きんいろモザイク ~plus α Road Days~   作:T93

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お待ちどうさまです。一先ず出来たので投稿します。

いつもよりサービスでちょっと長くなっています。

嘘です。ちょいオリジナル展開と、キャラが勝手に喋りだした為長くなってしまっただけです(笑)


第9話~おたんじょうびの灯火~

 6月に入り、制服も夏服になったばかりのとある日の朝。

 

 本日、6月6日はしのの誕生日なのである。

 

 俺は誕生日プレゼントを用意し、いつもの様にしのの家の前でしの達を待っていた。まあ、渡すのは学校に着いてからだけど。

 

 因みにプレゼントを渡して告白なんて事はしない。今そんな事をしたら確実にアリスに嫌われる。

 

 誰だ今、根性無しのヘタレとか言った奴は。どうせ成功する自信がねえだけだろとか言った奴は。

 

 違う。あのな、今の俺はアリスにも嫌われるのが嫌になっているんだ。アリスに嫌われるという事は今の俺にとっては、兄が反抗期になった妹に「キモッ」って言われるのと同じ感覚になっているんだ。アリスはそんな事絶対言わねえけど。

 

 え?何?じゃあお前、これからしのの事どうする気なんだって?ハッハッハッハッ……俺もわからん…。

 

 

 そんな事を考えているとしのの家の玄関が開いて、アリスとしのが出てきた。

 

「シュン、おはよう」

 

 アリスも夏服に衣替えしていて、制服時はいつも着ていたピンクのブランケットはさすがに着ていなかった。

 

「おうアリス、おはよう。しのもおは…」

 

 アリスに挨拶をして、しのにも挨拶をしようとしたら、何やらしのは落ち込んでいる様子だった。

 

「ど、どうしたしの?何かあったのか?」

 

「……峻君、私……」

 

「うん?」

 

「36歳に見えますか!?」

 

「………は?」

 

 いったい何を言っているんだこいつは。

 

「…大人っぽく見られたいってことか?」

 

「違います!確かに大人に見られたいと思う事はない事もないですが、そこまで老けて見られたくはないです!」

 

 ふむ、なんとか理由をひねり出してみたが違ったか。

 じゃあなんでしのはあんな質問を投げかけてきたのか。

 

 

 理由を聞いてみたら、なんでもしののお姉さんの勇さんに、今日誕生日だったよね?って聞かれた後、確か今年で36歳だったわよね?って言われたらしい。しかもプレゼントに盆栽を用意してあげるとかも言われたとか。

 

 んー、勇さんはいつもの様にしのをからかっているだけなんだろうけど、36歳はひどいわ。

 

「それで、どうですか峻君。峻君は私の見た目、何歳ぐらいに見えますか?」

 

 その質問、まだ続くのか。

 でも、本人は気にしてるみたいだし答えてやらないと。

 

「いや、普通に年相応だと思うぞ。だってお前こんなにカワ……」

 

「?"カワ"?」

 

「カ……カ……、川で遊びまわってそうだからな!!」

 

「私、そんなにやんちゃでもないですよ!?」

 

 危うく普通にしのに「可愛い」って言いそうになった。よくよく考えてみたら、いきなり男子からこんな事言われたらそれこそキモいからな。うん。俺は判断を間違っていなかった。

 

 だからそこ、「あ、ヘタレやがったなコイツ」とか思わないように。

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

「オハヨウゴジャイマス〜♪」

 

 学校に着いて、しのはトイレに行ったので、アリスと二人で教室に向かっていると、廊下でカレンからこんな風に挨拶された。

 因みにカレンは袖無しのフード付きパーカーを身につけていたが、黒一色で冬服の時とは違ってユニオンジャックの柄は付いていなかった。

 

「カレンったら、それわざと言ってるでしょ」

 

 アリスがカレンの挨拶に注意をしていると、

 

「カレンちゃん、オハヨーゴジャイマス」

 

「ゴジャイマース」

 

 穂乃花やA組の生徒達がカレンを真似て、そう挨拶をしていた。

 

「って、うわあっ!A組で流行っちゃってる…!」

 

「私が流行らせたデス!」( ー̀֊ー́ )ドャ

 

 カレンはドヤりながら得意気にそう言った。

 こないだやっとクラスに馴染んだばかりだったってのに、凄い影響力だなおい。

 

 A組の様子にアリスは困惑していた。

 

「もーっ。変な日本語広めてー」

 

