翔るは緋、“硬”るも銅 ~散弾銃で殴るんじゃない~   作:阿久間嬉嬉

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リメイクして再投稿です。



タグにある『独器・偽器』は個人シリーズの名前なので連なる作品二つを見なければ楽しめないという訳ではありません。
なのでこの二次単体でも問題ありません、ご心配なく。


(あか)(あか)
火華開く


 《武偵》―――それは凶悪化する犯罪に対抗してつくられた国際資格。

 そして法律が許す限りの範囲で報酬に応じて依頼を請け負う便利屋達。

 

 《武偵高》――正式名称『東京武偵高校』。

 それは、南北1㎞東西500メートルに及ぶ人工の巨大学園島フロートの上に存在する、武偵の卵を一人前に育てるための学校。

 そして該当島内に学園や学生寮だけでなくコンビニや小規模商店街も存在している充実っぷりと比例して、とても過酷な訓練が課せられる場所。

 

 そんな島の男子寮の一室から……一人の青年が頭をドアにこすりつけつつ、顔を出して来た。

 

「ああ良い朝だ」

 

 赤黒い瞳の三白眼。

 生え際が見えるほど短く、多少尖った灰色の髪。

 目算210㎝以上はあろう身長。

 映画の悪役にいそうなこの男も、また武偵高の生徒である。

 

 名を『遠山キンジ』という彼はさわやかな空気と穏やかな陽気へ順当な感想を口にしつつ、武装探偵高校の制服に身を包み、AM6:30の今から学校へ向かおうとしていた。

 

「今日も実にいい一般目指し日和なんだわ」

 

 ……まったくもって意味不明だが今は置いておこう。

 しかし不明瞭な呟きは置いておいても、武偵であるのなら一般とは縁遠いのではないか――そう思う方もいるだろう。されど心配は無用。

 

 実は学園のカリキュラムには通常の授業も存在しており、万が一ドロップアウトしてしまうとしても心配いらない程度の知識なら会得可能なのである。

 されど特殊な学科があるとは言え学園の偏差値は45を下回る程度。

 なので将来的な稼ぎに限って言えば武偵のままでいる方がまだずっと良い。なので件の生徒・キンジは言動も相まって少し変わっていると言えた。

 

 無論武偵自体あらゆる意味で不安定であり、安定という意味では他の職に移った方が良かろう事実は否めない。

 それでも育成学校なのだし、今一般に移らずとも危険な任務に突っ込まなければ資格が増えてお得な一面もありそうではあるのだが……しかし現実はそう甘くはない。

 

 

 まず訓練自体が何かと過酷であり、また“ある校則”上全学科に最低限の戦闘訓練や筋力トレーニングのノルマが課せられるのだ。

 

 それでも通信学部(コネクト)研究部(リサーチ)と言った後方支援はそのノルマは優しい方なのだが、代わりに知能や見識と言った部類で秀でていなけれなならず、一定の功績を残して居なければ毎日知恵熱や精神疲労確定の講習が待っている。

 

 比較的発砲の機会が少ない探偵学部(インケスタ)や自衛レベルを求められる衛生学部(メディカ)は言うに及ばず、武装補助や車両担当である兵站学部(ロジ)、尋問及び破壊工作を主とする諜報学部(レザド)もノルマからは逃げられない。

 

 なかでも強襲学部(アサルト)は強襲逮捕や強襲支援を主とする学部だけあって、高い戦闘力と集中力を求められるため、ノルマは特にキツいと言えよう。

 

 

 そしてこれが一番重要なのだが……学生と言え彼等も武偵。つまり危険な仕事に飛びこまねばならないリスクもあるのだ。

 

 特に《クエスト》という各地の依頼を達成し報酬を得るシステムはそれだけで単位を得られるので、試験結果が悪くとも進級できるので低偏差値のこの高校では必然危険を避けられない。

 

 ―――それこそ命を落とすとしても。

 

 これは決して脅しなどではなく、現に強襲学部の強襲科(アサルト)は戦闘訓練や犯罪組織の検挙などで実際に死亡してしまう者も、残念ながら存在するのだ。

 全生徒中約3%が生きて卒業できない『明日無き学科』と呼ばれるのも納得であろう。

 

 ただ裏を返すと強襲科でさえなければ滅多なことが無い限り卒業できるという事でもある。

 勉学にも真っ当に励めば資格を得てそのまま職に就けるのだし早々怯える事でもないのかもしれない。

 

「本日も一般目指して頑張るべしだ」

 

