へんたい賢者はメイド幼女に踏まれたい   作:ももいっぷ

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ぼうごまほう

 

「お、もうすぐ城門だ。ほら起きて、アリスちゃん」

 

 武器屋で用を済ませたぼくらは現在、小さな馬車に揺られていた。

 目的地はもちろん町の端、外の世界を繋ぐ大きな城門だ。

 

 だから少し時間が掛かってしまうんだけど……馬車の揺れ心地がお気に召したのか、アリスちゃんは早々に寝入ってしまったよう。 

 今ならもちもちほっぺをいじり放題だな、食べちゃうぞ! なんて思いながらそっと頭を撫でてあげる。

 

「……むにゃぅ」

 

 くすぐったそうに少し身を捩らせて、アリスちゃんは再び寝息を立て続ける。嗚呼、生まれ変わったら気体になりたい。アリスちゃんの寝息を文字通り身体全体で感じられるからね。

 

 ……そんな風に輪廻転生について思いを馳せているうちに、馬車は城門前で足を止めた。

 席から降り立ったぼくを迎えるのは三人の衛兵たち。ここの門番だ。

 

「賢者様。ご無沙汰しております」

 

 分厚い鉄の仮面に表情を隠し、いつ如何なる時でも礼節を欠かさない彼らはビシっと敬礼をする。

 そんな彼らを見てぼくは――深いため息をついた。

 

「? どうされました?」

 

 ぼくは重装備の女の子も好きだ。もちろん身体のラインがしっかり出た装備も捨てがたいけど、分厚い鎧の下がどうなっているかなんて誰にも分からない。それゆえ、自由に想像することが出来るんだ。

 

 だというのに、ここの衛兵たちは揃いも揃ってフルプレートアーマー。

 せめて顔をお出ししてくれよぅ、とか細い声で鳴いても首を傾げられるばかり。世知辛い世の中じゃのう……。

 

「……いつものことだ、気にするな。お前たち、下がってなさい」

 

 三人のうち一人、より傷の多く刻まれた鎧を纏う人物がそう言って、部下であろう衛兵たちを馬車から遠ざける。

 いつものことっってどういうことだろう。まさか、ぼくの趣味について町の端っこまで広まっているとかないよね!

 

「伝令は承っております、賢者様。しかし、今日はまたどういったご用事で?」

「うちのかわいいお姫様がちょっとね」

「姫? ……ああ、なるほど」

 

 言われてアリスちゃんに視線を向けた門番の声音が、少し厳しくなった。

 黒髪のエルフは魔族の血が流れている――そんな事を、国中の人間が噂している現状。

 無理もない反応だけど……。

 

「何?」

 

 もちろん、面白くもない。

 

「……失礼致しました」

 

 そう言って、ぼくは用意された手続きを進める。

 町の外に出る。ただそれだけの事で、随分と面倒なものだと思う。

 

 

 ……ぼくらの住む国 "ノーチラス" は不思議な構造をしている。

 

 大きな町と町を繋ぐのは人工的に舗装された道などではなく、鬱蒼として出口の見えない森や巨大な洞窟。

 いかにも何か出そうなこれらの中は、想像の通り魔物で溢れ返っている。もちろん人を見れば襲ってくるし、戦闘経験の少ない一般市民では太刀打ちできない。

 

 こういった場所はシンプルにダンジョンと呼ばれ、人が安全に住める町々とダンジョンを隔離するため城門が作られた。

 だから、ここを通過するには新米冒険者以上の戦闘経験があることを証明する手続きが必要。

 人にもよるが、これだけで数日を要することもあるって話だ。

 

 一応賢者として知られているぼくは緩い方で、普段はほとんど手続き無しで出入り出来るんだけど……今回はアリスちゃんがいる。

 まあ、今回選んだ東のダンジョンは比較的弱い魔物が多い。少しだけ面倒な書類等の手続きを済ませる必要があったんだよね。

 

「……はい、確認出来ました。それではお通り下さい。どうかお気をつけて」 

「よし、それじゃあ行こうかアリスちゃん」

「ふにゃ」

 

 まだ少し眠たげなアリスちゃんの手を引いて、ぼくたちは重々しく開いた城門を潜り抜ける。

 

 

 

 

 東のダンジョンは『迷わずの森』と呼ばれている、新米冒険者向けのダンジョンだ。

 木々が鬱蒼と生い茂り、木漏れ日から僅かな光が漏れ出ているだけで一見暗そうなイメージの湧くこの森はしかし、既に冒険者ギルドの手によって多くの整備が成されている。

 人工的に舗装された道、それらを照らす一定間隔で設置してあるランプ、所々に建ててある『この先魔物注意』の立て看板。ご丁寧にも出てくる魔物の種類に生態や弱点まで書いてあって、至れり尽くせりな迷わずの森。

