トチ狂った日本国召喚 作:北限の猿
カルトアルパスにて開かれた日本博覧会。
軍事技術に関する展示にはひっきりなしに見物客が訪れているが、日本の文化を展示するエリアにも多数の客が詰めかけていた。
「お前ぐらい意気地無しはないよホント……。ばか、間抜け、トンチキ!お前なんぞゼリーの角に頭をぶつけて死んでおしまい!」
「「「「わはははっ!」」」」
日本文化展示エリアでは落語の実演が行われており、生粋の演劇好きで知られるミリシアル人は、たった一人が演じながらも多彩な表現で観客を魅了する落語に夢中なようだ。
無論、日本側もこれまで交流してきた国々からの話でミリシアル人の演劇好きは承知しており、落語を始めとして能や狂言、歌舞伎や講談といった伝統芸能を異世界人でも分かりやすいようにアレンジし、各界の名人に演じてもらっているのだ。
そして、それは何も伝統芸能だけではない。
《アニキは死んだ!もう居ない!だけどオレの背中に、この胸に!一つになって生き続ける!》
「「「「うぉぉぉぉっ!」」」」
ミリシアルには存在しない空想上の人物だけで繰り広げられる
「いやー、素晴らしい盛り上がりだ。
主人公が乗るロボットが合体する場面で大盛り上がりするミリシアル人を感慨深そうに遠目に眺めるのは、文部科学省でこの度新設された『異世界日本文化発信局』の局長である『
地球では欧米の過激派フェミニズム団体より目の敵にされ、過剰な修正や発禁の憂目にあっていた日本のサブカルチャーだが、異世界にはそんな無粋な連中は居ない。
何せ日本には肌の色が白黄黒どころか青や緑の人種が大活躍する作品もあれば、エルフやドワーフや獣人が大人気ヒロインとして活躍する作品もある。
そんな多様性を通り越して
「あのー…」
「はいっ、如何なさいました?」
熱くなる目頭を押さえていた小鳥遊へ、一人の老紳士が話かけてきた。
シルクハットにモーニング…日本の
「私は田舎の…それこそ"都市序列"3桁の町の町長なのですが、日本の事を知りたく遥々カルトアルパスまで出てきたのです。申し訳ありませんが、この田舎者を案内してはもらえませんかな?」
「ええ、この小鳥遊が喜んで案内させていただきますよ。えーっと…お名前は?」
「『エイルト・ミーシャー』と申します」
物腰柔らかく、謙虚な態度というのは日本人に対してはかなり有効的である。
そういった態度を見せる外国人に対して、日本人という民族はとことん甘い為、小鳥遊もエイルトへ職務としては勿論ながら個人的な感情においても和かに対応した。
「では、エイルトさん。どちらをご覧になりますか?」
「そうですね…。では、日本の食べ物について教えて頂けますかな?私が町長を務める町は日々の食事にあまり変化が無いもので…」
エイルトの言葉を聞き、小鳥遊は内心で納得した。
事前情報で、ミリシアルには復活した魔帝からの先制攻撃でルーンポリスやカルトアルパスといった主要都市が壊滅的被害を受けた場合を想定し、各都市に序列を付けて有事の際に指揮系統の移管をスムーズに行えるようにしており、その中でも序列が100以下の都市は正にド田舎であると聞いていた。
そんな田舎の町からすれば、外国の文化に触れるのは正に一生に一度あるか無いかであろう。
「分かりました。ではエイルトさんはエルフですので…此方は如何でしょう?」
「……これは?」
小鳥遊によって日本食展示ブースの試食コーナーにエスコートされたエイルトに差し出されたのは、小皿に載った白い立方体であった。
「これは『豆腐』と言いまして、我が国では古くから食べられていた伝統的な食品です。大豆という豆を蒸したものから搾った『豆乳』という液体に凝固剤を混ぜた物で、動物性の原料は全く使用しておりませんが、筋肉などを作るためのタンパク質が豊富に含まれています」
「ほう…」
エルフは伝統的に肉類をあまり食べない。
しかし、古来よりの経験則で肉を食べないと力がつかない事を知っており、大抵のエルフは仕方なく肉を食べているという状況だ。
しかし、豆腐は肉に頼らずにタンパク質を摂取出来るという点がエルフの伝統と合致しており、事実ロデニウス大陸のエルフコミュニティでは豆腐が一大ブームとなっている。
「あむ…んむ…んむ…味は薄いが、微かな甘さと豆の味がして…中々良いものですな」
「本来であれば様々な薬味や、醤油という同じく大豆から作ったソースをかけるのですが…どうやら異世界の人々の口には醤油が合わないようでして…。ですので、基本的には野菜とともに煮たり炒めたりしています」
「ですが、このトーフとやらは見る限り水気が多くて直ぐに腐ってしまいそうですが?」
「確かに仰る通りですが、冷凍乾燥させた『高野豆腐』であれば日持ちしますよ。見た目や食感はかなり変わりますが、スポンジのように味を吸いますので、煮物との相性は抜群ですよ」
「ほほぅ…それも興味深いですな。しかし…」
何とも名残惜しそうにエイルトは遠くに見える時計台に目を向ける。
「実はこの後に別の用事があるのです。もっと日本の事を知りたかったのですが…」
「それは残念です。ですが、貴国との国交が開設されれば直ぐに日本製品の輸入が始まるでしょう。そうなればエイルトさんの町でも日本の食べ物が買えるようになる筈ですよ」
「ははっ、ではその時まで首を長くして待っていますよ。では…」
「はい。また何処かで!」
シルクハットを脱いで深々と頭を下げた後に、歩き去るエイルト。
小鳥遊はその背中に再会を願う言葉を投げかけながら頭を下げた。
ーバムッ
カルトアルパスのメインストリートより一本入った裏通りに停まっていた
「…ご満足頂けましたか?」
「15分以内というのは厳し過ぎる。せめて孫達への土産ぐらい買わせぬか」
「孫達って…荷車が何台あっても足りませんよ?しかも、
「ならば、日本との貿易が始まればルーンポリスに日本製品の販売店を作るぞ。可能な限り、『アルビオン城』の近くにな」
「恐れながら
「この姿は楽なのだがな…」
そう仕方なさそうにボヤくエイルトと、呆れたような運転手を乗せ、魔導車は密かにカルトアルパスを駆け抜けた。
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