トチ狂った日本国召喚 作:北限の猿
カルトアルパスの一角、日本がミリシアルに要請して間借りした荷物の仮置きスペースにはイベント用テントが立ち並び、『おおすみ型輸送艦』や『びわ型補給艦』に積み込んでいた日本の文化・技術・軍事力に関する様々な展示を行う博覧会が行われていた。
このカルトアルパスには多くの国からの来訪者がおり、ミリシアル海軍にも負けない艦隊を引き連れてきた日本は彼らの好奇心を大いに唆り、博覧会は大盛況である。
「うむ…うむむむ…」
人々の熱気が立ち込める博覧会会場の一角で難しい顔をして展示された模型を見つめているのは、神聖ミリシアル帝国において軍事技術開発を行う『技術研究開発局』の開発室長を務める『ベルーノ・ヤサラク』である。
「最高速度はマッハ2.2、上昇可能高度は1万8千m以上、多数の誘導弾を装備可能で、その状態でも700km近い戦闘行動半径を持つ…何という性能だ。我が国の
敗北感を滲ませるベルーノが見つめるのは、歴代航空自衛隊作戦機の模型が展示されているエリアに置かれていた、『F-4EJ改』の模型であった。
原型機の初飛行は80年近く前、自衛隊での採用は60年以上前、そして退役してから10年程経っているF-4EJ改は地球においては
「しかし、このF-4EJ改という飛行機械…どことなく『
「失礼します。我が国の戦闘機にご興味がおありですか?」
機体解説が書かれたパネルに釘付けとなるベルーノに声を掛けたのは、案内役として会場を巡回している自衛官であった。
「えぇ、私は帝国において技術開発の職務を任されているのですが、どうもこの機体が超音速を発揮出来る理由が分からないのです」
「でしたらご説明いたしましょう。先程まで熱心にご覧になられていたので基本的な解説は省略致しますが、本機の飛行性能のキモはずばり
「ほう…」
にこやかな笑顔の自衛官がタブレット端末を起動させ、CGで描き起こしたF-4EJ改のモデルを表示させた。
「ではエアインテークの説明をさせていただきます。模型を見て頂ければお分かりいただけると思いますが、胴体とエアインテークの間に隙間がありますよね?」
「はい、わざわざ隙間を設ける意味が分からなかったのです。こんな隙間があっては余計な空気抵抗を生むだろうし、隙間を作る為に部品点数が多くなって重量増加や整備工程増加が発生するのでは?」
「仰るとおりですが、実は飛行中の航空機の機体表面には"境界層"と言う遅い気流が発生してしまうのです。それを吸い込んでしまうと、エンジンの出力が下がり、最悪の場合は停止してしまいます」
「つまり…その境界層とやらを吸い込まない為に、わざと隙間を設けているのですか?」
「はい、その通りです」
「ですが、実機や
頭に疑問符を浮かべたベルーノが、F-4EJ改の隣にあるF-2A/Bの模型と、やや離れた位置に展示されているF-2C/Dを見比べるように視線を動かす。
A/B型とC/D型は確かに翼面形状が大きく異なっているが、よく見れば機体の画面に取り付けられたエアインテークの形状が異なる。
A/B型は一点に力が加わったかのような若干の歪曲がある楕円形であるのに比べ、C/D型は機体に沿う形で凹字型のものが密着している。
その姿はミリシアル空軍の
「あれは『ダイバータレス超音速インレット』と呼ばれる形式でして、俗に『DSI』とも呼ばれます。あちらは貴殿がさっき仰った通り隙間を設ける為に必要な部品や機構を省略し、軽量化・低コスト化を狙った物となります」
「うん?では境界層とやらを吸い込んでエンジン性能が下がってしまうのでは?」
「その件に関しては問題ありません。綿密に計算された形状により、境界層を"切り裂く"ようにして打ち消す事でエンジンへ正常な気流を取り入れる事が出来るようになっています。設計と製造には高い技術力が必要ですし、飛行中の騒音が大きくなるという欠点がありますが、
「ステルス性…この博覧会では時折聞きますが、イマイチどのようなものか理解出来ていないのです。レーダーによる探知を無効化する技術、という事以上はなんとも…」
「それが理解出来ていれば十分です。レーダーが物体を探知する原理については?」
「電磁波が物体に反射した反射波を受信機で捉える…簡単に言えばこうですな」
「はい、その通りです。基本的に電磁波とは光と同質であり、物体に当たれば殆ど入射方向に跳ね返されます。しかし、もし電磁波を
自衛官の言葉にベルーノは、はっとした様子で何かに気付いた。
「そ、そうか!レーダーは反射した電磁波を探知するから、想定外の方向に逸らされたり吸収されてしまえば探知出来ない!」
「その通りです。地球ではそう言った技術が発展している為、航空機や艦船、車両もステルス性を意識した設計となっていますし、ステルス兵器を探知する為にあらゆる手段が用いられているのです」
神聖ミリシアル帝国は魔帝がいつ何時復活しても対応出来るように国内の様々な基地にレーダーを配備しており、それはそのまま高度な迎撃システムの礎となっている。
しかし、日本はレーダーに探知されない戦闘機や軍艦を保有している…もし、日本を敵に回せばレーダーに映らぬ超音速機や誘導弾を多数搭載した軍艦によって帝国は蹂躙されてしまうだろう。
それに気付いたベルーノは狼狽え、額に冷や汗を浮かべた。
「しかし、ステルス性を持つと言っても完全にレーダーから消える事は出来ません。例えばあちらに見える『ながと型』は戦艦に匹敵するサイズですが、レーダー上では小型艦艇に見えるとは言え捕捉出来ますし、航空機に関しても小さく映るだけで捕捉出来ない事はありません」
「ほ、ほう…っ…ならば…」
「例えばあちらの『たいほう』の甲板上にあるF-35Bはレーダー上では小鳥ぐらいの飛行物体に見えるでしょうね」
「こ、小鳥…!?」
そんな小さな反応ではミリシアルのレーダースクリーンには映らないし、よもや映ったとしてもそれが小鳥なのかノイズなのか日本の戦闘機なのかは判断出来ないだろう。
一瞬見えた希望すらも容易くへし折られ、ベルーノは顔面蒼白である。
「と、ところでステルス性は大体理解出来ましたが、やはり高性能な機体を実現するにはエンジンが重要ではありませんか?貴国の飛行機械が搭載するエンジンについて教えて頂きたいのですが…」
「現用機については流石に機密なのでお教え出来ませんが…F-4EJ改に搭載されていた『J79』や『F-1支援戦闘機』に搭載されていた『アドーア』であれば映像資料があります。ご覧になられますか?」
「是非!是非ともご教授願いたい!あと出来ればでいいので誘導弾についても…」
「そちらも退役済のものならば映像資料がありますので…あ、よろしければご興味のあるご友人やご同僚の方々もお誘い致しませんか?『じぱんぐ丸』の船内で説明会の場を設けますので」
「よろしいのですか!?」
「はい。この博覧会は2週間を予定しておりますので、その期間中でしたらいつでも。参加者様がお決まりになりましたら手近な者に私の名を…広報官の『
「はいっ!ありがとうございます!」
「いえいえ、これから皆様とは友人になるのですから当然ですよ。…では、私はこれで」
深々と頭を下げるベルーノへ、井上は優雅に手を振ってポニーテールを揺らしながら人混みへ消えて行った。
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