翔るは緋、“硬”るも銅 ~散弾銃で殴るんじゃない~   作:阿久間嬉嬉

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キンジ、活動。

前回も言った様にアクセル全開でバスジャック以上のお馬鹿をどんどんやらかします。

お楽しみに。


空の監獄・序

 神崎かなえとの面会後―――あれからアリアは「情けないとこ見せちゃったわね」とキンジに言った事で何とか切り替えたか、何時も通り授業へ励むようになっている。

 先日も彼の隣で真剣にゆとり教員の話を聞き、黙々とノートに内容を書き写していた。

 尤も今日は「ちょっと別件の依頼が入っちゃったから飛行機に乗って来る」と、その準備のために居ないのだが。

 

 ……あの日の反応を見るに、度々面会していた時よりも特に乱暴に扱われ、そして特に状況が進んでいたからこそ感情が高ぶってしまったのだと推測できる。

 

 しかし敵わぬ願いに近い事柄へ挑んでいる事も、時間が無いのも大げさではない、紛れもない事実。

 《武偵殺し》は言うに及ばず。

 下級裁隔意制度という新制度によりかなえは既に二審まで有罪判決を受けてしまっているのだ。

 

 それにキンジにとっては初耳の組織《イ・ウー》と鉢合わせるかもしれない可能性が出てきたのも無視できない。

 《武偵殺し》の件の話から繋げて出てきたことからするに、その可能性は高いと言えよう。

 Sランク武偵のアリアをしてその母かなえに時期尚早と言われるような者達。そして事実上の終身刑を貸してしまえるほどの犯罪者達。

 その上で捕まらず誰かに押し付けてしまえる異様な者達とは、一体何者なのだろうか。

 

「…………」

 

 だがキンジが今目的としている事はそれ以外にもう一つある。それはいつも口にする一般市民となる事の憧れではなく……昨夜の、理子から来たメールの件。

 

 なんでも週明け――つまり今日――の授業が終わった後、台場のクラブ・エステーラに来てほしいとの事だ。

 『大事な話がある』らしく、一見すると甘酸っぱい学生生活の想い出となりそうな呼び出し……に思えるが、実態は違うとキンジは踏んでいる様子。

 

 というのも理子は授業をフケて、引き続きチャリジャックやバスジャックと言った件の事件を探偵科(インケスタ)として件の事件について調べており、被害者や関係者である彼を呼んだのならばそれに関係があるかもしれない……そう考えたのだろう。

 

 まあ相手がキンジか否かにかかわらず、これまでで理子が誰かにした「大事な話」が本当に大事であった試しなど無い。

 だが、かなえとアリアの一件を見たからなのか。

 授業が終わったその後で、キンジは迷わず指定された場所へ赴いていた。

 

 夕焼け空は異様に濃く、雲はちぎれ飛ぶように早く流れ、迫る台風の影響か風は強く吹き付ける。そんな悪天候から逃れる様にキンジはクラブ・エステーラへ入店していく。

 

 

 

 クラブ内のバーラウンジでは会社帰りだろう若いOLや、うら若いカップル、そして武偵高の生徒までもが、最早芸術品とすら言えるケーキをつつきながら談笑している。

 

 そんな中、場違いとも言えようバカでかい男が来たからか少しばかり視線を集めてしまうが……心臓が強いのかキンジは気にせず目当ての人物を探し始めた。

 

 すると。

 

「キぃーくーん! 来てくれたんだねー!」

 

 奥からその理子が走り寄って来たではないか。

 探すまでも無かったようだ。

 

 そんな理子の服装は日頃のロリータ服のようでいて、下のスカートをパニエで膨らませているなど、いつもとは少し違いが見受けられる。

 

 勿論、外見の認識自体大雑把なキンジがそんな所を気に出来る訳もなく。

 

「それで大事な話って何なんだ」

「わー、そっけない。ここから理子ルートなんですよー?」

「そりゃあお前の話を聞きに来たからな」

「うん、それっぽく聞こえるけどキーくんの内心絶対違うよね、そしてそういう意味じゃないんだよね」

 

 このような会話に落ち着いてしまった。

 地味に授業をサボっていたのではないかという疑問をキンジはぶつけなかったが、裏を返すとそれぐらい『大事な話』だと思っているのかもしれない。

 

