ウーブの師匠はあの男!! 孫悟空と28年ぶりの再会
それは後にドラゴンボールによって人々の記憶から消去され、一部の関係者を除いて誰からも忘れられてしまった、この世の命運を
「おめえはすげえよ……たった一人で」
遥か
何度も何度も姿を変えて、途方もない強さで悟空達を苦しめてきた。
「何度も姿を変えて……いい加減嫌になっちまうくれぇにな」
そんな強敵魔人ブウとの決戦に、ピリオドが打たれようとしていた。
「今度はいいヤツに生まれ変われよ。1対1で勝負がしてえ、待ってっからな」
地球人全ての元気が込められた、特大の元気玉。
かつてサイヤ人との戦いに備え、界王様の
かめはめ波よりも、スーパーサイヤ人3よりも、何よりも強力なとっておきの技。
「またな」
悟空は人差し指と中指を額に当てて、そう言いながら微笑んだ。
「カカロット!!」
「お父さん!!」
「悟空!!」
「「「行けえーーーーーーッ!!」」」
ベジータ、悟飯、ピッコロ、そして地球のみんなや神々に至るまで、全員が悟空にこの世の命運を託した。
そして━━。
「はああああああああああああああああああああッッ!!」
「ウギャギャギアアアアアアアアアアアアアアーーーーーーーーーーッ!!」
魔人ブウは消滅した。
細胞一つ残らず、完全にその存在がこの世から消滅したのだ。
━━戦いは悟空たちの勝利に終わり、世界は救われたのである。
それから悪い魔人ブウと分離した魔人ブウは、ミスターサタンの家で暮らすことに。
しばらくしてドラゴンボールによって魔人ブウの記憶は消去され、魔人ブウは張れて外を堂々と歩けるようになった。
こうしてこの戦いは誰の記憶にも残らない、伝説の戦いとなったのである。
「悟空のヤツ、あっぱれだな。これはワシからのプレゼントだ……楽しみにしておくのだ」
さらにしばらくして、閻魔大王の
「おぎゃあ!! おぎゃあ!!」
悟空達が暮らすパオズ山からも、ブルマやベジータ達が暮らす西の都からも遠く離れた辺境の村にて、一人の男の子が産声をあげた。
その男の子はなんと、あの魔人ブウの生まれ変わりだった。
男の子はウーブと名付けられ、辺境の村ですくすくと育っていった。
ウーブが4歳になった頃だった。
「ウーブ君をこのワシの弟子にさせてもらえんかね?」
老齢に達しながら筋骨隆々とした肉体を持ち主が、ウーブの生家を訪ねていた。
「ええ、うちの子を弟子に……ですか?」
「このあいだの幼稚園での孫との喧嘩、聞き及びましてな、ウーブ君には才能がある。ウーブ君はきっと素晴らしい武道家になれるとワシは思うのだ」
頭髪は全て白髪で、顔は
どこかの修行僧のような風貌の老人が、ウーブの母親を説得しようとしていた。
「我が
「まあ、天下一武道会で優勝したあなたが仰られるのなら……」
「このチャパ王、必ずやウーブ君を世界に誇れる武道家に育て上げましょう」
それはかつて参加した天下一武道会において、ただの一度も掠られずに優勝を果たすも、その後の大会では二度も悟空と戦い、そして敗れた悲劇の武道家・チャパ王その人だった。
チャパ王は第23回天下一武道会の予選で悟空に破れて以降、イチから出直すつもりで修練を重ねてきた。そして長い修行の旅の
そこでチャパ王はテレビ中継を見たのだ。
━━あの男はッ!!
中継では散々コケにされていた金髪の男。
しかしチャパ王はその正体にイチ早く気付いたのだ。
━━間違いない、孫悟空だ。
二度も自分に煮え湯を飲ませたその男の顔を、たとえ髪型が変わろうが目の色が変わろうが見間違うはずがない。
そして中継を見て、チャパ王は絶望したのだった。
この時、チャパ王の戦闘力は長い修行の末、180程度になっていた。
これ第22回天下一武道会における、悟空や天津飯と同等レベルである。
しかしセルゲームで見せた悟空やその息子、悟飯の強さは世界そのものが違った。
悟空へリベンジを果たすべく修行を重ねてきた身ながら、そのレベルの差は最早埋められるものではないことを実感させられた。
それからチャパ王は村へ戻ったのだ。
自分も、もはや歳である。
自分には、才能がないことを思い知らされた。
ゆえに自分がやるべきことは一つしかない━━後進の育成に専念することであると。
そう気づいたチャパ王は村へ戻り、村の子供たちに武術を教える事にした。
「腐敗した武道界を、ワシの
武術の達人であるチャパ王は気づいていた。
ミスター・サタンが弱いことに。25回大会で準優勝となった18号との試合も、直近で行われたミスター・ブウとの試合も、全て八百長であることに。
根っからの武道家であるチャパ王は、それが許せなかった。
とはいえ、ミスター・サタンも常人のレベルでは決して弱いわけではない。
それにミスター・サタンには恐るべき相棒、ミスター・ブウが存在すること。
このミスターブウに勝てる可能性を秘めた人材━━そう彼が見抜いたのがウーブだった。
━━それからさらに6年後、魔人ブウとの戦いから10年後。
「遠慮はいらん。かかってきなさい、ウーブ君」
「はい、お師匠様……ッ!!」
ウーブのとてつもない突撃を、チャパ王は間一髪で
「はぁ!!」
「くぅ……っ!?」
瞬く間に放たれたウーブの飛び蹴りを、どうにか受け流しながらチャパ王は後ろへ
(やはりパワーではとっくの昔に、このワシを上回っている!!)
