天下一武道会。
それはこの世界で行われている3つの武道大会の中でも、特にハイレベルと言われている世界的かつ由緒正しい武道大会であった。
天下一武道会はそのレベルの高さゆえ、優勝者は全員が達人であった。
地獄からの使者、アックマンが過去に二度優勝。さらには当時、その圧倒的な強さから
そして第21回天下一武道会。
孫悟空との激闘の末、優勝したのは武天老師が変装したジャッキー・チュンだった。
続く第22回天下一武道会では、天津飯が鼻の差で悟空に勝利し、優勝。
第23回天下一武道会では孫悟空とピッコロの大決戦の末、悟空が初優勝を果たした。
━━これ以降、天下一武道会は10年以上も開催されることはなかった。
理由は単純。
天下一武道会の会場があるパパイア島が、ピッコロの
その復興に10年の歳月がかかってしまったが、エイジ767年、遂に第24回天下一武道会が開催されることになった。
「皆様、大変お待たせいたしました!! 天下一武道会が11年ぶりに復活!!」
金髪にサングラスのスーツ姿の、中年に差し掛かろうとする男。
あの名物アナウンサーも引き続き、審判を兼任して続投することになった。
「皆様、11年前の戦いを覚えているでしょうか? 孫悟空選手vsマジュニア選手の会場一帯を吹き飛ばすほどの激闘を制し、天下一を取ったのは孫悟空選手!! 今大会には残念ながら出場されていませんが、果たしてあの時の感動を超える戦いがあるのか、私は非常に楽しみです!!」
11年も経つと、人々の記憶から悟空たちは忘れ去られてしまっていた。
第23回天下一武道会でマジュニアがピッコロ大魔王の生まれ変わりだと判明し、観客の大半が逃げてしまったことも大きく影響しているだろう。
悟空とピッコロの戦いは、テレビでも途中までしか放映されていなかった。
だから会場の観客たちは誰一人として悟空達を知らない。
しかし悟空達を長年、間近で見ていたこのアナウンサーの記憶には、あの戦いの記憶が鮮明に残っていた。
だからなのか、彼は内心、今大会にはさほどの期待を持っていなかった。
「ミスターサタン選手対スポポビッチ選手!!」
カーリーヘアーのアクションスターのような風貌の男と、赤茶髪のロンゲの巨漢だった。
「ご存知ミスターサタン選手は天下一武道会以外の二つの世界選手権で優勝経験があります、注目の強豪選手です!! 対するスポポビッチ選手は格闘技界期待の新人。どちらも今大会が初出場、注目の対決です!!」
第24回天下一武道会は8名によるトーナメント制。
その第一試合に上がったのは、後に世界の救世主となるあの男だった。
「スポポビッチ君、残念だが君は私には勝てない」
人差し指を振りながら、ミスターサタンはスポポビッチを挑発する。
「なにを~、ふざけんな!!」
挑発で怒り狂ったスポポビッチは、ミスターサタンに突撃して殴りかかる。
凄まじい殴打の連撃だったが、サタンはそれを全て軽々と躱した。
「おらぁ!! ……うわあっっ」
渾身の力を込めた大振りのパンチだったが、ミスターサタンは華麗に
「スポポビッチ選手、凄まじい猛攻でしたが、サタン選手はそれを全て避けてしまいました!!」
「くっそぉ……」
「とりゃあああああーーーーーーッ!!」
掛け声と共に、ミスターサタンは大きく飛び上がった。
胴廻し回転蹴り。それは空手における大技であり、転倒のダメージが残るスポポビッチを仕留めるには威力抜群の絶好の大技であった。
慌てて振り返るスポホビッチだったが、反応が間に合わず、後頭部にモロにサタンの蹴りを食らってしまった。
武舞台に沈むスポポビッチ。
起き上がることはできなかった。
「……9……10!! ミスターサタン選手の勝ちです!!」
「うおおおおおおおおおーーーッ!!」
「格闘王の強さは本物でした!! 強----い!! ミスターサタン選手、アッサリとスポポビッチ選手を下してしまいました!!」
高らかに雄たけびを上げ続けるミスターサタン。
まさか7年後の第25回大会で、スポポビッチが愛娘を執拗に痛めつけてしまうことなど、この時のサタンは知る由もなかった。
「ミスターサタンか……流石だな」
「あのスポポビッチをアッサリ倒すとは、優勝候補の一人だろうな」
そうサタンの戦闘力を推測する長い金髪の端正な容姿の男と、鍛え抜かれた肉体を持つ黒人。
それは後の第25回大会にも参加する、ジュエールとキーラであった。
「さあて、第二回戦の始まりだぜ?」
「俺の出番だな……これに勝ってミスターサタンに挑戦してみたいものだぜ」
武者震いをしながら拳を叩き合わせて、キーラは武舞台へと向かった。
「まもなく第2試合が始まります。キーラ選手対ウパ選手」
キーラと対峙するのは、民族衣装に身を纏った褐色肌の若き青年。
長い黒髪を後ろで編んだ青年は、かつて
20代になったウパは父親ほどではないにしろ背は伸び、よく鍛えられた引き締まった肉体の好青年に育っていた。
聖地カリンでの生活に不自由はない。
ウパ自身、生涯の伴侶と子宝にも恵まれている。
しかしウパには、ある想いがあった。
(悟空さん……僕はあれから父上に稽古をつけてもらい、カリン塔にも上った。今一度、あなたに会えるなら是非お手合わせを願いたい。そのためにはまず、僕が強くなったところを見てもらわなくては……ッ!!)