 ……ならばこいつは一体何のために一般に行きたいのだろうか。サボりか。

 続ける道も辞める道も普通何かしらの目的があって選ぶものだが、辞める事に対してあまりにも前向過ぎるキンジからは、いまいちその理由が想像できない。

 

 不謹慎な言い方になるが、トラウマや諦めの一つでも見せればまだ分かろうというもの。

 

 だが今日の空と同じく彼の雰囲気に曇りは無い。呆れるほどの快晴である。

 

「ん?」

 

 すると不意にキンジは振り向き……そこに貼ってあったメモを見て、何故か室内へ飛び込んだ。そしてなにやらホルスターを二つ付け再び登場。

 

 そこには黒い銃と、何合わせ間満載のナイフが、それぞれ装着されている。

 

 “ある校則”とはつまりこれ、刀剣と銃の携帯が義務付けられている(・・・・・・・・・・・・・・・・・)というものである。

 

 武偵とはそもそも武装探偵の略なのだから、確かにこの校則があってしかるべき、なのかもしれない。

 

 

(武装なんぞ一般日和の邪魔なんだわ。けれども守らない方が面倒だからな……しかしこのメモ、星伽白雪が貼ったな?)

 

 どうも先のメモは自分で張った訳ではないらしく、キンジは『星伽白雪』……自身の幼馴染であり、名字の由来となった星伽神社の巫女でもある黒髪の少女を思い浮かべた。

 

 その白雪は昔から何かとキンジの世話を焼こうとする他、入学時のちょっとしたトラブルの折に再開した経歴も持つ。

 彼の友人である男子生徒曰く「現代日本に取り残された最後の大和撫子」との事で、外身だけなら(・・・・・・)その呼称もあながち間違いではなかろうぐらい、奥ゆかしい少女とも言える。

 

 

 そして同時に超能力捜査研究科(S S R)という、うさん臭さと怪しさ満載な専門科目の優等生でもあるのだ。

 だからなのか今は合宿で恐山まで駆り出されており、学園島内には居ない。

 当然だが学校内に実際設立されている事からも分かる通り、カルトの類ではなく実在する概念。

 つまりこの世界には本当に超能力があるのだ。

 

(起床時間の安定も一般には必要……なのにあいつが居るから安定しないのはキツイな)

 

 ―――ちなみにフルネームで呼んだところから察した人もいるだろうが、今しがたの思考の通り彼は白雪の事があまり好きではない。

 キンジ曰く「悪いんだが何か黒くて怖いし邪魔」とのこと。

 ……この件がうっかり漏れて白雪ではなく先の友人に伝わり、一方的な都合で大喧嘩をしたこともあるがそれは完全な余談だろう。

 

 

 閑話休題。

 

 

 ともかくそんな風に白雪のことを考えていたからか、キンジは同時にとある忠告を数日前にされていた事を思い出す。

 

「《武偵殺し》……連続殺人犯に気を付けろ、だったっけか?」

 

 正確にはもう捕まっているその《武偵殺し》の模倣犯が出るかもしれず、気を付けた方が良いと白雪に告げられたのみ。

 何かと苦手な人物からの、しかも超能力が云々で女難が同行の忠告だったからか、キンジは大して重要視してもいなかった。

 

(少し動いて体を作り、自転車で登校だな……いざ憧れの道へだ)

 

 

 

 

 

―――この後、それが完全に裏目と出る事となる。

 

 

 

 

―――それは学園島の、高校への道で。

 

 

 

 

 

 時期は春、桜が残る四月の初春。小中高の新入生達が始業式の中、ガラリと変わった生活に心躍らせる季節。

 空は快晴。青に染まる。燦燦と注ぐ陽光が眩しい。

 風は良好。花弁をまとう。穏やかな空気をそのまま運び、心地の良い見えぬ流れが肌を優しくなでていく。

 

 そして道は閑散。人などいない。波乱も起きぬだろう穏やかな雰囲気が漂う。

 

 今日も今日とて平和な日常。

 何ごとも無い、春の陽気漂う一日が確約される……そのはずだった。

 

「…………」

 

 だと言うのにキンジの乗る自転車はまるで急かされるかのように道を駆け抜けている。

 静寂を切り裂き、音を引き連れて、猛スピードで公道を行く。……まるで、そうしなければならない理由があるかのように。

 

 これで眉の一つでも情けなく歪んでいさえすれば、目測210㎝はあろう長身が今だけはとても小さく見えたかもしれない。

 

「……」

 

 しかしその自転車の主であるキンジが張り付けた表情は、限りなく

 

 間違っても急く者のそれではなく、焦りの色など欠片も存在していないのだ。こぐ速さも先程に比べ、心なしか僅かながらに落ちている。

 息を荒げてもいなければ、汗一滴すら見えないのに。

 

