トチ狂った日本国召喚 作:北限の猿
かつてのレイフォリア港はムー大陸以西の第2文明圏外国家との貿易で栄えた港町であったが、レイフォルがグラ・バルカス帝国の怒りを買ったその日に猛烈な艦砲射撃で廃墟と化し、今ではグラ・バルカス帝国の手によって近代的な軍港を兼ねた港へと生まれ変わり、
そんな第2文明圏屈指の港に停泊するのは黒鉄の艦隊…レイフォリアを灰燼に帰した張本人である帝国海軍東方艦隊だ。
旗艦であるグレードアトラスターを始めとした金属製機械動力艦達は安い労働力として酷使されるレイフォル現地民を睥睨するように市街地に睨みを効かせており、現地民は怒鳴り散らす帝国民とそれらの艦隊に怯えながら必死に働いている。
「……酷いものだ。兵器だけではなく、こういった面も20世紀初期の地球とそっくりだ」
呆れたように吐き捨てるのは、東方艦隊から少し離れた桟橋に停泊する異形の艦隊…日本国海上自衛隊第三航空護衛艦隊の司令である佐藤だ。
海上にて出会したグラ・バルカス帝国艦隊は
まるでアフリカや中南米を植民地化した近世の西欧諸国が第二次世界大戦レベルの軍事力を持った帝国主義国家、それこそが佐藤が覚えたグラ・バルカス帝国像であった。
「個人的にはあまり関わりたくない国だな」
これまで日本が接触してきた国々…パーパルディア皇国や第三文明圏外諸国は地球で言えば中世から近世に相当する文明の発展具合なため、価値観もそれ相当になるのは理解出来る。
そして神聖ミリシアル帝国やムーは現代日本と似たような価値観を持っているため、彼らとは友好的に接する事が出来るだろう。
しかし、グラ・バルカス帝国は文明レベルを見ればそろそろ植民地経済や帝国主義から脱却してもいい頃合いだが、ご覧の通り現地民を奴隷のように扱う様は日本と彼の国が相容れない価値観を持っている事を否応無しに伝えているかのようだ。
「政府はどう考えるかな…」
グラ・バルカス帝国は日本と同じく異世界から転移してきたと主張しているが、それが事実なら彼の国があった世界は帝国主義が蔓延した悲惨な世界だったのだろう。
そんな世界の常識が染み付いた国と友好的に接する事は出来ないと佐藤は考えているが、佐藤個人の考えで国同士の交流を左右する事は出来ない。
何せ自衛隊は
そんな事を考えつつ、佐藤は『たいほう』の艦橋内から空を見上げ、展示飛行を行うF/A-18Eの編隊を眺めるのであった。
《現在展示飛行を行っているのは、海上自衛隊の主力艦上戦闘攻撃機であるF/A-18E、通称スーパーホーネットです。本機は同盟国であるアメリカ合衆国によって開発された機体であり、最高速度はマッハ1.6、つまり時速にして約1700kmとなります。更に本機は戦闘攻撃機の名に恥じない多数の兵装運用能力を備えており、射程100km以上、飛翔速度マッハ4以上を誇る空対空誘導弾である『AAM-7』を始め、射程300km以上、飛翔速度マッハ3以上を発揮する対大型艦船を想定した空対艦誘導弾『ASM-3改』等、様々な兵装を混載して1回の出撃で航空優勢を確保しながら敵艦隊を攻撃する事も可能です》
轟音を響かせながら海上自衛隊のスーパーホーネット4機が見事なダイヤモンド編隊を組んでレイフォリア上空をフライパスする。
「アレはスーパーホーネット、と言うのか。しかし、超音速飛行が可能で誘導弾まで実用化しているとは…やはり日本は我々とは違う技術体系を構築しているらしい」
空を縦横無尽に飛ぶスーパーホーネットを見上げつつカイザルはそう呟いた。
日本艦隊と接触した東方艦隊は日本側から異常接近について謝罪されつつ、国交開設交渉の場を設ける為に帝国政府との仲介を頼まれたのだ。
その際、カイザルは日本の技術の高さを一目で見抜き、帝国政府に対して細心の注意を払って対応するように進言し、日本側が提案した博覧会開催で日本の技術を見極めつつ、レイフォルの植民地統治政府を介して国交開設交渉を行う事となった。
そしてカイザルは日本の軍事力がどのような物かを検分し、その対抗策を編み出す事を期待されて博覧会会場を彷徨いている。
「しかし…あんな兵器を前にどうしろと言うのだ。射程100kmを誇る超音速の誘導弾なぞアンタレスでどうこう出来る相手ではないぞ」
会場に響き渡るアナウンスの言葉を信じるなら軍神と謳われるカイザルの頭脳をもってしてもお手上げだ。
アンタレスは最高速度時速560kmの高速性能と、軽い機体に起因する高い運動性と上昇能力を活かした格闘戦で数多の敵を撃ち落としてきた傑作機な事は間違いない。