 そんなキンジの腕へぶら下がる様に組み付いた理子は、彼をクラブの奥へ奥へと引っ張っていく。

 

「やだ、今度は理子ちゃんと付き合ってる?」

「キンジってまさかチビ専?」

「でも星伽さんもいるしなー」

 

 他の客は兎も角として武偵高の生徒は彼等をなまじ見知っているからか、ひそひそキンジと理子を見て二重三重に誤解を重ねていく……かと思いきや。

 

「それは違う」

「「「うわあ!?」」」

 

 何と本人がすぐそこに―――理子を引きずってまでやってきていた。

 

「オレへ勝手にそっちの嗜好と思考を押し付けないで欲しい…頼む、本当に頼む、心からのお願いだ」

 

 キンジのちょっと悲しげ且つ凄まじく真剣な顔に、女子生徒たちは思わずうなずいてしまう。

 

「……頑張ってね理子ちゃん」

「確かに言われる側は理子の方なんだけど! だけど!!」

 

 しまいには逆に理子が応援される始末である。

 

 納得が行かないといった表情のまま理子はキンジをアール・ヌーボー長に飾り付けられた個室へ押し込み、彼がふかふかとした長椅子に座るのを待ってから、彼女も隣へぽふっと腰かけた。

 

「まあ呼び出したのは理子の方だからね、ぜーんぶ奢ってあげる」

 

 モンブランや紅茶を指さしつつウィンクした理子は、言うが早いか甘ったるい匂いのミルクティーを可愛らしげな仕草で飲んでいく。

 キンジも合わせてストレートティーを口に含む。

 

「ぷはぁ……ねえキー君、アリアとの仲は順調みたいだね?」

「仕事の方でだがな。オレも丁度パンピーロードに関連した、そしてそれ以外の目標が久方ぶりに出来たんだ。協力する以外選択肢はねえ」

「いやーいいねいいね! キーくんとアリアが仲良くしてると理子も嬉しくなっちゃう!」

 

 言いながらモンブランにフォークを指した理子はそれを持ち上げ、キンジに突きつけた。

 

「キーくん、あーんして」

「えー…?」

「そんな露骨に嫌そうな顔しなくても~。それにあーんしてくれれば、ちゃんと対価もあるよ?」

「例えば」

「……《武偵殺し》の件とか」

 

 妖艶な所作で伏せられた瞳に確信を感じたか、キンジは言われるがまま口を開けた……のと同時にモンブラン本体へフォークを突き刺し、理子の口へぐりぐりと押し付ける。

 

「あーん」

「き、キーくん、キーくんや、デカいってこれ、デカい」

「それで何が分かった」

「いや……あ! もう食べてる!?」

「あーんはした」

 

 このままやっても堂々巡り、というかこういう素っ頓狂なやり取りでは勝てる気がしなかったのか、約束は果たしたしと理子は教え始めた。

 

「警視庁の資料にあったんだけどね、表沙汰になっている《武偵殺し》はバイクと車の二つだけなんだけど、実はまだあるかもしれないの……可能性事件っていうのかな? 隠蔽工作で事故とされてるだけで本当は別ってやつ」

「…………」

 

 理子の話を聞き、どういう訳かキンジは途端に黙ってしまう。

 

 

 ――実は心当たりがあったからだ。

 被害者、及び関係者として呼ばれたのだから、その線はおおよそゴブと言ったところでしかないが、それでもこんな時に“勘”が働いてしまったのである。

 

 彼の内心を知ってか知らずか、理子はとある資料をポシェットからそっと取り出し、手品でもするかのようにゆっくりとキンジの前へ広げる。

 

 そこに書いてあったのは……。

 

『クルージング船・アンベリール号浦賀沖海難事故 死亡者 遠山金一武偵(19)』

「ねえ、これってもしかしてシージャック(・・・・・・)だったんじゃない?」

 

 疑いようもない、まぎれもなくキンジの兄が殉職した事件についてのレポート。……“勘”が齎した嫌な予感が当たってしまい、気持ちを整理する為なのか、キンジの瞼が閉じられる。

 

 やがて彼の重い口が開かれた。

 

