それから三年余りの月日が流れ、ついにその時が訪れた。
「はあああッッッ!!」
眼前に迫るトランクスを、それが18号にとって最期に見た光景だった。
トランクスの手から放たれた高威力のエネルギー波は、18号を跡形もなく木っ端微塵に吹き飛ばしてしまったのだ。
僅かな残りカスが降り注ぐのを前に、17号が目を見開いて固まった。
「ま、まさか……お前ごときに、18号が……ッ!?」
「今のは殺された仲間たちの分だ……そして今度は悟飯さんの仇だ!!」
迫りくるトランマスを前に、17号は慌てて構えをとった。
だが過去、精神と時の部屋でベジータとの過酷な修行を耐え抜き、究極の人造人間であるセルとの戦いを経て大幅にパワーアップしたトランクスにとって、もはや17号など敵ではなかった。
激しい蹴りで吹き飛ばされた17号は、そのまま地面へ叩きつけられる。
仰向けになり、大の字になって倒れる17号。
ダメージは甚大で、人間ベースゆえに彼を襲う痛みによって17号は動けなくなった。
「消えろォーーーーーーーーーーッッ!!」
そこへ容赦なく放たれた、トランクスのエネルギー波。
それは先ほど18号へ放ったものより高い威力を秘めており、17号をは細胞一つ残さずこの世から完全に消滅するに至った。
トドメを刺したことを確認し、トランクスは倒れていた老人を介抱する。
(終わった……いやまだだ、まだ肝心なヤツが残っている)
この時代にはまだセルは現れていない。
しかし17号と18号を倒したのだ、必ずタイムマシンに乗るために自分の所に現れる。
それまでトランクスにとって、油断ができない日々が続くのだ。
──そして半年後。
「完全に消えてなくなれ、セル!!」
「ちくしょう!! ちくしょおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ…………」
カプセルコーポレーションにて、トランスクを襲撃しようとしたセルは、トランクスに荒野へと吹き飛ばされた後、一方的な展開の戦いによってセルは細胞一つ残すことなく消滅。
完全体のセルは確かにすさまじい強さだった。
しかし第一形態のセルならば、トランクスにとってもはや敵ではなかったのだ。
(これで、すべてが終わりました……ありがとう悟空さんたち……)
ついにトランクスは人造人間17号と18号を倒し、そしてセルをも倒した。
(悟飯さん、これで世界は平和になりました……)
それはつまり悟飯の敵討ちを、そしてビーデルとの約束をやり遂げたという意味だった。
充実感を胸に、トランクスはカプセルコーポレーションへと戻る。
人造人間の撃破から半年、都市部では復興が始まり、街は少しずつ形を取り戻していた。
空を飛びながらその様子を、トランクスは満足げに見つめる。
「そうだ、母さんのところに戻る前に用事があったな」
ふと思い出した悟飯は、オレンジシティの方角へと飛行する。
オレンジシティも復興が始まり、人口は激減したものの再び都市を形成しつつあった。
その郊外、離れた場所にまだその一軒家は建っていた。
「懐かしいな……ついにここに来る時が来た」
初めてこの家に出入りした頃と比べて、その一軒家は小奇麗に修復されていた。
それはこの家に人が住んでいることの証であった。
トランクスは家のインターホンを鳴らす。
「はい……あなたは!?」
お互い、あの頃と比べて容姿は変わっていた。
まずトランクスはあの頃、まだ小柄な少年であった。しかし今のトランクスは年齢と共に体も成長したことに加え、精神と時の部屋で修業した影響から、実年齢よりも背が高く、筋肉質で逞しい青年に育っていた。
そしてビーデルもまた、髪型がショートボブに変わったこと以外にも、年齢を重ねてより大人の女性らしい気品ある美しい女性に変貌を遂げていた。
それでも再開した直後、お互いの顔を見てあのころの面影を感じる。
「お久しぶりです、ビーデルさん」
「トランクス君!? あなた随分大きくなったわね……」
「まあ、あれから何年も経ってますし……それより今日は報告です。オレ、人造人間を倒すことができましたよ」
そう答えるとビーデルは満面の笑みを浮かべ。
「ええ。ニュースで知っていたけど、直接それを聞けて嬉しいわ」
「はい。オレ、悟飯さんの仇、取りましたよ」
「ありがとう、トランクス君……そうだ、上がってちょうだい。あなたに是非会わせたい子がいるのよ」
それを聞き、トランクスは若干困惑するものの、せっかくの厚意と積もる話もあるので家に上がることを決めた。
玄関を見ると、そこでトランクスは違和感を覚える。
(……子供用の靴? ビーデルさん以外にももう一人、子供が住んでいるのか?)
