トチ狂った日本国召喚   作:北限の猿

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ムー接触編は次回で一区切りです


マイルド・スピード

場所は再びマイカルの日本博覧会会場。

マイカル港に停泊した豪華客船『じぱんぐ丸』の応接室。

そこでは二人の男性がテーブルを挟んで向かい合っていた。

 

「初めまして。私は『ガラッゾ・オートモービル』取締役専務の『マヒルダ・ガラッゾ』と申します」

 

名刺を差し出したのは、ムー最大の自動車・二輪車製造メーカーであるガラッゾ・オートモービル現代表取締役社長の息子にして、取締役専務を務めるマヒルダ。

それに対し、対面に座る男性も名刺を受け取りつつ、自らの名刺を差し出した。

 

「これはこれはご丁寧に…こちらこそ初めまして。私は『スザキ株式会社』社内相談役の『洲崎 徹(すざき とおる)』と申します」

 

洲崎 徹…その名は日本の自動車業界において知らない者は居ないとされる人物だ。

軽自動車やコンパクトカーを主力商品とするスザキ株式会社を成長させ、転移前はインドにおいてスザキ車のシェア50%を達成させた経営手腕を持ち、代表取締役を退いた現在でも社内相談役として存在感を放つ敏腕経営者である。

しかも御年105歳、人呼んで『自動車業界の長老』『軽自動車の妖怪』…その渾名は数知れないが、そんな彼が老体ながらも長い船旅で遥々ムーまで来たのには理由がある。

 

「マヒルダさん、早速ですが…我が社の自動車は如何でしたか?」

 

「えぇ、私は貴社の『ワゴンL』でしたか。それに試乗しましたが…もう、何と言っていいか分かりません。静かで、乗り心地が良く、運転し易く、更には燃費まで良いと言う話ではありませんか。一言で言うなら"素晴らしい"に尽きますよ」

 

洲崎からの問いかけに、マヒルダは悔しさ半分といった様子で応える。

今回の日本艦隊による主要国訪問には民間技術を展示しており、当然ながらそこには日本が世界に誇る自動車の展示もある。

しかし、それはあくまでも"展示"に過ぎず、試乗をするに留まるものだ。

だが、スザキは他社に先んじて動いている。

 

「それは良かった。あの自動車は我が社躍進の象徴と言える製品ですので」

 

「それは納得ですが…貴殿からのご提案、あれは本気なのですか?」

 

「勿論です。このような場で無意味な社交辞令を言ってあなた方の期待を裏切るような事は致しません」

 

「という事は…?」

 

「えぇ、我々スザキ株式会社はムーへ我々が持つ自動車生産技術を移転(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)しましょう」

 

洲崎の言葉にマヒルダは目を見開き絶句する。

そう、スザキは他の自動車会社に先駆け、異世界での海外工場設置を企てているのである。

 

「し、しかし…自動車は謂わばその国の技術の集大成ですよ?エンジンは勿論、優れたタイヤやサスペンション、ギアボックス等軍事転用されかねない技術の塊です。そのような自動車の製造ノウハウを貴社の独断で我が国(ムー)に移転しても良いのですか?」

 

「それに関しては問題ありません。我が国と貴国の国交開設及び通商条約締結が恙無く完了すれば、我が国の自動車生産技術を貴国に移転しても構わないと了承を政府より頂いています」

 

スザキは他社に比べれば小さな会社だ。

日本どころか世界一の自動車メーカーである『トヨハタ』、二輪車・ビジネスジェットでも頭角を示す『コンダ』、軍需産業にも深く関わる『ミツバ』に比べればスザキは吹けば飛ぶような規模ではあるが、故に意思決定に必要とするプロセスはコンパクトに済む。

そこでスザキは現取締役社長を筆頭に失ったインド市場を補うべく、政府と直接交渉をしてムーへの工場設置許可を得ていたのだ。

 

「なんと…随分と根回しが早いもので」

 

「伊達に長生きはしていませんよ」

 

舌を巻くマヒルダに対し事もなさげに返す洲崎。

しかし、洲崎が行った根回しは政府に対してだけではない。

というのも洲崎は他社との協議により、自社を異世界における斥候(・・)にすると説明したのだ。

これは簡単に言えば工場が問題なく操業出来るか、どのような車種が売れ筋なのかをスザキが検証し、そのノウハウを他社と共有するという事だ。

これにより他社は危険な賭けをする事無く工場設置や異世界向け新型車の開発を行う事が出来、スザキは危険と引き換えに他社に先駆けて異世界での大規模生産を行えるのである。

 

「それで、かなり気の早い話ですが貴社からの技術移転はどれぐらいの時間がかかりそうですか?」

 

「試乗して頂いたワゴンLと同じプラットフォームを使用している車種の生産設備に関しては直ぐにでも移転出来ますよ。あの手の自動車は法改正で売れ行きが落ちたので、維持していても意味が無いのですよ」

 

日本で庶民の足として親しまれている軽自動車だが、2030年に施行された法律で軽自動車は従来よりボディサイズが拡大され、エンジン排気量も660ccから880ccとなった。

それにより従来の軽自動車は"旧規格車"となり新車の売り上げは激減し、多くのメーカーは"新規格車"の製造に切り替えており、その際に不要となった旧規格車の生産設備が日本国内にあぶれているのである。

その為、スザキとしても不要な設備を処分する事が出来、またムーはまだまだ使える設備を入手出来、更に日本国内の旧規格車ユーザーもムー製造のパーツが入手出来る…正に三方に良し、な計画だ。

 

「ですが、あの自動車は我々では概念すらも無い"半導体"という部品が使われているのですよね?」

 

「はい、その通りです。本来なら半導体も貴国で製造出来れば良いのですが、流石に半導体の現地製造は政府からの許可が降りませんでした。ですので、半導体は我々が製造して輸出しますので、そちらはエンジンやボディを製造、ムー国内で組み立てるという方式に致しましょう」

 

「なるほど…確かにそれならどうにかなりそうです。とは言ってもあれ程の剛性を持ったボディと、静粛性に優れたエンジンの製造は一筋縄ではいかないでしょうが…」

 

「はっはっはっ、それについても我々が全力でサポート致しましょう。定年で暇を持て余しているウチの若いの(・・・)を再雇用して指導員として派遣しますよ」

 

「何から何まで…本当にありがとうございます。しかし、私達は大したお礼なんて出来ません。本当によろしいのですか?」

 

至れり尽くせりな提案にマヒルダは申し訳無さそうに問いかける。

すると須崎は年を感じさせぬ軽い挙動で立ち上がると、半分飾りのような杖を片手に窓辺に歩み寄った。

 

「……その昔、我が国の自動車は嫌われていました。安く、性能の良い日本車は他国の自動車メーカーを危機に曝し、多くの失業者を生み出す原因となったのです。私はそれを間近で見ていました」

 

窓から見えるマイカルの街並みを一目見ると、再びマヒルダへ目を向けた。

 

「それから私は常々こう考えているのです。"ただ作り売るだけではなく、人々に寄り添う製品を作るべき"だと…。だからこそ私はあなた方に寄り添いたい。同じ科学文明国として、同じ地球で生まれた者として、共に歩んで行きたいのです」

 

 

 

 

 

 

 




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魔王編の後、何を書くか(期限一週間)

  • 対パ皇戦編
  • 日本と接触した各国の変化編
  • 幻の中央歴1640年先進11ヵ国会議編
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