 だがそんな彼を叱責するかのように言葉が一つ、斜め後ろから届けられた。

 

『警告してやります』

 

 ……一人乗り二輪車のセグウェイに括りつけられた短機銃(UZI)の上にあるスピーカーから、淡々とした機械生まれの少女の声が。

 銃口は既に彼の脳天へ突きつけられており、回避も防御も不可能。おまけによく見ると、彼の自転車のサドル裏にはプラスチック(C4)爆弾が取り付けてある。

 

 つまり彼は世にも珍しい《チャリジャック》に見舞われているのだ。

 

 

 そしてこの手口こそ、白雪が忠告していた《武偵殺し》のそれとほぼ同じ。

 

 

 ―――半分ほどは理不尽由来であるが、もう半分は無警戒にチャリンコを使った所為で巻き込まれたキンジの自業自得である、としか言いようがなかった。

 

 しかし例えどんな強者だろうと、怯えても仕方があるまいこの状況……。

 

『その自転車には』

「爆弾が仕掛けてありやがります」

『速度』

「を落とすと爆発しやがります」

 

 にもかかわらず何処か緊張感に欠けるキンジの顔も、声も、第三者が抱くだろう予測とまるで一致していない。

 更に人工音声の台詞を無意味にトレースしつつ先回りする始末。

 

 諦めているのか? 図太いだけなのか? それとも相手を舐め切っているのか。本心など全く読めず、見ている側の心臓が早鐘を打ちそうな光景が続く。

 自転車もスピードを落としかけており、チキンレースもかくやの競り合いと化している。

 などと思ったのもつかの間。

 

『降りたり助けを呼んでもばくは』

「悪いがやかましいんだわ」

 

 キンジが呆れた要求を突き付けたと同時に……一体何が起こったのか。銃とスピーカーが抉り取られ、落ちる鉄片とタイヤの音以外そこからふっと消え失せたではないか。

 

「もう良いか?」

 

 追加で妙なことを言い出した直後―――キンジはあろうことか急ブレーキ。

 

 先程スピードを落とすなと言われたにも関わらず、そして爆弾と銃が実際そこにあるにもかかわらず。レバーを握るその選択に一切迷いがなかった。

 そのままドリフトの如く、綺麗に横向きで滑り始めた同時に、“かちり”と嫌な音が鳴る。

 ……そして順当にUZIの銃口が光り、自転車のC4爆弾が起動。刹那、轟音。

 

 辺りは爆炎が巻き起こり、散らされた銃弾が転げる。キンジがどうなったのかはもはや、言うまでも無いだろう。

 

 暫し熱波が荒れ狂った後のち、あたりには不気味な静寂が訪れた。

 恰も、何事も無かったかのように。そこに居た誰かの存在すら、無かった事とするかのように。

 

 

 

 

 

 

 キンジが自転車をこいでいたのと同時刻、その近辺。

 七階建てマンションからなる女子寮の屋上。

 

「《武偵殺し》の電波はこっち…ってあいつなにやっ…てぇっ!?」

 

 双眼鏡を覗き込んでいた、桃髪ツインテールの愛くるしい少女が、その爆音と別の事象に驚愕をした。

 どうも彼女は《武偵殺し》と呼ばれる存在を追っていたらしく、しかし先の爆発で何らかの障害が生じたか、電波での追跡が不可能となった様子。

 

 されど少女の視点はそこになかった。元より双眼鏡で捉えていた対象は、先の青年なのだ……ならば電波に等構っていられないのは自明の理。

 

「うそ、なんで……!?」

 

 どうやら発言に鑑みると、先の《武偵殺し》の模倣犯に用があったらしい。

 即ち。

 少女は先のチャリジャックの手口自体は知っており、先の人工音声か何かが発する電波のパターンでも見抜いて、後追いで阻止するため動いていたのだろう。

 

 つまるところキンジも必死にこいで逃げるだろうから間に合う、と考えたのかもしれない。

 

 否……寧ろそれこそ普通なのだ。

 

 まさかそのジャック対象がブレーキをかけて自ら起動させる大馬鹿者だったなど、仮に彼女が名探偵であっても辿り着ける訳が無かろう。

 同じぐらいのトンチキかサイコパスであれば可能性は無きにしも非ずだが、そんな奴は早々居ないしそもそも居て堪るかと言うものである。

 

「……まずは確認ね」

 

 それでも状況が分からなければどうにもならないと、少女はパラグライダーを広げて屋上から飛び降りた。

 

