トチ狂った日本国召喚 作:北限の猿
首都ジン・ハークの郊外に広がる荒野。
そこに展開したロウリア王国の切り札である重装歩兵隊は、重厚な大盾と長槍を構えて東方を睨んでいた。
「クワ・トイネの軍か…。本当に来るのか?」
緊密な陣形を組む重装歩兵隊の中でも一際異彩を放つ盾を持ったスワウロという名の兵士がポツリと呟く。
普段は首都防衛のために温存されてきた彼らが根こそぎ駆り出されるという事は王国の危機であるという証拠であり、それを匂わせる噂もあちこちで囁かれている。
曰く、万の軍勢が手も足も出なかった。
曰く、4000もの艦隊が300程しか帰ってこなかった。
曰く、150騎のワイバーンが1騎も帰ってこなかった。
そして、それらの噂に尾鰭が付き、人々は次第にこんな噂を囁くようになった。
クワ・トイネ公国は復活した古の魔法帝国に下り、その力の一端を授けられた…と。
「古の魔法帝国…眉唾だが、クワ・トイネが
出兵前に妻より持たされた先祖伝来の『伝説の盾』を構え直し、目を細めて土煙で霞む地平を睨む。
「…ん?地面が揺れている?」
微かな、本当に微かな振動であった。
例えるなら街道を走り抜ける馬車のすぐ近くに立っていた時に足裏に感じる、そんな微かな地面の振動に近い。
「おい!なんだありゃ!?」
「なんだ?」
兵の一人が驚愕の声を上げ、遠くを指さす。
それにつられてスワウロも同じ方向に視線を向けるが…
「な、なんだ…"アレ"…?」
スワウロ達が目にしたのは、角ばった体に長い角を生やした緑色の巨大な魔獣…陸上自衛隊の33式戦車と、クワ・トイネ陸軍の16式機動戦闘車であった。
「ま、魔獣だ!」
「何てこった!クワ・トイネが魔帝と手を組んだって噂は本当だったんだ!」
「よく見ろ、人が背に乗ってる!なんて大きさなんだ…」
部隊に動揺が走り、鎧や盾がぶつかり合ってガチャガチャと金属音を立てる。
「えぇい、狼狽えるな!よく見ろ!相手は魔獣とて、数は我が方が優っている!それに、此方には首都防衛の竜騎兵も騎馬隊も温存されているのだ!戦力的優位は此方にある!」
一際煌びやかな鎧で固めた部隊長が兵達を鼓舞する。
すると兵達は自分達の優位を認識したのか徐々に落ち着きを取り戻した。
「よし、何も恐れる事はない。我々毎日血の滲む鍛錬を積んできた。我々こそロデニウス大陸最強の……」
(…光った?)
自身の言葉によって兵達が持ち直した事に気を良くしたのか、更に士気を上げる為に演説を始める部隊長だったが、スワウロはその中で遥か先に見える
その僅か数瞬の事である。
「よって、我々が勝利するのは必然であり…」
ードゴォォォォンッ!!
「うわぁぁぁぁぁ!?」
部隊長を含めた陣形の中央前列が轟音と共に宙を舞う無数の土塊によって覆い隠された。
「げほっ!げほっ!ぺっ…ぺっ…!な、何が…?」
中央後列に位置していたスワウロは頭から大量の土塊を被ってしまい、口の中に入った土を吐き出して前列に目を向ける。
「うっ……」
いったいどのような力が働いたのだろうか?
精鋭揃いであり、最も質の良い装備を与えられていた筈の中央前列の兵達は誰だったのかも判別がつかない程の肉塊か、或いは四肢がもげて絶命してしまっている。
「うぅっ…」
「痛え…痛ぇよぉ…」
「あ"あ"あ"っ!目が!目がぁぁぁ!」
被害はそれだけに留まらない。
前列の右翼と左翼の一部も被害を受けており、血を流して倒れ伏す者や体の一部を押さえて転げ回る者が見受けられる。
「あの光…あの光か!?皆!あの魔獣は光と共に何かを出してこっちを攻撃しているんだ!盾を構えろ!」
スワウロは光のすぐ後に何らかの破壊力が襲いかかった事に気付き、兵達へ指示をする。
スワウロは士官ではないため従う義理は無い筈だが、それでもこの混乱を極めた場で的確な指示を出してくれるなら誰でも良かったのだろう。
前列の兵は壁のように、それより後ろの兵は屋根のように盾を構えて鉄壁の防御陣を展開する。
ードゴォォォォンッ!