「まあいいじゃねえか。カレンもそんだけクラスに馴染んだって事なんだから」

 

「駄目だよ!こういうのは、クセになっちゃうんだからねー!」

 

 アリスを宥めてみたが、アリスはアリスで譲れないものがあるみたいだ。

 

「おはよーみんなー」

 

 向こうから烏丸先生が歩いてやってきた。

 

 アリスは先生の方を向いた。

 

「あっ。先生、オハヨウゴジャイマス!」

 

「「あっ」」

 

「?」

 

 アリスはつられてそう言ってしまった。

 

 

 

 俺とアリスは、カレンと一緒に自分のクラスのB組の教室に入った。

 

「おはー」

 

 先に来ていた陽子と綾に俺が声をかけると、

 

「皆様、お早う御座います!」

 

 アリスがキリッとした表情で丁寧に二人に挨拶をした。

 

「おっはよ〜!」

 

「おはよ…どうしたの?なんか堅苦しいわね」

 

 陽子と綾の返事にアリスはやや不満気だった。

 どうやらアリスはちゃんとした日本語の挨拶を聞きたいらしい。

 

 すると、しのがトイレから戻ってきた。

 

「おはようございます、アリス」

 

 しのはアリスに挨拶をした。

 

「いや、お前はもう家で挨拶したんじゃ…」

 

「美しい日本語ー!」

 

 俺がツッコミきる前に、アリスが涙を流しながら嬉しそうにしのに抱きついた。

 

 ……まあ、アリスがいいんならいいか。

 

「何あれ」

 

「アリスはゴジャイマス否定派なんデスヨ〜」

 

 カレンは不満気で陽子にブーたれていた。

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

「しの、お誕生日おめでとう。今日でしょ?」

 

「はい!」

 

「これ、プレゼント。参考書」

 

 綾がしのにプレゼントを渡した。

 

「ありがとうございます!」

 

「マジかー。そろそろだとは思ってたけど」

 

 陽子は忘れていた様だった。

 

「ほんじゃー、ジュースあげるよ」

 

 そう言って陽子はさっき買ったジュースをしのにやった。

 

「ありがとうございます!」

 

「……まあ忘れてたんだしな…」

 

 少々思うところがあるが、しのがいいんなら良しとしよう。

 さて、俺もしのにプレゼントを……ん?

 

「うーん…」

 

 アリスが何やら唸りながら悩んでいた。

 

「どうしたアリス」

 

「わたし、今日がシノの誕生日だって知らなかったから、プレゼント用意してなかったんだよ〜」

 

「あー、そうか。すまん、言ってなかった」

 

「ううん、気にしなくていいよ。……そうだ!」

 

 アリスは何か思いついたのか、教卓の前に立った。

 

「シノ、わたし何もあげられるもの無いから、歌を歌うよ」

 

「わあっ、歌を?」

 

 アリスが歌を歌い始めた。

 

「た〜んじょーび、あ〜なた〜♪た〜んじょーび、あ〜なた〜、シノ♪た〜んじょーび、あ〜なた〜♪た〜んじょーび、あ〜なた〜、シノ♪……」

 

「……なんの歌?」

 

「誕生日…、あなた…、バースデー…、ユウ…。……音は違うけど、まさか…」

 

「あの歌の和訳だな」

 

「どうして英語で歌ってくれないんですか!?」

 

 しのはアリスの和訳バースデーソングをお気に召さなかったようだ。

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

「私って何歳くらいに見えますか?」

 

 アリスの独唱会が終わった後チャイムが鳴り、授業が始まりそして終わった後の休み時間。俺が何かを忘れているような気がして考えていると、しのが綾と陽子にそんな質問をしているのが聞こえてきた。

 朝の話、まだ気にしてたのか。

 

「?高校生でしょ」

 

「見た目年齢の話です。制服を着てると思っちゃダメです」

 

 制服を着てると思わない……。いや違う違う違う!そういう意味で言ったんじゃないだろう、俺の阿呆!!

