トチ狂った日本国召喚 作:北限の猿
神聖ミリシアル帝国には『魔導学院』と呼ばれる機関がある。
字面だけを見るのであれば魔法に関する教育を行う学校のように思えるが、ミリシアルの場合は違う。
確かに付属の
そんな魔導学院の一つ、
《管制塔、聴こえるか?こちらテストパイロットの…そうだな、ワーム1と呼んでくれ。只今より地上滑走試験を行う》
「了解、ワーム1。不測の事態に備え、脱出レバーをいつでも引けるようにしてくれ」
《私は我が国の技術者を信用しているよ。だが、信用している者にそう言われては従わなくてはいけないな。ではエンジンを始動するが、一応確認する。『ジグラント2』と同じ手順で良いか?》
「そうだ、ワーム1。その機体は新型とは言うが、見ての通りベースは帝国の主力戦闘爆撃機ジグラント2だ。基本的な操縦方法は変わっていない」
《それなら安心だ。では、エンジン始動!》
パイロットの言葉と共に気圧差を発生させる事によって気流を生み出す魔石『風神の涙』を搭載したエンジン始動車から送り込まれた圧縮空気がジグラント2のエンジンに吹き込まれ、タービンを回す。
ミリシアルの航空機に使われる
《エンジン…うぉぉっ!?》
「ワーム1、どうした!?」
驚愕したような声を発したパイロットに技術者達は何かあったのかと冷や汗を流したが、それは杞憂であった。
《すごい…このエンジンはすごいぞ!今までのエンジンの2倍の出力が出ている!》
「2倍!?それは本当か!?」
今回の試験の目玉は新型エンジンだ。
技術者達の予想では従来品より出力が1.3倍程向上すると見積もられていたのだが、2倍とは良い意味で裏切られた。
《よし、では地上滑走試験に移る》
「その機体はエンジンもだが、機体自体にもいくつか手を加えている。何か違和感があったら無理をせずに直ぐに停止してくれ」
《了解した》
興奮冷めやらぬ様子で言葉を交わし、いよいよ本命の地上滑走試験へと移る。
降着装置のブレーキを解除し、スロットルを徐々に開いて、滑走路を進む。
この飛行試験場は干上がった湖の底であり、平坦な干し固まった粘土質の大地が何十kmにも渡って広がっているため、最高速度に達するまでゆっくりと加速する事が出来る。
《時速100…150…200…250…300…っ!?なっ!か、管制塔!》
「どうした、ワーム1!?」
地上滑走試験は順調に進んでいたが、速度が時速300kmを超えた辺りでトラブルが発生した。
《機体が…機体が跳ねる…っ!機体の尻が上下に動いてるようだ!》
「滑走中止!中止だ!脱出するんだ!」
《ダメだ!機体が壊れる!仕方ない…このまま離陸する!》
「ワーム1、何を言っている!?離陸試験はまだ予定されていないぞ!」
《だがこのままだと機体は無事では済まない!予定の前倒しだと思ってくれ!》
そう言うとパイロットは技術者の制止も聞かず、操縦桿を引いて機首を上げさせる。
《上がれぇぇぇぇぇっ!!》
激しく揺れる機体、汗ばんだ手、技術者の祈り。
しかし、その結果はあまりにもあっさりしたものであった。
《……え?あ…がった…?》
気付けば激しい上下の揺れは無くなり、地上が遠くなりつつある。
《っ!!》
その事に気づいたパイロットは引きっぱなしだった操縦桿をゆっくりと押し、急上昇中だった機体を水平飛行にさせた。
高度5000m、時間にして3分もかからずにこの高度まで到達してしまったのである。
《か、管制塔…現在高度5000m。機体にもエンジンにも異常は見られない。速度は…は、はははは!》
「ど、どうした…?」
《すごいぞ!現在の速度は時速600km!巡航速度でこれだ!》
「じゅ、巡航速度で!?」
これまでの天の浮舟は
しかし、新型は
《すごい…この機体はすごいぞ!
「は、ははは…喜んでもらえて何よりだよ…」
歓喜に打ち震えるパイロットだが、技術者達は何度も気不味そうだ。
その理由こそが管制塔に運び込まれた夥しい量の書籍…日本から取り寄せた戦闘機やジェットエンジンに関する書籍の山である。
これを見ても分かる通り、件の新型は日本の書籍から得られた情報を元に作られたのだ。
例えば殆ど意味を為さないどころかエアブレーキと化していたファンを取り払ってピュアジェットエンジン化したエンジン。
例えばエンジンへの吸気効率を上げる為の
例えばエリアルールに基づいた括れのある機体。
例えばボルテックスジェネレーターを装備した後退翼。
この新型に使われる新技術の全てが日本の…しかも民間人でも手に入るような書籍からの引用なのである。
「我々が何十年と…いや、帝国が何百年と積み上げてきた技術の遥か先を日本は歩んでいるのか…」
「日本の技術はまだまだこんなものではない。超音速飛行や、超音速巡航、レーダーに映らないステルス…更には誘導弾もある」
「我が国が第一列強に留まる為には形振り構っていられない。日本の技術を取り入れる為の政策と予算を陛下に上奏しなくては…」
《うひょぉぉぉぉっ!すごい!すごい!》
深刻な表情で話し合う技術者達であったが、パイロットはアクロバット飛行をしながら新型の性能に酔いしれるのであった。
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