毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~   作:ケ・セラ・セラ

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エピローグ「そして人生は続く」

 

 

「もし自分が悪魔でなかったら、いっそ悪魔に身を売っちまいたい位の気持ちでさ」

 

 

                       ――メフィストフェレス、『ファウスト』――

 

 

 

 

「それでどうなったの、ヒョウエくん?」

 

 口元をぬぐいながらリーザが尋ねた。

 夕食の席である。

 

 いつものヒョウエ、リーザ、サナに加えてモリィ、リアス、カスミ。

 今回活躍したナパティとハッシャもご褒美と言うことで招待されていた。

 

「う! ま! い! ぞ~~~~っ!」

「うるせえよエロエルフ! 飯は静かに食え!」

 

 叫びながら食うナパティにモリィが文句を言う。

 

「サナ嬢、お代わりを」

「はい、少々お待ちください」

 

 一方ハッシャは無言で、ひたすらに食事を腹に詰め込んでいた。

 それらに微笑ましげな視線をやると、(口の中のものを飲み込んでから)ヒョウエはリーザの質問に答えてやった。

 

「ハーディは妹さんたちのもとへ戻っていきましたよ。

 ジャリーさんの方はどこへ行ったやら。一応夕食にも招待したんですけどね」

 

 その時のことを思い出してヒョウエが苦笑した。

 

 

 

 精神世界から戻ってきた後、ハーディの肉体は急速に元に戻った。

 心のバランスが回復したことにより、ヴィラン・コアの影響が抜けたのかも知れないが、理由は判らない。

 取りあえず屋敷に上がり、ヒョウエの部屋で服を借りて着替える。

 二人っきりになった部屋の中で、ハーディが深く頭を下げた。

 

「ヒョウエくんありがとう。それじゃ、僕は警邏に自首してくるから」

「え?」

 

 驚いた顔をすると、ハーディはさみしそうに笑った。

 

「だって父さんを殺してしまったのは僕だし・・・怪人になって王都の人々を傷つけて回ったのも僕だ。罪は償わないといけないだろう?」

「どっちもハーディがやったことじゃあないでしょう。あの怪人は・・・」

「あれが生まれたのは僕の意志だし、今はあいつも僕の中にいる。だったら彼のやった事の責任は僕が取らなくちゃ」

「・・・」

 

 正論ではある。

 ただ・・・

 

(生真面目すぎる)

 

 ヒョウエの内心の嘆息に気付かず、ハーディはいたずらっぽく笑って言葉を続ける。

 

「それでなんだけど、ソアラとレアの事をお願いできないかな――何だったら愛人にしてくれてもいいよ?」

「勘弁してください」

 

 今度は盛大に溜息をつく。ハーディがくすくすと笑った。

 

「ともかくそう言うわけだから、取りあえず家に戻って着替えてくるよ。

 服を返したらそこから警邏に――」

「行っても、何を言ってるんだコイツと一蹴されて終わりでしょうね」

「え?」

 

 今度はハーディが驚いた顔になる。

 

「で、でも、僕は・・・」

「コアだけじゃ証拠になりませんよ。お父さんのことにしても死体もないのでは信用もされません」

「で、でもヒョウエくんが証言してくれれば・・・」

「そして一番大きな理由はね、僕がそれを握りつぶすからですよ」

「はい?」

 

 ハーディが驚きを通り越して呆けた顔になる。

 言っている事が理解出来ない、そんな顔だ。

 

「僕の本名はヒョウエ・カレル・ジュリス・ドネ。

 王弟アクティコ大公ジョエリー・シーシャス・ジュリス・ドネの嫡子です」

「え」

「れっきとした王族ですから、僕が一言言えば本当かどうかも怪しい『怪人』なんて門前払いを喰らって終わりですよ」

「ええええぇぇえぇえぇぇええええ!?」

 

 

 

「ああ、あの声ってそう言う事だったのね。何かと思った。

 それにしても・・・愛人?」

「いや、反応するところそこじゃないので!」

 

 微妙に剣呑な雰囲気を漂わせるリーザにヒョウエが焦る。

 経験的に、彼女がこう言う顔をするときはろくな事にならない。

 

「まーいーんじゃねえの? 話聞く限りあいつだって被害者だろ、どう考えても」

「そうそう、そうですよ! もうインヴィジブル・マローダーは出現しないんですから、犯人が捕まる必要は無いんです!」

 

 モリィの合いの手に、我が意を得たりと頷くヒョウエ。

 

「ヒョウエくん今『ナイスタイミング!』とか思ってるでしょ」

 

 少し冷たさを感じる幼なじみのツッコミは全力でスルーする。

 

 実際、ハーディが自首することには、本人の気持ち以外には全く意味はない。

 とは言えそれが事実であるならば、警邏としても放って置くわけにはいかない。

 父を殺したことも合わせ、恐らくは死刑が下されるだろう。

 

 なので、ヒョウエは王族としての立場を使ってそれを潰した。

 本来有り得ただろう封建制社会に比べればまだしも風通しはいいが、それでもここは現代日本のような民主主義社会ではない。王族が許せと言えば許される、そんな世界だ。

 

 そして王族が持っているのは権力だけではない。権威もだ。

 大宗教の教祖のように、許しを与えれば与えられた側が納得するほどの。

 

「まあ実際に手を回すと色々面倒くさいですからね。ハーディが納得してくれて助かりました」

「お父さんに借りを作る事になるもんね」

「ご実家にお帰りになる丁度良い機会だったのですが、惜しいことをしましたね」

「ぐぐ・・・リーザもサナ姉もひどくないですか」

 

 へこんだヒョウエを見て、リーザとサナが顔を見合わせて笑った。

 

「そう言えばジャリーのおっさんはどうしたんだ?

