トチ狂った日本国召喚 作:北限の猿
エストシラント中心部、皇帝が住まう宮殿へと一直線に続く大通りを一台の
日本が世界に誇る自動車メーカー、トヨハタの高級ミニバン『ヴェルファード』のVIP専用モデルだ。
日本国内でも大臣クラスの政治家や大企業の幹部の送迎に使われるような自動車だが、本車は日本国政府がパーパルディア皇帝ルディアスへ、友好の証として
故に、乗り込んでいるのはルディアス、その人だ。
「はぁ…」
揺れや騒音も無く、まるで滑るように走るヴェルファードの後部座席でルディアスはため息をつく。
彼が見ているエストシラントの街並みはいつもとは変わらないが、二つほど違う点がある。
まず一つ目は道路だ。
元々のエストシラントの大通りや主要道路は石畳で舗装されたしっかりしたものであったが、それでも多少の凹凸があったため、上等な馬車であっても微細な振動に悩まされるのが常であった。
しかし、今では日本からの技術供与によりアスファルト、或いはコンクリートによって殆ど凹凸が無い平滑な路面への更新が進んでおり、このような自動車は勿論、古びた荷馬車でさえも快適に通行する事が出来るようになった。
もう一つが、自動車の普及だ。
ロウリア王国の負債を日本が肩代わりするにあたり、金銭・奴隷・資源の代替として皇国へ献上された5000台の中古自動車及び二輪車だが、それらは貴族や豪商といった富裕層の乗り物として使われ始めており、数は少ないもののエストシラントでは当たり前に自動車が走るようになっていた。
それだけを聞けば
というのも皇国は現在進行形で
「運転手、出発前に入れたガソリンはいくらだったか?」
「はい、陛下。ガソリンが30リットルで約9万パルクでありました」
「そうか、分かった」
日本製自動車には燃料、つまりガソリンが必要だ。
しかし、皇国は
だからこそ日本から精製された石油を輸入するしかないのだが、それがとんでもなく高い。
具体的に言えば1リットルあたり3000パルク…日本円に換算すれば1000円程であり、宮殿を出る前に給油した分だけでも平均的な労働者の年収に相当する。
この事に関して日本側に抗議しようとも考えたが、そもそも強大な軍事力を持つ日本に対して強気に出られる訳もなかった。
一応は日本と同じく科学文明国であり、以前から国交があったムーへ精製済み石油の輸出を打診したのであるが、日本車に使えるような高純度精製石油は国内需要で手一杯であり、そもそも輸出したとしても運送費の問題で日本製石油の10倍以上の値段になるという回答を叩き付けられたため、皇国は仕方なく日本からの輸入にたよっているのだ。
「以前と比べて随分と走り易くなりましたね。これも陛下の類稀な交渉があっての事です」
「……そうか」
助手席に座る護衛がゴマすりをするが、それを聞いたルディアスの表情はますます曇った。
確かに日本から得られた土木・農業技術支援だが、実を言うとこの技術支援というのが対日貿易赤字の大きな要因なのである。
というのも当初日本は皇国への技術支援を"開発途上地域の開発を主たる目的とする政府及び政府関係機関による国際協力活動"…いわゆる『
これは日本側の配慮が足りなかったというのもあるが、上位列強に対するコンプレックスを燻らせている皇国側は皇国を
しかし、日本としては無償或いはそれに近い形での技術支援を行う為の予算を確保出来るのはODAしか無いとの事であったので、皇国は愚かにもプライドを優先して有償での技術支援を取り付けてしまったのだ。
「あのような挑発に乗る連中を止められんとは…余の力も陰ったものだ…」
自虐するルディアス。
今思えばあれは日本による策略だったのだろう。
皇国側の気質を理解し、コンプレックスを刺激して有利な条件で交渉をまとめる…日本は異世界から転移してきたと自称しているが、それが本当なら皇国の外交が児戯に思えるような激しく複雑な外交合戦を日本は積み重ねてきたのであろう。
「…悔やんでも仕方ない。今後どうするかを考え…」
眉間に深い皺を作ったルディアスが気持ちを切り替えようとしている矢先、車体が大きく揺さぶられた。
「っ!?」
「陛下!そのままお待ち下さい!」
護衛が日本から献上されたニューナンブを携え、助手席のドアを開ける。
ルディアスも恐る恐る防弾ガラスの窓から外の様子を確認してみると、一台の小型二輪車が左後輪の辺りに転がっており、その運転者と思わしき男性がうつ伏せに倒れていた。
「陛下、どうやら路地から出た際にぶつかってしまったようです。陛下に害を加える意思は無く、事故だと主張してしますが…」
「よい、衛兵を呼んで通常の事故と同じように処理をさせよ」
自動車に不慣れであり、交通システムが未熟な皇国ではこのような交通事故は日常茶飯だ。
だが、これを放置するわけにもいかない。
「日本から信号機や交通整理のノウハウを買い付けなければ…あぁ…また赤字が…」
皇帝辞めたい…そんな感情とキリキリ痛む胃を抱えたルディアスの姿は何とも痛々しかった。
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