 

 俺がアホな煩悩にとらわれている間、綾と陽子はしのの見た目年齢について考えていた。

 

「最近まで中学生だったし…、14、5歳?」

 

「でも、案外30歳って言われても違和感ないかもなっ、あはっ」

 

 あっ。

 

「何かこう、落ち着き具合が…って、あれ!?」

 

 陽子の発言で、しのがこの世の終わりみたいな表情をし、抜け殻みたいになってしまった。

 

「ヨーコ、なんてことを!!」(ⅢºД)

 

「えっ、ほんの冗談のつもりだったんだけど…。何かマズかった!?」

 

「陽子、今のお前の発言は、今日のしののメンタルにはかなりダイレクトに来たんだ。よってお前に極刑を言い渡す」

 

「そこまで!?今日しのに、誕生日以外で何があったんだよっ!?」

 

「罰としてしのに、購買で人気No.1の焼きそばパンとNo.2のメロンパンを調達してきてお詫びをしろ。あとついでに、焼そばバ○ォーンお好みソース味も買ってこい。あの辛子マヨネーズのやつ俺好きなんだ」

 

「パンは買ってくるけど、なんでお前にバゴ○ーンを買わなきゃならないんだよ!!しかも、その味売ってんの東北と信越限定じゃなかったっけ!?」

 

「正月の里帰りに、東北の祖父母の家で久しぶりに食ったのが恋しくて…」

 

「祖父母に送って貰えっ!!」

 

 

 

「ダメですアリス、峻君、私はやっぱり若さが無いのです」

 

「そんなことないよシノ!」

 

「ほら見ろ、お前のせいでしのがしょぼくれちまったじゃねえか。早くバゴォ○ン買ってこい」

 

「だからそれはお前の要望だろうが!!」

 

「ねぇ、しのに何があったわけ?」

 

 

 俺はアリスと共に、今朝あった出来事を綾と陽子に話した。

 

 

「そんなことが…」

 

「盆栽はひどいなー」

 

「うう…」‪(;_;)

 

「でも盆栽ってすごく高価なんだよ!!うらやましいよ〜」

 

 アリスは盆栽にも興味があるらしい。

 

「盆栽なんてもらっても困りますよ〜。同じ植物なら、モミの木が欲しいです」

 

「モミの木ってどんなんだっけ?」

 

「ほら、クリスマスツリーで飾る…」

 

「ああ…」

 

「そんなもんもらってどうするんだ」

 

 陽子がしのにモミの木の用途を聞いた。

 

「だってそうしたら、毎日がクリスマスですよ!はああっ」

 

 しのはうっとりしながら、そう答えた。

 

「あー…なるほど…」

 

 陽子は呆れながら相槌をうった。

 

 ……植物?そういえば何か忘れてたような気が…。

 

 

「ところで、イサミも言ってたけど、若さが足りないってどういう意味?」

 

 俺が何かを思い出そうとしていたら、アリスが陽子に言葉の意味を聞いていた。

 

「えーとつまり、老けてるって意味だよ!」

 

「老けてないです!!」Σ( ̄ロ ̄Ⅲ)

 

「わたしは若さ、足りてるかなー」

 

「アリスは若いぞっ。とても高校生には見えない!」

 

「わーい!」⸜(*ˊᗜˋ*)⸝

 

 陽子に言われた事にアリスは喜んでいた。

 

 アリス…今のは喜んだらダメなやつだったと思うぞ。

 

 

「喋り方のせいじゃないかしら。しのって誰にでも敬語でしょ」

 

 綾が原因と思われる案を出した。

 

「なるほど!では、もう少し崩して喋ってみます!女子高生っぽく!」

 

 しのは綾の意見を採用した。

 

「エッフェル塔の高さって知ってるう?324mなんだってぇ。うっそー、まじでぇ!?みたいなー」

 

 しのは自身の髪をくるくるさせながら、砕けた喋り方を披露した。

 

 …………。

 

「何か違う…」

 

「こんなしのは嫌だ」

 

「勇姉の方がよっぽど女子高生っぽいぞ。女子高生だけど」

 

 喋り方作戦は失敗した。

 

 

 それから話は、女子高生らしい勇さんを見習ってみたらいいのではという事になった。

 

「でも姉妹なのにホント、しのと勇さんってあんま似てないよな。せいぜい、黒髪ぐらいか?」

 

「それ、ほぼ全ての日本人に当てはまる項目じゃない」

 

「じゃあ、他には……」

 

「あ!こんなのはどうかな?」

 

 陽子が何かを思いついたらしい。

 

「勇姉と同じ血を引いてるんだから、しのにもモデルの素質あるかも」

 

「ほー、一理あるかも」

 

「ですが、お姉ちゃんは母親似、私は父親似で…」

 

