化物語って、怪異とは何かの説明ないってヤバくないですか?考えられないんですけど。西尾維新ぇ......。
ひどい目に遭った。
あの後、浴室の外から手を伸ばしていたい私と、服を脱がせて室内に入れたい博麗との戦いは、結局、私の敗北で幕を閉じた。
先に言っておくが、全裸にはなっていない。今日初めて会話をしたんだ。そんな奴の家に招かれているというだけでも、いろいろすっ飛ばしているというのに、そのうえ服を脱いで、全裸で一緒になってシャワーを浴びるなど、いくら人間性を捨てた私でも、できないものはできない。
制服の下にはショーパンと薄手のシャツを着ていたので、その格好で付き合ってやった。
それでも濡れるもんは濡れる。博麗宅は、特別広いわけではない。むしろ最低限の機能しかない、狭い部類に入る。目の前で、手の届く範囲にいる奴が、こちらのことを何も気にせずシャワーを浴びれば、そりゃ当然のことだが、ビショビショになる。
「あーもう。やってくれたな......」
「つべこべ言わずに入ればよかったのよ。それを長いこと愚図っちゃって。幼稚園児じゃあるまいし」
「お前には恥じらいってもんが無いのか!」
「恥?何に恥を感じる必要があるのかしら?別に見られて減るもんじゃないし、これが一番合理的だっただけよ」
「お前が気付いてないだけで、他にもいろいろ奪われてるんじゃねえの?」
年頃の女の子だろうに、この反応はどうにかならんのか?
ぽんぽん目の前で服脱ぐわ、一切隠そうとしないわで、私が無駄に気を遣う羽目になった。
洗面所に置いてあったタオルを借りて軽く水分を拭き取って、放り投げた制服を持ってから居間へ移動した。博麗も私の肩を掴んで、後に続く。
すっぽんぽんで。
いや、着替え用意してなかったから仕方ないけどな。身を清めるためだから、脱いだものをもう1回着るわけにはいかないし。
でもなぁ......。同じ女子高生として、ドン引きを禁じ得ない。
頼むから、一欠片だけでも恥じらいを持ってくれ......。
「さて、何を着ようかしら」
「なんでもいいから早くしろ」
「清潔な服ねえ。白い服の方がいいのかしら?」
「知らねえよ......」
「ショーツとブラは何色がいい?」
「知らねえよ!」
「耳元で喚かないで。相談してるだけなのに、どうして大声を出すのか。訳が分からないわ」
「半裸で全裸にお着換え相談されてる、この状況の方が訳が分からない!」
「あ、こら」
流石にこれ以上は付き合いきれん。
博麗の接触する手を振り払って、ちゃぶ台横に座る。付き添いとしての義理はあるので、博麗の姿は視界内に留めておく。
博麗は不満そうな声を上げたが、諦めたのか下着選びに戻った。
「ドライヤー借りるぜ」
「おー」
気のない返事を聞き流して、ドライヤーで髪や服を乾かす。
すぐ目に付いて取り出しやすい場所に置いてあったが、しかし散らかっているということはない。使いやすく、それでいてきちんと片付けられた部屋だった。
幼い頃から実家の手伝いをしていたと言っていたし、一人暮らしになってもしっかり掃除をしているらしかった。
しっかりした奴なのか、適当な奴なのか、本当に難解な人間性をしている。
「てか、あんた魔法使いよね?」
「まあ、そうだが」
「魔法でどうにかできないの?髪乾かすくらい」
微妙に、嫌な質問だな。
「あのな。私は魔法使いになってまだ1カ月程度しか経ってないんだぞ」
「そうだっけ?」
「そうだよ。だから碌な魔法は使えないぜ」
「なんだ。面白くないわね」
「別にお前を楽しませるために覚えてるんじゃない!」
「じゃあ何ならできるの?」
無駄に挑発するような声音だ。
こんなのに乗ってやるほど私は安い女ではないが。まあ?舐められたまま、ってのはいただけない。
ふわっ、と。
「お」
胡坐をかいたまま体を宙へ浮かす。今朝の博麗に似ているかもしれない。
魔法使いには、適正というか、親和性というか。ともかく、得意な分野があるらしい。わたしの得意分野の一つが飛行だ。初めて成功させた魔法で、イメージするだけで簡単に成功した。
クルッと180度横に回転して、上下逆さまになって博麗を見やる。
どうだ?自分で言うのもなんだが、ちょっと凄くないか?