「もしこれが…可能性事件が真実《武偵殺し》の仕業ならば……」

「次に狙うのは間違いなくオオモノだね。例えば、トレインジャックやハイジャックとか」

 

 理子が挙げた対象二つはどちらもあり得、その上で解決以外を含めてとても難易度が高い物ばかりであった。それこそ、シージャックどころではない。

 

 まずどれも急には止められない。さらに電車(トレイン)は乗る場所が限られている上に速度はバスの日などでは無く、飛行機(ハイ)に至っては最早手出し不可能の密室と変わらない。

 

 電波を追っていては間に合わないし、間に合ったところで手出しは難しく、もっと言えばアンベリール号の事故が事件であった場合電波が出ていなかったことにもなるためより一層難易度は上がる。

 

 アテを付けるならアンベリール号と同じ『豪華○○』とつくセレブ御用達、或いは会員制の催しが開かれる乗り物であろう。それならばある程度絞られるが、これでもまだ足りない。

 

―――けれども前回とは違い、明確にオレか周囲を狙ってきているとするのなら?――

―――そもそも今回の件を《武偵殺し》は本当に把握していないのか? もし違うのなら――

 

「……!!」

 

 ここでキンジはとある最悪の可能性(・・・・・・・・・)に思い至り、同時に自身の憧れを遮る影を晴らす光明を見つけ、がばりと立ち上がった。

 

「悪いな理子。モンブランと紅茶、ごちそうになった」

「みゃおっ!?」

 

 勢いで出口を塞いでいたひょいっと理子を持ち上げて反対側に座らせる。

 そして、ころんと転がった理子をしり目に、そのまま走ってクラブを出ていった。

 

 

 

「……素の状態であれなら、HSSはどうなんだろうな。楽しみだ」

 

 雨の中を疾駆する彼の背後で呟かれた、一つの呟きを、耳に入れることもなく……。

 

 

 

 

 

 

 

「あ、アンタなんで……しかもそんなにびしょ濡れでどうしたのよ?」

 

 そんなキンジが辿り着いた場所、それは羽田空港の第2ターミナル……を通りぬけてボーディングブリッジ……も通り過ぎ、ロンドン・ヒースロー空港行きの旅客機だった。

 

 それはアリアが仕事で乗っていた機体であり、いきなり乗り込んで来たキンジにアリアは呆けてしまう。

 約束を続けている手前、ここに彼がいる事自体に不満は無いのだろうが、しっかり仕事だと告げて来たのに見送りも各屋の勢いで乗り込んで来たのだ。そりゃ驚きもする。

 

 ちなみにキンジはここまで武偵手帳の徽章を使いチェックインも金属探知機も素通りしており、だからこそ途轍もない速さで来る事が出来ていた。

 しかし彼にとってこの結果は最悪でしかない様で……。

 

「手短に話す。まず離陸は止められなかった」

「そ、そりゃそうでしょ!?」

「全席スィートのセレブ御用達な旅客機なら、何とかなると思ったんだがな」

「何を根拠にそう思ったのよあんたは……」

 

 キャビン・デッキ1階がバーのそれに近く二回も通路と個室になっているこの飛行機は、キンジも言った通り片道云十万から云百万の超セレブリティな旅客機。

 

 また個室内にはベッドやシャワー室まで完備されており、高級ホテルのそれと変わらない。

 

 だからこそキンジは期待した様だが―――なんでもちょっとおっとりしたキャビンアテンダントに話しかけ、旅客機を止めて欲しいと言ったところ「そんな命令出てないって怒られちゃいましたぁ…」と離陸を止められなかったらしい。

 

 故、仕方なしに彼も乗り込んだのであろう。

 

「ついでに聞いておくが仕事ってなんだ、ボディーガードか?」

「似たようなものよ。最近ジャック事件が多いから……あとはロンドン武偵局の差し金ね。あいつらしびれを切らしたのか変な搦め手使ってきて、こうやって無理な形で帰らざるを得なくなったのよ」

 

 まあすぐにとんぼ返りするけどね、あんたと一緒に……と苦笑いするアリアにしかし、キンジの表情は全くすぐれない。

 

「……どうしたのよそんな鬼気迫った顔で」

「《武偵殺し》についてだ、新しいことが分かった」

「! ……ほんと?」

 

