へんたい賢者はメイド幼女に踏まれたい   作:ももいっぷ

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なきむし エーミア

 

 朝、アリスちゃんのメイド服が家具に引っかかってびりびりと裂けちゃったんだよね。

 そんなわけで今日は町の中心へ。

 

 メイド服は防具屋で取り扱っている訳なんだけど……。

 

 防具屋は武器屋と比べて数も種類も多い。

 防具といっても鎧やローブだけではなく、一般市民の普段着からメイド服まで取り扱っている店が並んでいて、幅広い客層に対応している。

 

「アリスちゃん女の子だし、こういうの好きそうだよね」

「まあ……きらいじゃないです」

 

 言葉だけじゃあ伝わり難いけど、アリスちゃんの目はきらきらと輝いて見える。

 女の子だなあ。

 

「さあてアリスちゃん。すぐにメイド服を買って帰るのもいいけど……」

「すぐに、ですか」

 

 アリスちゃんの表情が一転、急にしょんぼりとした雰囲気を纏ってしまう。

 ふふ。やっぱり、予想通りの反応。

 

 メイドギルドでは外出の機会も少なかっただろうし、辺りに並ぶ様々な衣服を、周りの人たちと同じ様にゆっくりと見て周りたいのだろう。

 ぼくはアリスちゃんの主人だからね。彼女の心はよく分かっているつもりだ。 

 

「――せっかくだし、色々と見ていこうか」

「!」

 

 もうね。

 この時のアリスちゃんの笑顔の眩しさと言ったら、つい自宅に軟禁して後世に残しておきたくなるなるようなモノだ。

 アリスちゃん検定上級の僕から見ると、この笑顔は九十点といったところか。

 

 しかも、この機会にシンプルなメイド服から様々な衣装のアリスちゃんを見られるかもしれないのだ。

 回復術師の白ローブを纏った清楚な姿。

 動きやすさを重視してか布地が少ないシーフの衣装で恥じらう姿。

 ただの町娘のような格好だって、アリスちゃんだからこそくるものがある。

 ……このチャンス、今度こそモノにしてみせよう!

 

「し、しかたないですね。ごしゅじんさまがどうしてもっていうなら、つきあってあげても」

「どうしてもですお願いします!」

 

 勢い余って地面に額を擦り付けてしまった。

 人の目? そんなもの、ぼくとアリスちゃんの前にはあってないようなものだ。何なら靴を舐めてもいい。

 むしろ舐めさせて欲しいくらいだ。

 

「や、やめてください! みなさんみてますっ! ふしんしゃさんだとおもわれちゃいますっ!」

「むしろ興奮する」

「……。……ああ、そうでした。もとからそうでしたね、ごしゅじんさまは……」

 

 ちっちゃなお手手で頭を抱えるアリスちゃん。小動物みたいでかわいい。

 ぼくはぼくで、アリスちゃんからのサラリとした罵倒に悶えていた。つい条件反射でもっと言ってと懇願する。

 

 ……いつの間にかぼくらを囲っていた人々の視線が、早々に犯罪者か変態を見るものに変わっていく。多分、そろそろ衛兵あたりに通報されるかもしれない。

 

「……」

 

 しかしそんな視線の中に見知った顔が一つ。

 友人の神官少女、エーミアだ。

 透き通るようなエメラルドグリーンの瞳はしっかりと、アリスちゃんに土下座しているぼくを写している。その表情は当然呆れていた。

 

 でも、彼女がこんなところにいるなんて珍しい。もしかしたらぼくに用事があって、つけてきたのかもしれない

 

「アリスちゃん、ちょっと待っててね。帰ったら結婚しよう」

「やです」

「知り合いがちょっとね」

 

 そう言ってエーミアの方向を指差す。

 

「……しりあいって、べつのじょせいのとこですか。そうですか。ごしゅじんさま、またほかの子に……」

 

 ぷくっと頬を膨らませて不満げなアリスちゃん。

 うーん。ぼくとしてもアリスちゃんを一人にするのは不安なんだけど、まだ二人を対面させるのは難しいと判断してのことだ。

 

「いい子にしてたらおやつ買ってあげるからさ」

「……む。やくそくですよ」

 

