毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~   作:ケ・セラ・セラ

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03-30 君の名は

 王都の西大路をハーディが駆ける。

 かかえ上げた悪魔を投げ飛ばし、地面に転がした青い鎧がそれに気付く。

 

「『青い鎧』!」

 

 ハーディが走りながら叫ぶ。

 

「僕を・・・僕をあいつの所まで連れていってください!」

「・・・!」

 

 一瞬青い鎧が動きを止めるが、すぐに頷いた。

 

『が・・がが・・・何を・・・ぐぉっ!?』

 

 起き上がった悪魔に青い鎧が飛行しながらのタックルを仕掛けた。

 悪魔の、人間で言えば腰のあたりを両腕で抱え込み、王都から離れる方向に押し込む。

 そのまま肩に担いで空に舞い上がり、上空から郊外の広大な森林地帯に投げ落とす。

 

『ガハッ!』

 

 巨大な土ぼこりが上がり、無数の木々がへし折れた。

 

『おの、れ・・・?』

 

 悪魔の顔がいぶかしげに歪んだ。

 青い鎧が追撃を行うでもなく、宙に浮かんだままでいるのだ。

 周囲に激しく渦を巻く空気。

 頭上に高く掲げた両手の間には、太陽のようなまばゆい輝き。

 

『"火球(ファイアーボール)"のたぐいか・・・!?』

 

 悪魔がそう思った瞬間、両手の間の輝きがふっと消えた。

 

『ふん、不発か! 驚かせおって!』

 

 高笑いする悪魔。だがヒョウエも兜の下でニヤリと笑う。

 

「いいや? これでいいのさ――受けよ、全てを凍てつかせる冬の神の息吹・・・冬神の吐息(テトラ・ブレス)! 」

 

 見えない「何か」が体の前に構えた両手の間から発射される。

 それは回避する暇もなく巨魔に命中し、次の瞬間白い爆発を起こした。

 

『・・・・・・・・!』

 

 半径数キロにも及ぶ白い大爆発。

 爆発の届かなかった王都にも、突風のような激しい風が吹く。

 その正体は極限まで圧縮・冷却された数兆立方メートルの空気だった。

 

 圧縮した事による高熱を念動の魔力を応用して周囲に逃がし、冷却する。

 それを本来の体積に拡散することによって熱も拡散し、温度は極限まで低下する。

 

 絶対零度近いそれが範囲内の全てを凍てつかせた。

 砕かれただけならすぐさま再生する巨魔も、氷に包まれては身動き一つできない。

 文字通り指一本動かせない巨魔を尻目に、青い鎧は王都にとって返した。

 

 

 

 青い鎧が飛ぶ。

 山のようだった巨躯は見る見るうちに縮み、普段通りのサイズになった。

 王都の西大通りに急降下すると走っていたハーディの手を掴んで再び舞い上がる。

 

 手を引っ張られているのに、身体全体が持ち上げられる感覚にハーディが戸惑う。

 同時に倒れたまま氷漬けになった巨魔を見て目を丸くする。

 だが、それら以上に今は気になる事があった。

 

「ありがとう、青い鎧。僕をこのまま・・・悪魔の口の中に放り込んでほしいんだ」

「・・・」

 

 無言で青い鎧が頷く。

 

「それとその、間違ってたらゴメンなんだけど・・・ヒョウエくん?」

「・・・!」

 

 伝わってくる驚きの気配。

 内心がダイレクトに伝わりやすい精神世界ゆえか、それともハーディにヴィラン・コアの残り香があったのか。

 

「秘密ですよ?」

 

 指を一本口元に当てるヒョウエ。ウインクしている気配もある。

 

「うん!」

 

 嬉しそうにハーディが頷いた。

 

 

 

 氷に封じられて動けないままの巨魔。凍てつき壊死した細胞が少しずつ再生していく。

 ハーディの声は彼にも聞こえていたが、具体的に何をするつもりなのか判らない。

 ヴィラン・コアの魔力を感覚器官に集中させて目と耳を優先して再生させる。

 無数の氷の霜が固まったような不透明な氷を見透かすことはできなかったが、空を切る音はかろうじて聞き取れた。

 

(いったい何を・・・むぐっ!?)

 

 氷を透かして赤い光が走ると同時、口の部分に熱を感じた。

 "太陽神の眼(マドゥロク'ス・ゲイズ)"による強引な解凍。

 

「武運を――いや、幸運を祈るよ」

「ありがとう」

 

 青い鎧の言葉に笑顔で頷く。

 そのままハーディは躊躇なく、底なしの巨大な口に飛び込んでいった。

 

 

 

 落ちる、落ちる、落ちる。

 底なしの暗黒の中をハーディは落ち続ける。

 

(こんなに落ち続けられるものかな)

 

 頭をひねったとたん、落下が止まった。

 逆さまに落ちていたのがふわりとひっくり返って、足を下に浮かぶ状態になる。

 

『ハーディ・・・はぁぁぁぁぁでぃぃぃぃぃ・・・』

「!」

 

 目の前に「悪魔」が現れた。

 外のそれとは少し違う、木人形のような姿。

 目がぎょろりと動いてハーディをにらんだ。

 

