トチ狂った日本国召喚   作:北限の猿

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日本国召喚最大の見所の一つ、パ皇戦の始まりです


さらば皇帝の治世

冬が終わり、春となり、農民が作物の植え付けを終えた頃。

晩春から初夏へと移ろいゆく季節に始まるのがパーパルディア皇国最大の祭り『創世祭』だ。

これは皇国の初代皇帝が国号を現在のものに変えた事を記念して開催されたものであり、5年に1度の国中を巻き込んだ盛大な催しとなる。

無論、それは皇都エストシラントも例外ではない。

皇都市民は勿論、各地方から訪れた国民や外国からの訪問者も盛大に皇国最大の祭日を祝う為に皇都に集まり、普段よりも活気に溢れた街並みを散策するのだ。

 

「おぉ!エルダスア伯爵の隊列だ!」

 

「次はターファン侯爵の騎馬隊が来たぞ!」

 

そんな中、一際目立つのは皇宮まで伸びる大通りを行進する各地方を治める貴族達が持つ軍勢によるパレードだ。

ただその役割は領地の治安維持等が主であるため規模は小さく、装備も国軍である皇国軍のお下がり(・・・・)ではあるのだが、それでも見栄っ張りな貴族達はせめて外見だけでもと考え、綺羅びやかに着飾った軍勢を見物人にお披露目するのである。

そしてそんな中でも一際目立つ軍勢がある。

 

「おい、パルファレス公爵の隊列だぞ!」

 

鼓笛隊が奏でる行進曲に合わせて一糸乱れぬ歩みを見せるのは、皇家の分家であるパルファレス公爵家の軍勢であった。

数こそ比べるまでもないが装備の面では皇国軍と同等であり、皇国軍の象徴とも言える地竜『リントヴルム』や『ワイバーンロード』と言った一線級戦力を配備している。

 

「いやー、他の貴族には悪いがやっぱりパルファレス公爵家は一味違うな。華やかで勇ましい!」

 

「皇国軍の実戦志向って感じも悪くないが、こういう場ならパルファレス公爵家の方が見栄えがいいな」

 

「きゃー!見て見て!すっごい男前ばっかり!」

 

見栄っ張りで派手好きというパーパルディア国民の国民性を的確に突いたパルファレス公爵家の隊列はあっという間に注目の的になった。

老若男女が皇国の力強さと、繁栄の華やかさを両立したような姿に心を奪われ、後に続く皇国軍の隊列に対する興味は薄れてしまっている。

 

「けっ…なんで公爵んとこばっかり…」

 

「俺達は予算が削られてるってのに…」

 

「陛下が日本との商売で失敗したツケさ。いつも割りを食うのは俺達みたいな現場の人間だ」

 

勿論、そんな状況は皇国軍にとっても面白くない。

せっかくこの日の為に厳しい訓練を重ね、装備品をピカピカに磨いてきたというのに、公爵軍の兵士は皆が真新しい銃を持ち、胸には宝石を嵌め込んだ勲章を付けている。

正直割って入りたいが、そうすれば見物人からの顰蹙を買うのは間違いない。

その代わりとばかりに、皇国軍兵士達はこの場に居ないルディアスへの八つ当たりじみた不満を小さく溢し始めた。

 

「……ん?なあ、公爵軍の銃…なんか違うよな?」

 

そんな中、一人の皇国軍兵士が公爵軍が装備する銃に違和感を覚えた。

というのも公爵軍が装備しているのは本来なら皇国軍と同じマスケット銃であるはずなのだが、彼等が持っている銃はマスケット銃よりもスマートで洗練された姿をしている。

パレード用の作り物…そう考えられるが、違和感を覚えた兵士はそれだけの事とは思えなかった。

 

「お集まりの皆様!本日は我らが主、パルファレス公爵より重要な言伝を預かって参りました!」

 

突如として声を張り上げる公爵軍を率いていた部隊長らしき男。

やや芝居がかった手振りで懐から上等な羊皮紙を取り出すと、それに書かれた文章を読み上げ始めた。

 

「現皇帝ルディアスは日本などという蛮族に誑かされ、皇国臣民の血税を浪費している。これは皇帝による皇国全体に対する反逆と言ってもよいだろう。よって、現時点を以てパルファレス公爵家は皇家の代行として皇国を統治する!異論がある者は…」

 

数発の銃声が鳴り響き、警備をしていた近衛騎士が倒れ伏す。

その銃声は、公爵軍の兵士が持つ先進的な銃…ボルトアクション式ライフル銃から放たれたものだった。

 

「皇国の改革に反抗する反乱分子として排除する!」

 

