トチ狂った日本国召喚   作:北限の猿

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今更ですが、原作既読者向けに書いております


空自がやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ!

ロデニウス大陸北側の海域を無数の木造船が突き進んでいた。

その数4400隻。その多くが手漕ぎのガレー船であり、数十隻のやや大きなキャラック船に似た帆船が100隻程度のガレー船を指揮している。

そんな中、総旗艦である一回り大きな帆船に乗船するクワ・トイネ征伐艦隊司令官のシャークンは、海を覆い尽くさんばかりの大艦隊を前に感嘆の吐息をついた。

 

「美しい…何と壮観な事か。この艦隊を以てすればロデニウス大陸統一…いや、第三文明圏すらロウリア王国の版図とする事が出来そうだ」

 

そうは言うものの、それが無理な事はシャークン自身がよく分かっている。

確かにロウリア王国は大国であるが、それは"文明圏外にしては"という注釈が付く。

いくら文明圏外の大国が足掻こうが文明国の小国には勝てず、文明国の大国であっても列強国の力を以てすれば瞬く間にすり潰されてしまうだろう。

この世界においては、それが自然の道理なのだ。

如何にロウリア王国が戦力を揃えようが、列強国である『パーパルディア皇国』の足元にも及ばない。

 

「今はまだ無理かもしれん。しかし、ロデニウス大陸統一によって更なる国力を得られれば子や孫の代には…」

 

「シャークン将軍!」

 

未来のロウリアを夢想していたシャークンであるが、マストの上から見張り員によって呼びかけられる。

 

「どうした!」

 

「前方に島が見えます!小さな島が2つです!」

 

「なんだと?」

 

怪訝に思ったシャークンは海図を広げ、遠くに見える沿岸の形から艦隊の位置を今一度確認する。

 

「…いや、そんな筈はない。この辺りに島は無い」

 

陸地から遠く離れた絶海の孤島ならまだしも、こんな陸地が見える近海の島を記録していない訳が無い。

そう考えたシャークンは自身の目で確認する為に、天然石をレンズ代わりにした原始的な望遠鏡で見張り員が指していた方向を見る。

 

「……なんだあれは」

 

見張り員の言う通り、視線の先にあったのは"島"と形容すべき物であったのだが、それはシャークンの知る島とは全く違っていた。

海岸の砂浜や磯は無く、植物なども一切生えていない。

スパッと切断されたかのような直線で形作られた三角形に近い形の灰色をした"何か"としか言い様がない。

そしてそれはシャークンの目がおかしくなっていなければ、ロウリア艦隊へ近付いているように見える。

 

「バカな…まさかあれは、船なのか?」

 

困惑するシャークンを他所に、その島と見紛う程の船らしき物から小さな影が飛び立った。

その小さな影はバタバタと干した絨毯を叩いているような音を立てて、ロウリア艦隊の上空へと飛来した。

 

《あー、あー、ロウリア王国軍、こちらは日本国海上自衛隊である。貴軍は現在クワ・トイネ公国の領海に侵入している。それ以上船を進めるなら、我々はクワ・トイネ公国との安全保障条約に基づき、貴軍への攻撃もやむ負えない》

 

信じ難い事に空中で完全に止まってみせた"何か"からは人の声が聴こえる。

シャークンも日本はワイバーンを知らぬ未開国だと聞かされていたが、それは彼等がワイバーンを知らないのではなくワイバーン以外の航空戦力を持っている(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)が故の事なのではないか?

そんな可能性に行き着いたシャークンなぞ露知らず、水兵達は弓やバリスタを射て声を発する飛行物体を撃ち落とそうとするが、中々当たらない。

どうやらその飛行物体は強烈な風を出しているらしく、近くまで飛翔した矢が途端に失速してヘロヘロと落ちて行った。

 

《撤退の意思は無い、という事か。では言葉通り、実力にて排除する》

 

ゾッとするような冷たい声を発した飛行物体は踵を返すようにして、島のような船へと戻った。

それを見た水兵達は汚い言葉で飛行物体を罵るが、シャークンは額に冷や汗を浮かべて島のような船を注視している。

 

「マズイ…あの巨体で突っ込まれたら何隻も巻き添えになる。しかもあんなに凹凸が少ないのでは、移乗しての白兵戦にも持ち込めない。あれは巨体を活かした衝角攻撃を主力とした船だな。我が方の船同士の間隔をなるべく広く……」

 

ードォォォォンッッ!!

 

「っ!?」

 

海上に響きた渡る轟音と共に島のような船の一部から炎が噴き出た。

火矢に使う為の油に引火したようにも見えるが、かつてパーパルディア皇国へ赴いた事があるシャークンは、その光景に見覚えがあった。

 

「ま、まさか…!魔導砲(・・・)…!?」

 

文明国及び列強国の力の象徴とも言える、鉄塊を数km先まで飛ばす兵器。

それを今まで名も知らぬような国が持っているとは思えないが、シャークンの目の前で消し飛んだ数隻のガレー船は、それが紛れも無い現実であると知らしめていた。

 


 

ードンッ!ドンッ!