 声を落として返したアリアに大きくうなずいたキンジ。そんな彼を、どうやら彼女も武偵兼乗客として乗っていたらしく、一つの個室へ案内した。

 

 そして室内で彼は自分の考えをアリアへ話す。

 

「浦賀沖海難事故がシージャックの可能性……それで手口からして今度は電車か飛行機が狙われると考えて」

「そして電波を傍受しなかったのは恐らく本人が居たから(・・・・・・・)、つまりそのまま狙ってくると考えた」

「ありえない話じゃないわね」

「だからオレはここに来た。まあ何も無ければオレがアホだったで終わる」

「けれど何かあれば…大惨事。そして同時に《武偵殺し》へ捕まえる大チャンスでもあるわ」

 

 意気揚々と拳を握ったアリアだが、キンジの雰囲気は正反対で少し浮かない。

 というのも彼の兄である金一はかつてアリアと同じSランク武偵として名をはせており、単純な実力ではキャリアを含めてアリアより強いのだ。

 

 そんな彼がアンベリール号の事件で逃げ遅れた(・・・・・)

 客全員をちゃんとボートに乗せて助ける余裕があったにもかかわらず、そして彼自身の身体能力とHSSに鑑みれば十分脱出できるはずなのに。

 

 ならば考えられる事は一つ……キンジが今あげた、犯人がその場にいたと言う可能性だろう。

 要するに金一よりも強い可能性のある《武偵殺し》を、彼よりも総合値の下がるアリアと、なんちゃってSランクでしかないキンジで相手せねばならない。

 

 家族だからこそ知っている実力と異質さ故にキンジの顔は浮かないである。

 

 

『―――お客様にお詫び申し上げます。冬季は台風を迂回する軌道を取る為、到着が30分ほど遅れることが予測されます―――』

 

 そのまま晴れることなく飛行機は空を行く……が、彼以外にも浮かない顔の隣人が独り、毛布をかぶって震えていた。

 

ガガーーン!!

 

「みゃきょあっ!?」

 

 雷の音に怯えまくる桃色髪のツインテール。

 Sランク武偵アリアその人である。

 

「お前、雷が苦手なのか」

「苦手なわけ」

 

ガァン! ガガァーーーン!!!

 

「にゅきゃああああぁ!!?」

 

 機長の腕の所為なのか運悪く雷雲の傍を通っているため引っ切り無しに雷鳴が響き、アリアは飛び上がるわ叫ぶわ震えるわでもう大忙し。

 

「キンジぃ~~~……!!」

 

 ついにかりそめの相棒の袖まで掴む程怯え始めたアリアに、流石のキンジも一切からかうことなく、黙って袖を掴まれていた。

 

 普段は獅子奮迅の活躍を見せ、時に大の大人すら投げるアリアの腕が……あまりに小さく見えるほどの震えっぷり。

 それは逆にキンジが、高校生にはありえない体躯を持っている事を対比で自然と強調しており、これが無意識的に作用したのかアリアも段々と落ち着いていく。

 

 その光景は体格の差があっても尚、雷が苦手で臆病な女子生徒と、肝の据わった男子生徒のそれでしかなく……アリアがふと彼の手に指を乗せようとした。

 

 届くか、届かないか、それを繰り返しつつ。そっと触れるべく手を伸ばして……。

 

 

 ――まさにその瞬間――

 

 

パン! パンッ!

 

 

 響いたのは雷鳴で無く、室内の雰囲気を切り裂き、機内を高らかにつんざく“銃声”。

 

「まさか…!!」

「……!」

 

 幸い雷の音がやみ始めたことで、反射的に仕事モードとなったアリアがベッドから飛び起きて部屋の外へ飛び出し。

 その背をいつもと変わらない様に見えるキンジが追った。

 

 狭い通路へ出た二人が見たものは個室から飛び出してくるや否やわあわあと騒ぐ乗客達、及び数人のアテンダント。

 そして銃声のした機体前方では、閉まっている筈のコックピットが開け放たれており……中から出て来たのは、こんな恐ろしい状況にどこか似つかわしくない小柄なアテンダントであった。

 