 しのはそう言うが、しのもしののお母さんに顔立ちが似てる所あると俺は思う。俺もさっきはああ言ったものの。

 

「よしっ、とりあえず写真を撮ってみよう!」

 

「そうね。しの、ちょっとここに座って」

 

「あ、はい」

 

 そんなわけで、しのにモデルの素質があるか調べるため、写真を撮ることになった。

 

 しのは綾に促されて用意された椅子に、

 

「どっこいしょ」

 

 と言いながら座った。…………って………。

 

「ん?何か?」

 

 しのを除いたその場の全員に、気まずい感情が生じていた…。

 男子がふざけて言うのとかならまだしも、しの、それはお前……。

 

 

 もうそれは置いといて、とりあえず写真を撮ろう。

 

「でも写真を撮るんなら、水着にならないと」

 

「ぶっ!!」

 

 陽子がいきなりとんでもない事をぬかしたので、俺は吹き出してしまった。

 

「何故!?」

 

「勇姉と同じように撮るんだろー?」

 

「お姉ちゃんはファッションモデルです。水着は着ません」

 

 陽子の発言にしのは困惑しながら否定した。

 

「なんだグラビアかと思ってた。ちっ」

 

「ちっ?」

 

 今こいつ、舌打ちしたか?

 

「おい、お前まで変な性癖に目覚めちまったら、収集つかなくなるぞ」

 

「誤解を招くこと言うなよ!!……他に誰かいんの?」

 

「金髪中毒者」

 

「あー」

 

「ちゅうどっ…!?」

 

「あと、陽子依存性患者」

 

「誰が依存してるってのよっ!?」

 

 俺の発言にしの(金髪中毒者)は困惑し、(陽子依存性患者)は否認してきた。

 

 

「体のラインを見るのが、好きなんだよ私はっ。性癖っつーか、フェチ?」

 

「あんま変わんなくね?」

 

「何フェチ?それ」

 

「うーん、筋肉フェチ?肉付きフェチ?」

 

「アイドルには筋肉、無いじゃない」

 

 いや、そんなことは無いだろ。筋肉ないと太りやすいって聞くし、もしろ必須事項だろ。

 

「全く無い人間はいないって。綾だって、脱げば少しは〜」

 

 陽子はそう言って、綾に持ってたカメラを向けた。

 

 その陽子の発言と行動に、綾は恥ずかしがって顔をだんだんと真っ赤にさせていた。

 

「こっ、この…ヘンタイ!!」(≧Д≦)=3

 

「え?何で?」

 

「猪熊陽子、女子高生にわいせつ行為の疑いで逮捕」

 

「私も女子高生なんだけどな!?」Σ(-д-!!)

 

「刑罰として、セ○ンのナ○チキ5つ買ってこい」

 

「それはもういいわっ!!」Σ\( ̄□ ̄;)

 

 

 えー、そんなこんなありつつ、陽子が持ってたデジカメでしのの写真を数枚撮ってみました。

 

「いい笑顔だ」

 

 陽子の言うように、どの写真もしのはほんわかした笑顔で写っていて、見てる俺達も「ほわーっ」となり和んでいた。まあでも、

 

「モデルはムリだけどね」

 

 綾の言う通り、勇さんみたいにモデル特有のカッコ良さとか美しさとかそういう要素はこの写真からは微塵も感じなかったわけで。

 

「んー、モデルは無理でも他の芸能人にはなれないかなあ。……そうだ!なあ峻」

 

「なんだ陽子」

 

「しのとツーショットで写ってくれ」

 

「オッケーまかせろいやなんで」

 

「今、欲望と理性が混ざってたわ」

 

 そう言うな綾。突然だったもんで。

 

「男の峻と写ればスキャンダル写真ぽくなって、しのも芸能人に見えると思ってさー!」

 

「なんかイメージ悪くないかそれ」

 

「そうか?じゃあやめるか」

 

「まあでも一応撮ってみようぜ」

 

「あ、欲望が勝った」

 

 うるへー(うるせえ)

 

 

 そんなわけで、"仕方なく"しのとツーショット写真を撮ることになった。

 

「スキャンダルですか。ならサングラスとかかけましょうか?」

 

「いらんいらん。どっから出した」

 

 しのにサングラスを仕舞わせ、俺はしのの横に来て陽子に写真を一枚撮ってもらった。

 

「うーん、撮ってはみたけどやっぱスキャンダルには見えないなあ。ただツーショットで写ってる男子と女子にしか見えない」

 