 

「弾着、今!…命中、敵舟艇3隻の撃沈を確認しました」

 

(北朝鮮)の工作船やミサイル艇に比べれば止まっているようなもんだ。しかも距離は5kmしか無い。外す方が難しいって話よ」

 

『ながと』の内部、無数のモニターに囲まれたSMC(発展型CIC)の内部で艦長の荒牧が大した事も無さそうに告げる。

『ながと』の主砲である203mm単装砲の有効射程(・・・・)は通常砲弾でも40km以上を誇り、ロケットアシスト誘導砲弾ならば100kmを超える。

さらに言えばCIWS(近接防御火器)として艦橋後部、ヘリ格納庫構造物の舷側に前後違い違いに装備された『ボフォース 57mm単装速射砲Mk.3』でさえ20km以上の最大射程を持つのだ。

それらの火器と優秀な目と頭脳(センサーとコンピューター)を持つ『ながと型』にとっては5kmなぞ目と鼻の先の距離である。

しかし、ブルーアイ(文明圏外人)からしてみれば常識外な話だ。

その証拠に荒牧の隣に座る彼は艦上空で待機する『MQ-8C(無人ヘリ)』のカメラで撮影されたロウリア艦隊が次々と沈む様を捉えた映像が映し出されたモニターを見て、あんぐりと阿呆のように口を開けている。

 

「荒牧艦長、西方空域に多数の識別不明飛行体を確認。ロウリア軍のワイバーンと思われます。数は113」

 

(やっこ)さん、本腰入れてきたようだな。『ずいかく』『おおすみ』へ防空支援を要請しろ」

 

「はい。……ん?荒牧艦長。空自から『ずいかく』の艦隊司令部へ要請があったようです」

 

「要請?空自が我々(海自)にか?」

 

「はい。どうやら空自も作戦に参加したいらしく…」

 

「ははぁ…なるほど。ギムでは陸自、海では海自が暴れてるのはズルい、って感じか。艦隊司令は何と?」

 

「最前線に展開する『ながと』『とさ』両艦の艦長判断に任せると」

 

「わかった。ならば空は任せようかね。空自さんも新しいオモチャ(兵器)を手に入れたから、早く使いたいんだろう」

 

「はい。その旨を艦隊司令部へ伝達します」

 

荒牧と通信士が艦隊司令部とやりとりしている間、ブルーアイは呆然としながらも敵である筈のロウリア兵に心底同情するのであった。

 


 

日本の南西に浮かび、屈指の観光・リゾート地として有名な沖縄県は那覇市。

そこに置かれた航空自衛隊第9航空団は久々の出撃命令により、作戦機(戦闘機)の準備を急ピッチで進めていた。

 

「よーし!久々の出撃だ!中国が無くなったお陰でスクランブルも無かったからな!……()、元気かなぁ…」

 

スクランブル中によく空中で会い奇妙な友情を育んでいた中国人パイロットを思い出しつつも、一人の空自パイロットが洋上迷彩が施された戦闘機へ飛び乗る。

空自の洋上迷彩戦闘機と言えば『F-2戦闘機』であるが、本機は我々が知るF-2とは違う。

と言うのも本機は米国で『A-10攻撃機』の後継として再開発された『F-16XL』の制式採用型である『F-16L』の日本版である『F-2C/D』なのだ。

 

鏃を思わせる『クランクドアロー翼』を持ち、エンジンも新型に変更、更には炭素繊維強化複合材の割合を増やしてレーダーも最新型にし、機体自体も各所にステルス性を意識した設計となった結果、本機はステルス性以外は第5世代戦闘機に匹敵する性能を持つ『最強の多用途軽戦闘機』との評判である。

因みに本機は西暦2035年時点で実験機を除いた全機が機体背面に取り付けるコンフォーマルタンクを装備しており、航続距離は大型機である『F-15E』にも匹敵する。

 

「コイツの初陣が木造船とはな…」

 

「まあまあ、いいじゃないか。そういうのもコイツの仕事さ」

 

続いて2人組のパイロットが乗り込んだのは『F/B-1』と命名された元スホーイ社製戦闘爆撃機『Su-34』の改良型である。

カモノハシを思わせる扁平のレドームや2人のパイロットが並列に座るような基本設計は変わっていないが、海自で採用された『F/A-18E/F』を参考に各所にステルス性を意識した構造を採用し、レーダーやエンジンを日本製の高性能かつ小型の物にしている為、原型機よりも二歩三歩先を行く性能だと評されている。

 

そして本機には空自で採用された基本モデルである『J型』を始め、4人乗りの電子戦機である『JE型』、同じく4人乗りながらも磁気探知機(MAD)やソノブイや短魚雷を装備した対潜型である『JP型』も採用されており、全バリエーションが対艦ミサイルを最大で6発搭載可能という陸海空自衛隊(対艦ミサイルガチ勢)らしい、頭のおかしい仕様だ。

 

そんな空自を象徴するような戦闘機達が滑走路から次々と飛び立って行った。

その数、32機…かの米海軍第7艦隊を以てして「空自と戦えば我々は全滅する」と言わしめた世界最強(・・・・)と名高い対艦攻撃部隊が平和を乱す侵略者(ロウリア王国)へ、その力を振り下ろす。




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魔王編の後、何を書くか(期限一週間)

  • 対パ皇戦編
  • 日本と接触した各国の変化編
  • 幻の中央歴1640年先進11ヵ国会議編

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