一生完成しないから、供養。続かないよ。
博麗霊夢は
博麗霊夢は、クラスにおいて、いわゆる一匹狼のような立ち位置を与えられている。――一匹狼という称号が、果たして他者から与えられるものなのか、という疑問はあるが。
入学式やクラス替え直後にあった、友達作りという名の一種の群れの形成。特に女生徒によく見られる行動であるそれを、博麗は一切行わなかったし、クラスメイトから話しかけられても、愛想のある対応などせず、素っ気ない反応しかしない。なんなら、不機嫌です、と言わんばかりの表情を隠さなかった時さえある。私は、あいつが笑っている絵というのを未だかつて見たことが無い。学校という1つの社会の中でパック(群れ)を形成せず、単独で放浪する姿は、まさに一匹狼のごとく。
しかしコミュニケーションに消極的だと言っても、彼女は別にコミュニケーションができないわけではない。学校の授業では、隣の席の奴とペアを組むことや、5~6人で班を形成してグループワークをすることも度々ある。そういった場面では、博麗はむやみに単独行動をとることはしない。場の流れに合わせて、教師にやれと言われたことを淡々とこなしていく。その姿を見ると、博麗の普段の立ち振る舞いが、むやみに他者を傷つけるためのものではなく、単にマイペースな性格故のものだと気付くだろう。とはいっても、円滑なコミュニケーションが得意という訳でもないため、人目を気にしない、明け透けな発言でグループの空気が悪くなる、ということも決して少なくない回数あったようだが。
博麗はいつも教室の隅の方で、一人
頭は相当いいようで、学年トップクラス。
今時、学校がテスト結果や順位を公に張り出すなんて、教育委員会も真っ青になる(PTAは真っ赤かもしれない)蛮行を仕出かすことはないし、そのうえ博麗と仲の良い生徒なんてものは、少なくとも私の通う高校には存在しないために、信憑性は定かではない。しかし、聞くところによると、案外博麗は聞けば答えてくれるらしい。そのことを知っている恐れ知らずの話によれば、少なくとも1年次の定期テストでは、上位10位以内。それも全教科で、ということらしかった。赤点ばかりの私なんかとは比べるのも烏滸がましいが、これが才能というものだろう。
運動神経もかなり良い、はずだ。
はず、というのも。毎年体育の授業で必ずやる、50m走や長座体前屈などの学生には馴染み深い新体力テスト。博麗は体力テスト
群れることをしない博麗は、いつも一人である。かといっていじめにあっているということでもない。ディープな意味でもライトな意味でも、(疎まれてはいるかもしれないが)博麗が迫害されているということは、一年以上同じ教室で授業を受けてきた私の知る限り、ない。いつだって博麗は、そこにいるのが当たり前みたいな顔をして、教室の隅で、ぼんやりとしているのだった。己の周囲に壁を作っているのだった。
そこにいるのが当たり前で。
ここにいないのが当たり前のように。
まあ、だからと言って、どうということもない。高校生活を三年間で測れば、ざっくり千人の人間と、生活空間を共有する訳だが、一体その中の何人が、自分にとって意味のある人間なのだろうか、なんて考え始めたら、とても絶望的な答えが出てしまうことは、誰だって違いないのだから。
たとえ2年間クラスが同じで、もし3年目も同じだったとしても、それでまともに言葉を交わさない相手が一人いたところで、私はそれを寂しいとは思わない。それは、つまり、そういうことだったんだろうな、なんて。後になって回想するだけだ。数年後には、博麗の顔なんて思い出すこともないし――思い出すこともできないのだろう。
それでいい。博麗も、それを望んでいるさ。博麗に限らず、学校中、いや、世界中の人間全員きっと、それでいいはずなのだ。こんな当たり前のことを、わざわざ考えることの方が、本来的に間違っているのだから。
そう思っていた。
しかし。
そんなある日のことだった。
正確に言うなら、二年生の一学期が終わって、私にとって御伽噺のようだった夏休みの幻想が明けたばかりの、九月一日のことだった。
例によって遅刻気味に、私が校舎の階段を駆け上がっていると、ちょうど踊り場のところで、空から女の子が降ってきた。
それが、博麗霊夢だった。
それも正確に言うなら、降ってきたのではなく、飛んでいた。
ふわり、と。
博麗が私の視界に入ってから今の今まで、一度も床に足も、手も、体も触れることなく。ゆらり、ゆらりと。不規則に宙を漂っていた。
偶然か、すれ違うように下へ下ろうとした博麗を、私は、咄嗟に、手首掴んで、繋ぎとめた。
無視するべきではなかっただろう。明らかに常軌を逸した光景だったのだから。
いや、間違っていたのかもしれない。
何故なら。
思わず、といった様子でこちらを振り返った博麗の顔が――――笑っていたからだ。初めて見た彼女の笑顔は。口角が上がった形式だけ整えた笑顔は、いっそ不気味で。何より、瞳孔がない、薄ら白く発光している瞳は、この世のものとは思えないような怪しさがあった。
その理解できない悍ましさに、反射的に距離をとると、博麗はこてんと、首を横に傾げて、くるりと回って、今度は上へと飛んで行った。
ふわり。ゆらり、と。踊るように。舞うように。
博麗は、私に背を向けて、空を飛んだ。
阿良々木は霧雨魔理沙。
怪異に遭うのは人間の少女。
怪異は妖怪。
親和性高いと思うんだ。