「でも、それもう見たわ」
「え?......あ、そっか」
そういえば、学校で見せてたな。
「他には?」
「......」
「......ないの?」
「まあ、新米だし......」
「......」
「......」
「......ふっ」
私は静かに床に座った。
くそっ。
「せめてもの情けよ。あんたのドヤ顔は、見なかったことにしてあげる」
うるせぇ。この露出魔。
私は心の中で悪態をついた。
「それで」
言いながら、箪笥から取り出したスカートみたいな白い布に足を通す博麗。あれは裾除け、だったか?にしては短いな。膝丈しかない。
「あの胡散臭い奴に何を頼まれてたの?」
「え?何の話だ?」
「あとで、あんたに訊きなさいって」
「えーっと......」
ああ。
そうだ、思い出した。
「あいつがここにやってきたのは最近の話でな。転々と日本中のいろんなとこを巡っているんだ。で、各地で奇妙な出来事に直面して困っている人を助けて回ってるんだよ」
「奇妙な出来事?」
「主に妖怪によって起こされた事件さ。今のお前みたいにな」
妖怪。独立した妖力の暴走。
それは空想の産物。それは妄想の具現化。それは幻想の残骸。
人間の恐れが形を持った存在。
ぶっちゃけ私も曖昧にしか理解していないが、簡単に言うと、人間が「こんなのが、もしいたら......」って考えを設計図に生まれる怪物である。
「妖怪ねぇ......」
「なんだよ。お前も当事者なんだから、今更信じないとか言わないだろ?」
「当たり前よ。で?あの妖怪は何、ボランティアの妖怪とでもいうのかしら」
まだ信用していないのだろう。謝礼を断られたことを根に持っているらしい。
タダより高い物はない、という諺もある。相手が化物であることも加味すると、その警戒は妥当なものだろう。
だが、今回は例外だ。
「私もアイツに助けられた口だが。あいつの
「なら、自分のため?」
「いや、妖怪のためだ」
「え?」
呆けた顔をする博麗。
そういうリアクションになるわな。私も同じだったと思う。
妖怪に困っている人間に手を差し伸べる。しかし、
これは妖怪の生態が関係している。
先も述べた通り、妖怪は人間の想い、恐れ、感情から生まれる存在だ。そして、人間の感情を糧にして生きる存在だ。
「妖怪は人間の感情を食って生きている。つまり、人間に忘れられると死んじまうんだよ」
「えー。それ結構ダメな欠陥じゃない?」
確かに。かなり歪な生き物だと思う。そもそも生き物と呼んで良いものなのか微妙だが。
妖怪の大半は、人間を害する本能を持っている。ちょっとしたいたずらから死に至るようなものまで、いろいろだ。
そして本能に忠実に生きる妖怪は、考えることをあまりしない。人間をいじめたくなったらちょっかいを出す。殺したいと思ったら殺す。
そうすると、人間と妖怪のバランスが崩壊する時が必ず来る。
殺しを続けた妖怪は、その存在が大きなものとなり、いつか人間に見つかる。そうなれば人間vs妖怪の戦争の始まりだ。
一見、強大な力を持っている妖怪が有利に見えるがそうではない。なにせ、妖怪は人間がいなければ生きていけないのだから。
妖怪が長く生き続ける方法。それは、人間に見つかることなく。けれど妖怪を恐れる人間がほどほどにいる。そんな微妙なラインを維持し続けるしかない。
「つまり、あの胡散臭い妖怪はそのラインの調整をしているのね」
「そうだ。時には人間を食い物にし、時には殺しを過ぎた妖怪の首を撥ねる。そうやって人間と妖怪の共存を図っている、らしいぜ」
「......お代は金銭より感情で、か。なんだか人間みたいね」
贈り物は金額じゃなくて、気持ちがこもっていることが大切なんです、ってか。
ちょっと面白いかもな。
「理解したわ。あんたは調整用の人材紹介を頼まれていたのね」
「1度妖怪の被害を受けた人間は、質の良い感情を送ってくれるから、コスパが良いらしい」
「それなら何も気負うことなく、助けられてあげましょう」
「もともと気負うようなタイプじゃないだろ」
「なんなら謝礼を払ってほしいわね」
「逆に要求していく!?」
「妖怪なら一億円くらい簡単に盗めるでしょ」
「がめつ過ぎる!」
こいつの方ががよっぽど妖怪らしい。
「ふむ。決めたわ」
博麗は、ようやく着替えを終え、振り返った。
......着替え終わった、んだが。
「......」
「あんた友達いないの?着替えたんだから、感想の1つや2つ言ってみたらどうなのよ」
友達がいなさそうなのは、私よりも博麗だと思うんだが。
いや、それよりも。
「......なんだ。その服」
「何って、妖怪の言ってた清潔な服よ」
「清潔、ねえ......」
素っ裸から見ていたので、何を着ているのは全て把握している。
下着は、下は膝丈の裾除け。上は
その上に、トップスはフリルがたっぷりの襟が目立つ、
両腕には、トップスに袖がない代わりに、
最後に、いつもと変わらぬ大きなリボンを頭のてっぺんで結んだら完成だ。
......いや、やっぱり、なんだこれ。
一応、色合いから察することはできる。赤と白の二色。紅白でまとめられた衣装は、
「巫女服、か?」
「ええ。
「嘘だ!」
「なんですって!」
だって、いろいろおかしいだろ!