冷や汗ダラダラ。
何年も前から感じ取っていたことだが、完全にウーブはチャパ王の実力を上回っていた。
チャパ王がウーブに対して勝っているのは、長い経験のみ。
「本気で行くぞ!! 受けてみよ━━我が
八手拳、それはあまりの速さに腕が8本にも見えるというチャパ王の必殺技。
ウーブとの間合いを一瞬で詰めて、チャパ王は渾身の
しかしチャパ王の八手拳をウーブは全て躱してしまい、一発も拳はウーブに届かない。
「はっ!!」
チャパ王の八手拳の欠点、それは足元がお留守になってしまうこと。
ウーブは即座に姿勢を低くし、下段の足払いでチャパ王をこけさせた。
「はああああああああっ!!」
そしてウーブは立ち上がり、チャパ王に飛びかかって、その拳をチャパ王の鼻先で寸止めした。
(見事な一本だ。見えんかった……このワシの目には……ッ!!)
チャパ王の全身から力が抜けた。
武術的な脱力ではなく、戦意の喪失も含めた真なる意味での脱力。
「ワシの完敗じゃ……」
「お、お師匠様、大丈夫ですか?」
「フフフ、ワシは嬉しいぞ。おぬしの
チャパ王の脳裏には、孫悟空の姿が浮かんでいた。
忘れもしない、自分が太刀打ちできなかった若き戦士。
「あの男?」
「昔の話だよ。そうだ、ウーブ君。まもなくだが、天下一武道会が開催される。そろそろ君も出場してはどうかな?」
今のウーブなら孫悟空はもちろん、ミスターブウには勝てないかもしれない。
しかしきっといい線は行くはず。
自身との組手の経験しかないウーブにとって、ミスターブウとの試合はきっと素晴らしい経験になるに違いない。
チャパ王はそう思い、ウーブの出場を勧めた。
「天下一武道会って、あの天下一武道会ですか?」
「左様。このワシもかつて参加した、あの天下一武道会だ」
「……けど、オイラなんか出ても」
「何を言っておる。このワシはかつて、あの天下一武道会の優勝経験者だ。そのワシをウーブ君は全く苦労することなく、簡単に倒してのけている。君はワシのお墨付きだ、よい修行と思って参加してみるといい」
チャパ王は、体で理解していた。
もはやウーブは自分の手には置けない存在。
もうとっくに自分が通用するレベルを超越してしまっていることに。
だからこそウーブにはウーブ以上の強者との戦いが必要だと、チャパ王は考えていた。
「それに天下一武道会で優勝すれば賞金が貰える。パパとママを楽にしてあげられるぞ」
「お師匠様……わかりました。オイラ、天下一武道会に出てみるよ」
「その心意気だ」
目を輝かせるウーブの姿に、チャパ王は思わず微笑んだ。
◇ ◇ ◇
━━それから瞬く間に時は経って、第28回天下一武道会が開催された。
ウーブは両親に付き添われ、天下一武道会の会場へと向かった。
チャパ王は弟子たちへ稽古をつけたあと、ウーブの戦いぶりを見るためにテレビをつけた。
「ほう、やはり予選は軽々と突破したか」
参加選手の中にウーブがいることを知り、チャパ王から笑みが零れる。
幼い頃から才能を確信し、自分が教えられることの全てを伝えた弟子の晴れ舞台。
しかしチャパ王の笑みは、途端に驚きへと変貌する。
「こ、この男は……ッ!!」
忘れもしない、独特な髪型をしたあの男。
なんと孫悟空が、今回の天下一武道会に参加していたのだ。
「どうされたんですか、チャパ王?」
「フフフ、ワシの弟子とワシの因縁の相手か……これは面白くなってきた」
対戦カードが決まった。
ウーブの対戦相手は、あの孫悟空だった。
経験不足なウーブが勝てる可能性は低いだろうが、ウーブの秘めたパワーはチャパ王自身も把握しきれないほどに膨大である。
孫悟空が相手なら、ウーブが秘めた力を全て解放できるだろう。
その力が解放された時、きっと孫悟空はビビるだろうと、チャパ王は期待に胸を膨らませた。
そしてチャパ王の読みは、まさしく正解だった━━。
『お父さんも、お母さんも、ウンコタレじゃなああーーーーーーーいッ!!』
ウーブの蹴りを受け止めた悟空は、その腕が痺れた様子だった。
そしてその隙にウーブは悟空に強烈な突きを放ち、悟空は衝撃でぶっ飛ばされてしまった。
「ちゃ、チャパ王……ウーブ君って、あんなに強かった……でしたっけ?」
「ふ、フフフ……はぁーーーっははははははははは!!」
「チャパ王!?」
「いいぞ孫悟空。目覚めさせるのだ……ウーブ君に秘められた本当の力を!!」
テレビに向かってチャパ王は、高らかな笑い声をあげた。
『ワクワクしてくるぜ……間違いねえ、おめえは悪のブウの生まれ変わりだ!!』