 それは奇しくもキンジがこの旅客機に乗る後押しとなったアテンダントで、彼女がやったのか機長と副操縦士をずるずる引き摺り、こちらへと歩いて来る。二人は何をされたのか、ぐったりとして動かない。

 

 二人を乱暴に通路脇へ投げたアテンダントへ、人質はいなくなったとばかりにアリアは銃を突きつける。

 

「――動くなぁっ! 武偵よっ!!」

 

 彼女の語気が何時もより強いのは、《武偵殺し》といよいよ対面したからか……。そんな彼女にアテンダントは嫌に特徴のない顔でにやり、不気味に笑う。

 

 そのままいきなり跳ぶようにして操縦室側へ引き返し、一つウィンク。

 

お気を付けください(attention please). でありやがります」

 

 直後にピン! と音を立てて何処からか取り出した缶を投げつけて来た。

 

 アリアとキンジの足元に転がったそれからはシュウゥゥゥ……と音が上がっている。

 

 ――これは、ガス缶――。

 不意にアリアの頭の中を駆け巡る、強襲科で習った有毒ガスの数々。強力なものであれば一巻の終わり。

 

 だからか彼女は顔を青くしつつも叫び、そのまま自分の個室へと一目散に駆ける。

 

「みんな部屋に戻って!! ドアを閉めなさい!!!」

 

 アリアの叫びに呼応してそのままぐらりと機体が揺れ、証明も消え、じわじわと恐怖が侵食していた機内はここで一気にパニックへ陥った。

 

 目論見は上手くいった―――そう云いたげな表情と共に《武偵殺し》のアテンダントは駆けだそうとする。

 

 

 否、駆けだそうとしていた。駆けだせてもいただろう。

 

 アリアたちが部屋に飛び込むその一瞬前に……。

 

 

 

「は?」

 

 目の前へ飛び込んでくる足裏を目にしなければ

 

「ぶごぉ!?」

「逃がさねえ!」

 

 正体はなんとキンジの飛び蹴り(・・・・・・・・)

 

(こ、こいつなんで……あ、違う、そうだこいつは……!)

 

 《武偵殺し》が何故知っているのかは分からないが、その考えは大当たり。

 そう……彼はDランクとは言え探偵科であり、同時に強襲科は最初行ったっきりで、こういった状況やガスの授業なんて受けてすらいない

 そしてそもそもが勘が偶に鋭いだけで特大のバカ

 

 そんな奴がセオリー通り動いてくれるわけもなかったのだ。

 

 結果《武偵殺し》は胸部を蹴られ、思い切り吹き飛んで壁に衝突。仕方なしに煙をまく羽目になる。……だがしかし。

 

「どこだ!」

 

 何が起こったのだろう。

 キンジはその煙の片側をまるで固形物か何かの如く押し退けたではないか。

 ――通るルートが不味ければそれで見つかっていたであろう。

 

 ……今何をした。

 ……何がどうしたんだ。

 ……違う、元よりどうなってんだ。

 

(ふざけんなよコイツ……なんなんだよ! ほんとによお!?)

 

 なんとかアテンダントが逃げる事に成功したころ、漸くハメられたと分かったアリアが個室からあらわれキンジと合流。

 

 そんな彼等へベルト着用サインの注意音がポポーン、ポポポン……っと意味不明な点滅を繰り返し始めた。

 

「和文モールスね…」

 

 どうやら先のアテンダントがやっているらしいそれを読み解くと―――。

 

オイデ オイデ イ・ウー ハ テンゴク ダヨ

オイデ オイデ ワタシ ハ イッカイ ノ バー ニ イルヨ

 

「誘ってるみたい……上等よ、風穴開けてやるんだから」

「一緒に行く、仕留め損ねたからな」

「………今後ガス缶を見たら、相手に突撃するのはもうやめなさい。こっちの心臓に悪いわ」

 

 忠告一つ口にして、床に点々と灯る誘蛾灯を頼りに一階の優雅なバーへとたどり着いた二人は―――そこでありえない物を目にする。

 

 それは武偵高の制服を着たアテンダント、ではなく。

 

「今回も見事、とは言い難いけど、引っかかってくれやがりましたねぇ」

 

 正確には特殊メイクとマスクだったのであろう、その下からベリべりと現れた……。

 

「理子……!?」

 

 峰理子という、同級生の顔を。

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