『殺されに来たのか・・・それとも永遠に闇の中に沈むのがいいか・・・俺がそうだったように・・・』

 

 ハーディが首を振った。

 

『なら俺を殺しに来たのか・・・恩知らずめ! お前の父を殺してやったのは誰だと思っている! 邪魔だと思っていた妹たちも片付けてやろうとしたのに止めやがって!』

「違うよ。僕はそんなことをしにきたんじゃない。君に謝りに・・・君と一緒に生きる為にここに来たんだ」

『ふざけたことを!』

 

 人形の顔でもはっきりわかるほどに悪魔が激昂する。

 

『謝罪だと! 謝るなら俺に席をよこせ! お前の体をよこせ! お前の存在を、全て俺によこせっっっ!』

 

 カッ、と悪魔の目が光った。

 

「うわっ!?」

 

 びくん、と痙攣してハーディの体が固まる。

 続けて悪魔の口が大きく開いた。

 シュウシュウと音を立てて空気が吸い込まれる。

 

「!?」

 

 ハーディの足から煙のようなものが立ち上り、それが悪魔の口に吸い込まれていく。

 それと共にハーディの足が少しずつ薄くなっていった。

 

「ぐ・・・」

『どうだ、怖いか。お前は消えるんだハーディ。お前の存在を全て吸い尽くして俺がお前の体を動かすんだ!』

 

 ハーディがくすっと笑った。

 その足は既にほとんど消えかけている。

 

『・・・何がおかしい』

「君は僕のもう一つの人格だろう? 僕を消そうったって消せるものじゃないさ。

 僕がいくら君を否定しても君が消えなかったように」

『ふざけるな!』

 

 今度の激昂は前のそれよりなお激烈だった。

 

『俺はお前じゃない! お前の代わりに面倒を押しつけられた別の人間だ! お前を消す! 消して俺は俺になるのだ!』

 

 身震いするほどの怒りを叩き付けられてなお、ハーディは平静だった。

 いつもなら怯えて逃げてしまうほどの恐怖にも、今は何故か穏やかでいられる。

 

「君、自分の名前を知っているかい」

『何?』

「僕の体を乗っ取って、僕の人生を乗っ取って、でも自分はハーディじゃないというなら、君は誰だ?」

『・・・それは』

 

 悪魔が初めて口ごもった。

 ハーディの腹までが消え、今度は腕が消え始める。

 それでもハーディは静かに言葉を紡ぐ。

 

「教えて上げるよ。君の名前はハーディだ」

『違う! 俺は俺だ!』

 

 反論する悪魔の声にも、先ほどの力はない。

 

「違わない。君は僕だ。

 父さんを殺したのは僕。妹たちを殺そうとしたのも僕。

 怪人になって沢山の人を傷つけたのも僕だ。

 ハーディ。君は僕なんだ」

『・・・』

 

 話している間にも腕が消え、胸が消えた。

 ハーディはじっと悪魔を――もう一人の自分を見つめている。

 

「僕は君だ。ハーディ」

 

 その言葉を最後に、ハーディの全身は悪魔の中に吸い込まれた。

 

 

 

 凍てついた巨魔の上空。

 ハーディが飛び込んでいった底なしの穴の上で、青い鎧はただ待っていた。

 

「!」

 

 ぴしり、と音がした。

 氷の隙間から見える巨魔の体に無数のひび割れが走り、崩壊する。

 今までのそれとは違い、巨魔の体は崩れ落ちるようにではなく、無数の細かいチリに変わり、空気に溶け込んで消えていった。

 

「・・・」

 

 中身が消えてなくなり、からっぽの氷の抜け殻になった場所に青い鎧が降下する。

 高さ1000mの氷のドームの中は無数の光が乱反射して、たとえようもなく美しかった。

 

「・・・! ・・・・・・!」

「!」

 

 かすかな呼び声を、極限まで強化された青い鎧の聴覚がキャッチする。

 ドームの中にぽつんと立つ人影が見える。

 青い鎧が矢のように飛び、ふわりと着地した。

 

「・・・ハーディなんですか?」

「うん、僕だよ」

 

 こげ茶色の髪。道化広場で演奏していたときと同じ服装。

 顔立ちも、笑みを浮かべる様子もいつものハーディだ。

 

「ああ、でも正確に言えばヒョウエくんの知っていたハーディではないのかな。

 あの悪魔は僕から分かれたもう一人の僕だった。今は一つに戻ったから、少し変わってるかもしれない。

 ・・・全部僕のやった事だったんだ。それも、これも、全部僕が背負って行かなきゃならない。それがわかったから僕たちはこうして一つになったんだ」

 

 青い鎧が頷いた。

 その全身にひびが入り、無数の細かいカケラになって宙に舞う。

 渦巻くカケラが呪鍛鋼の杖の形になったとき、そこに立っていたのはヒョウエだった。

 右手を差し出してにっこりと笑う。

 

「おかえりなさい、ハーディ」

「ただいま、ヒョウエくん」

 

 にっこりと笑って、ハーディがその手を握り返した。

 

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