聖地カリンを守る者として、ウパは父・ボラとの過酷な稽古に励んだ。
そして17歳になった時、ウパはカリン塔への登頂を果たした。
さらに3年間、カリンとの修行によって超聖水の奪取に成功し、その戦闘力は武天老師に肉薄する140ほどに向上していた。
実力的には今大会、最強の参加選手といえる。
「キーラ選手は軍隊出身、特技はマーシャルアーツだそうです!! 対するウパ選手は全くの無名。果たして勝負の行方はどうなることでしょうか……では初めてください!!」
ウパとキーラが睨み合い、お互いに構えを取る。
ウパはボラから基礎を学び、そしてカリン塔でウパに稽古をつけたのはカリン様とヤジロベーであった。
ゆえにウパの戦闘スタイルは、ヤジロベーの剣術からヒントを得ていた。
(一撃必殺……拳法とは、居合のように一瞬で終わらせること)
民族衣装のズボンの懐に、ウパは両手を突っ込んだ。
「この野郎……ナメやがって!!」
その様子がキーラの目には見下しているように映ったのか、キーラはボクシングの構えで軽快なフットワークを刻み、ウパとの間合いを詰めていく。
そして素早いジャブを浴びせようとするが、あっさりと躱されてしまった。
「なに━━━━ぐはっ!?」
一閃。
ウパのポケットから飛び出した
「しょ、勝負あり!! ウパ選手の勝ちです!!」
両手を合わせ、ウパは気絶して白目を剥いたキーラに一礼をする。
「これは強い!! ウパ選手、想像を上回る圧倒的な強さで、軍隊上がりのキーラ選手をたったの一発で倒してしまいました!!」
これにはアナウンサーも感激であった。
(いやあ、素晴らしい。彼は強い……天下一武道会の参加者はこうでなくっちゃ!!)
一方で、ウパの存在を警戒する者もいた。
(あわわわわ。ななな、なんということだ……あいつはヤバいぞ!?)
それは一回戦でスポポビッチを破ったミスターサタンだった。
彼は内心、かなり焦っていた。
何故なら今の動きを見る限り、ウパは確実に自身より実力が上だったからだ。
(あの身のこなし……あの時のワケわからんヤツと被るぞ!!)
◇ ◇ ◇
ミスターサタンには苦い思い出があった。
それは修業時代、彼がサタンの城という道場に通い、師匠の下で格闘技の稽古をしていた頃の話。
サイヤ人との戦いが終わった直後くらいの頃だった。
「師匠。結局、サイヤ人ってなんだったんでしょうか?」
「はははっ、トリックじゃトリック!! ピッコロ大魔王もそうやって天下を取ったんじゃよ!!」
「は、ははは。なんだ、トリックか。はははは!!」
若き日の本名マークことミスターサタンは、サタンの城の中でも飛びぬけた才能の持ち主であり、その強さから世界選手権に初優勝を果たした。
そして巷ではミスターサタンと呼ばれ、有名になり始めていた。
そんなある日、遠征先の南の都の酒場で、サタンは師匠と祝勝会を開催して酒盛りをしていた。
そんなめでたい日に、事件は起こったのである。
「はぁーっはははは!! いやー愉快じゃのう我が弟よ!!」
「天津飯とチャオズ、それにピッコロ大魔王まで死ぬとはまさに最高の気分だ」
「いひひひ。天のヤツ、ワシの言った通りロクな死に方せんかったな」
「風の噂では孫悟空も去年死んだらしい。これで我々の邪魔をするヤツはいませんな」
不意に耳に入ってきたのは、鶴の帽子を被った老人と、何故か頭部が機械化されたよくわからない男の会話だった。
「おい見ろマーク!! なんだアレは、三つ編みじゃ三つ編み!!」
「頭が機械なのもウケますね!!」
それを聞いた桃色の衣装に身を包んだサイボーグ男は、静かに立ち上がった。
「なんだ? 君、世界選手権王者のこのミスターサタンに何か用かね?」
「ワシはその師匠じゃぞ!? 文句があるならお話しようか、奇抜な髪のオッサン!!」
それを聞いてもなお、サイボーグ男は何も喋らない。
「おいおい、何か言ってもらわなければ困るよ?」