それは明らかにビーデルよりも足が小さい、子供用の靴だった。
それも淡いピンク色で、色合い的には女児用であることは間違いない。
「パンちゃん、お客さんが来たわよ」
居間へ通され、ビーデルがパンという名を呼ぶ。
そして居間を見たトランクスは仰天した。
──まだ幼い小学生くらいの女の子が居た。
その子はミディアムくらいの長さの黒髪で、ビーデルをうんと幼くしたような風貌の可愛らしい女の子だった。
ビーデルの子であるこは間違いなさそうだが、その時トランクスは気づいた。
彼女が発する気が、トランクスのよく知る人物にそっくりだったからだ。
「ま、まさかこの子は……!?」
「悟飯くんとわたしの子よ」
やっぱり、自分の予想は正しかった。
しかしそれにしたってトランクスにとって、それは大きな衝撃だった。
なんと自分の師匠であり、兄貴分であった悟飯に娘がいたのだ。
「こんにちは、パンです」
「あ、どうも。トランクスです」
パンはペコリとお辞儀をして、それに対してトランクスも慌ててお辞儀を返す。
「パン、この人はあなたのパパのお友達なのよ」
「パパの?」
「そうだよ。悟飯さん……パパはオレの兄貴分だったんだ」
そう答えると先ほどまで恐る恐るといった感じだったパンだったが、トランクスに対する警戒を解いたのか、リラックスした様子でソファーに座った。
それからビーデルは紅茶を淹れ、トランクスとたくさんの話をした。
悟飯の死後、パンが生まれた時のこと。
タイムマシンで過去へ行き、過去で悟飯の父・孫悟空や自身の父・ベジータと出会い、修行を経て大幅なパワーアップを遂げたこと。
過去でセルという化け物と戦い、最終的に過去の悟飯がセルを倒したこと。
パンは順調に成長しており、この春から学校に通い始めたこと。
「そうなんだ……そっか、過去では悟飯くんがそんなに強くなったのね」
「はい、あのほとばしる力は今まで感じたことがないものでした」
するとビーデルがカップを置き、思い更けった様子でカップの中の紅茶を見つめる。
「過去のわたしは、悟飯くんと出会えるのかしら」
それを聞いたトランクスはとてもやさしい笑みを浮かべた。
「……今のあなたが悟飯さんと出会って、パンちゃんが生まれたように、きっと過去の悟飯さんも過去のあなたと出会うはずです」
根拠はなかった。
ただ悟飯とセルとの戦いは途中までテレビ中継されていたハズだ。
その内容はミスター・サタンの邪魔者という形で紹介されていたものの、それでも悟空や悟飯が繰り広げたすさまじい戦いの様子は全世界に中継されたはず。
きっとそれを見た幼いビーデルは、悟飯のことを認識しているに違いない。
そして根拠はないけど将来、悟飯とビーデルは何処かで出会うはず。
この時代で悟飯とビーデルが偶然出会ったように、きっといつかは出会うはず。
トランクスはそう信じていた。
「そうよね。過去のわたしと悟飯くんのこと、応援しなくちゃね」
それを聞いたビーデルも、どこか満足そうな表情を浮かべた。
「ねえママ、今日のご飯はなに?」
「パン。そうね……トランクス君、今日は夕食ご一緒にいかが?」
「え?」
「トランクスくんも一緒にたべるの?」
「……そうですね、いただいていきます」
ふと、トランクスはパンを見ながら思うことがあった。
それを切り出すタイミングは食事時がいいと思い、夕食をごちそうしてもらうことにした。
それは人造人間を倒してまもなくのことだった。
──母さん、チチさんと牛魔王さんはまだご存命なんでしょうか?
──ええ? そうねえ、多分チチさんと牛魔王さんは元気だと思うけど。
──そうですか、チチさんと牛魔王さんはパオズ山に住んでますかね?