へそ丸出しだし!腋も丸見えだし!
神に仕える人間がこんな格好するわけないだろ!
やっぱり露出狂だったんだ!
「博麗......お前、そんな格好を、小学生の時から、ずっと......」
「んなわけないでしょうが!まともに着るのは今日が初めてよ!」
「え、でも、お前ん
「神社でお仕事するときは、もっと普通の巫女服を着るわよ!これは特別製!」
「――特別製?」
なんだ。てっきり神社(意味深)みたいな、罰当たりそうなこと考えたぜ。
「私の実家が社家って話はしたと思うんだけど。それとは別の一面を持っていたらしいわ」
「別の一面?」
「ええ。うちは、まあまあ長く続いてる一族なんだけどね。江戸時代の頃は陰陽師として働いていた、って話を母さんから聞いたことがあるの」
「陰陽師ぃ?」
これまた新しい単語が出てきたな。
しかし、陰陽師か。妖怪がいて、一定数がそれを恐れていたんだから、対抗する勢力が生まれるのは、謂わば当然か。
「この巫女服は、悪いお化けをやっつけるときに着るのよって。引っ越すときに、母さんに無理やり持たされたのよ」
「妖怪調伏の正装か。確かに、今の状況にはうってつけだな」
「ええ。着替えを悩んだいるときに、ふと思い出したの。そういえばお化け退治の装備セットがあったな、って」
「装備、セット?」
「あんたも見てるでしょ?これよ」
棚から取り出したのは、針とお札とビー玉っぽい何か。
「あ!それか!」
「無意識の妖怪に取り憑かれてからは、持つだけ持ってたのよ。何の役にも立たなかったけどね」
「このお札とか玉って、どう使うんだ?」
「知らないわ」
「おい!」
「知らないものは知らないわよ。たぶん母さんも知らないわ。一式持たされたのもお守り以上の意味はなかったと思う」
「へー。でも、お札はもしかしたら効果があったかもしれないな」
「どうして?」
「お札には神の力が込められているっていうしな。それに一年近く妖怪に乗っ取られてたくせに、お前、めちゃくちゃピンピンしてるじゃないか。なんかしらご利益があったんじゃないか?」
「......言われてみれば、そうね」
博麗は、そんなこと考えもしなかったのか、ぼーっとお札を見下ろして。
「なら、母さんに感謝しないとね」
ふっ、と。笑ったのだった。
......。
「......なによ。厭らしい目で見ないでくれる?不愉快だわ」
「は!?見てねーよ!」
「......あーやだやだ。こういう奴が巫女さんのストーカーとかするのよねー」
「だから、そんな目で見てないって!」
「死ねばいいのに」
「殺意100%!?」
くっ!46kgが重い!
「さてと」
博麗は棚からもう一つ、白い紙が付いた木の棒、
「もしもすべてが上手くいったら、勉強しないとなあ。授業あんまり覚えてないのよね......」
「別に頭が悪いわけじゃないんだろ?てか、むしろ良いだろ。ちょっと復習すりゃあ、どうにかなるって」
「あんた、ノート見せてね」
「なんでっ!?」
「別にいいじゃない。それくらい」
博麗は微笑した。
「快復祝いよ。いいでしょ?」
書いてるうちにいっぱい設定思いついちゃった。
戦場ヶ原さんリスペクトすると露出狂になるのは仕方ない。