 実際そうだからな。

 

「いいなあシュン。シノ!わたしとも一緒に写真撮ろっ!」

 

「いいですよーアリス」(*´ ˘ `*)

 

「ありがとう!ヨーコ、お願いっ」

 

「あいよー。後でプリントしてやるからー」

 

 なんかもう、趣旨が変わってるな。俺が言うのもなんだけど。

 

 それにしても、しのとのツーショット写真、撮ってもらったはいいが、どうやって貰えばいいのだろうか。普通にくれって言ったらなんか変な風に怪しまれそうだ。

 そんな事思わないやつらだろって?男子高校生はな、異性に対してそういうのにちょっとでも可能性があると思うと不安になる生き物なんです!

 

 俺がそんな風に悩んでいると肩をちょんちょんと叩かれ、振り向くと綾がいた。

 すると俺の耳元まで来て小声で話してきた。

 

「(購買のカスタードプリン買ってきてくれたら、後で私が陽子に写真のデータ貰って、こっそりあげてもいいわよ)」

 

「(御意のままに)」

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

「結論っ、若いとか若くないとか関係無く、しのはしのってことだな」

 

「ハッピーバースデー、シノ!」

 

 なんか無理矢理いい話風に話がまとまる感じになったぞ。

 

「きっとイサミは、大人っぽいって言いたかったんだよ」

 

「おおっ。言い回しで随分違って聞こえます!」

 

 お前朝、俺に言われた時は36歳は嫌だって言ってなかったっけか?

 

「女子高生だけどすでに人間が出来ていて、盆栽の似合う大人になれというメッセージだったんですね」

 

「うわあ、ポジティブシンキングすぎる…!!」

 

 そこまで自賛する真似、俺にはとてもできん…。

 俺とともに、綾と陽子も呆れてしのを見ていた。

 

「ありがとう、お姉ちゃん…」✧*。(ˊᗜˋ*)✧*。

 

 勇さん絶対そんな深い意味で言ったんじゃないだろうと思うけど、もうしのが元気になったからいいや。

 

 俺今日、ツッコミ放棄しすぎてね?

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

 お昼休みになり、俺は陽子と共に購買に行き、目当ての物を買い教室に戻り、陽子はしのに焼きそばパンとメロンパンを、俺は綾にカスタードプリンを献上した。

 

 その様子を見ていたアリスが何か困ったような顔をした。

 

「やっぱり、わたしも何か形に残るものをプレゼントしたいな」

 

 アリスはしのにプレゼントを用意出来なかった事を思い悩んでいたようだった。

 

「いいんですよー、気持ちだけで。私にとってアリスと一緒にいられることが、最高のプレゼントですよ!」

 

「シノ…!」。゚+.( *°⚪︎°*)゚+.゚

 

「あー、はいはい」(¯∇¯;)

 

 もうこの程度では狼狽えなくなりましたんでね、俺は。

 

「でも、どうしてもと言うなら髪の毛1本欲しいですけど。はあ、はあ、金髪〜〜」(´◎ω◎`)

 

「何か怖い!!」Σ( ̄□ ̄Ⅲ)

 

「いかん、金髪中毒者が発作を起こした!!」

 

 怯えるアリスを背にして、俺は陽子と共にしのの暴走を止めたのだった。

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

「ふー、今日も疲れたー」

 

 学校が終わり、バイトをした後、俺は帰宅して自分の部屋のベッドの上でくつろいでいた。

 

「お。綾、ちゃんと送ってくれてた」

 

 携帯を開くと、綾からメールで例のしのとのツーショット写真が送られていた。

 

「顔、強ばってら…」

 

 どうやら俺は写真を撮った時、無自覚に緊張をしていたらしい。しののほんわりした笑顔に対し、俺は笑顔が引き攣っていて固くなっていた。対照的すぎる。

 まあ、しのとの写真が撮れたってだけで満足なので、俺がどう写ってようが別にいい。

 

「峻〜。ご飯出来たわよー」

 

 俺が写真を見ていると、ドアの向こうから母親の声が聞こえてきた。

 

「ふーい。少ししたら行きまーす」

 

「冷めないうちに来なさいよ〜。……あ、そうだ。忍ちゃん喜んでた?」

 

「え?何が」

 

「だって今日、忍ちゃんの誕生日だったんでしょ?プレゼント用意してたじゃない。あげたんでしょ?」

 

 ……………………………………………。

 

「まだ渡してなかったああああああああっ!!」

 

 色々他の事に気を取られてて、すっかり忘れちまってたあっ!!

