってきて、三人の子供たちと一緒に「腹減った」の大合唱を始める頃合いだ。
肉体労働者の夫と育ち盛りの子供の胃袋を支えるべく、主婦は今日も孤独な戦いに臨む――はずだった。
「なに・・・あれ・・・」
周囲の買い物客たちもざわつき始めた。
周囲は今までいたのと変わらない、王都の通りの一つだ。
だが空が変わっている。
先ほどまでの青く、しかし地平線に少し赤みを見せる空ではなく、おどろおどろしい、雲とも瘴気ともつかないものが渦巻く空。
「・・・」
ぺたり、と力なく地面に座り込む。
見えるものが信じられなかった。
王都の城壁の外、都を一目で見下ろす、高さ数キロメートルの人影。
人の顔のついた枯れ木のような、泥人形のような、ひげ面の人間のような何か。
体の下部からは木の根にも似た無数の触手。
ヒョウエやジャリーが見れば一目で何かわかったろう。
バイオリンの悪魔。
それがいびつな巨人となって、王都とそこに住む人々を見下ろしていた。
「おいおっさん、これどうなってるんだよ!? 引きはがして終わりじゃないのか!?」
「恐らくは奴に精神的に取り込まれたんだろう。王都の人々と共にね。
あの悪魔は、ハーディ少年のもう一つの人格だ。本来ならコアを抜いたときに少年の心の中に残るはずだったが、私たちの思っていたよりコアとの繋がりが強かったんだ。
少年の心の中ではなく、コアの方に残った人格がコアを操っているんだ。後おっさんはやめてくれと言ったろう!」
そしてモリィ達もまた、「王都」の街路にいた。
バイオリンの悪魔が作り出した偽りの王都に。
サナはいつの間にか術式を降りて身一つになっている。ハーディは人間の姿に戻っていた。
『よこせ・・・お前達の体をよこせぇぇぇぇぇぇ・・・・!』
バイオリンの悪魔が巨大な手を王都の人々に伸ばした。
王都中の街路から一斉に悲鳴が上がる。
「どうする少年・・・少年!? くそっ! こんな時にどこへ行った!」
周囲を見回してヒョウエの姿がないことに気付くジャリー。
そのジャリーを、女性たちの笑みを含んだ視線が取り囲んだ。
「・・・何かね? それともこんな時に何か安心できる要素があるとでも?」
「当然だろう?」
モリィがニヤリと笑って空を指さした。
「王都にはヒーローがいるんだぜ」
「!」
ジャリーが空を見上げる。モリィ達も。そして精神を取り込まれた王都の人々も。
ファンファーレが鳴った。
少なくとも彼らは確かにそれを聞いた。
奏でるものなどいなくとも。
そこがたとえ荒野のただ中であっても。
ヒーローは、ファンファーレと共に現れるのだ。
巨大な悪魔から王都を守るように、空中に仁王立ちする「青い鎧」。
深い青の騎士甲冑、風になびく深紅のケープ。
「青い鎧! 青い鎧!」
「我らがヒーロー!」
呆然、不安、恐怖。
そこに現れたヒーローの姿に、王都の人々が一転して熱狂的に声を上げる。
巨大な悪魔も伸ばそうとした手を引っ込めて、おののくように青い鎧を注視していた。
『・・・』
「・・・」
「「
青い鎧と悪魔の視線がぶつかり合う。
僅かな時間の間の沈黙。
王都の民衆たちの声援だけが精神世界に響く。
『クク・・・』
「・・・?」
『グハハハ! グワハハハハハ!』
のけぞって高笑いする悪魔。
「青い鎧」は無言。
『青い鎧が現れたとてそれがなんだ! ここは精神の世界、精神の力だけがものを言う! この世界で俺に勝てるものなど・・・』
「「「「!?」」」」
青い鎧の姿が霞んで消えた。
青い閃光が走り、次の瞬間高さ数キロメートルの巨大な悪魔が吹き飛ばされる。
山が吹き飛ぶが如き光景。
それを成したのは人間大の青い鉄籠手に包まれた拳。
地響きを立てて大地を転がる巨大悪魔。
『馬、馬鹿な・・・馬鹿な・・・この巨体を!?』
「馬鹿はお前だ」
深みのあるバリトンが響く。それは王都の民衆全てにはっきりと届いた。
「お前の力は所詮『神の想念の泡』によるもの。突き詰めれば魔力だ。
同等の魔力があれば後は精神力の勝負。
それにお前が言った通りここは精神の世界だ。体がいくら大きかろうが関係ない――このようにな」
その言葉と共に、見る見るうちに「青い鎧」が巨大化する。
地響きと土ぼこりを立てて大地に降り立つ鋼の巨神。
その体躯は今や悪魔と遜色ない。山と山の対峙。
『なっ・・・!』
愕然とする悪魔。
『そんな事があってたまるか! 怪人の力は神の力のカケラだぞ!
この世で一番強い力なんだぞ!? それを・・・ぶごぉっ!?』
触手をうごめかせて立ち上がったとした怪人が、再び打ち倒された。
『がっ! ぐっ! ぶぉっ!』
巨大な悪魔を、鋼の巨人が打ちすえる。
「これで! 終わりだっ!」
鋼の拳が悪魔の顔面を打ち抜く。
『ギャアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!』
絶叫と共に悪魔の全身にひび割れが走り、次の瞬間粉々に砕け散った。