──どうかかしらね。最近連絡が取れていなかったから……でも孫くんや悟飯くんとの思い出が詰まったあの家から、チチさんは引っ越さないと思うわよ。
そんなやり取りをした覚えがある。
その時はチチや牛魔王にも、過去で何があったのかを直接説明したいと思っていたが、今はそれ以上に大事な用事ができたとトランクスは思っていた。
それは言うまでもなく、パンのことである。
(パンちゃんは悟飯さんが遺した一人娘……つまりチチさんや牛魔王さんにとって、かけがえのない肉親なんだ。パンちゃんとチチさん達は絶対に会わせなきゃダメだ)
思いがけず悟飯の子が発覚した。
これはトランクスにとっても朗報だったが、自分よりもっと喜ぶ人たちがいるはずだ。
二人の架け橋になることができるのは自分だけ。
「……あの、ビーデルさん」
「なにかしら?」
「実はビーデルさんとパンちゃんにどうしても会わせたい人がいるんです」
「ええ、誰かしら?」
「実は……多分ですけど、悟飯さんの母親と祖父、つまり戸籍上はビーデルさんの義母にあたる方がまだ存命のはずでして、オレその人たちが何処に住んでいるのかを知っていて……」
それを聞いたビーデルのフォークが止まる。
自分の義母、そしてパンの肉親が生きているかもしれない。
「ほ、本当なの?、それ?」
「まだこの時代で会っていないので確実とは言えませんけど、パオズ山が人造人間に襲われたという話は聞いていませんし、恐らくまだ二人とも元気だとオレの母さんも言ってました」
固まるビーデル。
ビーデルとトランクスを交互に見つめるパン。
そんなパンの頭をビーデルは撫でてから、ビーデルは真剣な面持ちでトランクスに向き合う。
「トランクス君、ぜひお義母さんたちに会わせてくれないかしら?」
「もちろんです。パンちゃんの学校が休みの日、ぜひ」
それからの話はトントン拍子で進んだ。
「私も行くわ。チチさんはアンタのことは赤ちゃんの頃しか知らないし、私は直接チチさんと面識があるから」
ビーデルとパンが孫家へ行く日には、ブルマも同行することになった。
確かに過去ではチチとトランクスは会っているが、この時代では成長してからトランクスは一度もチチに会っていない。
その状態でいきなり行くのはリスクがあることも事実だった。
それゆえ、トランクスとしてはブルマの同行は非常に助かるものだった。
──そして当日。
ブルマが操縦するジェット機でパオズ山へ飛ぶ。
着陸すると、そこにはあのころから変わらない。ただ少し外壁が老朽化したように見える孫家が建っていた。
「なんだべ?」
飛行機が飛んでくることも珍しいからか、その音に気付いたチチがドアを開けて出てきた。
悟空、そして悟飯の死を経て、心労も祟ってかチチの髪には白髪が混じり、皺も多くてかなり老け込んだ様子だったが、これで健在が確認された。
飛行機から降り立ったブルマが、手を振りながらチチに近づく。
「チチさん、お久しぶり」
「あ!! ひょっとしてブルマさんだか!?」
「そうよ、久しぶりよね。悟飯くんが亡くなって以来かしら?」
「いやあブルマさんは相変わらずだべ!! おらなんか悟飯ちゃんが死んじまってもう何もやる気がなくなっちまって、すっかり老け込んじまって……」
そう語るチチの姿は、トランクスが過去で見た若いころのチチと比べても、弱弱しくて小さく映った。
「こんにちは、チチさん」
「あれ、おめえは……」
「聞いて驚くわよ? この子トランクスなのよ」
「ええ!? と、トランクスだか!?」
「はい、僕トランクスです」
チチの記憶の中にあるトランクスはまだ赤子だった。
そのトランクスが見違えるほど逞しく、そして優しげな青年に成長していたのだ。
「なんだべチチ、いったい……おお、おめえたつは!?」」
「おっ
「おお、これはこれは!! それにしてもトランクス、おめえほんとデカくなったなぁ!!」
「どうも、牛魔王さん」
牛魔王も大柄な体格は相変わらずだが、髪は完全に白髪になり吹けた様子だった。
年齢的にはチチは悟空と同い年で、ブルマよりも年下だが、やはり悟飯の死がよほど精神的にきてしまったのだろうか、こうして並ぶと父である牛魔王以上にチチが老け込んだ印象だった。
そんなチチだが、ブルマとトランクスの横に並ぶ妻子に気づく。
「あれ、おめえたちはいったい……?」
「ふふふ。チチさん、聞いて驚くわよ?」
「今日はこの人たちをお二人に会わせたくて来ました」
「この二人とだか? おめえたちは……」
状況が理解できていないチチを見て、ビーデルは礼儀正しくお辞儀する。
「はじめまして、わたしはビーデル。孫悟飯さんと生前、お付き合いさせていただいてました」
「え、ええ!? 悟飯ちゃんとだか!?」
「じゃ、じゃあおめえさんの横にいるその女の子は……」
「はじめまして。ばあちゃん、ひいじいちゃん。パンです」
「ばあちゃんて……お、おめえ、まさか…………っ」
パンが元気よく挨拶をする。