 

「母さんごめんっ!ちょっとしのん家行ってくる!!」

 

「あぁっ、ちょっと!」

 

 俺はプレゼントを入れてた鞄を持ち、自室を出て廊下に居た母さんを避けて、急いでしのの家へと向かった。

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

 ピンポーン

 

 俺はしのの家のチャイムを押した。

 10秒ほど掛かった後、玄関が開いた。

 

「すみません、飯時に失礼いたしま……」

 

 俺はてっきり、しのと勇さんのお母さんが出てくるのかと思っていたのだが、出てきたのはしのだった。

 それだけなら別にいいが、そのしのは何故か悲しそうな顔をして、目に涙を貯めていた。

 

「お、おいしの。一体どうしたんだ?」

 

「…ぐす…。お姉ちゃんに…」

 

「勇さん?」

 

 勇さんにまた何か言われたのだろうか。でも勇さんは、確かにしのをからかうのが好きではあるが、泣きっ面に蜂を指すようにこの短時間で更に意地悪をする人では無い。だってあの人実はシスコンだし。

 

「……アリスを取られましたぁっ!」・゚ ꜀( ꜆>ᯅ<)꜆゚・。

 

「………はい?」

 

 しのの感極まって涙腺を崩壊させながら言い放った発言に、俺は呆気に取られた。

 

 

 とりあえず話を聞くために、しのの家に上がらせてもらった。

 

 リビングに着く前に、廊下のしのの家の固定電話が置いてある所の横に、しのが座り込んでしまった。

 

「お、おいしの。こんな所に座り込んじゃ」

 

「イサミー!わたしこの盆栽、ずっと大事にするよー!」

 

 …………。

 

 なんかもう、なんとなくわかったわ。

 

 リビングからきゃっきゃと聞こえてきたアリスの歓喜の声に、俺はそう理解を得た。

 

「……とりあえず、毛布羽織っとけ」

 

 俺は鞄に入れてた毛布をしのの肩に掛けてあげた。

 

 

 しのから話を聞くと、勇さんがしのにスノードームのプレゼントを買ってきてくれたそうだ。季節外れだが奇しくもしのが今日学校で欲しいと言っていた、クリスマスツリーのフィギュアが中に飾ってあった。流石勇さん、しのの好み熟知している。

 100均で買ったそうだが、結構出来がいい。侮りがたし、最近の100均。

 

 で、そこの100均で勇さんは小さな盆栽の置きものも一緒に見つけて、それをアリスに買ってきてあげたそうな。

 それでアリスは大喜びし、勇さんにハートを鷲掴みされてしまったのだとか。

 

 それでしのは敗北感に打ちひしがれてしまったと。

 

 

「うぅ…、お姉ちゃんにはかないません」(-_-〣)

 

 すっかりいじけてしまっているな…。

 

「……うー、あー……、えーと、しの。とりあえず、これやっから、元気出せ。な?」

 

「?…それは?」

 

 俺は鞄から、渡しそびれていた誕生日プレゼントを取り出した。

 

「すまん、学校で渡そうと思ってたの、渡し忘れちまってて…。しの、誕生日、おめでとう」

 

 そう言って、俺はしのにプレゼントを渡した。

 

「わわっ、あっありがとうございます!開けてみても良いですか?」

 

「勿論」

 

 しのは包み紙を開いた。

 

「これは……、ロウソク?」

 

「キャンドルって言ってくれ」

 

 俺が用意したプレゼントは、アロマキャンドルだ。

 手のひらサイズのそれはピンク色の半透明で、中に花びらが数枚入っていた。

 

 女性への贈り物にピッタリと、売ってあった店のポップに書いてあったのでそれを選んだ。

 

 好きな異性に送るんなら、告白するわけじゃあないにしろもっといいもんがあったんじゃないのか、と思ったそこのあなた。下手に高価かつ、豪華なプレゼントを送って、相手に引かれたら立ち直れる自信あるのか。傷付きやすいチキンハートな男子高校生には、これが限界だったんです。

 

「変…じゃなかったらいいんだが…」

 

「え?いえ、そんな事ないですよ?とっても可愛いと思います!」

 

「そんなら良かった」

 

 

「早速、つけてみてもいいですか?」

 

「あ、ああ」

 

