へんたい賢者はメイド幼女に踏まれたい   作:ももいっぷ

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へんたいと幼女
ようじょとまりょく


 

 魔法と幼女の関係性は実に奥深いものだ、と最近強く思う

 

 魔法に必要な『魔力』、それは基本的に日常で得られるほんの小さな幸せ……例えば朝ごはんが美味しかったとか、天気が良くて気持ち良いだとか、好きな人と会話できたとかそんな些細な事で補充できる。

 

 しかし大きな魔力を持つ者、例えばぼくの様な――賢者と呼ばれる存在なら別だ。

 

 大きな魔力には大きな幸せが必要になるが、困ったことにぼくはちょっと、ほんのちょ~っと特殊な趣味を持ち合わせているためこれがまた難しい。

 

 具体的にはその、女の子に踏んでもらったり、罵ってもらったり、耳元で「ざぁこ♡」なんて言われる事が大好きな……そんなことでしか魔力を補充出来ない、それだけが趣味の健全な賢者なんだ。

 

 これは、そんな残念な賢者のぼくと、なんだかんだ言いつつも魔力回復に付き合ってくれる幼きメイドの少女との、ちょっとした日常の切れ端である。

 

 

 

 

 「アリスちゃん、今日こそコイツにチャレンジしてみよう」

 

 やった。やってしまった。冒険者ギルドからボーナスが出たため、ついつい衝動買いをしてしまった。

 

 『よく分かるメスガキ入門』。

 立ち寄った雑貨屋にて大きく宣伝され掲げられていたこの本は、まさしく魔性、僕の心を惹きつけて離さなかった。

 

「ほらほら、なんかこの表紙の子とかアリスちゃんにちょっと似てない?」

 

 アリス。うちで働いているちっちゃなメイドの少女の名だ。

 

 まだ年端もいかない人間の少女のように見えるが、種族はエルフで実年齢は僕より少し若いくらい。合法なんとかってやつだ。

 腰まで届く長い黒髪はエルフには珍しく、白く透き通った美しい肌に空を思わせる碧眼の瞳。天使って言葉がこれほど似合う子を他に知らないが、そんな少女が冷たく物を言う。

 

「はあ」

 

 どうやらアリスちゃん、興味なさげ。

 手元の食器を水場で洗いながら、こちらをチラリと一瞥しただけでリアクションを終えてしまわれた。

 しばらくの間、かちゃかちゃと銀の器が触れ合う音だけが狭い部屋に響く。

 

 うーん、もしかしてコイツはあれかい、放置プレイってやつかい! 回復しちゃうなぁ、魔力……。

 しばらくそんな眼差しを向けていると、はぁ、と再びため息をついて彼女は振り返った。

 

「なんですか」

「新しいオモチャだよ、アリスちゃん」

「わたしにはとても、おもちゃにはみえないのですが」

「そうかい? ぼくは違うな。コイツはとっても素敵でユニークなオモチャに見える。

 ――大人の、ね」

「しんでください」

 

 ばっちりウインクまで決めて仕立てたというのに、アリスちゃんはドブネズミを見るより嫌悪した目で僕を見た後、そう吐いて一切の無視を決め込む。

 

「……」

 

 一方、僕は幼い少女の甘美な罵倒に心を揺さぶられ、満たされていた。

 この本を読んでもらい、アリスちゃんに内なるメスガキ属性を植え付けようと画策していたのだけど、結果オーライ。そんなことはしなくとも、彼女は素質充分だ。

 

「ありがとうアリスちゃん。元気が出たよ」

 

 ひとしきり感動の余韻を味わうと、今度は木造の床に横になる。

 

 アリスちゃんは背が低い。幼女だから。

 

 なので、もう十数分は洗い物をしていると思うけど、ずっと爪先立ちだ。

 我が屋敷の水場は、元々ぼくが扱っていたので背が高い。彼女にとっては、それは辛い事だろう。

 だから、ぼく自身が台になってあげる事にした。

 

「かもん」

「……」

「……」

「……」

「……」

 

「たのしいですか?」

「そんなに」

 

 この時期の床は冷たく、アリスちゃんの視線は更に冷ややかなものだった。

 

「まったくもう。これからせんたくですから、じゃましないでくださいね」

 

 最後にそういい残して、アリスちゃんはさっさと水場から去ってしまう。

 さて、ひとり残されてしまったけど……どうしよう? さすがに冗談が過ぎただろうか?