そのワードにチチは狼狽えた。
現実だとは思えなかったからだ。
そしてビーデルはついに打ち明けるのだった。
「この子はわたしと悟飯くんの子供です」
「そういうこと。つまりこの子はチチさんにとってお孫さんってことなのよ」
それを聞いた瞬間、チチの体がわなわなと震える。
「うわああああああああああああああああーーーー!!」
そして大粒の涙を流しながら、チチはしゃがんでパンのことを抱きしめるのだった。
悟飯の死後、涙さえ枯れてしまったかのようなほど無表情なチチだったが、悟飯が遺した自分の孫との出会いに、チチの中で様々な感情が渦巻いて、ただひたすら泣くことしかできなかった。
ただこれだけは間違いなかった。
──パンのことが愛おしかった。
悟飯が遺してくれた、たった一つの宝物。
その事実だけでチチにとっては十分だった。
「ばあちゃん、どうしたの?」
「うう、ひっぐ……パン、おめえ、生まれてきてくれてありがとう」
「ばあちゃん、ちょっと苦しいよ?」
「うう、悪かっただ。ビーデルさん、おめえも……」
「うう、うわあああ!!」
そう言ってチチが腕を広げると、ビーデルも父の胸に飛び込んだ。
この子がいたからパンが生まれた。
この子が悟飯と出会ってくれたから今がある。
そしてビーデルにとってもこの出会いは特別だった。
──それからチチとビーデルとパンは三十分近く抱き合った。
「うう、よかったわね。本当に……」
「はい……!!」
それはブルマさえも涙を浮かべ、トランクスも目頭が熱くなった。
それからしばらくして、落ち着きを取り戻した一同は家の中へ通される。
そして二つの写真が並んでいる部屋へ案内された。
「悟飯くん……」
「悟空さ、この子はおらたちの孫だべ。悟飯、おめえに娘がいただよ」
そう言いながらチチは写真に向かって手を合わせた。
「悟飯くん、やっとあなたに報告ができたわ……」
ビーデルもまた手を合わせた。
「悟飯さん。オレ、もっと強くなります。これから先、どんな奴が現れても負けないくらい強くなって、悟飯さんが遺してくれたこの光景を必ず守ります……!!」
トランクスもまた、手を合わせて強く誓いを立てるのだった。
それからは積もる話がありすぎて、あっという間に夜になってしまった。
「お義母さん、わたしたちここに引っ越そうと思うのですが……」
「ああ、そうしてくれ。おらたともおめえたちと一緒に暮らしたいだ」
それからビーデルとパンが孫家で暮らすようになったのは、わりと直近のことだった。
そしてパンは転校することなく、悟空が遺した形見である筋斗雲に乗って今まで通っていた学校に通い続けるのであった。
そしてブルマはカプセルコーポレーションの代表として、人造人間たちにめちゃくちゃにされた街の復興を、自社の製品や科学分野から支えることになった。
そしてトランクスはブルマの後継者として、経営学などを学びながら修行を続けた。
セルを倒した悟飯のような圧倒的な強さを手に入れ、平和を守っていくために。
──そしてこれは後に判明することだが、意外な人物たちも生存していた。
「カリン様のおかけで今日もうめぇ飯が食えると思うと、泣けてくるがや……」
ヤジロベーはカリン様が最後の仙豆を与えたことで、命からがら生き延びたのだった。
そんなヤジロベーの生存が発覚し、後の戦いで役に立つことになるのは先の話。
──さらにこの男も生き延びていた。
「ほう、トランクスが人造人間を倒しおったか。しかしワシ、魔封波に失敗してあの場で気絶してしまったものの、奴らが人造人間だからかまさか生きながらえてしまうとは。亀やウーロンたちはワシが死んだと思ってるんじゃろうな……やれやれ、今更のこのこ帰れんのう」
実はあの日、電子ジャーを18号に破壊され、魔封波は失敗していた。
そして亀仙人はその場で気絶して倒れたのだが、亀仙人が死亡したと思った17号と18号によりトドメは刺されなかった。
結果、亀仙人は生き永らえた。
ピッコロ大魔王と違い、彼らは人造人間だからか、エネルギーの大幅な消耗はあっても死に至るほどの消耗はしなかったわけだ。
運よく生き残ってしまった亀仙人は、大口をたたいてカメハウスを出た手前、なかなかカメハウスに帰ることができずにいた。
そんな亀仙人の生存が発覚し、ウミガメたちと再会を果たすのはまだ先の話。
──そして時は流れ。
「まさかダーブラまで配下にしていたとは……ッ!?」
「安心してください、界王神様。パンちゃん、バビディを頼んだ」
「わかったわ。トランクス、あんな変態そうなヤツやっつけちゃってよ!!」
──トランクスたち、次世代の戦士たちの戦いは続くのである。
これにて未来編は完結です。
もしも未来悟飯がビーデルと出会い、パンを遺していたらという妄想です。
バビディ一味との戦い、そしてゴクウブラック編はまた別に書くかもしれませんが、とりあえず次回からまた別なIFストーリーを書こうと思います。