トチ狂った日本国召喚 作:北限の猿
グラ・バルカス帝国軍統合参謀本部。
帝国軍の頭脳である組織であり、そこは高級将校達が集まり、帝国による世界征服の為の戦略を練る為の場所であるのだが、現在彼らの興味はただ一国に向けられていた。
その国とはもちろん、日本国である。
「本当にそっくりだ…」
「あぁ、航空機に車両に艦船…多少の差異はあれど、我が国の兵器の生き写しではないか」
「しかも見ろ、この『富嶽』という爆撃機…日本では数機しか作られなかったようだが、我が国の最高機密である『グティマウン型爆撃機』にそっくりだ。スペックこそグティマウンが上だが…」
参謀達が読み漁っているのは太平洋戦争について記された各種書籍であった。
とは言っても日本に設置された大使館の職員が集めて送ってきたものである為、手に入った書籍は民間向けの物ばかりだ。
しかし、それでも記されている情報は彼らを驚愕させ、帝国の徹底した秘密主義を嘲笑うものであった。
「ふむ…日本にとっては我が国の軍事技術は100年近く前のものでしかない、か…道理でグレードアトラスターのスペックを知る者が多く居るはずだ」
天を仰ぎ、肩を震わせて笑うカイザル。
気が触れた訳ではない、もう笑うしかないのだ。
何せ自分達が絶対の信頼を寄せ、転移前も後も最強にして最新鋭だと奉じてきた帝国の技術は、日本からしてみれば博物館に並ぶような代物でしかない。
もし、帝国と日本が戦う事になれば、いままで自分達がそうしてきたように…帝国が帆船やマスケット銃程度しか持たぬ後進国を蹂躙してきたように、帝国は日本の圧倒的技術力によって蹂躙される事だろう。
因果応報とはまさにこの事か。
「カイザル、悲観するのはまだ早いわ。日本は専守防衛を標榜しているから、少なくとも日本本土に手を出さなければ直接戦う事はない筈よ」
「甘いぞ、ミレケネス。確かに日本はそのようなドクトリンだが、状況が変わればあっさりと専守防衛を捨てるだろう。そしてそうなった時、我々にその力が向けられる可能性は高い」
「無限の航続力を持つ潜水艦や超音速機、100mm以上の砲を持つ戦車が敵に…誰か、帝国と日本が戦ったらどうなるか分かるかしら?」
ミレケネスの問いかけに、参謀の一人が答える。
「はい、ミレケネス閣下。えー…単刀直入に申しまして、局地戦で限定的な勝利を納める事すら不可能だと思われます」
「それは日本を買い被り過ぎじゃないかしら?」
「いえ、これは
怪訝そうなミレケネスの言葉に、参謀が申し訳なさそうに述べる。
「前提として、これは帝国によるムー大陸掌握を日本が阻止しようとするという想定です。先ず、日本の潜水艦によりムー大陸東方に展開した戦艦や巡洋艦といった主力艦は全滅します」
「は?」
「次いで、後方に展開した空母機動艦隊も日本の潜水艦、あるいはレーダーを掻い潜って接近した『ステルス機』によって発射された対艦誘導弾によって空母を無力化・撃沈され、戦闘力を失ったところに艦載機と艦艇から発射される対艦誘導弾によって護衛艦隊も撃滅されます」
「待て待て待て」
「海軍はこのようにして砲を撃つまでもなく、艦載機を飛ばすまでもなく日本によって致命的な損害を受けるでしょう。続いて陸上ですが…」
「いや、もういい…」
参謀から淡々と語られる対日戦の戦況予測を狼狽しながら聞いていたミレケネスだったが、カイザルが助け舟を出してくれた。
「つまり、帝国は日本に勝てないというのだな。しかも楽観的に見ても、だ」
「はい、その通りです」
「では悲観的に見たらどうなる?」
「日本には数千kmを時速1000kmで飛翔する『巡航ミサイル』なる兵器が存在するようです。もし、日本が諜報や偵察によって帝国本土の位置を知れば…」
「帝国本土が…何千kmも先から狙われる!?」