 

 ……危険な外に冒険に出るぞ! と意気込んだ新米冒険者たちが揃いも揃って、その落差に落胆する。それくらい人の手が入っているダンジョンなんだけど……うちのアリスちゃんといえば。

 

「わ、わぁ……っ!」

 

 とてとてと可愛らしく駆け出して、視界に入るほとんど全てのものに目を輝かせて興味を示していた。口元なんか嬉しそうに綻ばせちゃって。

 うんうん。これなら連れてきた甲斐もあるってもんだね! 

 

 だけど一応ここはダンジョン。アリスちゃんには武器屋で買った、一番軽くて取り回しの利くナイフを持たせている。しかし、魔物も小柄な少女のナイフでサクッとやられるほど軟じゃない。

 

「アリスちゃん、ちょっといいかな」

「はいっ!! なんでしょうかっ」

 

 おおう、返事もいつもより気合が入ってる。絵本の中に入れたようで、それはもう興奮しているみたいだね。

 だけど油断は禁物だ。ここはひとつ、簡単な防護魔法を施しておく事にしよう。

 

「目を閉じて、アリスちゃん」

「はいっ! 目を……えっ」

 

 ぼくはそう言って、自身の目線を彼女に合わせるように顔を近付ける。 

 

「ふぇ……っ!?」

 

 しかしアリスちゃんは何故か頬を赤らめ目をぱちくりさせて、あわあわと口を動かすばかりで目を閉じようとしない。また何か気になるものでも見つけたのかな?

 

「ど、どうしたんですかっ。なんでこんな、きゅうに……」

「大丈夫。すぐに済ませるから、ちょっと我慢しててね」

「……あの、その…………。……はい」

 

 何か壮大な覚悟を決めたように、きゅっと目を瞑って口をつむぐアリスちゃん。そんなに気合い入れなくても。

 まあでも、こうして直接魔法をかけるのは珍しい事だから緊張しているのかな? これも、ダンジョンと魔法というシチュエーションが成せる業なのかもしれないなぁ。

 

 よし、じゃあパパっとやっちゃおう。

 ぼくは自分の前髪をかき上げながら、アリスちゃんのおでこと自分のをくっ付ける。

 

「ひゃうっ」

 

 すぐ目の前から可愛らしい声が漏れて、ぼくはゆっくりと離れた。もう大丈夫だよと言うと、

 

「……なんですか、いまの」

 

 やっぱり頬を赤らめて目をぱちくりさせたお姫様が、しかし今度はいつもの口調で聞いてきた。

 

 詳しく言えば、これは自分の魔力を他人に移す魔法だ。人の魔力量には限界があるから多くは難しいけれど、エルフのアリスちゃんなら直接ぼくの魔力の一部を移しても問題は無い。

 これで何か身に危険が迫ったとしても、移した魔力がアリスちゃんを保護してくれる。

 そんな説明をすると、アリスちゃんは。

 

「まほうのため、ですか……」

 

 とりあえず納得は出来たような、しかしどこか不満げな様子でそう呟く。

 うんうん、何の説明も無しに肌に触れたらびっくりするよね。でもこれは魔法の為なんだよね! 仕方ないね!

 

「ダンジョンは危険がいっぱいだからね。ちょっと恥ずかしかったかもしれないけど、これくらいは我慢してね?」

「そうですか。ありがとうございます。……でも」

 

 すたすた、と距離を取って進みだすアリスちゃん。

 ちょっとやり過ぎちゃったかな? せめて事前に説明すべきだったかなぁ……なんて思っていたら、アリスちゃんがくるり、と振り返る。

 

「ごしゅじんさまの、……ばか」

 

 言葉と裏腹に、そう言う彼女の口元は笑っていた。

 同時にぼくの口角も吊り上がっていた。

 

「もっと言って!!!」

「え……い、いやです! はんせいしてください!」

 

 アリスちゃんに使った魔力を10とするならば、今ので1000は回復した!

 こんなことなら、毎日でも掛けちゃうんだけどなぁ防護魔法! ダンジョン最高! 魔法最高! アリスちゃん最高!

 

「なんでごしゅじんさまのほうが、うれしそうなんですか……」

 

 呆れるアリスちゃんを尻目に、ぼくは暫く小躍りするのだった

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