しかし、それは全くの無駄であった。
再び響き渡る轟音と共に重い鎧を装着している筈の重装歩兵が木の葉のように宙を舞い、地面に叩き付けられて
それに伴ってその周囲では重軽傷問わず多くの負傷者が発生し、治りかけていた動揺は再び波紋のように広がる。
「うぁぁぁぁぁぁ!」
「魔帝だ!魔帝が復活したんだ!」
「助けてくれぇぇぇぇ!」
陣形の端から恐慌状態に陥った兵が象徴である筈の盾を捨て、がむしゃらに逃走を始める。
しかし、彼らはまるで
33式戦車の同軸機銃から放たれた7.62mm弾によるものであったが、"銃"の存在すら知らないロウリア兵に取っては見えない力によって殺されたようにしか見えない。
「死…死の魔法だ!」
「こんな盾で防げるかよぉ!」
「逃げるんだ!なるべく遠く…がぁぁぁぁ!」
盾も鎧も捨てて逃げる者、盾を構えたまま蹲る者…どちらにせよ運命は変わらない。
機関銃にて狙撃されるか、多目的榴弾によってズタズタにされるかの違いでしかないのだ。
逃れられぬ死の運命…しかし、そんな中でも生を諦めない者が居た。
ードゴォォォォンッ!
「ぬぅぅぅぅぅぅぅっ!」
スワウロだ。
彼は先祖伝来の盾を両手でしっかりと構え、出来る限り体勢を低くしていた。
そしてその体勢は偶然盾を斜めに構える形になっており、ちょうど傾斜装甲と同様の効果を発揮する事となったのである。
その結果、スワウロは多目的榴弾が撒き散らす破片は勿論、時折飛来する12.7mm弾の直撃にすら耐えて生き長らえていた。
ーガキィンッ!ガキィンッ!キュィンッ!
「ぐっ…うぅぅぅっ!」
盾越しにスレッジハンマーで叩かれているような衝撃が絶え間なく響き、骨が軋んでいくつもの内出血が起きる。
しかし、それでもスワウロは倒れない。
家で帰りを待つ妻の為、そして彼女の中に宿った新たな命の為にもここで倒れる訳には行かない。
「負けるものかぁぁぁぁぁ!」
もし多目的榴弾が直撃すれば間違いなく彼は跡形も残らないであろう。
しかし、幸運な事に砲撃の担当は練度が低いクワ・トイネ陸軍の担当であった。
そんな幸運なぞ露知らず、凡そ10分程経過した時点で砲撃と射撃は止んだ。
「……止まった…?」
静かになった戦場に不安げなスワウロの声がやけに大きく通る。
ーブロロロロ…
「おー…あの銃砲撃の中で生きているとは…。お前さん、名前は?」
「……スワウロだ。お前は?」
魔獣だと思っていた33式の
「オレは日本の陸上自衛隊の戦車長、『
「まさか。もう全身痛くて喉もカラカラ…立っているのもやっとだ…」
「ははっ、だろうな。よし、ちょっと待ってろ」
今にもその場に座り込んでしまいそうなスワウロに苦笑した長友は一旦車内に戻ると、スポーツドリンクのペットボトルと一枚の紙を持って再び現れた。
「この後にオレ達の仲間が来るが、別にお前さんを殺すような事はしない。武器を持たないようにして、この紙を渡せばいい。悪いようにはせんさ。あと、これを飲め。この白い蓋を捻って回せば開くから」
「あ、あぁ…ありがとう。…なぁ、アンタらはジン・ハークに行くのか?」
「そうだ。だが安心してくれ。オレ達が狙ってるのは、この戦争を始める事を決めた連中と、武器を持って立ち向かって来る奴等だけだ。出来る限り一般市民は傷付けないと約束する」
「……そうか」
「信用出来んかもしれんが、少なくとも
立ち尽くすスワウロを置き去りにして33式と、それに率いられる16式がジン・ハークへと突き進む。
「死ぬんじゃねぇぞ!」
「ナイスファイト!」
「その盾誰が作ったんだ?」
33式の車外に乗った自衛官達の労いの言葉が遠のいた後、スワウロはへたり込んで教えられた通りペットボトルのキャップを開けて、スポーツドリンクを勢いよく喉へ流し込む。
「っ…はぁ〜っ!うめぇ…少しだけ甘酸っぱくて…まるで体に染み込んでいくみたいだ…」
ドラッグストアの
その後、彼は長友が要請した
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