 いつの間にかいなくなってたけど」

「そう言えばそうですわね・・・」

 

 モリィとリアスの会話を流しつつ、ヒョウエは姿を消す前のジャリーの言葉を思い出していた。

 

 

 

「それじゃそろそろ失礼するよ。少年達によろしく」

「名乗らないんですか?」

「16年間放りだしておいて今更父親でございと? 私はそれほど恥知らずじゃないよ。

 彼の父親はゲイロさんだ。それに二人の淑女に君のお兄さんは君たちと半分血が繋がっていないんですよ、などと今更伝えて悲しませたくない」

 

 胸を押さえて大げさに悲しみの身振りをするジャリー。

 ヒョウエが思わず失笑した。ぱちり、とジャリーのキザなウインク。

 

「まあそのほうがいいかもしれませんね。このまま姿を消せば実年齢がバレなくてすみますし」

「まだそのネタを引っ張るのかね? 大体君わかってて言ってるだろう?」

 

 にやにやするヒョウエとそれを睨み付けるジャリー。

 しばらくそれを続けた後、二人は同時にプッと吹き出した。

 

「それではまた」

「ああ。またどこかで会えるといいな――君がハゲデブのおじさんになったころに」

「その時は貧相な老人になったジャリーさんを見て笑って上げましょう」

 

 ははは、と声をあわせて笑う。

 それがジャリーとの別れの言葉になった。

 

 

 

「あの方、結局何だったのでしょうね? ハーディさんに何か関係があったのか・・・あの方も怪人であるなら、コアを抜き取っておいた方が良かったのでは」 

 

 現在の食卓でリアスが首をかしげる。

 音を立てずに香草茶を飲みながらヒョウエが首を振った。

 

「まあ、大丈夫だと思いますよ。胡散臭い人ではありますが、悪人ではありません」

「私もそう思います、お嬢様。ハーディ様のことは・・・何か色々あったのでしょう」

 

 リアスとモリィが、同時にカスミを見た。

 

「な、なんでしょう?」

「カスミ・・・あなた、ヒョウエ様と何かあったんですの?」

「今妙に息がぴったりあってたよなあ」

「・・・」

 

 カスミが冷や汗を流した。

 恐るべきは女の勘。ジャリーの事に余り触れるべきではないとヒョウエのフォローをしたのだが、普段からすると「らしくない」行動が二人の直感に引っかかったらしい。

 

「そう言えばコアを安定化させたって言ってたよなあ・・・コアに取り込まれると互いの記憶が見えたりするんだよな・・・」

「そうなんですの? ではヒョウエ様の記憶を・・・モリィさんも見てるのに私だけ!」

「お、お嬢様! 大した物が見えたわけでもありませんから!」

「二人ともずるい! 私もそんなの見た事ないのに!」

「おめーはガキの頃から一緒だったんだからさんざんコイツのこと見てるだろ!」

「そうですわ! 私なんてこうして冒険の時にしかご一緒できませんのに!」

「それはそれ! これはこれだもん! カスミちゃん話して!」

「ひょ、ヒョウエ様の記憶を勝手にお話しするわけには・・・!」

 

 もはや収拾の付かない夕食のテーブル。

 

「ふーん・・・そう言えばなぁ~んか距離が近いよなあ?」

「そうだね。明らかにちょっと前よりヒョウエくんよりだよ・・・」

「カスミ・・・コアの中でヒョウエ様と何があったのです!? 白状なさい! まさか私を差し置いてヒョウエ様と・・・!」

「違います! 決してそのような!」

 

「ま、まあまあ、僕のプライバシーの問題ですから」

 

 ヒョウエが助け船を出そうとする。

 

「ヒョウエくんは黙ってて」

「はい」

 

 泥船だった。

 

「だらしないですね、ヒョウエ様?」

「助けて下さいよサナ姉!」

「これも男の修行の一貫かと存じます。存分に苦しんで下さい」

「・・・・・・・・・・」

 

 からかうようなサナの目を恨めしげに睨みつつ、ヒョウエは頭を抱えた。

 

 

 

 数日後。

 道化広場の「王様の場所」。

 こげ茶色の髪の少年が奇妙な楽器を弾いていた。

 バイオリンと大太鼓とトライアングルとドラムを合わせたような音色。

 

「おじさんだ!」

「悪魔のおじさんだ!」

 

 楽器のてっぺんを飾る奇妙な顔を子供達がはやし立てる。

 不思議な事に、その顔が笑っているように見えた。

 

 一曲を終えた少年に拍手と、僅かながらのおひねりが飛ぶ。

 次の曲を演奏しようとして、少年は大きなトランクを手に下げた黒髪の魔法使いの姿に気がついた。

 子供達がわっとその周囲に群がる。

 

「こんにちわ。これから劇を上演しようと思うんですが、音楽をつけて貰えますか?」

「うん、喜んで!」

 

 満面の笑みでハーディが頷いた。

 

 毎日戦隊は毎日が毎日日和。

 雨の日も風の日も、それはそれで毎日日和。

 かたつむり枝に這い、神空にしろしめす。

 全て世はこともなし。

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