「ほーれ、口開けてやろうか?」
サタンの師匠がサイボーグ男の口に手を伸ばした瞬間だった。
「……へ?」
ぼとん、と師匠の右手が床に落とされた。
サイボーグ男が放った手刀により、なんと師匠の腕が切り落とされたのだ。
「ぎゃああああああああああああああッ!! ━━ッ!?」
あまりの激痛に師匠は手首を押さえて絶叫するが、その絶叫はすぐに止まった。
なぜならサイボーグ男の舌が深々と、師匠のこめかみに刺さっていたからだった。
「な、ななな、なっ!?」
目の前で師匠を惨殺されたサタンは、あまりにも突然すぎる出来事に完全に狼狽えていた。
「キサマにいいことを教えてやろう。私は世界一の殺し屋、
それからしばらく、サタンにとっては地獄の時間だった。
桃白白とついでに鶴仙人から長時間拷問にかけられ、瀕死の重体の状態で道端に捨てられ、翌朝になって虫の息だったサタンは通行人に救出され、救急車で病院に送られることとなった。
なんとか一命を取り留め、病院で意識を取り戻したサタンは固く誓った。
(こ、これからはワケのわからん相手とは絶対に戦わんぞ……)
こうして現在のミスターサタンの人格が形成されたのだった。
メチャクチャ強そうなヤツとは絶対に戦わないという、現在の人柄が。
◇ ◇ ◇
「さあ第三試合です!! ジュエール選手対マイティマスク選手!!」
若く、カンフースーツに身を包んだ金髪の男と、謎の青い被り物をした道着姿の男が入場する。
「ジュエール選手は名門
観客席から黄色い声が上がった。
「きゃあーーーーーーっ!!」
「ジュエール様ーーーーっ!!」
もちろんそれはマイティマスクに対してではなく、全てジュエールに対するものだった。
「くっそぉ、お前をギッタンギッタンに倒して恥をかかせてやる」
「フフフ、それはどうかな?」
「では、始めてください!!」
ゴングが鳴る。
しかし試合はあまりにも一方的な結果に終わってしまった。
「……10!! ジュエール選手の勝ちです!!」
ジュエールはマイティマスクのラリアットを躱して、カンフーで言うところの
「君は寺のむさ苦しい男たちと同じだったよ。だから負けたのさ」
実力でも人気でも敗北した。
これはマイティマスクにとっては最大の屈辱であった。
「続いて第四試合。ブルーザ・プー選手対プンター選手!!」
アラジンのような風貌の巨漢と、どこかで見たことある俳優のような風貌の男だった。
「プンター選手は格闘選手権でもお馴染み、残虐ファイトの悪役レスラーです!! 対するブルーザ・プー選手はその昔、第21回天下一武道会の予選に挑戦されたそうですが、惜しくも予選で敗れてしまった苦い思い出があるそうです。悲願の本戦出場、果たして結果を残せるのか!!」
第四回戦。
この試合は序盤こそブルーザ・プーが猛攻を仕掛けたものの、タフさが売りのプンターに掴まってしまい、形勢逆転。散々サンドバックにされた挙句、敗北してしまった。
「す、ストップ!! ストーーーーップ!! 勝者、プンター選手!!」
「やめてください!!」
「プー選手が死んでしまいます!!」
「ワハハハハハッ!! この調子でジュエールとか吹かしたヤツもぶっ倒してやるぜ!!」
数人がかりでようやくプンターの暴走が止まった。
ブルーザ・プーはかつて天下一武道会の予選にて、クリリンに破れた苦い思い出がある。
悲願の本戦出場を果たしたものの、怪力プンターの前に惜しくも敗れてしまった。
「ここで武舞台の清掃と点検を兼ねまして、二時間の小休憩させていただき、その後は準決勝第一試合、ミスターサタン選手対ウパ選手となります!!」
観客が歓声を上げる中、サタンは一人、控室で冷や汗を流して震えていた。
(まずいまずいまずいまずい!! まさかあのウパという者、桃白白の弟子じゃあるまいな!?)
果たしてミスターサタンは、聖地カリン最強の戦士・ウパに勝てるのであろうか。