 そう言うとアリスちゃんは、ちょっと嬉しそうにお店の中を見て回り始める。

 かわいいなぁ。早くぼくも色々着せ替えしたアリスちゃんを見てみたいものだ。

 

 なんて思いながら、一応防護魔法を一帯に施しておいて、足早にエーミアのところへ向かった。

 

 

 

 

「う。やっぱり来たわね変態……」

 

 エーミアは防具屋を出てすぐの所にいた。もんもんと言いぼくを見るなり罵倒するなんて、友人に恵まれていると心から思う。

 

「あの子はいいの? 女の子一人残しちゃうなんて」

「エーミアが随分と情熱的な視線を向けて来るからさ、つい」

 

 そう言うと、額に手を当てて呆れた様にため息を吐かれた。でも満更でもなさそうなところが、素直じゃない彼女の性格を表していてかわいいね。

 

「それで、今日はどうしたの?」

「ただの買い物よ」

 

 どうやらぼくの予想は外れたらしい。

 

「へえ、珍しいね。もしかして誰かと一緒とか?」

「……」

「あ、あれ?」

 

 その瞬間、きっ! と彼女はぼくを睨む。

 

「……一人よ、悪い? 大体、集団で群れないと防具屋にすら来れないとか、そっちのがどうかしてるわ! 本来防具屋はもっとこう、殺伐としているべきなのよ。友達? はっ、笑っちゃうわ。本来なら私みたいなのが一番正しい客であって……ぐす」

 

「うん分かった。ごめん、ごめんね」

 

 ああ、そうだった。彼女は友達がいないんだった。若干涙目になって捲くし立てるのを見ると申し訳なさがこみ上げてくる。ごめんなさい。

 

「えーと、じゃあ、ぼくはもう行くね」

 

 ……よし、とりあえずこの場から離れよう。またどこでエーミアの地雷を踏み抜いてしまうか分からない。こう見えて彼女は泣き虫な所があるのだ。

 

「わた、わたしだっでね……」

 

 あ、もう遅かった。

 

「……どうぜ、どうぜあんたもバカにしてるんでしょっ!? わたしのこと、友達のいない寂しい人間だっでぇ!」

「よしよし、落ち着こうね」

 

 これはマズいかもしれない。涙目で、まるで酔っ払いみたいにじわじわと頬が紅くなっていく。

 本格的に泣き出す合図だ、分かり易いなあ……。

 

「……わだっ、わだしだっでね! 努力したわよ! でも、でも、うまくじゃべれなくで、『エーミア様って、近寄りがたい雰囲気があるよね』とが陰でいわれで、それでぇ……」

 

 あ、まずい。

 

「うんうん。わかるよ。ところで、」

「わがるなばかぁっ!」

 

 睨まれた。

 

「辛かったね。うん。それより、」

「うぞだぁっ!! どうぜ、あんだもわだじをバガにしてるんでしょぉーっ! このむねたいら、ぺちゃぱいってぇ!」

「してないよ。ごめんね。それで、」

「どうぜっ、どうぜ幼い子にしか興味ないんだぁ……っ! あのメイドと同じ様に言葉攻めで悶える気なんだぁ……っ! へんたい……っ」

「待ってねやめてね何言ってるのやめようね」

 

 もう埒が明かない。こうなった以上、彼女がは半日ほど正気を取り戻す事はないだろうなぁ……。

 周囲に誤解されかねない彼女の言動を必死で宥めてはいるけど、時既に遅し、ぼく達への視線が熱い。

 そりゃそうだろうね。ぼく、幼女に土下座した後に外で他の女の人を泣かせてる様に見えるんだもんね。

 

 賢者様、変態疑惑。ちょっと社会的地位が危ういね!

 

「どうぜっ! どうぜわだじなんで一生ぼっぢですよぉーだ……っ!」

「よしよし、よしよし」

 

 ついに座り込んで泣き喚き始めた彼女を見下ろしながら、ぼくは珍しくため息を吐いて青空を仰ぐ。

 

 ……結局、アリスちゃんの様々な試着姿は拝めぬまま。

 満足そうなアリスちゃんを連れておやつを買い、そそくさと帰路に着くのだった。

 

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