『はああああああああああああッ!!』
それからウーブと悟空の激闘は続いた。
「信じられん。戦いの中で、戦い方を学んでやがる」
その戦いぶりはベジータが。
「う、ウソだろ!?」
「なんだあの子は!?」
「信じられない!!」
「ひょっとして孫くんが言っていたすごいヤツって、あの子のことなの!?」
クリリンが、悟飯が、ビーデルが、そしてブルマもウーブの強さに驚愕していた。
ウーブは悟空との戦いを通して、さらに戦闘力を増していく。
悟空とウーブの戦いはさらに激しさを増して、文字通りの激闘となっていく。
━━だが、勝負は意外にも呆気なく終わった。
激しい戦いの末、武舞台が崩壊してしまったのだ。
そしてウーブは落ちてしまいそうになった。
『そうか、おめえまだ空の飛び方の知らねえんか』
しかし寸前のところで悟空がそれを助けた。
『こんな風に戦ったのは初めてなんだろ? オラがこれからおめえん
そのやり取りは、すへてテレビで中継されていた。
当然、それを見ていたチャパ王の耳にも入った。
「……ご客人だ、招き入れる準備をしろ」
「え? は、はい!!」
チャパ王は静かに立ち上がり、弟子にそう指示をした。
それから悟空がウーブの村へ到着するのには、小一時間もかからなかった。
「あの、悟空さん。オイラちょっと寄りたいところがあって……」
「寄りてーとこ?」
「はい。オイラに武道を教えてくれたお師匠様のところに……あ、ここが道場です!!」
村の中でも寺に次いで大きな施設。
この村を中心に、周辺から弟子たちが集まり、大きくなったチャパ王の道場である。
「よくぞ来てくれた。歓迎するぞ……孫悟空」
建物の中から出てきた老齢の男に名前を呼ばれ、悟空は反応した。
(なんだこいつは。チチや牛魔王のおっちゃんよりずっと気がでけーぞ?)
悟空からしてみれば大した実力ではないのだが、その気の大きさは亀仙人をして達人と言わしめるチチを遥かに上回るものだった。
それにどこか、見覚えのある風貌をしていた。
「お、おめえは……」
「貴様とはかつて天下一武道会の予選で二度、戦ったことがある」
「…………あああーーーーーーーーッ!! 思い出した、おめえひょっとしてチャパ王か!?」
「如何にも、ワシがあのチャパ王だ」
「ひゃあーっ!! おっでれーたぁ!! 懐かしいなぁー、おめえすっかりじいちゃんだな!!」
「貴様が変わらなさすぎるのだ。いくらあの時少年だったとはいえ、もう何十年も前の話だというのにな……」
チャパ王にとって、悟空への敗北はまるで昨日のことのようであったが、時の流れというものは残酷であり、既に第23回天下一武道会からは28年が経過していた。
「お師匠様。悟空さんとお知り合いなんですか?」
「如何にも。この男だ、このワシを二度も破った者は」
「お、お師匠様!! 悟空さんと戦ったことがあったんですか!?」
「30年近く前の話だがな」
「そっか。おめえがウーブに拳法教えてたんだな」
「最もワシの指導より、貴様との戦いでウーブ君は真の力に目覚めたようだがな」
自分の無力さを痛感しつつも、チャパ王は安堵のため息を吐いた。
ウーブがさらなる高みに達するためには、もはや自分では力不足である。
しかしこの孫悟空ならば、きっとウーブを最強の拳法家に育て上げられるだろうと確信した。
「ウーブ君はワシが達成できなかった最強の男を目指せる逸材、ワシにとってウーブ君は夢そのものなのだ。孫悟空よ、このワシに代わってウーブ君の指導を願えるか?」
まさか悟空に頭を下げる日がくるとは、チャパ王も思っていなかったことだ。
しかしウーブの成長のために、チャパ王は深々と悟空に頭を下げたのだった。
「頭上げてくれよ。オラ元々そのつもりで来たんだ」
「左様か?」
「ああ、任せてくれ!! どんなやつにも負けねーすげえヤツにするからよ!!」
「まさかあの少年が人にモノを教える立場になろうとは……フッ、これでワシも肩の荷が下りた」
かつて最強だった男から、現在最強の男に受け継がれた意志。
自分の役目は終わった。
しかしこれまでで一番、誇らしい気分にチャパ王はなっていた。
自分がどれほど努力しても勝てなかった孫悟空に、自分の門弟が肉薄し、その孫悟空から指導を受ければウーブはさらなる高みに達することができるだろう。
ひょっとしたら、悟空を超える武道家になれるかもしれない。
これから先、ウーブは悟空たちと共に地球を救う戦士となるが、それはまた別のお話━━。