 

 

 ……アリスちゃんはまだここに来て一ヵ月ほど。仕事には慣れたけど、ぼくとの距離感はまだ測りかねてる気がする。

 

 元々メイドギルドで修業を積んでいたアリスちゃんだけど、彼女の様な黒髪はこの辺りでは不吉の象徴として忌避されていた。

 

 他にも、諸々の事情はあるのだけれど……もちろん、ぼくはそんな事は気にしていない。

 だからって訳でもないけど、メイドさんを雇おうと立ち寄ったギルドで他の人間達から仲間外れにされ、ぽつんと寂しそうにしていた彼女を放ってはおけなかった。

 

 早く慣れてほしい、せめてここでは笑顔でいてほしいと思って明るく接してきたつもり……だけど、ひょっとしてぼくの距離感っておかしかったりするのかな?

 

 

 ――なんてことを頭の中でぐるぐる考えていたら、とてとてと何かを抱えて戻ってくる小さなメイドさんの姿が見えた。

 彼女は少し息をきらしながら、困ったような表情を浮かべて、

 

「……やっぱり、まだこうしてたんですね」

 

 そう言うと、手に持っていたもの……くまちゃん柄の、アリスちゃん専用バスタオルをぼくへ手渡した。

 

「かぜひいたらどうするんですか、もう」

「ごめんね。ちょっと昔を思い出していてさ」

 

 寝転んでいる僕を心配して持ってきてくれたのだろう。

 どうやら杞憂だったようで、全く、アリスちゃんには本当に頭が上がらない。M的な意味でも。

 

「これでいつでも踏んでくれたら、台(大)興奮なんだけどね」

 

 言いながら、とりあえずバスタオルに鼻をうずめて匂いを嗅いだ。

 

「ななな、なにしてるんですかっ!」

「フローラル」

「やめてくださいっ!」

 

 途端に手元から離れていく、くまちゃんバスタオル。

 その先には、ぜいぜいと息を荒げながら、顔を真っ赤にしてタオルを抱き寄せる幼女ちゃんのカワイイお姿があった。

 

「……まあ、今はこのままでいいかもしれないな」

 

 あの頃に比べると、彼女は様々な表情を見せてくれる。

 もしかしたら、少しずつ信用してきてくれているのかもしれない、なんて思ったり。

 

「アリスちゃん、アリスちゃん」

「……ふみませんよ」

 

「この屋敷に来たからには、もう遠慮なんてしなくていいからね。今まで出来なかった事、何でも言ってよ。僕は君を、出来るだけ手伝うからさ」

 

「……なんですか、いきなり」

 

 そっぽを向くアリスちゃんもカワイイ。

 

「そんなこといったって、ふみませんよ」

「え、マジ?」

「マジです!」

 

 なんて、彼女は言うけれど。

 そうは言われつつも期待しちゃうのが主人の性。

 何だかんだこうしてぼくに付き合ってくれているし、ひょっとしてアリスちゃんってツンデレなのだろうか。

 

「……まあ、ごしゅじんさまがほんとうにのぞむなら、やってあげないことも」

「ん? 今何か魅力的な」

「なんでもないですへんたいさんっ!」

「唐突な罵倒系ヒール!」

 

 アリスちゃんの罵倒ならば、ダメージどころか超回復に変えてしまう、恐ろしい特性(特殊性癖)を得たようだ。

 さすがにドン引かれる可能性があるので、本人に伝えるのはまた後日。

 

 いつか、何を言っても笑顔で罵ってくれるくらい信頼し合える関係を築いてみせよう。

 今はまだ、準備期間といったところだろうか。

 

「だからその時まで待ってるよ、アリスちゃん」

「いつになっても、ごしゅじんさまの望む未来はおとずれませんからね……」

 

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