 いやに準備がいいあたり、彼女はもしかすると《武偵殺し》に特別狙いを定めているのだろう。

 爆弾を用いた《チャリジャック》などと言う、平和な時代の日本どころか、凶悪犯罪が増え始めたこの昨今ですらまずあり得ぬ事態を想定していたのだから。

 

 校庭らしき場所に降り立ったツインテールの少女は、流れる様にパラグライダーを切り離すと、恐るべき速度で駆け出す。そのまま爆発が起きた場所へと急行……するはずだったのだが。

 

「え?」

 

 早馬のような彼女の歩み走りは斜め前方の塀から現れた人影と、正面から来る集団を目にしたことにより、強制的に停止せざるを得なくなった。

 

 その人影とは、先の青年。その集団とは、先のセグウェイUZI。

 ――なぜか無傷、服も含めて。

 ――ただし七台、型は据え置き。

 ――塀の上を倒立前転で飛び越えて走り。

 ――律儀に迂回して門の間を通り、それぞれ少女目掛けて疾走中。

 

 ……この場に在する情報量があまりに多過ぎる。

 

 これに呆然としきる間もなく、七丁のUZIはキンジと少女の頭部に狙いを定め、発砲。

 距離があるとは言え少女は獣のような俊敏さで慣れたように軽く、そしてキンジもどこか危なげにかわすと、近くにある体育倉庫へと駆け込んで跳び箱の陰へ跳んだ。

 

 無論ただの器具では銃弾を防げないが、武偵高校の備品は大抵防弾性。削れこそしたものの、全弾無事に受け止めてみせる。

 

「そうだ防弾なんだったわ」

「なんだったって…あんた武偵高の生徒よね? その制服」

 

 これを見たキンジの間の抜けた言葉に、少女は武偵として至極真っ当な疑問を抱く。

 

 今しがた言った様に、武装して事件の解決に当たる探偵業の訓練校であるならば、数多の器具が防弾仕様となっているなど常識中の常識でしかない。

 

 なのに彼は恰もそれを知らないような口振りであった。これではもしや犯罪者のスパイか何かか……? と疑がわれても仕方無いかもしれない。

 

 されどキンジの答えは皆の予想や想像をはるかに飛び越えてくる。

 

「一応。だが今年で自主退学する」

「その程度で武偵高の常識を忘れるわけないでしょうが」

「パンピーになるなら用済みだろ、だから記憶から吹き飛ばしていた」

「…あんたバカなの?」

「いいやアホだ」

「変わらないわよどっちでも!?」

 

 そんな夫婦漫才をしている間にもUZI側は再掃射を開始し、防弾跳び箱をガリガリと削り取っていく。

 このままではいけないとツインテールの少女は箱の陰から黒白二丁拳銃で応戦。そしえキンジ……は何もせずただ黙って眺めていた。

 腰のホルダーから銃を取り出す事すらしない。

 

「あんたも撃ちなさい!」

「無茶振りだな強襲科(アサルト)Eのドベに」

「は? ち、ちょっと待ちなさい、じゃあ銃は? 刃物は? …体術は!?」

「矛先の無事は保証できる」

「嘘でしょ…?」

 

 塀を飛び越えたことから運動神経自体は良さそうだが、それを武偵業になに一つ活かせないなら無用の長物以外の何でもなかろう。

 ただ、腰にある銃もナイフもただの飾りに等しいと分かって精神的な負荷が加わったのみ。

 

 しかして絶望が逆に無意識的な起爆剤となったらしく、その勢いで少女は冴えた狙いを叩きだす。

 

「この……っ!」

 

 跳び箱越しのしかも二丁同時だと言うのに、弾丸は全て吸い込まれるかのようにセグウェイの基部へ命中。

 その後何発売っても決して外れず、全てが有効な場所へ当たる。どうやらこの桃髪の少女は体格に見合わず、かなりの実力者らしい。

 

 彼女の奮戦もあり、無視できない傷を付けられたUZI達は門の向こうへ去っていった。

 

 ……とはいえこれで終わった訳ではあるまい。隙を見せればまた襲ってくるであろうし、警戒は怠らないに越したことはない。

 足手まといを抱えて戦わねばならなくなった以上、ハンデは少女の側がより大きいと言えるのだし、寧ろ怠っている暇など無いのだ。

 

(ああもう!《武偵殺し》にいい様にやられるし、変な奴がひっついてきちゃってるし、本当にツいてない!)

