トチ狂った日本国召喚 作:北限の猿
福岡市中心部に聳え立つ高級ホテルの高層階、海外要人の利用も視野に入れて作られたスイートルームのリビングでは、パーパルディア皇国使節団がフカフカのソファーに深く座って話し合っていた。
「いやはや…日本は自らを文明圏外国と名乗っているが、実態は全く違う。これは文明国すら通り越し、列強国…それこそムーやミリシアルのような上位列強に匹敵する国だ」
疲れを滲ませながらも感心したようにそう口にするカイオス。
福岡空港に到着した後、簡単な説明を受けた一行は日本政府が用意した観光バスに乗って福岡市内の
「私もカイオスに同意だ。天を突くような高層建築物の数々に、路地裏に至るまで平らに舗装され、人々は"スマートフォン"という高性能な個人用通信機器を持っている…。控えめに言って
カイオスに続いて、エルトが炭酸水が注がれたグラス片手に告げる。
「ふむ…外務局長の御二方が仰るなら間違いないでしょうな。私も以前ムーへと行き、空港を見学した事がありますが、日本の空港はムーの物とは比べものになりません。しかも運用される飛行機械も『ラ・カオス』より遥かに巨大で、高速…もしあの飛行機械に爆弾を搭載し、投下出来るような改造を施したら皇国は勿論、ムーもミリシアルも…最強の航空戦力である『風龍』を運用するエモール王国ですら迎撃出来ないでしょう」
パーパルディア皇国軍作戦参謀である『マータル・ヨヒム』が空港に置かれていた航空会社のフリーペーパーを開き、読者から投稿された旅客機の写真を険しい顔で睨みながらそう述べる。
「ふむ…マータル殿、日本の飛行機械はそれほどまでに?」
「えぇ、ご覧下さい。これは地方線に就役したYP-22という飛行機械ですが、高度1万mを時速850kmで巡航出来るのです。これは驚異的…速度は勿論、高度1万mともなればワイバーンはもちろん、風龍やミリシアルの『天の浮き舟』ですら到達出来ない高度ですよ。もし、皇国が日本と敵対したとしたら、皇国が手出し出来ない高みから攻撃される事となるでしょう」
離陸するYP-22の写真を指差しながら半ば諦めたように述べるマータル。
この世界では古くからワイバーンによる制空権争いと空対地攻撃の概念が根付いていた為、日本の航空技術の高さが否応にも理解出来てしまう。
「しかもこれは"旅客機"…つまりは人や荷物を運ぶ為の物です。本格的な戦闘用となれば、我々が想像だにしない超高性能な代物が出てきてもおかしくはありません」
「ふむ…ロウリア王国に派遣されていた国家戦略局の職員がとんでもない飛行機械によって4000隻もの艦隊が蹂躙された、と報告して精神病扱いされたらしいが…彼は精神を病んだ訳では無く、事実を言っていたのだな」
「おそらくは…。カイオス殿、よければ帰国後にその者に会って話を聞きたいのですが、可能ですか?」
「可能です。彼は強制入院となりましたので、手続きを踏めば退院出来るでしょう」
「……良いか?」
「レミール様、如何なさいました?」
マータルとカイオスが話していると、沈黙を守っていたレミールが口を開いた。
その事に彼女の悪評を知るカイオスとエルトが身構えるが、続くレミールの言葉は良い意味で二人を裏切った。
「私は…日本を不必要に刺激すべきではないと考えている」
カイオスとエルトが信じられない物を見たように目を丸くするが、レミールはそれに気付かないのか、はたまた見て見ぬふりをしているのかは不明だが特にリアクションもせずに言葉を続ける。
「私とて日本はあらゆる面で皇国を凌駕している事は非常に悔しいが理解出来る。もし、皇国が文明圏外国にそうするように、日本に戦争を仕掛けたら間違いなく返り討ちに会うだろう。それを踏まえれば、皇国は日本に対して友好的に振る舞い、敵対しないように立ち回るべきではないか?」
「レミール様、お言葉ですがそれは少々難しいかと思われます」
恐る恐ると言った様子でレミールの言葉に反論したのは、皇国の対外貿易を担当する『商業交流局』の副局長『リンド・パーカー』であった。
「何故だ?」
「はい、結論から申し上げますと日本と友好的な関係を築きますと、皇国は経済的に日本の植民地となるでしょう」
リンドの言葉に使節団の面々がざわつく。
そんな中、リンドは言葉を続ける。
「日本には多くの優れた製品があります。例えば我々の頭上にある『電灯』は皇国で使われている『魔石灯』より小さく明るい、この我々が座るソファーも、浴室にあったカミソリも…あらゆる物が皇国にある同機能の製品より優れ、尚且つ安い。これが皇国に大量輸出されればどうなりますか?」
「……あっ」
誰が言ったかは不明だが、使節団メンバー全員が悟った。
より優れた安い製品が大量に輸入されれば、皇国内の同業者は無理な品質・価格競争に挑まねばならないだろう。
しかし、産業の機械化が遅れている皇国にとっては勝ち目のない戦である。
そうなれば最終的には皇国のあらゆる産業は衰退し、日本よりの輸入に頼らねば生きていけない…正に
事実、現状でも同じ魔法文明ながら機械化を成し遂げた神聖ミリシアル帝国の製品によって皇国の産業は一部が衰退し始めているのだ。
「な、ならば日本からの輸入品には高い関税を…」
「そんな事をすれば日本はそれを口実に圧力をかけてくる。それに反発した国内の過激派によるクーデターの可能性だって…」
「ならば輸入量自体を制限して…」
武力ではなく経済力による植民地支配…それを回避すべく使節団メンバーはアイデアを絞り出すが、どれもこれも日本を刺激してしまうだろう。
「……もう止めよ」
一向に終わりが見えない話し合いであったが、ため息混じりのレミールの一声によって強制的に切り上げられた。
「我々はまだ日本と接触して日が浅く、日本に来て1週間も経っていない。日本という国を理解出来ぬまま、話し合っても仕方なかろう」
そう言ってレミールは立ち上がり、最上階に用意された自身の部屋に向かう。
「本格的な日本視察は明日からだ。日本との付き合い方を考えるのは、それが終わってからでも良かろう」
伸びをしながらエレベーターに乗り込むレミール。
使節団メンバーは「それもそうか」と考え、明日からの視察に備えるべく各々に用意された部屋へ戻ったのであった。
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