 そう言うとしのは、立ち上がって台所の方へと向かって行った。

 そして数十秒程すると、手にマッチを持って戻って来た。

 

「…チャッカマンとかの方がよかったんじゃねえか?」

 

「それが、見つからなかったので…」

 

 そう言うとしのはマッチ棒を1本持って、マッチの箱で火をつけようとした。

 ……腕を物凄くプルプル震えさせて。

 

「……か、考えたら、わ、私…、マッチで火をつけた事ななな、無かったでふ……!」((((;´・ω・ˋ)))

 

「待て待て待て!俺がやったるから!!」

 

 顔を青ざめて腕どころか体全体で震えながら危なっかしくマッチを擦りつけようとするしのに、俺は全力でストップをかけた。

 

 

 マッチに着火した俺は、開封したアロマキャンドルに火を灯した。

 

「わあっ…!綺麗ですね…!」

 

「…そうだな」

 

「あっ、いい匂いもしてきました!峻君、これ凄く素敵ですよ!」

 

「……それは良かった…」(⸝⸝¬_¬⸝⸝‪)a"

 

 しのの言葉に俺は照れながら頬をかいた。

 

「あ。でもそういえば……」

 

「?しの?」

 

「…峻君、前に綾ちゃんに頭に効くアロマオイルをプレゼントするとか言ってませんでしたっけ?…もしかして私も頭がおかしいと思われて…」

 

「え"っ!?はっ!?いやいやいや!!俺、そんなつもり毛頭なかったんだがっ!?」

 

 なんでそんなどうでもいい前の話(第5話参照)を、お前が覚えてるんだよ!!くそぅ、まさかの所に地雷がっ!!

 

「くすくすくすっ…!」

 

 俺が焦っていると、しのが笑いだした。

 

「すみません、冗談です♪ありがとうございます峻君。私、凄く嬉しいです!」

 

 ………ったく……。

 

 どうも最近しのによくからかわれてる様な気がする。

 

 ま、元気になったみたいだし良しとするか。

 

 ハッピーバースデー、しの。

 

 

 

 

 

 [おまけショートこぼれ話]

 

 

 ある日、しのん家にお邪魔してる時の事。

 

「ん?なあしの。あんなん前まであったっけ?」

 

 しのとアリスの部屋で、こないだあげたアロマキャンドルの横に、顔の大きさよりは小さいぐらいの箱が置いてあったのを見つけた。

 

「え?ああ!あれですか?あれは私とアリスの、"ちりつも貯金箱"ですよっ」

 

「ちりつも?」

 

「こないだシノがね、イギリスの話をしていたら行きたくなったって話して…」

 

「そこで私とアリス、2人で貯金して旅行資金にしようという事になりまして」

 

「なるほど」

 

「でも、私達は高校生ですのでいきなり大した金額は貯めることは出来ません。だから、毎日少しづつ入れる事にしたんです」

 

 それでちりつも、塵も積もれば山となるって事ね。

 

「で、1日にいくら入れてるんだお前ら?」

 

「1人10円づつです!」

 

「…………」

 

 胸を張ってそう答えたしのに俺は言葉を失った。

 

 しのとアリス2人で入れて1日20円。それを10日やれば200円。1ヶ月やれば大体600円。

 1年やって………7300円……。

 

 2人分の旅行費貯めんのに何年、いや何十年かかんだよ。いや、仕事して稼げるようになったら貯金額増やすだろうけどさ。

 

「はぁ……。よし、俺もお前らの旅行貯金に協力してやるよ」

 

 そう言って俺はちりつも貯金箱に10円を入れた。

 

 本当はもっと高額を入れたいのだが、2人の意志を無下にする様な事は出来ん。

 

「ありがとうシュン!旅行する時はシュンも一緒に行こうね!」

 

「それではこのちりつも貯金で、峻君の分の旅行資金も貯めましょう!」

 

「それじゃ、意味ねーだろうがっ!」Σ\( ̄Д ̄;)

 

 

 ~See you, next time!~




忍の誕生日回、このオリ主なら絶対外せないイベントです。…2年生以降は原作では元になる話がないからどうしよう(笑)

アニメの話を分割してやっている為、サブタイトルと内容が違う時はなるべくきんモザチックにタイトル名をオリジナルで考えているんですがこれがもう難しいです。

それではまた次の話が出来るまでお待ち下さいませ。

……アリスのあの歌って使用楽曲に引っかかったりしないよな?

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