 

 口に出すのは憚られたのか、それとも単に戦闘中だからか、少女は頭でこの状況と傍にいる青年への恨み節をこぼす。

 勿論件の青年はそんな事などつゆ知らずどこか暢気に斜め上を見ているだけ。

 最早興味すらないのか、門の方に注意も向けない余りの怠惰っぷり。

 

(風穴開けてやろうかしら…!!)

 

 とうとう物騒な考えまでさせてしまう程に少女を怒らせた……その瞬間を狙ったかの様に、セグウェイの駆動音が少女の耳へ届いた。

 こうなったら奴等に全てぶつけてやろう、と滾る怒りのまま彼女が振り向く。

 

 同時にやっとキンジも応戦する気かのっそり振り向き、これまたのっそりと何かを取り出す。

 

「なあ知ってるか、この世は二つに一つらしいぞ」

(こ、こいつ…っ!!!)

 

 それはなんとミルクティーのペットボトル(・・・・・・・・・・・・)。しかも買い立てほやほや、ホットな新品。なんとまあ呆れたことに今ここで、こんな状況下で、ティータイムと洒落込む気らしい。

 

 どこまで行っても緊張感のないこの男にいよいよ少女も我慢の限界が来る。そして思い切り息を吸い、取り込んだ酸素全てを使うが如く、ありったけの声量で怒鳴……ろうとして。

 

「要はこれで諦めなけりゃあいけないと」

 

 ―――彼が唐突に立ち上がり、跳び箱の陰からUZIの前へと姿を晒した事で、強引に止められ。そんな彼はガチャリと音をあげたUZIを無視し、ボトルの中身を豪快にこぼして。

 中身を一瞬で飲み干し、肺活量だけでペットボトルをスティックパンぐらいの細身に変え。

 

「冗談じゃあねえ。オレは絶対一般市民(パンピー)になるんだわ」

 

 瞬間、赤黒い瞳がすっと鋭く細められる。

 

「…邪魔をするんじゃあねえ」

 

 UZI達の発砲とほぼ同時に、掌にたまった紅茶ごと左手を振り抜いた。何を―――そう思う間もなく響く、不快な破裂音。

 

「うっ……あ…え?」

 

 思わぬ不意打ちに肩をすくめた少女がハッとなってUZIを見てみれば、内3台が銃座ごと木っ端微塵(・・・・・・・・・)と化している。

 

 それでも数台残っており、隙ありとばかりに射撃。対するキンジは右手を突き出すとそのまま右方へ振るい――何ごとも無かったかのように、次いで左へ思いっ切りスイング。

 

 またもやUZIが三台砕け散り、ものの見事に鉄くずと化した。

 

(待って……! 銃弾は……弾は何処に行ったの!?)

 

 少女の驚愕をよそに、猛威を振るい立ち塞がったセグウェイ&UZIも、残すところあと一台。

 

 これで最後だろう銃撃にキンジはのけぞりつつ一歩下がって避け、上を向いて口のペットボトルをバチン! と噛み千切り、雑巾よろしく絞られたそれを生き残ったセグウェイ&UZI一台へ投擲。

 

 槍よろしくまっすぐ飛翔、ど真ん中へとしっかり命中、そしてびっくりするほどド派手に大破

 

「…う、そ……!?」

 

 これがライフル弾ならばまだ分かるだろう。しかし正体はただのペットボトル、ぶつかったところでたかが知れている。いったいどういう手品を使ったのか。

 

「物騒な妨害だな、お陰で始業式に間に合わない…よし別ルートで行こう」

 

 その種を渦中にいる青年が口にすることは、終ぞなく。

 ついでにパンピーがそんな真似できるものかという、ツッコミすらさせる間もなく。

 

 最後にキンジはそれだけ呟くと、武偵高校舎へ小走りで向かう。……あとに残されたのは元UZI、そしてただただ呆然と立ちすくみ続ける、ツインテールの少女だけ。

 

 そんな彼女もすぐ我に返り、何処か決意のみなぎる瞳で青年が去った方を見やる。

 

「……思わぬ、出会いね……」

 

 喜びの中に薄っすらと、かすかに焦りが見える表情で、握り拳を作る少女。

 双肩に合わぬ大きな何かを背負っていよう、そんな並々ならぬ背景があると伺わせる彼女はしかし、希望の光に満ちていて。

 

「ようやく見つけた!」

 

 今はただ彼に出会えた今日この日への、遠回しな感謝を口にした。

 

 

 

―――これが後に旋風を巻き起こすSランク武偵・アリアと、とるに足らぬ者どこかの誰かである落ちこぼれ・キンジの……運命の出会い。

 

 そして、特別なものなど何もない、そんな当たり前に憧れる奇人な少年の、苦難の始まりであった。

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