しかし、100km先から超音速で誘導弾が突っ込んで来るとなるとどうしようもない。
大多数は気付かぬまま撃墜され、気付けても為す術なく撃墜されるだろう。
「ふむ…だがそんな誘導弾であればおそらくは非常に高価かつ製造工程が多く時間がかかるだろう。そうなると、大量の航空機や艦艇で短時間の内に波状攻撃を仕掛け、誘導弾の枯渇を狙うのが確実だが…そうなると大量のパイロットと機体を無駄に消耗させてしまう。如何に日本に勝つためとはいえ、それでは此方が消耗しきってしまうぞ」
帝国軍の一部部隊は捕虜や占領地の住民を追い立て地雷原を歩かせて地雷除去をしていると聞くが、空戦や海戦でそれをしようとするのであれば、高価な航空機や艦艇とそれらを操る事が出来る人員を無駄遣いするという事になる。
それでは日本に勝てても帝国は戦力の多くを失ってしまい、他国によって…それこそムーや神聖ミリシアル帝国によって攻め込まれ、敗北してしまいかねない。
「むう…やはり日本との衝突は全力で回避する、あるいは上手く技術を盗み出すより他無いが…いや、望み薄だが艦隊決戦ならば勝ち目があるかもしれない。日本の艦艇は確かに図体はそれなりだが、どれもこれも砲は少ない。12cmから20cm程度の砲が1門か2門程度で砲戦には役に立たないだろう。おそらく対艦誘導弾が主力であるが故なのだろうが…対艦誘導弾が枯渇すれば我々に分がある。如何に対艦誘導弾が高威力であろうが、分厚い装甲と細かい水密区間と十分な予備浮力を持つ戦艦を一撃で沈める事は不可能なはずだ」
「あーあ、お前がいたらん事したせいで展示飛行から外されたわー。あー、辛いわー」
「悪かったってぇ…。でもさぁ、大和型が目の前にあったんだぞ?間近で見ないと」
「ん?」
カイザルが対日戦の戦略を練っていると、箒と塵取りを持った二人の若者が不満げな表情でゴミを掃き集めていた。
レイフォリア港には金属クズや紙ゴミが落ちている事がよくあるが、日本人は綺麗好きなのかよくゴミを拾って掃除している。
そのおかげでレイフォリア港の博覧会会場内はゴミ一つ無い。
「失礼、君達が言っている大和型とは何かね?我々の戦艦はグレードアトラスター級と言うのだが…もしや日本にも同じような戦艦が?」
「あっ、グラ・バルカス帝国の軍関係の方ですか?」
「そうなんですよ!日本にはかつて大和型と呼ばれる世界最大最強の戦艦があったんです!世界最大級の艦砲である45口径長46cm3連装砲を3基備え、副砲も世界最大の60口径長15.5cm3連装砲を4基!装甲は砲塔防楯で660mmもあり、満載排水量7万トン超!正に海に浮かぶ要塞で男のロマンを体現したような戦艦だったんですよ!あっ、でもそちらのグレードアトラスター級は副砲が半減して高角砲や機銃が増えているので大戦末期の対空戦闘能力を向上させた改修後の姿ですねー。個人的には就役時の姿が好きなんですが…まあ、大和が沈んで90年、動いてる姿を見れただけでも大満足ですよ!あっ、そうだ。グレードアトラスターの写真って…」
ーゴチンッ!
「痛っっっっぁぁぁ!」
「お前、相手が困ってるじゃねぇか。すいませんねー、コイツ、軍艦の事になると目が無くて。ほら、次は『たいほう』艦内の掃除だぞ」
「分かったから引っ張るなよぉ…」
まるで機関銃のように喋っていた若者だったが、もう1人の若者によって脳天に拳骨を喰らって引き摺られて行く。
その光景を見てカイザルは呆然としていた。
いや、正確には若者の言葉を聞いて驚愕していたのだ。
(バカな…何故、日本の軍人がグレードアトラスター級の諸元を知っている…?グレードアトラスター級の諸元は我が国の国民でも知らない機密だったはずだ…いや、それより日本にも似た戦艦があった!?しかも沈んでから90年…つまり我が国の最新鋭戦艦は日本からしてみれば90年前の骨董品だというのか!?)
グラ・バルカス帝国における90年前の軍艦と言えば、それこそこの世界で現役な戦列艦が主力であり、初期の蒸気船が漸く出現し始めた頃だ。
その頃の人間がグレードアトラスター級の出現を予見出来なかったのと同じように、カイザルが90年先の技術を持っている日本の実力を正確に予測出来るはずも無い。
(日本…やはり予断を許さない相手だ。私の進退…いや、命を懸けてでも政府が早まるのを阻止しなくては…!)
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