「それだけなら爆撃機と変わらんが、相手は誘導弾…つまりは無人の戦闘機のような物だ。こちらが必死に迎撃したところで日本に人的損害を与える事すら出来ん。日本にとっては
グラ・バルカス帝国は高い軍事力を持っているが、それでも敵国本土への直接攻撃はそれなりに損害が出るし、損害が出れば爆撃機の搭乗員が失われるという事だ。
軍上層部としてもそれは避けたいところだが、日本は誘導弾を用いて人的損害を無視して本土攻撃をする事が出来る。
最早
「それに…巡航ミサイルとやらの弾頭がただの炸薬だったらまだマシだ」
「毒ガスや細菌兵器…そして『核分裂反応爆弾』ね」
「そうだ。初めて知った時には私の個人的な予想でしかなかったが…日本に渡航し、博物館を見学した時に予想は現実だったと思い知らされたよ」
コップを手に取り、唇を湿らせたカイザルは言葉を続ける。
「『原子爆弾』或いは『核兵器』…たった一発で大都市を消滅させ、数十年にも渡る汚染を残す最悪の兵器。それを搭載した巡航ミサイルが何十何百と飛来すれば帝国は文字通り消滅だ」
「だけどカイザル。日本には『非核三原則』というものがあって、核兵器は保有出来ないんじゃなかったの?」
「私もそう思ったんだが、非核三原則は歴代政権の目標のようなものらしい。憲法などには明記されていないようだ」
「つまり、政権が撤回すれば日本が核兵器を保有する可能性があるという事ね…」
「カイザル閣下、ミレケネス閣下。ここは我々も核兵器の開発に乗り出すべきなのでは?幸い日本から取り寄せた書籍には核兵器の構造を記した物があります。『ウラン』或いは『プルトニウム』なる物質の調達をせねばなりませんが、日本に対する牽制には…」
「いや、それは早計だ」
書籍を手に力説する参謀へ、カイザルは首を横に振った。
「帝国が核兵器の開発に乗り出したとしたら日本も対抗する為に核兵器開発を行うに違いない。そうなれば、核兵器に近い技術を確立している日本が先に実用化するだろう」
「それに運搬手段の問題もあるわ。日本は誘導弾や超音速機に搭載出来るでしょうけど、帝国の場合は爆撃機に搭載するか砲弾に詰めて撃ち出すしかないわ。そんな運搬手段では日本の兵器に迎撃されて終わりよ」
「そんな…ですが、帝国が日本に対抗するには核兵器しか…」
「核兵器の研究はすべきだが、実用化の目処が立たない限りは機密にすべきだ。それまでは通常戦力で対抗する手段を探るより他無いだろう」
「はっ!」
カイザルの言葉を受け、参謀達は話し合う。
「質で劣るのならば数だ。幸い日本軍は数が少ない。如何に質が良かろうが、百倍千倍の数なら…」
「だがそんな数をどう捻出する?」
「いや、いい考えがある。植民地の若い男を……」
そんな時、ドアが開かれた。
「失礼します!情報局より馳せ参じました『ナグアノ・ボルン』です!」
「どうした、何があった?」
「はい、いいニュースと悪いニュース…どちらを先に聞きたいですか?」
「なら悪いニュースから聞かせてちょうだい。後から嫌な事は知りたくないの」
「では悪いニュースから…」
ミレケネスから促されナグアノはよれよれになった書類を捲ると、息を整えてから言葉を発した。
「ふぅー…日本はムーに対して大規模な兵器輸出を正式に行う事を決定しました。輸出兵器には誘導弾や潜水艦などがあり、輸出用の性能低下型言えど大きな脅威になる事は間違いありません」
ナグアノの報告に悲壮な雰囲気が漂うが、カイザルはそれに構わず問いかけた。
「ではいいニュースとは?」
「はい、実は…日本の戦闘機を入手しました。退役済みとはいえ、マッハ2を発揮出来る実戦機です!」
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