トチ狂った日本国召喚 作:北限の猿
日本のとある地方都市、昭和の時代からリフォームを重ねつつ現代まで生き残ってきた団地の一室。
そこには母と子が住んでいた。
「
幸い夫は養育費をしっかり支払っているため困窮する事はなかったが、信明の医者になりたいという夢を実現させるべく、日夜パートを掛け持ちして働いているのだ。
「母さん…もう大丈夫だよ」
「え?」
喜んでくれると思ったが、信明の反応は想定とは違った。
「だって母さん、俺が小さい頃からずっと働き詰めじゃないか。もう若くないんだから、パートを減らして自分の時間を大事にしてよ」
「だけど信明、お医者様になりたいんでしょう?医学部はお金がかかるし、信明には勉強に集中してもらいたいから母さんが頑張らないと…」
もしや自分の頑張りが却って息子に重圧をかけてしまったのではないか?
そんな考えが頭を過り、晴美は狼狽えるが、信明はカバンから一枚のチラシを取り出した。
「俺、この『自衛官奨学金』で大学に行こうと思うんだ」
チラシには陸海空三自衛隊の制服を着用した三人の若者が敬礼している様が印刷されていた。
『自衛官奨学金』、それは人手不足を防ぐために防衛省が設立した奨学金だ。
これは大学等へ進学する際に奨学金を貸与するが、自衛隊に入隊し一定年数勤務すれば返済が免除となるシステムである。
この奨学金が始まってから日本は大学進学率が急上昇し、自衛隊は質の良い隊員を安定して採用出来るという正にいい事ずくめであった。
「信明、自衛隊に行くの?でもそしたらお医者様には…」
「大丈夫だよ。自衛隊には病院もあるし、そこで経験を積めば民間の病院にも行ける。なんならそのまま自衛隊の病院で働き続けても十分な給料を貰えるしね。…まあ、帰省するチャンスは減るかもだけど」
「……信明」
息子の言葉を聞いて暫く考え込んでいた晴美であったが、意を決したように口を開いた。
「信明…すっかり大人になったのねぇ…ごめんなさい。私、信明をずっと子供扱いしてたわ」
「そ、そんな事いわないでよ!母さんは俺の為に頑張ってくれたんだから、今度は俺の番だよ。まだ大した事は出来ないけど、母さんが自分の時間を大切に出来るように頑張るから」
「信明…っ…」
すっかり成長した息子の姿に母は目を潤ませた。
三重県伊勢平野。
ここには日本政府がロシアから
「次はクイラ王国に輸出する
日本への原油輸出によって空前絶後の経済成長中なクイラ王国の
名前からも分かる通り、日本に帰化したロシア人である。
彼はもともとスホーイ社のエンジニアであったのだが、実質的な独裁体制であったロシアに不信感を持っており、ウクライナ侵攻を受けて祖国を出奔し、ウクライナにて戦闘機のメンテナンスを行っていた。
終戦後は裏切った祖国に帰る事も、ロシア人である自分がウクライナに残る事も憚られるという事で、日本政府による勧誘に乗って日本に渡ったのである。
「それにムー向けのFAT-5、自衛隊向けのF/B-1…あぁ…アルタラス王国とトーパ王国向けの
日本に来た事を若干後悔しつつもパソコンに向かって書類を作成する盛流鯨。
そんな時、工場長室のドアがノックされた。
「入れ」
「失礼します、工場長」
「おお、草場部長」
入室してきたのは、エンジン関連の製造部門の部長である『
「明日から3日間の有給に入りますのでご挨拶に…」
「あぁ、先月申請した分だな。わざわざ挨拶なんて必要ないのに君は真面目だな」
「ははは…前みたいにちゃらんぽらんじゃいけませんから…」
「それにしても仕事人間の君が3日間も有給を取るなんてどんな風の吹き回しだ?……おっと、有給の理由は聞いてはいけなかったな」
「あー…まあ、工場長になら大丈夫ですよ。実は私…15年程前にやらかしましてね…子供が居るのに…その…」
「……なるほど」
歯切れの悪い草場の声に盛流鯨が何かを察したように頷く。
「一時の気の迷い…いや、私が全面的に悪いですね。それで妻と別れたんですが、最近元妻から連絡がありまして」
「ほう」
「"息子の養育費を忘れずに払い続けたから反省している事は分かった。だからもう一度話し合おう"って言われたんですよ」
「ヨリを戻すのか?」
「元妻と…息子次第ですかね。私としてはヨリを戻したいんですけど…」
「……草場部長。ちょっと耳を貸してくれ」
盛流鯨の言う通り、彼に耳を近付ける草場。
すると、草場の頬に盛流鯨の平手が炸裂した。
「っ〜…!?」
「これがロシア流だ。草場…いや、駿介。お前はとんでもない事をした、それは間違いない。だが、人は罪を償う事が出来、罪を赦される事が出来る。お前は十分に自分の罪と付き合い、償った…きっと、お前の妻も息子も赦してくれる。悔いの無いように、しっかりと話してこい」
「はい…ありがとう…ございます…っ!!」
差し出された大きな手を握り、深々と頭を下げた草場の目には涙が浮かんでいた。
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