その瞬間、大通りには悲鳴が響き渡り、混乱が波紋のように広がった。

 


 

「うぅ…頭が痛い…」

 

「まったく、深酒をして二日酔いをするお前の悪いクセはまだ治ってないようだな。しかも今日は創世祭の初日だというのに…海軍司令が遅刻しては大問題だぞ!」

 

「面目ない…」

 

アスファルトで舗装された道路を規制速度を守りながら走る軽バン。

それを運転するシルガイアが、助手席に乗るバルスを誂っている。

というのもバルスはシルガイア宅にて共に酒を飲んでいたのだが、日本酒の味わいにすっかりハマってしまい飲み過ぎ、早朝に海軍本部に向う予定だというのに寝坊してしまったのだ。

 

「うぐっ!し、シルガイア…揺れが…」

 

「日本製とは言っても古い中古品で荷物を運ぶ為の物だ。乗り心地には期待するなと言われている」

 

道路の繋ぎ目を乗り越えた瞬間の揺れでバルスの頭痛はより酷くなったが、シルガイアはバルスからの要望をバッサリと切り捨てた。

 

「なんと慈悲の無い…まあ、自業自得なのは否定できんな…。しかしまあ、お前がこんな自動車を持つまでになるとはな。私でも買えないぞ」

 

「安物だから買えただけだよ。これならお前の収入だったら10台以上は買えるぞ」

 

「確かにそうだが海軍司令ともなると持ち物もそれ相応でなくては色々と言われるんだよ…。あー、私も自分で運転してみたいなぁ…」

 

「だったら日本が運営してる自動車教習所に通うところからだな」

 

「時間が確保出来るか…?」

 

そんな他愛のない会話をしていると、ようやく皇都の大通りの入口へと到着した。

ここから先は許可を受けた車両以外は進入出来ないため、シルガイアによる送迎はここまでだ。

 

「着いたぞ」

 

「ありがとう。…よかった、間に合いそうだ。ところでシルガイア、このあとはどうするんだ?」

 

「せっかくだから創世祭を見物していくか。…あ、しまった。駐車場が無いな…」

 

「ならば海軍司令部の裏に停めればいい。私の方から言っておこう」

 

「本当か?」

 

「勿論、これで貸し借り無しだぞ」

 

「こっちの貸しが大きい気がするが…まあいいだろう。ではお言葉に甘えさせて…」

 

そんな時だった。

大通りの至る所から悲鳴が上がり、人々が脇目も振らずに走り出す。

 

「なんだ!?」

 

「け、ケンカか何かか?」

 

創世祭ほど大きなイベントともなればケンカのようなトラブルはありがちなものだが、人々の混乱ぶりを見るにただ事ではないように思える。

 

「君、何が…待ってくれ!」

 

事態を把握しようとバルスが逃げ惑う人々を捕まえて話を聞こうとするが、それどころでは無いとばかりに振り払われてしまう。

 

「……バルス!こっちだ!」

 

一方、シルガイアは愛車に装備されていたリアゲートのタラップ(はしご)を昇り、ルーフキャリアの上に立って大通りを俯瞰する。

 

「何か見えるか!?」

 

「火だ!火が見えるぞ!」

 

「あれは…リントヴルムの火炎ではないか!まさか御者の制御が外れたのか!?」

 

「事故か?」

 

「かもしれ…ん!?」

 

まさかこんな重大事故が国を挙げたイベントで発生するとは…そんな事を考えていたバルスであったが、頭上に飛来したワイバーンロードの姿を見てその考えは覆された。

 

「ワイバーンロード…パルファレス公爵家所属の騎か。手伝いに来てくれたのだな。これて一安心…っ!?」

 

なんと信じがたい事にパルファレス公爵家の紋章を付けたワイバーンロードが皇宮に向かって火炎弾を発射したではないか。

しかも複数が多方向から一斉にだ。

 

「まさか…謀反…!」

 

動きからして明らかに計画されたものである事に違いはない。

おそらくはこの日に謀反を起こす為に以前から準備していたのだろう。

 

「バルス、私にも何が起きているかぐらいわかるぞ!乗れ!海軍司令部まで乗せていく!」

 

「すまん、頼んだぞシルガイア!」

 

すぐにでも皇宮に向かいたいが、下手に動けば攻撃に巻き込まれてしまうだろう。

ならば通信設備が整った海軍司令部に向かい、情報収集と事態収拾の為に動くべきだ。

その考えに至った二人を乗せた軽バンは、クラクションを鳴らしながら人々を轢かないように気を付けつつも全力で海軍司令部へと走って行った。

 




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